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ZINE企画第1弾“取材”
『studioTRUE』の、
現在地とこれから

text:yusuke matsui hanako yashiro  photo:kota nakagawa

オンラインメディアを主戦場としてきた私たちbeyond architecture(以下、BA)は、2021年にプロモーションの一環としてZINEを出版しました。メディアのあり方が変化し続ける現在だからこそ、紙媒体で伝えることの価値をあらためて実感し、今後もZINEを通してさらなる展開を模索中です。そこで、今回から新たにZINEの連載をスタートします!
ZINEの制作+発信を行う方々への“取材”はもちろん、ZINEフェスなどの“イベントレポート”といったさまざまな視点とアプローチで、その魅力を深堀りしていきます!

 

自社制作したZINE vol.0

 

記念すべき第1回目は、『HUMARIZINE(ヒューマライジン)』を刊行するstudioTRUEです。
studioTRUEは松岡大雅と寺内玲による建築ユニットであり、社会をサバイブするための共同体と循環づくりをビジョンに掲げ、リサーチから発信まで多岐にわたって活動しています。また、
リソグラフを使用した誌面表現や、言葉を体現する個性あるグラフィック表現は『HUMARIZINE』の特徴のひとつです。ZINEという紙媒体を通してstudioTRUEのおふたりが社会に訴えたい思想とは何か? ZINEの制作現場で話を聞きました。

studioTRUE(左から松岡大雅、寺内 玲)

 

BA ZINE活動はどのようなきっかけで始められたんですか?

寺内 卒業制作で自分と社会の関係性をあらためて考え直す時に、建築や都市デザインを通して社会をより良くするには作品をきちんとアーカイブして、誰かに届けることが必要だと考えたのと、社会に出るにあたって、一緒にサバイブする仲間をつくることが必要だと思い、『HUMARIZINE』の活動を始めました。毎年1冊発行して、今年で5年目です。

松岡 僕は卒業制作が終わって、自分の考えていることが模型や図面という建築的な表現の枠には収まっていないと感じていた時に、れいぽん(寺内 玲さんの愛称)が、「制作に対する思いをテキストに残してもいいんじゃないか」と誘ってくれたのが始めるきっかけでした。

BA 『HUMARIZINE No.00 嘘』はおふたりの卒業制作について書かれていますね。

寺内 そうですね。自分たちの卒業制作をまとめつつ、社会に対しての批評性を扱いました。

松岡 でも、大学の先生には「創刊号だけのメディアってたくさんあるんだ」って言われて……。
それで逆に火がついて……。れいぽんが「30年出します!」って言って、それだけ最初に決まったんだよね。

寺内 そう。あと25年。

studioTRUEのオフィスにて

松岡 (ZINEを出版後)応援してくれる人もいましたし、何よりも自分が考えていることを1冊にまとめられたという手応えがありました。一冊の本にすることで意外な人に届いていたりとか……。

BA それは面白いですね。

松岡 それから毎年、その時々に自分たちが直面している問題とか考えたいテーマを特集しながら、基本的にデザインや建築で何がしたいのかをまとめています。

寺内 編集方針もメンバーも毎回変えています。
ちょうどNo.02に編集メンバーの構成をネットワーク図にして載せているんですけど……。共同体をつくることが目的でもあるので、私たちにとってどういうやり方が面白くなるかを考えながらやっています。

編集メンバー構成のネットワーク図(『HUMARIZINE NO.2 家族』に掲載)

BA 共同体として、人と一緒につくることの良さはどこにありますか?

寺内 始めたのは私だけれど、あまり決定権はもたないようにしていて。
なるべくみんなの意見を聞きながら決めていきたいんです。大雅や他のメンバーがいてくれると、私だけのメディアにならないところが良いなと思っています。

松岡 一緒に積み上げながら編集制作にちゃんと向き合える仲間をつくりたいと思っていて。共同体って過激に聞こえますが、共同体という言葉を使うことで、共同編集や共同制作をすることへの意味をもたせています。

寺内 そうだね。

BA ZINEの制作は具体的にどう進めているんですか?

松岡 互いにこだわりたいところを分担しています。
今、『HUMARIZINE』とは別に月1回、『月刊ヒューマライジン』を出しています。印刷産業について毎月ひとつずつテーマを決めてリサーチしているのですが、デザインという仕事をしていく上で、自分たちがいる産業がどう成り立っているのかをちゃんと理解したいという気持ちがありました。それをジャーナル形式で1年かけてリサーチしていこうとふたりで決めて、月毎に何をテーマにするか話し合ったら、もうそこからは分業です。

BA 月1でこれを出せるのはすごいですね。

『月刊ヒューマライジン』2023年は印刷産業をテーマに月1回刊行 

寺内 インクの種類をテーマにした時は、私が実際にインクをつくったりテキストを書いたりして、大雅がそれをレイアウトして。基本、勝手に進めてる感じだよね。

松岡 リサーチはふたりとも興味があるので、一緒に行っています。

BA もともと紙とかインクには興味があったんですか?

寺内 『月刊ヒューマライジン』を始めてからですね。きちんと印刷産業を可視化することで、自分たちが介入できるポイントがどこにあるのか探りたくて。

松岡 実際に制作をやってみると、背後にある印刷技術や産業化がいかにすごいことかが見えてくるんです。

寺内 それを知ってリソグラフを使うのと、知らないで使うのとでは、大違いだと思います。

BA 徹底していますね。WEBメディアが主流になりつつある時代に、おふたりが紙メディアにこだわる理由は何ですか?

