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オンデザイン論
#02組織論から考える。

text :megumu ishiwata
photo:mayu kawakami

盗み聞きとラジオ

対談メンバー:写真左から
方瀬りっか:2023年入社。教育学部出身。演劇教育やアートマネジメントを学び、「なんだかとってもちょうどいい」をモットーに誰でもちょうどよく働ける仕組みづくりを生業にしたいと妄想している。オフデザインラジオのパーソナリティー。
横山隼也:2021年入社。建築学専攻出身。組織論やイノベーションマネジメントを学び、その先に「デザインの可能性」を見出す。現職では建築設計、センシングを用いた実証実験、組織育成プログラムなど、既存の建築領域を超えて「デザイン」を実践する。
石渡萌生:2023年入社。デジタル技術を活かしつつ、手触り感や五感を大切にする「デジタル-アナログ」な思考を持つ。組織や仕組みなど、目に見えないデザインにも興味を持っている。

 

石渡 オンデザイン論では、「対話」に関連する「意思決定」「ミーティング」「コミュニケーション」という3つのキーワードから、オンデザインの組織像の輪郭を炙り出そうと試みました。

知識調達カード:「盗み聞き」「盗み聞き2.0」

石渡 所員たちの「知識調達」を集めていく中で、2階のキッチンや1階(イッカイ)のカウンターなどで「盗み聞き」をしているという話を多く聞きました。またその進化系として、オフデザインラジオを聴くことで所員について知る「盗み聞き2.0」という知識調達法があることもわかりました。

オフデザインラジオ
オンデザインの所員をゲストに迎え発信しているラジオ。現在は事務所内限定で公開中。音声メディアならではの「距離感」を活かし、楽屋裏的な飾らない話やメンバー同士の気軽な対話の場をつくり発信することを狙いとしている。

石渡  一般的な盗み聞きとは方法が違うけど、ラジオを通して同じように盗み聞き的なことをしているのが面白いなと。方瀬さんはオフデザインラジオを運営する人として、耳での知識調達としての「ラジオ」をどう考えていますか?

方瀬 じつは私、(ラジオを)聴かれることよりも話してもらうことを重視していて。情報って調達しようという意識も大事だけど、どう発信するかということも重要だと思うんです。オンデザインって、「伺う」「様子を見る」ことが得意な人が多くて、そちらに重きが置かれている感じがしています。でも「伝える」ほうも必要なのではないかと考えたときに、ラジオという「言い訳」によって発信するきっかけをつくれたらいいなと思っていました。

石渡 それがラジオをはじめようと思ったきっかけなんですね。

方瀬 オンデザインを見ていると「改まって話す」みたいなことをする機会が少ないのかなと思って。

横山 それで言うと、 「調達」と「伝達」なのかなと思います。石渡さんのオンデザイン論は「調達」について考えていたのに対して、方瀬さんは「伝達」ということを考えている。でもそのふたつは完全に別々なものではなくて、話し手が伝達しているということは聞き手が調達していて、相互関係にあるものだと思います。

イメージ図:聞き手と話し手/調達と伝達の関係

横山 確かに方瀬さんが言うようにオンデザインは受け身で聞くことが多く、発信はあまりしていない気がします。インプットとアウトプットのバランスが取れていなかったんじゃないかなと。 その点でラジオはアウトプットする機会として良いなと思いました。
あと少し話が逸れるのですが、建築は発信する際に文章を洗練させすぎてしまうところがあって。いいことでもあるけど、その一方で「本音」が削られてしまうような気がしています。オフデザインラジオも「盗み聞き」も、ローデータというか、「パッと出てきた最近思っていること」みたいなものがふわふわあって。その表面積の広さによって、聞き手ごとに引っかかるポイントが変わってくるのが面白いんだろうなと思いました。

石渡 確かにそうですね。粗い情報があまり体系化されずに散らばっていて、それぞれがその中から自由に拾って自由に解釈していく。

横山 「こう見てください」と表現されてないからこそ生まれる解釈の豊かさはあるかもしれないですね。

方瀬 それは鎧をひとつ外すことにもなると思っていて。「こう見てください」というアウトプットしかつくってないと、信頼関係が生まれづらいかなと思っています。
少し勘違いされるかもしれないけど、ちょっと柔らかい部分も雑多な部分も含めて外に出してみることで、「あ、出してくれたんだ」って思ってもらえて、少し信頼感が増すみたいな。

