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往復書簡2
#01
住環境を
アップデートしたい

text & photo : rie yanai

オンデザイン所属の建築家が自邸づくりについて赤裸々な想いを伝え合う連載シリーズ「建築家の往復書簡」。人気の連載が終了してから一年が経ち、それぞれ実生活の中でどんな気付きがあったのか、また今後の計画も含めて、ふたたび梁井さんと萬玉さんに綴っていただきます。

これまでの往復書簡はこちらよりご覧いただけます。

 

萬玉さん(左)と梁井さん(右)。梁井さんの自邸「小さな家」にて。(photo: akemi kurosaka)


yanai>>  mangyoku 📨 

 

まんちゃんへ

 

お手紙でのやりとり、ご無沙汰しております。

昨年末にいただいて以来ですね。お返事が遅くなりすみません。

あれからずいぶん時間が経ちましたが、まんちゃんとご自宅の様子が気になりお手紙をしました。ご家族みなさん楽しく過ごしていらっしゃいますか??

我が家はというと、忙しさにかまけてマイホーム生活にじっくりと浸れていません(コロナ禍でずっと自宅にいるはずなんですが・笑)。
あれから娘が小学生に上がり、息子もイヤイヤ期を本格的に発動。生活環境も少し変わってきています。

以前お手紙で書いたように自宅のほうもアップデートをしたいところですが、家族のアップデートに対応するだけでやっと……なかなか自宅に手がかけられず、というのが正直なところです・泣

ただ最近になって、ようやく家に対しての自己評価ができるようになってきたかなと思います。

最後にお手紙を出してから本格的な冬になり、今は竣工して2回目の夏が巡ってきましたが、それぞれの季節での生活を経験したことで環境的な良し悪しを肌で感じたり、掃除の時、季節によって汚れやすいところも実感しやすくなってきました。

竣工後の一年点検も経て劣化しやすいところもわかるようになってきて、(自分で設計したわりに)つかみどころがなかったこの家ですが、ハンドリングしやすくなった気がしています。

なかでも一年通して一番興味深かったのは、温熱環境です。

我が家は水回りと寝室以外は建具がなく、吹き抜けを介して1、2階が一続きの空間なのですが、夏は2階が暑く、冬は1階が寒いという、建築環境の教科書に書いてあることが教科書通りに起こっています。

秋ごろに大学時代の恩師にお越しいただいたのですが、吹き抜けの下のテーブルで歓談している際の突然の予言は忘れられません。

「ところで床暖房ってこの下は入っているの?? 夏は庇があるからいいけどさ、もう少ししたらここはコールドドラフト起こるよー……」

さすがです。昨年の冬は、先生の預言者的発言を何度思い出したことか。

1階の開口率が極度に大きな我が家では、吹き抜け下には床暖房は必須でした。(迷った末、リビング側には入っているんですが、判断ミスでした。かたじけない)

夏は夏で、熱気が吹き抜けを介して2階に上がり、暑い暑い。

でも、家はもうつくっちゃったしどうしようもない!・笑

そこで対処療法的に「何かできないかなー」と考えました。

まず冬。

エアコンの暖房をずっとつけていたのですが、全然温まらない。

コールドドラフトということは、空気よりは窓を温めるほうが効率が良いのではということで、輻射式暖房のオイルレスヒーターを窓際に導入しました。
結果、これが結構よい感じ。窓の横に置いたダイニングテーブルの下がちょうど温まる感じで、朝起きた時の「あの下に行きたくない!」という気持ちから解放されました。

今年の冬はもう一台別の窓辺に導入しようかと思っています。

そして、夏。これも教科書通りですが、とにかくサーキュレーターで吹き抜け下に向かって気流をつくる。この時ほど、吹き抜け近辺の高いところに棚をつくっておいてよかったと思うことはなかったです。

一方で、2階は開口率が低いのと、窓上に小庇をつけているので、日射の影響は少なく、窓さえ開けていれば熱気はこもらないのはよかったなと思いました。窓の面積は本当に影響が大きいですね。

そんな感じでいろいろと設備導入もしましたが、なんだかんだ温熱環境対策でよいのは、

「夏は涼しい1階で過ごし、冬は暖かい2階で過ごすこと」

これがいちばんラクでした。

幸いにも我が家は、2階の子供室がまだつくられていないので、第二のリビングとして使用。暖房を「強」にしなくても冬は温かく過ごせています。

夏は1階の床が冷たいので、そこにおもちゃを持ち込んだ子供がべったり座って遊んだり、温度によって快適な場所を選んで過ごしていた気がします。

まるで猫のようです。

夏に一階でビーズづくり。トランポリンの上で……

普段の設計でも一続きの空間をつくることは多いのですが、実際に住んでみて思ったのは、環境をコントロールすることよりも、環境が様々な場所をつくっておくのがよいのかなと思います(贅沢な面積の使い方ですが)。

年末のレクチャーで永山祐子さんから、北と南の庭の環境や使い方の違いについて聞かれましたが、まさにこれだなと思いました。

じつはレクチャーの時点では、平面的に裏表のない建築にしたかったので、頑なに「南と北の庭はヒエラルキーが同じになるように設計しました!」とよくわからない主張していたのですが、永山さんがおっしゃったように、住んでいく中で無意識に南の庭と北の庭を使い分けていました。

日当たりの関係で夏は北の庭で、冬は南の庭で過ごすのが多くなるのはもちろんですが、プライバシーの度合いによって南北の庭の使い分けもしていました。

南の庭は道路から見えないので夏場にプールをやったり、冬は子供がストライダー(自転車のような乗り物)で暴走しますおかげで芝生がぐちゃぐちゃですが、大人もピロティの土間に腰掛けて、あまり人様にお見せできないようなリラックスタイムを満喫しています。

北の庭にいると犬の散歩をしている方に「そこに水道が付いていると犬とか洗えてよいですねー」と言われたり。隣家の奥さんから「アナベル根付いてきたわね、結構気になっていたのよ」と声をかけられたり、敷地内にいながらちょっとした井戸端的な感じです。この勢いで本当にコモンスペースつくっちゃおうかなとか思ったりなんかして。

北の庭は手前は影が落ちるので過ごしやすい

南の庭は夏はタープを張ってプール

晴れた冬は暖かい縁側で散髪

あーすればよかった、こーすればよかったは尽きませんが、建物や庭はこれからもいろいろなものを付け足して、多彩な環境のアップデートができそうで楽しみです。その前に時間つくろっと。

しばらくお手紙書いていないせいか、思うとことが爆発し、ちょっと長くなってしまいました。

まんちゃんのご自宅での一年もお伺いできるとうれしいです。ではではー!

梁井理恵

 

次回は、10月上旬の投函予定です。 📪

梁井さん自邸<小さな家>の竣工写真はこちらよりご覧いただけます。

profile
梁井理恵 rie yanai

1983年生まれ。神奈川県出身。2002年、恵泉女学園高等学校卒業。2009年、首都大学東京修了。同年、オンデザイン所属。これまで、「FIKA」「軒下と小屋裏の家」などを担当。