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往復書簡
#17
設計に対する
「思考の仕方」

text & photo : rie yanai

自ら設計した家での新たな暮らしを伝えあう建築家の「往復書簡」シリーズ。今回は、梁井(やない)さんから、萬玉(まんぎょく)さんへの手紙です。


yanai>>  mangyoku 📨 

 

まんちゃんへ

 

こんにちは。

この間まであんな猛暑だったのに、近頃は急に冷え込んできましたね。こんなに急だと思わず、慌てて子供の長袖を揃えたりと秋支度をし始めた今日この頃です。

お手紙ありがとうございます。

トンネルの使い方!(笑)

ちょっと笑ってしまいました。なんで子供って狭いところが好きなんでしょうね。

まんちゃんがおっしゃるように全体を見渡せる場所とは、気付きもしなかった面白い発見です。

ここにいると司令塔になった気分なのかも。

家族それぞれがお気に入りの場所があるのって素敵!

家族がリラックスして生活を楽しんでいる証拠なんだと思います。設計者としては大成功ですね!!

将来のことは私から質問したものの、全くの同感です(答えがないことを聞いてすみません……)。

本当にわからないですよね。考えたってしょうがない、なるようになる(笑)。

不思議なもので、お施主様の住宅を設計している時は「将来のことも考えるのがプロ!」とばかりに、将来の使い方もある程度、想定して設計をしているのに、我が家は大まかな将来しか考えていない。

「竣工してからも変わっていく」、「変わってもいい」、ということを前提にしていたからなんでしょうね。

最近、自宅に来た方に「自邸と普段の住宅設計とでは何が違いましたか?」と尋ねれることがよくあるのですが、住宅を設計しているというよりは、「生活の大枠をデザインしている」に近い作業だった気がします。

大枠だけ決めて、細かいところは住みながら足し算していこうというのは、建築家としてどうなのかと思うこともありましたが、将来がわからないがゆえ、ある意味、健全なのかなと、今は思っています。

ただ現実は、あまり時間もなく肝心な足し算が進んでおりません……。

早くも生活をアップデートしていくまんちゃんちの行動力は見習わなきゃなと思っています。我が家も追いかけますね!

唯一の大きなアップデートは私が小さい時から使っていたピアノがお引越ししてきたことです。

さて、まんちゃんとひょんなきっかけでお手紙をさせていただくことになってから一年弱経ちました。住んでから半年とは、本当に早いものです。

一年前、あまり自己表現が得意でない私が、まんちゃんとのお手紙という形で自宅を発信することができると聞いた時は、とてもワクワクしました(ドキドキもね!)。

お手紙をやり取りさせてもらったことで、自邸について客観的に見ることができ、言語化もすることができたような気がします。「往復書簡」がなければ、住んでからの振り返りもしなかったでしょう(もやもや自問自答して終わっていたような……)。

自宅の設計、監理、そして生活での出来事。これらが頭の中で整理されたことで、いちばん良かったなと思うのは、やはり今後の設計に活かしていけるということです(お手紙でいただいていたことですね)。

実際に最近は設計をしていると実体験からのアイディアが出るので、自邸に住む前と住む後で設計に対する「思考の仕方」が大きく変わったと思います。

「こういう設計をすると使いにくいとか」「この素材は経年劣化しやすいとか」、そういうネガティブなことから危険回避する思考ももちろんありますが、「これでも居住空間として成立するし、むしろ豊かだ」といった、今までは頭の中で保険をかけて排除していた空間にも可能性を感じるようになったのはとても新鮮です(いい意味で、「これでも十分豊かに住める!」的な)。

ところで、まんちゃんがおっしゃるように「自邸」という言葉が大袈裟に感じるというのは、この手紙を始めた時から私の中にもありました。

知人から「自邸を設計しているらしいですね」「今度、自邸にお邪魔させてください」とか言われると気恥ずかしいので、「「自宅」にぜひいらしてください」と返していました(笑・嫌なやつ……)。

今までのお手紙でもあまり「自邸」という言葉を使わなかったのは、気恥ずかしさがあったからです。

私の場合、自邸が “過去の設計人生の総集編”<“未来の生活の器” という位置づけだったので、「自邸」という言葉に自身の未熟を恥じ、気恥ずかしさを感じていたのかもしれません。

ただ、実際に自邸が竣工したあの時から、確実に設計するものは変わっています。

設計者が意図しない方法で空間を使っている子供たちを、日々目の当たりにすると、自分の中にある既成概念がなくなり、なんだか新鮮な気持ちになります。

今まで自分の中になかったものが湧き出てくるのは、家族と自邸に住んでこそなのかもしれません。

蹴上のない階段を椅子とテーブルのように使ってしまう子供たち

ソファーは舞台。片付けても30分で散らかる!!

まんちゃんは今回自邸を設計したことで、ご自身の設計活動へはどんな影響がありましたか? 自邸に住まわれてから設計時に心境の変化はありましたか??

ぜひとも聞いてみたいです!

ではではー。

梁井理恵

 

次回は、10月下旬の投函予定です。 📪

profile
梁井理恵 rie yanai

1983年生まれ。神奈川県出身。2002年、恵泉女学園高等学校卒業。2009年、首都大学東京修了。同年、オンデザイン所属。これまで、「FIKA」「軒下と小屋裏の家」などを担当。