オンデザイン1年目の若手が現役建築学生と一緒に、設定したテーマに沿って、展示会や内覧会を観てまわり、建築について考える新企画がスタート!
第1回目のテーマは「卒業設計」です。
建築学生にとって12月は卒業設計のシーズン。今回は学生にとっての節目となるこのテーマをもとに、先輩建築家4人+建築学生のメンバーで、ふたつの展覧会を語り合います!
【今回の探検隊参加メンバー】
自己紹介(①趣味②好きなクリエイター③今いちばん興味のある場所・作品)
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ケンチク学生 |
さくらいさん(①公園めぐり ②鈴木康広 ③坂茂さんのスイデンテラス) |
ケンチク先輩 |
さの(①漫画 ②スミルハン・ラディック ③チリ)
ちよだ(①イラストを描くこと ②たなかみさき ③世の中の空き地)
なかむら(①水泳・雑貨屋さんめぐり ②アルヴァ・アアルト ③北欧)
隊長はまもと(①芸人のラジオを聞くこと ②李禹煥 ③堀部安嗣さんのガンツウ ) |
【探検場所その1@TOTOギャラリー・間】
田根 剛|未来の記憶Archaeology of the Future ―Search & Research
会期:2018年10月18日~12月23日
会場:TOTOギャラリー・間
Search & Research :
建築における思考と考察のプロセスを可視化した展示。
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【探検場所その2@東京オペラシティ アートギャラリー(ギャラリー1・2)】
田根剛|未来の記憶 Archaeology of the Future ―Digging & Building
会期:2018年10月19日~12月24日
会場:東京オペラシティ アートギャラリー(ギャラリー1・2)
Digging & Building :
場所をめぐる記憶を発掘し、掘り下げて飛躍させる手法と、そこから生み出された
〈エストニア国立博物館〉や〈古墳スタジアム〉といった
代表作や最新プロジェクトを大型模型や映像で展示。
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ふたつの会場で見た田根ワールド
今回、ふたつの会場で行われた田根さんの展覧会を巡回したけど、それぞれ、どんな印象だった?
「ギャラ間」では説明文と模型が少しだったけど、「東京オペラシティ」だと、建物の使われ方を具体的な映像で展示していて、より解像度が高かったと思った。みんなは?
確かにギャラ間の展示に比べて、オペラシティはバックヤード、使い手側のシーンも多く描写されていたよね!
展示の映像に建物の周辺環境や天候のシーンをたくさん使ってたのもそう感じた理由かもね!
私はその映像を見ながら、そこに建物が建つことに意味があるのではなく、建つことで風景と一体となることに意味があるのかなと思いました。
「Todoroki House in Varry」を真剣な表情で見るガクセイ
あと過去の建築を参考にしているのもわかりすかったよね。例えば、「Todoroki House in Varry」は、コンセプチュアルで一見造形的だけど、木々に囲まれた空間や、渓谷に吹く風の気持ちよさといった原始的な空間にどう向き合ってもらうかを大事にしていて、そこが、田根さんの“建築の強さ”につながってるのかなと。
僕たち4人には、オンデザインという比較対象があるから、田根さんの建築についての考え方に特徴を見出せたと思うけど、学生から見たときに今日の田根さんの展覧会はどう見えた?
田根さんは私の大学にもレクチャーに来ていただいたことがあるんです。当時はプレゼンテーションの美しさや言葉のセンスに見入ってしまいました。展覧会を見ていて、田根さんは学生時代のコンセプチュアルな考え方をどんどんブラッシュアップさせているように感じました。
「東京オペラシティ アートギャラリー」田根さんのスタディ模型に対する考え
オペラシティの最後のほうの映像で田根さんは「スタディ模型とは試行錯誤をするものではなく自分が何と向き合っているのかを整理し、手を動かし、形になったものだ」と言ってたよね。そのスタディ模型の捉え方は学生が考えるようなコンセプチュアルな考え方と似たものを感じさせるけど、逆にスタディ模型の扱い方、進め方は学生との大きな違いでもあるのかもしれないね。
きっと一本の大きな芯が通っていて、それに対していろいろな考えが巻きついているのだと思います。そこにこそ田根さんと他の建築家との違いがあるんじゃないかな。
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卒業設計とリサーチ力
僕は卒業制作が終わったばかりの学生だからこそ、あえて聞きたいんだけど……
もちろんですよ(笑)。卒業設計では歴史や文化をテーマにしたものって多いと思うけど、それらと見比べたときに田根さんの作品に既視感を感じたりしましたか?
