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往復訪問
#10
小さな家、
ご案内します。

text:satoshi miyashita photo:akemi kurosaka
illustration:rie yanai

 

梁井さんと萬玉さんは、同じ設計事務所で働く30代建築家。同時期に子育てをしながら自邸を設計(これまでの家づくりの途中経過は『建築家の往復書簡』にて連載中)し、このほど、無事に竣工を迎えました。前回に引き続き、暮らしはじめて間もない新居を訪ねあう特別企画。今回は梁井さんが自ら設計した<小さな家>を案内します。

@神奈川・川崎市麻生区

 

緩やかな丘の上にある閑静な住宅街に<小さな家>は建っている。
見学する前に、自邸の設計者でもある梁井さんが描く1階と2階の平面図からご覧ください。

1階

2階

建物の外観を見渡しながら「おー、意外に大きい!」とつぶやく、今回の訪問者・萬玉さん。さっそく施主の待つ玄関口へ。

(萬玉)
今日はお招きいただきありがとうございます!

(梁井)
いえいえ、どうぞ、どうぞ!

(萬玉)
いきなり、この郵便受け、かっこいいですね。

(梁井)
デザインのいいポストボックスを探していて、東京・恵比寿にある〈パシフィックファニュチャーサービス〉に行った時に一目惚れして購入しちゃいました。

(萬玉)
外観の雰囲気にも、すごく合っていて。

(梁井)
そう言ってもらえると、うれしいなあ。

親から譲り受けたヴィンテージのソファチェアは、新しい空間と相性もばっちり

さっそく室内に案内されると、ソファチェアとサイドボードが置かれ、その先には階段、そしてダイニングキッチンのスペースが広がっている。

(萬玉)
ここで将来、小さなカフェとかもやれそう!

(梁井)
友人からもギャラリーで使えそうって、よく言われるんだよね。

(萬玉)
できるよ。教室とか。

(梁井)
母がフラワーアレンジメントの先生をやっているので、それはリアルでありそう(笑)。

日中は日差しが部屋中を明るく包む。室内のフラワーアレンジメントは梁井さんのお母さまが手がけた

(萬玉)
ダイニングのテーブルとイスはセット? この空間にぴったりですね。 

(梁井)
テーブルは前の家から持ってきたんだけど、イスはイギリスの〈アーコール〉を新調しました。スタッキングできるので、ルンバで掃除する時なんかは重宝しています。

(萬玉)
私にとってのやないさんは「インテリア好き」というイメージがあるので、どうしても空間に置いてある小物が気になっちゃいますね。あのキッチンの上の食器類とか……。

(梁井)
さすがめざとい! あのあたりは確かに自分の趣味のモノばかりだね。

キッチンは、<サンワカンパニー>が<無印良品>とコラボしたもの

2階の吹き抜けから1階のリビングを見る

「家にいる時は、このテーブルにいる時間がいちばん長いかな」と梁井さん。萬玉さんも「なんか落ち着きますね」と納得

 

ティータイムを終えて、
そろそろ、2階へ

1階のフロアを仕切るようにレイアウトされた階段部分

(萬玉)
1階だと散らかっしぱなしが嫌だけど、2階はなんとなくそのままでも許せそうなところってないですか? 私的には2階建てのよさってそういうところもあるのかなと……(笑)。

(梁井)
それわかる。確かにここ(2階)で読んだ本とか子どものオモチャとか、そのままっていうことがよくあるね。

吹き抜けの天井からは、照明デザイナーの岡安泉さんがこの家のために手がけたペンダントライトが

2階へ上がると奥にはキッズルームがある

学習にも、仕事にも多目的に使っているデスクスペース

 コラム❶ 編集部から萬玉さんへ質問   

Q. 空間全体をご覧になった感想を?

A.1階と2階の環境の違いにはびっくりしました。1階は庭への抜けも大胆で、内装も白くニュートラルなので外っぽさを感じますが、それに対して、2階はとても落ち着いた空間。大きな吹き抜けでつながっていても、環境ってここまで変化するんだと思いました。

(萬玉)
収納スペースのおさまりがとてもきれい!

(梁井)
無印良品のケース類を使ったんだけど、なぜかぴったりはまって、ちょっと驚きでした。

(萬玉)
だって、この収納術、無印のカタログに出てきそう(笑)。ちゃんとマスキングテープに何が入ってるかを記しているところもしっかり者のやないさんらしいです。

衣類などは寝室横の収納スペースに

 コラム❷ 編集部から萬玉さんへ質問  

Q .とくにどんなところが興味深かったですか?

