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往復書簡
#18
空間のサイズよりも
生活のサイズ?

text & photo:naoko mangyoku

自ら設計した家での新たな暮らしを伝えあう建築家の「往復書簡」シリーズも、今回がついに最終回。萬玉(まんぎょく)さんから、梁井(やない)さんへのラストレターです。

photo: akemi kurosaka


mangyoku>>  yanai 📨 

 

やないさん

 

早いもので往復書簡がスタートしてから一年が経ちました。

設計から現場、そして暮らし始めてからという目まぐるしい一年でもあったわけですが、この「往復書簡」のおかげで小さなアウトプット(デトックスのようでもありましたw)に支えられていたように思います。当初、ここまでオープンにするつもりは全くなくて、ひっそりと自邸リノベーションを家族と楽しもうかなと思っておりました。

それが、この往復書簡をきっかけに雑誌やwebメディアに取り上げていただいたり、思わぬ方が自宅を訪ねて来てくださったりして、うれしいフィードバックをもらっています。

今回で「往復書簡」の連載は、いったんラストとなるわけですが、やないさんも触れていた普段の設計作業と自邸作業の違いや、自邸前後の変化について、今の時点で思うところを書いてみようかと思います。

最近、やないさんと共同設計で平屋の小さな住宅を進めていますが、打ち合せの最中にやないさんから出てくる「うちでも使ってますが~」という実感ワードは、説得力というよりも安心感のある対話だなと感じます。そのときはクライアントとフラットな目線になります。自邸での経験が専門目線を引き上げるというより、使い手目線も同時に引き上げたんだな~、と私はいつもやないさんの隣でフムフムと思ってるのですが、それがやないさんの手紙に書いていた「思考の仕方」の変化なのかもですね。

わたしの場合、ちょっと大袈裟かもしれませんが、設計に対する「構え方」が変わったかもしれません。

普段のオンデザインでの設計活動は、その物件によって建築の課題(ボール)をもっと遠くへ投げたいと思いながら取り組んでいます。物件による個別性がきちんとありつつも、何か普遍的なテーマとも通じることを常々意識していました。ときに力み過ぎたりもするのですが……。

ただ、自邸リノベーションは本当に自分たちが「好き」と思える生活環境づくりの作業だと思って進めていたので、いわゆる作品づくりという意識がほとんどなかったわけです。

というのも、オンデザインは共同設計が基本となるので、個人の「好き嫌い」という感覚的なものだけでは議論のテーブルには上げづらいし、他者と共有するので、つねに文脈や言語化が求められる設計環境にあると私は思っています。

いい光と色が寝室まで静かにやってきます。

じっと家にいるといろんなカドが気になってくる。不意に現れたカドや仕向けたカド。水彩のようなカドや抽象画のようなカド。

それに比べて、自邸リノベーションはかなり感覚的に委ねていました。ときに、「なぜ?」という顔をする夫に対して、「これいいじゃん!」というその一言で突破したり(笑)。設計中にほとんど言語化せずに進めた「北沢のリノベーション」ですが、住み始めてから自分自身でハッとする瞬間も多く、その気づきをInstagramなどで夫とともにストックしていってます。こうして、最初からすべて考えを深めずとも、もう少し感覚に頼ってみてもいいんじゃないかと思うようになったことはよい変化かなと思っています。

もうひとつ、「空間のサイズ」について少し考えが変わったような気がしてます。

これは住宅でも、住宅以外の用途でも言えるかもしれませんが、設計中、無意識に機能や用途によって空間のサイズを決めているところがある気がしています。

たとえば、住宅であれば、リビングは大きくてアクセスが一番よいところ、個室はコンパクトに、というように。ただ、私自身が「北沢のリノベーション」で生活してみて思うことは、「機能や用途と空間のサイズってどこまで関係するのかな……?」ということです。

北沢のリノベーションのA面は、玄関・キッチン・ダイニング・リビング・寝室が詰まっているので、機能の数からするとサイズは小さいはずなのですが、それら機能が近距離にあることが実は生活をとてもコンパクトにまとめてくれていたり。一方で、B面は、無機能なわりに広い……なのにサイズいっぱいに使って何かをするというよりは、ひとりでも快適に過ごせたり、家族と絶妙な距離感をとれたりしています。

結局、空間はサイズというより距離(もしくは距離感)によって決めていくべきなのかな? と思っています。「生活のサイズ」という人間工学的な目線でより設計をしていくようになったのかもしれません。

このあたりは今後も実践を通して考えていきたいです。

さて、自邸づくりを通して、設計の考えや家族のこと、時間の使い方のことなど、毎度毎度トピックスがくるくると変わりましたね(笑)。生活者であり設計者であるようなこの目線は、一番いまのわたしたちにリアルなんだなと感じました。

また、何かあればお手紙します。

では、1年間ありがとうございました!

萬玉直子

 
profile
萬玉直子  naoko mangyoku

1985年大阪府生まれ。2007年武庫川女子大学生活環境学科卒業。2010年神奈川大学大学院修了。2010年〜オンデザイン。2016年〜オンデザインにてチーフ就任。2019年〜個人活動としてB-side studioを共同設立。主な作品は、「大きなすきまのある生活」「隠岐國学習センター」「神奈川大学新国際学生寮」など。共著書に「子育てしながら建築を仕事にする」(学芸出版社)。趣味は朝ドラ。最近はアレクサに話しかけるのが密かな楽しみ。


【お知らせ】
「建築家の往復書簡」では、連載終了にあたり、IHAgalleryにご協力いただき、「小さな家」と「北沢のリノベーション」の自邸見学会&オンラインレクチャーを開催します。ぜひ、この機会に、ご参加ください!  詳細はこちらまで!!

「一年間、ご覧いただきありがとうございました!」(梁井&萬玉) photo:akemi kurosaka