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オンデザイン論
#02組織論から考える。

text :megumu ishiwata
photo:mayu kawakami

内を知ることと外に発信すること

横山 今の話に関連してオンデザインの組織像に話を少し飛ばしますが、ブランディングの世界では、ある会社にコンサルが入るとき、「内部の人が自分たちを理解していないのであれば、外部の人たちも理解できていないですよ」とよく言うらしくて。「外部に発信したいと言う前にまずは自分たちを理解しましょう」と提案するみたいなんです。
そこで、社内で改めて「オンデザインとは何か?」を問うとどのような組織像が見えてくるだろうかという好奇心からオンデザイン論を考えつきました。

オンデザイン論
入社したてのインターン生が「オンデザインとは何か」を考え、組織を速読・解体・再構築することで、これまで見えていなかった組織像の断片を炙り出すプログラムのこと。オンデザイン論#00

石渡 そういうことだったんですか。

横山 理由のひとつですが。 インターンの課題を通して、みんなで「オンデザインとは何か?」というのを一度話してみて、ミッションバリュービジョンの叩きをつくろうと思っていたのを思い出しました……(笑)。

方瀬 今の話を聞いて、 オンデザインが多様性があるがゆえに「ウチらしい」がないというのは、背景に人数が増えて「オンデザインは自分的にはこういうものなんだ」ということを話す時間的・心理的な機会が少なくなってしまっていたりするのかなと話していたことを思い出しました。ここがオンデザインの重心だよねというような「ウチらしい」を言語化する機会が減ってしまったのかなと。

石渡 ラジオはそういった声を拾い上げようとしているのかもしれないですね。そしてこの知識調達カードも、みんなの「人に言うほどではないけど日頃している工夫」を吸い上げて表出させる、みたいなことをしていたのかなと。共通しているところも結構ありそうです。
一方で、「盗み聞き」と「盗み聞き2.0」は偶然発生したものと体系化されたものという違いがあると思います。それ以外にも何か違いを感じたりすることはありますか?

横山 やっていることは根本的にはあまり変わらないと思うけど、ラジオのほうが頻度やテーマ設定をより自由にできるのではないかなと思います。あとはキッチンで発生する盗み聞きは偶然すぎて、チャンネル検索みたいなことができないなと。例えばある日、先輩との関係に悩んだとします。ラジオだとバックナンバーが残っていれば「先輩との関係」とかで検索するとヒットしたものが一覧で出てきて、選んで聴くことができますよね。

石渡 「つまみ食い」できる良さがあるんですね。

横山 もうひとつ良いのは聞き手が無限大であること。リンクさえ知っていれば誰でも聞けますよね。キッチンでの盗み聞きはフィジカルな場所に制約を受けてしまいます。

石渡 その時間、その場にいないといけないですからね。

方瀬 時間や場所を選ばない、ローカルでない情報調達の「仕組み」も必要だと思うんです。ラジオは動画じゃないから目を奪われずに済むし、本当に盗み聞きみたいな感じで、聴いているような聴いていないような感じで使えるし。いい塩梅だと思っています。あと少し観点が変わるんですけど、自分の声や喋りを客観的に聞けるのもいいなと思っていて。建築の仕事って書くだけでなく、お客さんと話して思いを伝えたりもするじゃないですか。でも自分がどのように話しているかを知る機会はあまりないと思うんです。ラジオで聴いてみることで、自分の声小さいなとか、この言葉をよく使うなとか、聴くことでなにかが変化するきっかけになると思うのでそういう意味でもいいなと思っています。

横山 最初に方瀬さんが言っていた「システム化」と僕が言ってた「体系化する」というのは、ローカルなのかもう少し広いスケールを持っているのかという観点が重要なのではないかと思いました。場所に制限されずに情報を伝達・調達できるような仕組みがあると、オンデザインのような大人数の組織でも多くの人に透明性がある状態で伝えられます。あの会議室で喋っていた内容はあそこでしか共有されていないから……みたいなことにならず、その内容をみんな知っているという状況がつくれると思うんです。

方瀬 ティール組織のような柔軟な組織を目指すには結構重要かもしれないですね。

ティール組織
フレデリック・ラルーの著書『Reinventing Organizations』で紹介された組織モデルのひとつ。社長や上司のマイクロマネジメントなしでも、各自がルールや仕組みを理解し独自に工夫をしながら意思決定をするのが特徴。

