Project Interview
建築の告白
オンデザインのプロジェクトを通して、体感した建築の醍醐味やほろ苦い想いを担当者自らが本音で語る深掘りインタビュー。
第一回目
interview 神永侑子(27歳)
オンデザイン歴5年
形式の新しさではなく、暮らしの新しさを考える
──神永さんは、今までの手がけてきた物件が多くあると思いますが、その中で特別に印象が残っているものはなんでしょうか。
オンデザインに入ってはじめて、メインでプレゼンを担当した〈海と山と家〉ですかね。家の南側に崖のような山があり、東側に開けた海が広がる敷地に建てた鎌倉の住宅です。お施主さんは、とても個性がある方だったのですが、当時23歳だった私にとって、その人の生活をイメージし、要望を理解することには難しいものがありました。外でどのような生活するか、どのように暮らしをつなげるかということを考えていこうと思っていたのですが、大学を卒業したばかりの私は、実際に家をつくることがどういうことかまだわかっていませんでした。所内の打ち合わせでは、筒を3つ重ね合わせて空間をつくってたり、形式的な考え方で、組み立てているようなスタディばかりしていたんです。しかし、西田さんには、ひたすら全然違うみたいなことを言われてしまって、かなり苦痛な打ち合わせの日々だったことを覚えています(笑)。
──かなりつらいとこですね。いったいどうやって解決したのでしょうか。
上手くいかない日が続いて、すごく悩んでいてどうしようもない時に、海野さんという当時オンデザインの先輩に相談したんです。その時は連休中だったのですけども事務所に来てくれて、いろいろと相談に乗ってくれたんですよ。そこで言われた言葉で今でも自分の中に残っているものがあって、それは「形式の新しさを考えるのではなくて、そこでの暮らし方の新しさを考える」という言葉でした。「あ、そうなんだ」と思うと、いろいろな暮らし方が見えてきて、それからは新しい暮らし方へ導くアプローチの仕方を考えるようになっていったんです。そうすると翌々日の打ち合わせで「これ、いいじゃん!」ってなってそのままプレゼンにいけたんです。はじめて、住宅を考えるってこんな風につくっていけばいいのだと発見したんですよね。今でもその時のことはよく覚えています。
個人の家をひらく。セキュリティをひらく。
──新しい発見があったということでしたが、ほかにも自分の中の考え方が変わるようなできごとやきっかけとなるようなことはありましたか
House vision2013の研究会で「未来の家を考える」という研究会があって、某セキュリティ会社とコラボして提案をしたことがありました。その時の考え方になにかフィット感があったんですよね。セキュリティによって家をひらくという考え方になにか可能性があると思っていました。その時、提案したのは、ホームセキュリティをルームセキュリティにしてみるというもので、普通の一軒家は外壁をセキュリティラインとしてとらえているのですけど、それによって家は閉塞化していったと思うんです。それを部屋単位まで小さくしていくことで、個人の寝室や部屋を守りつつ、リビングなどの空間をもう少し解放することができる仕組みになるというもので、そうしていくことで少しでも個人の住宅がひらかれるのではないかというものでした。
──神永さんが感じたそうした興味が引き継がれ、実際にプロジェクトとして動き出したものはあったりするのでしょうか。
さきほどの話につながっているのですけど、家をひらくということで、見守り合いによるセキュリティがあるのではないかと考えていたんです。House visionの時は、キーパーソンとして主人公に未来のおばちゃんを想定しました。「おばちゃんがつくっていく未来の家」では、みんながセンサーバッチみたいのを付けていて、おばちゃんに認められた人だけ家を使えるような仕組みにしていたんですよね(笑)。そして、その担当者からM先生をご紹介いただきました。セキュリティをひらくという考え方のもとで自分の家もちょうど直したいところだったので一緒にやってみませんか、ということではじまったのが〈M邸〉でした。
驚いたのは、M先生が最初のヒアリングでおっしゃったのが「実験してみたい」ということでした。MさんはITコミュニケーションの研究者で、自分の家や生活を使ってどんなことができるかやってみたいということでした。
──すごい、要望ですね(笑)。
セキュリティをひらくということから、人がありきではあるけどもそこにはITテクノロジーと建築によって、実際にできることがあると感じているようでしたね。