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Seasons Letter
#26
森の小屋暮らし
(春編)

築30年の山荘をリノベーションした森の小屋「My Window」から、毎回、四季折々の日常風景をお施主さん自らがレターにしたためた連載シリーズ。今回のテーマは“クリエイティブな美食ライフ”です。

 

@長野・軽井沢

霧と雨に包まれる母屋。森では晴れ以外も本当に美しい景色が楽しめる

気がつけば今年も梅雨入り間近ですね。
この春は3月になって急に雪がたくさん降ったり、4・5月も肌寒い日々が続きました。
とは言っても、春の花々は少しずつ目覚め、春気分を盛り上げてくれました。
我が家の枝垂桜も見事でした。

我が家の「枝垂桜」。離れの横にあり、毎年この桜で花見をする

絵の具のパレットのような花々。「なぜ、こんなに鮮やかなのだろう?」とつねに感動

軽井沢にいるときは、ほとんど自炊になりました。
多忙だった数年前は、とにかく時短飯や荻野屋の釜飯などでしのぐこともありましたが
最近、やっと時間もでき料理にも目覚める日々。
料理って科学ですよね。
その季節と調味料などが一期一会で出合い、口に運ばれるまでに多くの化学変化が生まれます。
生まれて初めて作った食事シリーズ(レパートリー)が増えて家族もご満悦です。

暖かい日はテラスでタコスがこの春の定番となりつつある

ピザを生地から作ったり、アップルパイを焼いてみたり、タラの芽の天ぷらに挑戦してみたり。
普通だったら当たり前にできることかもしれませんが、私は料理が得意ではなかったので
とにかく新鮮で、国内外を問わずいろいろなメニューに挑戦したくなっています。

タラの芽の天ぷらも苦味が最高な春の味覚

もちろん筍のソテーや筍ご飯など、シンプルに素材を楽しむ一皿も最高ですね。
軽井沢にいると、季節の野菜が目に飛び込んできて、とくに春の味覚は生命の息吹を感じます。

筍の柔かい部分をソテーしてお醤油と味醂で焼くだけ。最高!

梅干しをアクセントにした筍ご飯も美味

とはいえ、軽井沢の日常はずっとアートスクールの宿題に追われているため
朝ご飯→昼ごはんの仕込み→宿題→ランチ→晩御飯の準備→宿題→晩御飯→夜は映画鑑賞
という感じで一日が過ぎていきます。
家時間をほとんど過ごすことがなかった20代、30代、40代の私にとってそれは
とても新鮮で贅沢で豊かなことです。

毎日デッサンやアクリル画を通して自分の内面と向き合う時間はこのうえない貴重なもの

そして、ふと視線を上げると窓の外は春の花々と鳥の鳴き声……、
こんな潤いのある日々が来るなんて、長生きしてよかったと思っております。

我が家でも近所でも一斉に咲き誇るユキヤナギは春の訪れを告げる花

外食では朗報がありました。
うちの近所の御影用水エリアにある3年ほど閉じていたフレンチレストラン〈ミクニ〉。
その建物は、坂倉準三が設計した「飯箸邸」(1941年/東京・等々力)を移築したもので
80年以上も愛されてきた名作建築です。

庭側からの外観。への字の屋根、そしてシャルロットペリアンによるデザインの大きな開口部が時を経てもモダン

ロフトのような2階が部分的にあるほぼ平屋の長方形の建物は
広いLDKと大きなガラス開口が特徴であり、
庭へ向かって大きく開く扉はシャルロットペリアンがデザインしたもの。
このガラスの扉も当時のままであることが素晴らしい。
クローズしてその後どうなるのかと案じておりましたところ、
新しいオーナーとシェフが〈飯箸亭〉という名前でイタリアンレストランを今年1月にオープン。

飯箸亭のロフトのような2階部分。以前等々力にあったころは個室だった

建築もそのまま大切に受け継いでいかれるということで少し安心いたしました。
シェフは〈アクアパッツァ〉という魚介料理で有名なレストランで修行したということでしたので
お魚の料理やパスタを満喫しました。

お魚のソテーは美味でした

「地元の人たちに愛されたい」というオーナーのコメントを受け、
古き美しき建築とともに、この地に根付いてほしいと願っております。

外食ではないですけれど、この春はthe creation of japanという日本の工芸を
応援するグループが開催した「工芸ピクニック」に参加。
南が丘倶楽部のお庭でそれぞれのお料理を持ち寄り
持参した器や茶器、アンティークのピクニックセットなどを堪能いたしました。

工芸ピクニックでは、緑あふれる環境の中で持ち寄ったランチを楽しみました

日本には昔から外で茶会などが開かれていたこともあり
工芸品を眺めるだけでなく使う楽しみを存分に味わいました。
みなさん、人間国宝という作家の器や茶器などを持参されていて間近で見ることができ
稀有な体験でした。
私は……といえば、そんな貴重な物は持っておりませんので
自作の器を持参し、みなさんに見ていただきました(恐縮すぎですが)。

お茶会も開かれ、お家元にお茶をたてていただきました

そんなアートと工芸と料理を堪能した、この春の軽井沢ライフだったと記憶しています。

もう6月ですが、じつは夜になると暖房のスイッチを入れないと寒いくらい。
数日前は天候が急変して雹も降り注ぎました。

霧の中の白樺。現代版水墨画のよう

どんどん亜熱帯化する日本の夏。
今年の夏は過ごしやすい日々が多いことを願ってやみません。

spring.2024


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森の小屋暮らし #02
森の小屋暮らし #01

竣工時の模様は、こちらよりご覧いただけます。