横山 そうですね。あと、「グローカル」という考え方にも通ずるのではないかと思いはじめました。今この場で展開されているローカルなコミュニケーションだけではなく、お客さんやメーカーの人と話すような、オンデザインというひとつの組織を超えたグローバルなコミュニケーションもありますよね。例えばラジオだったら、全然違う会社の人を呼んで話すこともできます。そういう「グローカルな組織づくり」のカギは、実は「2.0」にスケールアップしていくところに潜んでいたのではないかと理解しました。

方瀬 西田さんがふだんから仰っている「ゆるいつながり」もグローカルな視点と相性がいいなと思います。オンデザインを一緒に形づくっている、オンデザインの周りの「ゆるいつながり」の人たちとのコミュニケーションには、より積極性が必要になるのかなと思っていて。
ローカルだとその場にいれば情報が勝手に入ってくるから受動的でも問題ないけど、そもそも情報は発信しないと伝わらないし、伝わるように工夫しないと伝わらない。情報は取ろうと思わないと入ってこないよというローカルに甘えない意識を持ちつつ、でも取ろうと思えば取れる、 伝えようと思えば伝えられるという環境をつくっておく。そこが私の考える「仕組みづくり」なんだろうなと思っています。

横山 ふと前に考えていたことを思い出しました。「オンデザインとは何か?」ということを追求していくと、それは解釈の中にあるなと思って。

方瀬 解釈の中?

横山 はい。手に取る情報って、人によって変わりますよね。例えば住宅を設計してほしい人が取る情報と、オフィスを設計してほしい人が取る情報と、まちづくりをしてほしい人が取る情報はきっと全然違う。さらに受け取り方だけでなく発信の仕方も少しずつ変われば、解釈は掛け算的に増えていきます。その両方によってオンデザインという組織の見え方が変わっていく、みたいなことが起きたらいいなと。
あと、ゆるいつながり、弱いつながりはとても大切だなと思っています。社会学的によく言われることなのですが、じつは人間は弱いつながりの方が影響を受けるらしいんです。毎日一緒にいる親よりも、たまたま会った人やたまたま行った場所の方が影響を受けるというのが実験データで出ていて。西田さんが言う「ゆるいつながり」にはそういった良さがあって、結構、力を持っていると思っています。

方瀬 あと、その「ゆるいつながり」の人たちがオンデザインに関心をもってオンデザインを形づくってくれる状況を守るためには、「否定しない」という姿勢が大切だなとも思います。

石渡 いろんな人の声を拾っていくためにも、自分の中の「正義」や「正解」みたいなものを押し付けることなく、お互いに認め合えるといいですよね。

 

「正しさ」には種類がある?

横山 今ふと思い浮かんだ、モヤっとした表現なのですが……「正しさ」って2種類あるなと思って。「ジャスティス」みたいな正義的正しさと、「コレクトネス」みたいな正しさ。正義みたいなのが強くありすぎて、ある人にとってのジャスティスには当てはまらないけど普通にコレクトネスではあるよね、みたいなことって往々にしてある気がするんです。ジャスティスは個人が持っていてコレクトネスは社会や組織が持っているもの、ジャスティスをどこまで追求するかは個人の自由なのかなと。コレクトネスをチームや会社で守りながら、そこからもっと掘りたいよって人はジャスティスを追求すればいい。でもそのジャスティスを他人に強要しない。これは結構重要なことだなと思いました。

方瀬 今の話を聞いて、ジャスティスとコレクトネスのバランスを取るために、どこがジャスティスでどこがコレクトネスなのかを見分けるのは大事だなと思いました。今は見分ける基準が見えていないから各々のジャスティスがコレクトネスになっていて、さらに声の大きさに差があると、声の大きい人のジャスティスがコレクトネスになってしまう。

横山 主観と客観という観点から見ると、盗み聞きなどの知識調達は会社の営利的活動ではなく個人の主観的判断に依存していますが、結果的にそれが会社やチームにフィードバックされることもあります。「この間こういう話をしていて、うちでもやってみない?」とか。
少し不思議だなと思ったのは、ジャスティスとコレクトネスだと、ジャスティスが主観で、コレクトネスが客観ですよね……。だから「ジャスティスはいいよね」という話をしていたのかなと。「主観的判断ってすごく面白いよね」と。

