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“参加型”って何だ?
#02
設計ではなく
編集する建築家

text: akihiro tani , photo: kota sugawara

「ユーザーと一緒につくる」とは、どういうことなのか? オンデザインがそんな「問い」に向き合った、「VIVISTOP柏の葉 スクラップ&リビルド」プロジェクト。ドキュメンタリー記録の連載第2回は、子どもたちと一緒に手を動かす中で生まれてきたアイデアを空間に反映させていくための、建築家たちの試行錯誤を振り返ります。「みんなで設計した」と言える空間は、どうつくっていくことができるのでしょうか。

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“参加型”って何だ?#01 まず一緒に手を動かす

 

第2章
設計ではなく 編集する建築家

 

ダンボールに込められた思いは?

オンデザインの櫻井彩は、VIVISTOPのクルーたちとワークショップを振り返りながら感じていた。

「今までとまったく違う、空間のつくり方だな」

模型を囲んでVIVISTOPのクルーと話し合うオンデザインの(右から)櫻井、小泉、榎本(筆者撮影)

 

櫻井たちが受けた依頼内容は「どんな空間になるかまだわからないけど、子どもたちと一緒にVIVISTOPらしい空間をつくりたい」というもの。具体的な「要望」に応える通常の設計とは大きく異なり、どんな「要望」があるのかを探り続ける必要がある。

第一回ワークショップは、実寸大のダンボールの68作品を20分の1の模型につくり直し、写真とともに「記録」してあった。大まかに分類すると、「部屋」「遊ぶもの」「リラックスする場所」の3タイプになる。とはいえ、その3つをそのまま新しい空間に実装するという、簡単なものでもなさそうだ。

 

VIVISTOPのクルーたちと模型を囲みながら、子どもたちの思いを読み解いていく。

「部屋というより、大人と落ち着いて話したい欲求があって、そのための空間をつくったように見えた場面もありましたね」

「もしかすると、部屋がほしい、というより、部屋のようなものをつくる楽しさを求めていたのかも」

「うまく行かなくても、またやり直せばいい。でも、子どもたちの気持ちが反映されてないものは、つくりたくない」

子どもたちの納得感をないがしろにせず、「一緒につくっていく」を最後まで貫き通すためには、何が必要だろうか。

模型を囲んでの意見交換の様子

 

「余白」からの「発見の連鎖」へ

プロジェクトを依頼したVIVISTOPの佐藤桃子さんは、ダンボール作品の写真を眺めながら、あらためて感じていた。

「環境そのものを自分たちで考えてつくる機会が、これまではあまり用意できてなかったんだな。子どもたちに『何をしてもいいよ』と言いながら、環境はそうではなかったんだ」

 

佐藤さんはこのプロジェクトの当初から、「一緒につくる」とはどういうことかを考え続けていたという。

「私たちクルーが『こういう場にしたい』という願望を手放せなかったら、大人が考えて場をつくるのと一緒。だったらもう、先回りや、ゴールを設定するのをやめよう。自分たちが変わることなしに、子どもたちや場だけを変えようとするのは良くない」

VIVISTOPを空っぽにした最初の段階から、自分の頭の中にあった「こういう場にしていきたい」という願望を手放した。「自分自身もどうなるか分からない未来」に身を投じることで、子どもたちと対等であろうとしたのだ。

 

ダンボールでほしいものをつくるワークショップで、子どもたちと対話する佐藤さん(中央)

 

目の前に、68のダンボール作品の写真がある。子どもたちが込めた思いは、完全には分からない。でも、彼らの興味が、以前までの“ものづくり”の範囲に収まらないことは確かだった。

それは、からっぽのVIVISTOPと、ダンボールという自由度の高い材料があったからこそ見えたのだろう。

「余白と材料って、大事。ゴールを決めずに、対等に手を動かしたからこそ、新しいことが出てきた。そうしてお互いの考えていることを知ることが、新しい関係性を生み出していくのだろう」

「一緒につくる」というテーマに近づきつつあることを実感しつつ、オンデザインからの提案を待つことにした。

 

家具ではなくて「領域」をつくろう

オンデザインの榎本季美子が当初、子どもたちの思いを形にすべく考えたのは、配置や組み合わせがしやすい家具だった。接続や分割がしやすいモジュール形式のシステムに、子どもたちのダンボール作品を選抜して当てはめるのだ。空間を完成させることよりも、子どもたちがクルーと一緒に主体的に「つくり続けていく」ための余白が必要だと感じたからだ。

 

ところが、社内会議で代表の西田司が言う。

「愛が足りないよ、これじゃ。愛がある建築にしなきゃ」

たしかに、どこか無機質でしっくりこない。

意見交換するオンデザインの建築家たち

 

ワークショップから中間ミーティングまでの光景をもう一度、思い出してみた。榎本の脳裏に不意に思い浮かんだのは、ワークショップによって空間が変化していく中での、子どもたちの通常の「つくる」活動の様子だった。

コモンのテーブルで集中して作業する子どもがいれば、パブリックで遊びながらダンボールエアホッケーを改良する子どももいた。道具がある場所に人が集まることがあれば、何もない広いスペースで大きな絵が描かれたこともあった。