松岡 WEBメディアは公開も編集も簡単にできるけど、ZINEとして1年に1冊印刷することで、その地点を止めるという役割が紙にはあると思っています。数年後に読み返すと恥ずかしくはなるんですが……。修正不可能性が紙の魅力だと思います。

寺内 ZINEを売りに行って、実際に読んでもらうことで直接読者とコミュニケーションが取れることもZINEの良さのように感じます。

松岡 もともと「ものづくり」が好きなので、“紙”にするほうが自分たちには合ってると思うんです。

寺内 そういう意味でも印刷産業をより自分たちに引き寄せ、ものづくりとして印刷をするためにも「リソグラフ」という印刷機を買いました。以来、このリソグラフを使って、印刷自体を自分たちで楽しみながらZINEをつくっています。

BA No.00は、いわゆる雑誌の形に沿ってつくられていますが、回を重ねるごとにアウトプットの見え方やデザインが変化しているようにも感じます。伝える意識に何か変化があったんでしょうか?

これまで刊行された5冊のヒューマライジン、デザイン的な考え方の変化がうかがえる(写真提供:studioTRUE)

松岡 最初はシンプルに“本”をつくりたかったんだと思います。初めの4冊は、仲間と一緒にZINEをつくることを模索してて、別に売れなくてもそのプロセスが大事だと思っていました。
No.4のタイミングで『studioTRUE』というデザイン事務所にしたので、デザイン事務所がZINEを出す意味を真剣に考えました。

寺内 そうだね。届かないと展開していかないので、ある程度分かりやすさとか手に取りやすさとかを考えるようになりました。そのおかげで「一緒につくりましょう」って言ってくれる人が増えましたし、今は工務店の方と一緒にZINE(作品はこちらをつくっています。

シェアアトリエ「本庄西施工地区」がつくる自費出版ZINE『第壱施工地区』(写真提供:studioTRUE)

『第壱施工地区』(写真提供:studioTRUE)

松岡 あと、文学フリマなどのイベントも今年初めて出ました。以前から主張したいことは変わっていなくてメディアなのだから、たくさん届けたいという思いはあるし、届けるフェーズでも無理のない範囲で頑張れたらいいなと。

BA おふたりのお話を聞いていると、ZINEという作品を通して社会への主張を感じます。おふたりは狛江を拠点に活動されていますが、住んでいる街に対しての思いや、今後の展望はありますか?

寺内 ここ(狛江)を拠点に決めた理由としては、街の人との距離感がちょうどいいんですよね。社会や建築を語る上で、やっぱり街のことをいかに知るかは大事だと思っていてその関係性の中に生まれる共同体の意識は拠点を構える上でも大切にしたいと思っています。

BA それはstudioTRUEのおふたりだからこそ表現される個性ですね。

寺内 実際に街にいるデザイナーさんや市議会議員さんとも仲良くなって、No.4ではインタビューもしましたね。今後もそういう活動は拡げていきたいですね。

松岡 ただ、「まちづくり」って現実問題、結構難しくて、20,30年という単位で長期でものごとを見ている人もなかなかいないので、勢いで何か始めようとしてもどこかイベント的になってしまうんですよね。そこにスケール感をもって、自分たちがいかに関わっていけるかは考えていきたいし、そういう仕事をしたいとも思っています。

BA スケールって大切ですよね。まちづくりはもっと日常に対して眼差しを向けてもいいんじゃないかと思いますね。その中で雑誌というツールはやはり重要なツールのように感じますね。

松岡 メディアを自分たちで続けていくことで得られる信頼感は大切だと感じますね。最近自分たちのメディアに関する活動を「Print on Praxis(活動を印刷する)」と呼んでいるのですが、印刷を通じて活動が広まったり、開かれたりすることを期待しています。だから雑誌づくりを通してどうやって街の一部になれるか常に考えています。その先の販売までを設計して、街に新しい循環をつくることができるとおもしろいなと。

BA おもしろそうですね。

松岡 出版物の良さは必ずありますよね。流通の中で手に取れる頻度をコントロールできる一方、意図せず全く知らない人に届いている偶然性も良さのように感じます。

寺内 それが例えば狛江市と他の市区町村とかがつながって、そこで知識の交換とかもできたりとか、人と人との交流が生まれたりすることも良しとしたいというか、そういうネットワークはつくっていきたいなというふうに思ってますね。

BA ZINEを通しておふたりの考えが、建築・まち・社会へと波及していく未来がとても楽しみです。本日はインタンビュー取材ありがとうございました。

松岡・寺内 こちらこそ、ありがとうございました。

 

【取材後記】
ZINEを通して社会や都市へと眼差しを向けるstudioTRUEのおふたり。
印刷産業のリサーチからはじまり、リソグラフによる印刷表現、ZINEを用いたまちづくりへの取り組みといった作品づくりへのアプローチには、どこか建築というジャンルを背景としているからこその“作品”への想いが伺える。作品のテーマや表現の幅を広げていきたいというstudioTRUEの活動を今後も追っていきたい。(松井)

 

>聞き手:BA編集部メンバー:宮下 哲、松井勇介、矢代花子

profile
©︎IPPO MIYAHARA
松岡大雅 taiga matsuoka / studio true

1995年生まれ。2021年慶應義塾大学政策・メディア研究科修了。廃棄物を用いた制作の方法論について研究する。2023年よりデザイン事務所studioTRUEを共同主宰。事務所では主にグラフィックデザインや空間の設計を行う。

profile
©︎IPPO MIYAHARA
寺内玲 rei terauchi / studio true

1997年生まれ。2019年慶應SFC在学中に『HUMARIZINE』の活動をスタート。2022年IAAC(スペイン)Design for Emergent Futures修了。都市におけるサーキュラーデザインについて研究する。2023年よりデザイン事務所studioTRUEを共同主宰。事務所では主にリサーチや編集を行う。慶應義塾大学非常勤講師。