A. やないさんはオンデザインで、20〜30坪ほどの住宅作品をいくつか設計されていて、そのどれもに構成の明快さがあり、一方で、決してドライではないという不思議なバランスの作風を持った方だなぁというのが私の印象なんです。例えば<軒下と小屋裏の家>は、「びっくりするほど急勾配の大きな屋根とその軒下に住む」というコンセプチュアルな作品でしたが、屋根の素材やアーチ窓などが愛らしく、全体の構成よりも部分のエレメントにほっこりさせられる感覚がありました。

今回の自邸も、上棟後に見学させていただいた際、これまで連載でも書かれていたように、構造や平断面のシンプルさという構成の明快さがやないさんらしいと感じていました。なので完成して、どういうエレメントが散りばめられているのか、拝見するのがとても楽しみでした。
屋内に入った時は、とにかく明るい印象でした。全体的に白いトーンなのですが、1階床の合板にウレタン塗装、吹き抜けの横の目地棒など、いろんな質感の「白さ」があってこだわりを感じました。

 

ふたたび1階に戻り、
庭に出てみる

既存の梅の木がある南側の庭

(萬玉)
南側と北側のふたつの庭は、どう使い分けてますか?

(梁井)
同じヒエラルキーにしたかったんだけど、やっぱり南と北では、植える樹木も違うのでおのずと雰囲気は変わってきそう。

(萬玉)
北側の庭なら、苔とか栽培するのもありじゃないですか。

(梁井)
通り沿いだから、そこで直販してもいいかもね(笑)。

 コラム❸   編集部から萬玉さんへ質問   

Q .新築の一軒家のメリットをどんなところで感じましたか?

A.やっぱり何と言っても「庭」ですよね。
やないさんの自邸は、家を挟んだ前面道路側の前庭と、従前からある梅の木が印象的な奥庭という、ふたつの性格の庭があり(しかもふたつともとても広い!)、土地を所有する醍醐味や贅沢さを感じました。しかも竣工直後で、まだつくり込まれておらず、「これからどうなるんだろう」という想像もかき立てられましたね。

設計図を見ながら建築トークに夢中

 〈小さな家〉を設計した梁井さんに聞く 
 暮らしはじめて、いろいろ気付いたこと 

1階のカーテンレールは、カーテンの生地を枠とちょうどの大きさで発注したら、生地が軽い素材だったからか両脇がカバーできていなかったり……、細かい反省点は、たくさんありますね。
最近は家に滞在する時間が長いので、リモートワークの前後で子どもと庭遊びをしたり(暑いので地面の穴に水をためてドロドロですが……)、休日はDIYで柵をつくったり植物を植えたり、スローペースで楽しんでいます。

庭がふたつあるので、行ったり来たりで飽きません(管理は大変ですが……)。
ふたつの庭と連続した一階は庭の中の日陰スペースのようで、初夏の今はそよ風がとても気持ちいいです。
それと家事のしやすやを、とことん意識して設計できたのはよかったと思います。通勤に往復3時間以上かかる私にとって家事の時短は重要でした。ひとつの例ですが、キッチン横のパントリーに洗濯機を置いて朝夕のバタバタの時に洗濯、乾燥ができるようにしました。我が家は何回も洗濯機を回すので、ながら家事ができるのはすごく便利です。 
あと暮らしてみて、ダイニングテーブルにいる時間が予想より長かったので、まだ冬を体験していないけれど、ダイニングのスペースに床暖房を設置しておけばよかったなと。それはすこし心残りではあります。

北側の庭から見た室内(ダイニング)

DATA
竣工:2020年3月
設計:梁井理恵+伊藤雄一
敷地面積:201.16㎡
建築面積:54.81㎡
延床面積:87.90㎡
施工:山幸建設
構造設計:ASD(田畑孝幸+田畠隆志)
照明計画:岡安泉照明設計事務所

※本記事の取材は、4月7日の緊急事態宣言発令前に行いました。

好評連載中の『建築家の往復書簡』の記事は、こちらよりご覧いただけます。

owner’s profile
梁井理恵 rie yanai

1983年生まれ。神奈川県出身。2002年、恵泉女学園高等学校卒業。2009年、首都大学東京修了。同年、オンデザイン所属。これまで、「FIKA」「軒下と小屋裏の家」などを担当。

visitor’s profile
萬玉直子  naoko mangyoku

1985年大阪府生まれ。2007年武庫川女子大学生活環境学科卒業。2010年神奈川大学大学院修了。2010年〜オンデザイン。2016年〜オンデザインにてチーフ就任。2019年〜個人活動としてB-side studioを共同設立。2020年〜明治大学兼任講師。主な作品は、「大きなすきまのある生活」「隠岐國学習センター」「神奈川大学新国際学生寮」など。共著書に「子育てしながら建築を仕事にする」(学芸出版社)。趣味は朝ドラ。最近はアレクサに話しかけるのが密かな楽しみ。