知識調達法から例を挙げると、slack散歩はやりたい人も全然興味ない人もいますよね。でも強制されることはない。「slack散歩していないの? しなきゃダメだよ」とかはないじゃないですか。それぐらいのジャスティスは「良いジャスティス」なのだと思います。
知識調達カードには他人に強要されない面白いジャスティスが広がっている。その一方で働き方の考えの違いとか、このくらいスタディしなきゃね、みたいなジャスティスは無意識的に強要されることもある。その違いがハッキリした気がします。

slack散歩
オンデザインの所員が実践している知識調達法。slackで自分が所属していないプロジェクトのチャンネルをチェックすることで、他の所員がどのプロジェクトで何をしているかを把握する。

石渡 ジャスティスとコレクトネスの「間(あいだ)をとる」「バランスをとる」ことが大切なのかなと思いました。さっきのグローカルの話とも通じる気がしています。

横山 バランスはとても重要ですよね。グローカルも、ジャスティス/コレクトネスも、部分と全体みたいなところがあって、それを横断しながら物事をきちんと捉えるということが大事なのかも。

方瀬 今はそのバランスが取れていないのかもしれないですね。ジャスティスを摂取しようという力学が溢れてる感じがします。コレクトネスをつくっていく動きがあまりないから、「居心地を担保するためにジャスティスでなんとかしよう」「右足を怪我しているから左足でなんとかしよう」みたいな感じが少しするんです。

横山 それで言うと、今の組織は「正しさ」という日本語ひとつでしか理解がされていないと思うんです。単に英語にすればいいという話でもないのですが……。「正しさ」には種類があるのかもしれないということが認識されていなくて、その線引きも分かっていない。「モヤっとしたイメージがあって、なんとなくしか分かっていない」みたいな。

方瀬 分からないから不安で、不安だから何かに従っておこうとなる。意見を「言う・言わない」じゃないですけど、 オンデザインの「らしさ」ってこうだよねって自由に語れない、みたいなことになってしまいそうな気がします。

石渡 特定の人のジャスティスがコレクトネスになってしまうことは、組織としてのコレクトネスが全くないことが原因のひとつである気がします。カチッとした決まりやスタンスがないということをあえて良しとしているし、それにはいい面もたくさんあるとは思います。でもそれって、一度コレクトネスを決めてしまうとそれが絶対になってしまうと思っているから、あえて「いや、何もないですよ」と言っているのかなと……私は組織のコレクトネスを一度言語化してみて、そこから「やっぱりこれは違ったから直そうか」って繰り返し更新していくのがいいのかなと思っています。物事に「絶対に正しい」ということはないと思うし、間違いを見つけても柔軟に動ける、変化していける組織になっていくといいのかなと。

横山 コレクトネスという、価値判断をするための「叩き台」が必要かなと思いました。価値判断って法律みたいに決められていてみんなで守るものではなく、「こういうやり方はどうだろう?」という問いを試してみて、少しずつ微調整して改善していく必要があるものなのではないかと。そういう意味で、絶対的・永遠なものではなくて、もっとテンポラリーなものであるという認識をもつのが重要だと思います。事務所ルールの書き方とかも、そのような「問い」にした方がいいかもしれないと思っていました。
一方で、ジャスティスは強制するのではなく共有することが重要だなと。世の中にいるコアユーザーが面白いことをしていてそれが広がっていくと、じつはリードユーザーでもあった、みたいなことも結構あったりします。この間のオンデザイン論の発表でslack散歩について触れたとき、「そんなことしている人がいるの?」ってざわついてる感じがありましたよね。結構コアだと思うんです。そういう個人の主観的なジャスティスが、「こうしなさい」ではなくて「こういうことしています」という形で紹介されて、私もやってみようかな、というところに着地できるという意味ではジャスティスもいいなと。ジャスティスとコレクトネス、それぞれの良さが活かせるといいのかなと思います。

方瀬 この前プロジェクトマネジメント(以下PM)の話をラジオでしたいと言ったのですが、やろうとしていることはまさにそれです。PMラジオは、所員がそれぞれしているさまざまな工夫を改まって共有するアウトプットの仕組みとして捉えています。それらが共有されることによって生まれる「それいいじゃん」という言葉がとても重要だなと思って。それが積み重なっていくことでコレクトネスが形成されていくのかなと思います。

