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往復書簡2
#04
暮らしの痕跡を
たのしむ

text & photo:naoko mangyoku

オンデザイン所属の建築家が自邸づくりについて伝えあう連載シリーズ「建築家の往復書簡」。年の瀬が迫り、仕事にプライベートに忙しい日々のおふたり。今回は萬玉さんから梁井さんへの手紙です。

これまでの往復書簡はこちらよりご覧いただけます。

萬玉さん(右)と梁井さん(左)。萬玉さんの自邸「北沢のリノベーション」にて。(photo: akemi kurosaka)


mangyoku>>  yanai 📨 

 

やないさん

 

お返事がすっかり遅くなってしまいました。年末に近づくと、どうしてか仕事も家庭もバタバタしがちです。

前回お手紙を書いた頃は秋だったのに、近頃ぐっと冷えてきて、冬がやってきましたね。

 

さて、お手紙たのしく読みました。

2階の“将来子ども部屋”スペースが非常に面白いですね。設計中や竣工直後のときは、あの2階スペースについてほとんど言及されてなかった記憶があるので、なおさら新鮮です。

「子どもの成長」と「空間の成長」、これはあまり建築として扱われてないテーマですが、生活者の視点からすると切実なテーマだなぁとわたしも親になって気がつきました。しかも、正解があるわけでもなく、子どもの個性や家族の生活スタイルに合わせた「個別解」ですよね(余談ですが、学習机をどこに置くかで子どもの賢さに影響する! みたいな野暮(?)なネット記事も見かけることがあるので、わりと世の中の子育て世代は一度くらい考えたことありそうだなと思います)。

設計中からのお話を伺っていたとき、やない邸の印象はわりとオーソドックスなnLDKなんだなぁと(正直に言うと)良くも悪くも思っていました。夫婦+子ども2人なので将来的に3LDKになる前提での設計だったと思います。それが、先日のお手紙ではかなり崩れてきていますよね。2階の「将来子ども部屋」の割り方もそうですし、Facebookで拝見したら1階のリビングがワークスペースに変わっているではありませんか! しかも、庭を眺められる日当たり良いベストポジションがワークスペースになっているのも、コロナ禍によって住宅に“働く”という機能が介入してきた現代を象徴しているなぁと妙に納得しました。

「庭を豊かに開拓しながら、家は設計図から解体しているように使う」という面白さがあります。

お手紙で質問をもらっていた「設計時に想像していなかった使い方はありますか??」ですが、B面の使い方などは設計時にほぼ想像出来ていなかったので裏切られたような使い方はないかもしれません。

ただ、最近ふと思ったことがあり……。

「落としたい汚れか? 残して愛でたい傷か?」というメンテナンスの捉え方です。

先日、B面の床の汚れが気になった夫が、「激落くん」で掃除をしたんです。汚れは取れたんですが、同時に床の塗装(ウレタンクリア全艶)も落ちてしまったんです。それはそうですよね、「激落くん」って研磨ですもんね(笑)。

しかも、汚れているところだけ擦ったので、モワッとマダラに塗装が落ちてしまった……。B面の床は全艶の光沢感がとても気持ちよかったので、もうそれはショックで(わたしよりも夫の落ち込み方がすごかったんですが……笑)。

で、ウレタンクリア全艶でタッチアップ(剥げたところにだけ塗装し直す)するか? と考えたのですが、そうすると今度はそこだけが艶々になり目立ってしまうのでは!? と堂々巡りです。

そうしたとき、ふとB面全体を見渡すと、壁や天井は既存解体時のままなので傷だらけです。天井はもともと直接クロスを貼っていたので剥がしたときに糊の痕などが残っているし、壁は研磨して石膏プラスター塗りを発掘していて随所にモルタルが見えてるし、もともと間仕切りだったところは絆創膏のようにモルタルを埋めているし……という具合に。

そして、この傷が住み始めてからも結構気に入っていて、なんかふとぼんやりするときに傷を眺めたりできるんですよね。床だけリノベーション時に新しくしたので、無意識のうちに竣工時のように綺麗に保ちたいと思っていたことに気がつきました。この床もまた経年していくことで、築50年の壁や天井のような愛でる傷となるかもしれない、と思ったとき、このマダラな研磨痕は「これはこれでいいじゃないか!」と思い至ったのです。

暮らし始めるとついてくるメンテナンスということも時間軸をもって見てみると、すべてが竣工時のような綺麗さが良いわけではない。むしろ、暮らしの痕跡をたのしめることもあるのだなぁ、という発見がありました。

さて、この『往復書簡2』が終わるまでに完成させるぞ、と意気込んでいたB面小上がり追加計画はまだまだ出来ていません(笑)。前回から進んだことと言えば、小上がりにつくサイドテーブルのイメージやカーテンの生地候補が決まったことくらいです。

 

次のお返事では、「完成しました!」のお手紙書きたいですね(笑)。

では、2021年もお世話になりました。良いお年を〜。

萬玉直子

 

次回は、来年1月初旬の投函予定です。 📪

 

萬玉さんの自邸<北沢のリノベーション>の竣工写真はこちらよりご覧いただけます。

profile
萬玉直子  naoko mangyoku

1985年大阪府生まれ。2007年武庫川女子大学生活環境学科卒業。2010年神奈川大学大学院修了。2010年〜オンデザイン。2016年〜オンデザインにてチーフ就任。2019年〜個人活動としてB-side studioを共同設立。主な作品は、「大きなすきまのある生活」「隠岐國学習センター」「神奈川大学新国際学生寮」など。共著書に「子育てしながら建築を仕事にする」(学芸出版社)。趣味は朝ドラ。最近はアレクサに話しかけるのが密かな楽しみ。