基本的に卒業設計は実現できないことをやっているので、だからこそ実際に建ち上がっている田根さんと比べると大きな差を感じます。
なるほど! でもそう考えると、やっぱり学生の時の思いを諦めずにやっているのが田根さんなのかもね。
「A House of Oiso」のコンセプト模型と周辺模型
学生時代の作品と比べて、田根さんは歴史を現代風に落としこんだり、抽象的なものを具体化させたりする“力”が違うと思う。私の卒業設計は「エストニア国立博物館」を参考にしてたけど、田根さんのように歴史という抽象的なものを建築という具体的なものに落とし込む作業は本当に大変だったよ。
私の卒業設計は、地元の人たちがもつ地域性にフォーカスし、実際にヒアリングを行って、設計にも「生の意見」を取り入れたりしました。でも、田根さんは人というより素材感やその場の空気感を大切にしている点で大きく違うなあと。結局、コンテクストの読み取り方が学生のつくる建築との大きな違いだと思います。
「東京オペラシティ アートギャラリー」を回る探検隊女子メンバー
あと、私は、田根さんの建築には一見して「やりたいこと」が伝わってくるような“力“を感じたなぁ。ジャンルを問わず幅広くリサーチをしていて、足繋ぐ現場周辺を調査しているという印象。オンデザインではお施主さんとの対話を重ねていく上でどんなことが起こるのか、とアクティビティの想定、リサーチから入ることがあるんだけど、オンデザインと田根さんではリサーチの入り方の違いが面白いね。
卒業設計を考える上で、みんなはリサーチってどうしてたのかな?
私の場合は対象となる敷地がとても広かったので、まず理解するためにずっと練り歩いて、リサーチしていました。
リサーチからできた建築の説得力が生まれてくると思う。その場所に実際に踏み込んで地域に入っていくことでいいものに繋がっていくのだと思います。
私も学生の頃は地域や土地柄など幅広いリサーチをしてたけど、設計事務所に務めてみて、「人が住む、暮らす」ということを考えたときにもっと使い手に寄り添ったリサーチが必要で、学生時代と比べてリサーチの仕方も変化しているのかなと。
設計事務所に入ってから数個のプロジェクトに携わったけど、学生の時のリサーチに比べて、考えることが複雑になっているのも大きな理由かも。でも、それ以上にお施主さんの都合上、何度も敷地に出向くというのが難しいのも事実だよね。僕たちスタッフには瞬発的な「敷地を読み取る力」が求められているのかな。
はまもと隊長の探検後記>>
学生と一緒に観てまわった今回の展覧会で、改めてリサーチすることの大切さを実感しました。また使い手や、住み手に合わせたリサーチの重要性にも気づかされました。これからはより時間をかけて、住み手に合わせた丁寧なリサーチを意識することで、暮らしと建築をさらに結びつけることにつながるのだと思いました。
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profile
ケンチク学生>
櫻井 友美さん(さくらい・ともみ)千葉工業大学大学院1年生在学中。
ケンチク先輩>
佐野敦彦(さの・あつひこ)1993年新潟県生まれ。2018年法政大学大学院修了。
千代田彩華(ちよだ・あやか)1995年大阪府生まれ。2018年神奈川大学卒業。
中村遥(なかむら・はるか)1993年神奈川県生まれ。2018年東京理科大学大学院修了。
濱本真之(はまもと・まさし)1992年兵庫県生まれ。2018年近畿大学大学院修了。