「子どもたちが求めているのは、家具ではない。それが生み出す領域や時間なんだ」

たとえばテーブルは、それだけ見ればテーブルでしかない。でも、VIVISTOPに置かれて子どもたちがやって来れば、そこに「テーブルの周り」「ものを囲んで話し合う」という領域が生まれる。

普段やっている家の設計でも、家主さんがつかい込むことで空間に性格が生まれるのはよくあることだ。ダンボール作品に滲み出ている「領域」に目を向けることこそが、“愛”だったのだろうか。

「領域性って、学生のころに大事なことだと勉強したはずなのに。目に見える形にとらわれすぎていたな」と反省した。

みんなでつくったダンボール作品の模型をもとに、空間を考える

 

考えるべき問いが、「どんな家具が求められているのだろう」から、「どんな領域が求められていて、それはどんな家具によってつくることができるだろう?」へと変わった。

「創造性、アイデア、仲間、学び合いの空気を高めてもらおう。フレームと面材で基本パターンをつくれば、解体や改良、応用がしやすいはずだ。家具に名前をつけてもらったり、定期的に子どもたちに改良してもらうのもいいかもしれない」

いろいろな考えが噛み合い、具体的なデザインに向けて思考が加速していった。

 

プロセスをひっくり返し、ジレンマを超える(解説)

オンデザインの今回の取り組みの特徴は、「設計者という立場をとらない」という点だ。プロジェクトメンバーの小泉瑛一が記録冊子に寄稿した「『つくる環境』をつくるための手法をつくる」を抜粋して、整理してみたい。

今回の設計者はVIVISTOPに通う子どもたち。普段のものづくりの延長として、「つくる環境」そのものを自らつくり、それによって、リニューアルしたあとのVIVISTOPにオーナーシップとメンバーシップを感じてもらうこと、が求められた。

そのためのワークショップのデザインとファシリテーションで、通常とは異なる設計手順を取ることにした。

私たちは、通常の設計プロセスをひっくり返すことからはじめることにした。

通常は、a-①設計者が図面を引き、a-②模型をつくって配置を考え、a-③モックアップで大きさや使い勝手を検証し、a-④実施の工事を行って空間を完成させる。

しかし、今回やったことはその逆で、b-①1/ 1スケールのモックアップをダンボールでつくり、実空間に並べて使ってみて、b-②それを1 /20スケールの模型に直しアーカイブし、b-③最後にそれらを元に図面を引いて、b-④工務店による工事で完成させる、だった。

これは、何が起きるかを予想できない、ということも意味している。そんな不確かさもある手順をとった背景に、「参加型のデザインのジレンマを超えたい」という思いがあったのだ。

一般的に、ワークショップなどを通して、建築やまちづくりの設計を行うことを「参加型デザイン」と呼ぶ。コンセプト決めや基本設計段階のワークショップで市民の意見を盛り込んでいくことが多い。

だが、今回のプロジェクトでは一部分だけではなく、“最後まで”ユーザーである子どもたが手がける「ものづくり」をしたいということだった。そこには現実的に、2つの問題があった。

ひとつは、常設で使える強度や安全性を確保すること。木工はあまりやっていない小学生の加工精度では不安があった。

もうひとつは、そのやり方だとワークショップに来た子たち「しか」愛着を持つことができないということ。常連の子たちだけの場所にするのでなく、非アクティブ会員や、これから会員になってくれる子にとっても「自分たちの場所」だと感じられることが重要だ。

これは参加型デザインのジレンマとも言える課題だった。

子どもたちとの「プロセスの共有」を大事にしながらワークショップを進めるオンデザインの小泉(左奥)

「参加型のジレンマ」と向き合いながら進めてきたワークショップは、最終的にはオンデザイン側でいくつかの家具に設計し直すことになった。それでも、子どもたちにオーナーシップやメンバーシップ、あるいは余白や自由度を実感してもらえるよう、「どんな空間なのか」をほとんど定義しない家具によって実装していくことになった。

その家具によって生み出される空間は、子どもたちにどう受け止められるだろうか。新しいVIVISTOPの構想を披露する日が、近づいていた。

(文中敬称略:つづく)

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“参加型”って何だ?#03 つくったのは 環境をつくる文化

 

※本連載は、オンデザインが2018-19年に携わった「VIVISTOP柏の葉」の改修プロジェクトを紹介します。オンデザインは、VIVITAからの依頼を受け、設計と並行して、プロジェクトの試行錯誤を記録する「ドキュメンテーション作成」にも取り組みました。完成した記録冊子「VIVISTOP NOTE」の内容を、抜粋・再編集して掲載します。冊子の全編は、こちらよりご購入いただけます。「Scrap & Rebuild Project Bookができました」(VIVISTOPコラム)

 

【お知らせ】
VIVISTOP柏の葉「Scrap & Rebuild Project」のアーカイブ集『VIVISTOP NOTE』の出版を記念して、2020年2月29日(土)にクロストークイベント開催します。→新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止の観点から、開催を延期することとなりました(2/27追記)。詳しくは、こちらを御覧ください。
Vivinote出版記念「つくる環境のつくりかた」(Facebook イベントページ)

【関連サイト】
VIVISTOP柏の葉