石渡 弱みを少し見せてもらえると、話しやすくなることもありますよね。

方瀬 どうしても仕事だと失敗してはいけない、間違えてはいけない、完成したものを見せなくてはいけない、となりがちだと思います。少ない人数なら失敗したことも自然と見えていたかもしれないけど、人数が多くなるほど成果物以外の部分が見えづらくなったりするのかなと。そう思うと、あえてそれを拾う仕組みがあってもいいのかなという思いはあります。

 

オンデザインの知識調達とコミュニケーション

横山 「仕組み」という言葉が出てきたのでそこから少し広げようと思います。コミュニケーションは当たり前の社会的スキルで人に依存するものだと勘違いしている人が多いのではないかと思うのですが、じつは学習しがいのある技術という気がしています。
システム化することは悪く聞こえるときもあるけど、みんながわかる体系にするという点で大切なことだと思っています。例えばキッチンの井戸端会議みたいなものを作業しながら聞く「盗み聞き」という状態から、ラジオという仕組みの「盗み聞き2.0」に変わっていったり。ほかにも壁をハックする、みたいなやつが……。

方瀬 (カードを出して)壁面ハッキング?

知識調達カード:壁面ハッキング

横山 それです。イベント運営をしている所員が自分のイベントのポスターをいろいろなところに貼るのをよく見ます。それを見てイベントの存在を知ったり、コミュニケーションのきっかけにしている人もいます。
その後、イッカイにポスターなどを掲示できるボードがつくられました。それが「壁面ハッキング2.0」です。

左:事務所内の壁に貼られたポスター / 右:イッカイに設置されたボード

横山 ようは自然に行われていたコミュニケーションをもう少し体系化して、偶然をコントロールしているというか。偶然をなくすわけではなく「偶然の状況をより起きやすくするためのシステム化」が組織として重要だなということは、一緒にオンデザイン論をやっていて思っていました。それが体現されたもののひとつがラジオなのではないかと考えています。

方瀬 偶然を起こしやすくするという点では、朝カフェでの雑談とかもそうなのかなと。

朝カフェ
月曜朝8時半頃から掃除の始まる9時50分までオンデザインイッカイのバースペースで開いているカフェ。週はじめの始業前にホッと息をつける、まちや同じビルの人と少しあいさつができるようなスキマのお茶時間。

方瀬 ちょっとした居場所と時間をあえてつくって、「スキマ」が生まれやすいようにしています。何もなかったらそういう時間はつくりづらいけど、無駄のデザインというか、余白のデザインというか……。

石渡 それを聞いて、定期的にお茶を淹れるという横山さんの話を思い出しました。
長時間一気にやるより休憩を入れながらやった方が作業効率が良い、という話は有名ですよね。頭ではそれを分かっていながら気が付くと休憩を忘れて作業し続けてしまうという話を前にしたことがあって。横山さんはお茶を淹れるというルーティンをつくることで、休憩時間みたいなものを意識的につくっているんですよね?

横山 僕は結構マメに休憩する人なんです。事務所内をふらふら歩いてること多いよね。

石渡 確かによく見かけます(笑)。

横山 その時間をコミュニケーションに使っている所員がいることを今の話で思い出しました。例えば、座っていると背後にやってきて椅子を揺らしてくる先輩がいて……、揺らすって言っても本当に人が気づかないくらい、少しだけ。「あれ今日揺れてるなあ」と思って振り返ると、「何してんの?」「調子どう?」って聞いてくるんですよ。
その先輩なりにいろんな人とコミュニケーションをとって知識調達をしていて。場が用意されていなくても自分からどんどんやるんですよね。その人がいる場所がコミュニケーションの場になるみたいな、「動くカフェ」みたいなところがあって。そういう人も何人かいるなって。

方瀬 今の話は大切ですよね。組織やチームは大きくなるほど、目的に向かおうとするほど、内部への視線が足りなくなると思っていて。 お客さんに対して意識を向けすぎると、自分や自分たちについての関心にかける時間が減っていく。そうすると見てもらえていないと感じて、精神的な寂しさや所属意識の薄れみたいなものが出てくると思うんです。
だから内部に向かう視線みたいなものを仕組みとして設けることは重要だなと。そのひとつのやり方としてラジオを導入したら会社は面白くなるのではないか、という話をしたら、西田さんに「うちでやってみようよ」って言われたのがオフデザインラジオがはじまった経緯なんです。