横山 さっきの「叩き台をつくってみんなで議論しよう」という話はまさに「それいいじゃん」というベターなほうに進めていって、納得感が生まれて、ようやくそれがみんなの「正しさ」になっていく、みたいなことを考えていました。トップダウンともボトムアップとも言えない平たい感じと言えばいいのでしょうか……。

方瀬 「それいいじゃん」が生まれるためには「これいいかも、やってみよう」も必要だと思います。「やってみよう」がある環境で、「それいいじゃん」と言ってもらえる余地があることが大切だと思うんです。

石渡 そういう意味で、「じつは普段こういうこと考えてるんだよね」という小言みたいなものを拾えるラジオがあるのはいいなと思います。

方瀬 一方で、小言を出すことをみんな怖がってるような気もして。話したらどう思われるかな、みたいなのがどこかあるのかなというのを勝手に感じているんですけど、どうなんでしょう。

横山 やっぱり建前と本音ってあると思います。でも建前でも共有する価値はあるし、その辺はどちらでもいいんじゃないかなと。

方瀬 ただ、本音を言うきっかけも必要だと思うんですよね。ラジオには収録外の時間もあって、そこでも話す機会があるのは結構重要なのかもしれません。

横山 確かにデザイン系のヒアリングでも、ノートを閉じてからが勝負とよく言われています。ようは会社と会社の関係で喋ってると、言いたいことがあまり言えないんです。ひと通り話を終えてノートやPCを閉じてから、「ところで〇〇ってどんなものなんですかね?」と聞いてみると結構語るらしくて。デザインを進めていくうえでの重要なスキルらしいのですが。

石渡 何も監視してませんよ、見ていませんよ、みたいな体(てい)で聞くんですね。

横山 建築のクライアントワークに近いと思います。よく言われている例なのですが、「カレーが食べたい」というクライアントがいたとして、いろいろな方法でヒアリングをしていく中でチキンカレーと野菜カレーを置いてみたとき、チキンカレーが食べたいと反応されたとします。「もしかしてお肉が食べたいんですか?」と聞くと、「じつはそうなんです」という答えが返ってくるときもあると。ようは本音をいかに聞き出せるかが重要で、横に奥さんいるからカレー食べたいと言っているとか、さまざまな外的要因があることもあるんです。
方瀬さんは以前オフデザインラジオを保健室的だと言っていましたが、建築家はヒアリングして、まちや建物の具合が悪いところを探して解決する医者的な役割をもっていると思います。考え方は近いと思うので、それをうまくチューニングできたらオンデザインの所員もラジオの意味がよく理解できる気がします。

方瀬 ラジオを続けてはいるけれど、浸透しているのか、アプローチできていない人もいるなとか、ちょうど困っているところでした……。ありがとうございます。

石渡 確かに全部は聴けていないかも……興味あるものをたまに聴く感じです。

方瀬 時間も使いますからね。

横山 やはりそこがグローバル的な性質をもつラジオの難しいところだなと……。30分くらい時間をとって、イヤホンをつけて、slackを開いてリンクにアクセスしてという準備が必要で、能動的な選択に依存することになります。
それに対してローカルは参加へのハードルが低いというメリットがあります。ある会社では決まった曜日のティータイムに社員がプレゼンテーションをして、最近行ったところや最近つくった料理のつくり方を紹介したりするらしいです。イッカイにコーヒーを淹れに行ったら何かプレゼンしている人がいるみたいな。「盗み聞き」に近い例ですね。

そのようなローカルをハイブリッドさせてもいいのかなと思いました。例えばラジオで面白かったところをかい摘んで、こういうフィジカルな場所で流してみるとか。

石渡 確かに流れていたらついつい聴いちゃうかもです(笑)。
ローカルとグローバル、ジャスティスとコレクトネス……二項対立的なものに見えるけど、どちらかを否定するのではなく、それぞれの特性を正しく把握してバランスをとることで両方をうまく活かす方法ができたらいいなと思います。知識調達カードもラジオみたいなグローバルな要素をハイブリッドさせて、もう一段階昇華させられたらいいなと思います!

 

次回もお楽しみに!

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過去の「オンデザイン論」はこちらから
#00 ○○からオンデザインを考える。
#01 シェアハウスから考える。