往復書簡
#07
「私らしさ」と
「我が家らしさ」
オンデザイン の梁井(やない)さんと萬玉(まんぎょく)さんによる、家づくりの往復書簡。連載7回目にして、ついに完成した梁井さんの自邸、ちょっとだけ拝見!
yanai >> mangyoku 📨
まんちゃんへ
お返事と我が家への感想ありがとうございました。いつも的確な言葉で表現してもらって、こちらが勉強になります。うれしいです。
まんちゃんが我が家に見学にいらした時に、「家形の特徴ともいうべき妻面が隣地側に来てるのは何でなんですか~?」と尋ねられて、じつはハッとしたんです。無意識に配置していたんだけども、庭のために「求心性」を敷地の南北の中心にもっていきたかったからなんだなー、と。結果的に「抽象性」が出て、家形なのに木造っぽさもなくなり、よりシンプルなフォルムに磨きがかかったのかもしれません。
ただ平側は軒先の納まりや雨樋も目立つので、できるだけ軒先や縦樋がすっきりと納まるようにいろいろ工夫しました。平側をファサードにするためにこだわったひとつのポイントかもしれませんね。
さて、まんちゃんのお家。
お返事の中の「仕上げるために解体する」という言葉に新しさを感じるとともにどんなものだろう、と思いながらも、じつはあまりピンときていませんでした。ただ先日現場に伺わせていただいた時に「なるほど!」と納得しました。
改修だと解体した上から新しい仕上げをするので、どうしても新旧のコントラストが出て違和感を感じることがよくあります(個人的な感想ですが)。「仕上げるための解体」は、“新”を上書きする作業ではなく、“旧”を磨くような作業で、今までそこにあったかのように、自然と既存に馴染んでいるように見えました。仕上げってマンションリノベなどでは既存建物を隠すためのものになりがちですが、既存建物自体のポテンシャルを利用するこの手法はとても興味深くて、汎用性もあるような気がしました。ゼロかイチではない発想、すごく面白いですよね。
まんちゃんたちが素材を追求したというのも、現場でプンプン匂ってきてましたよー。完成が本当に楽しみですね。早く見たい!
ところで旦那さんと設計をしていたとのことですが、夫婦で設計するのってどうでしたか? お手紙を読む限りでは、お互い忙しい合間を縫って時間の工夫もしつつ、うまくコミュニケーションが取れているようで、さすがです!
じつは我が家も私だけが設計したとは言えず、共同設計をしました。
うちの旦那さんは一般住宅を設計しない職業ですが、じつは同じ建築学科出身の同級生。ですが、学生時代にコンペなどで散々けんかをしている忌まわしい記憶があり……(笑)。ふたりで平等に思考するより、役割分担した方がうまくいくだろう、家庭も円満だろう、というなんとなくな空気はありました。
これ言うとみなさん引かれるんですが、ざっくりとした役割分担は、全体計画が私、吹き抜けおよび階段の詳細設計が旦那さんです。自分でも変な役割分担だなと思っています。
住宅の設計に慣れている私が旦那さんに相談しつつ全体設計していたのですが、吹き抜けの階段が意匠的にかなり重要だと途中で気づき、半分冗談で「構法研究室なんだから階段は任せた!」とお願いしました(当時、私は仕事がすごく忙しく……)。
これも結果論ですが、私が階段の設計をすると、悪い意味でいつものオンデザインの設計になってしまったんじゃないかなと。オンデザインは、パートナー制なので“らしさ”は出にくい事務所だと思うけど、納まりがややこしい階段は、過去物件のディテールとかを参考にすることが多いので、オンデザインに脈々と引き継がれた“らしさ”が出やすい部分なのかなと思いました。
結果的に旦那さんがデザインすることでいい意味で、「私らしさ」が消えた「我が家らしい」階段になったかなと。
こんな役割分担、設計事務所じゃ絶対やらないので、ある意味実験的で面白かったです。
まんちゃんのお手紙にあった、個人の中での設計者目線、施工者目線というのも自邸ならではで、私も天使と悪魔のささやき的なことはたくさんありました。これ、もうちょっと深掘りして聞きたいなー。
なんだか今日はプライベートな話題になっちゃいましたね。
我が家は先日引き渡しが終わり、引っ越しの箱に囲まれながらこれを書いています。まんちゃんの家の工事もクライマックスですね!
お互い健康には気をつけましょう! ではまたー。
次回は、3月27日の投函を予定しています。 📪
profile |
梁井理恵 rie yanai1983年生まれ。神奈川県出身。2002年、恵泉女学園高等学校卒業。2009年、首都大学東京修了。同年、オンデザイン所属。これまで、「FIKA」「軒下と小屋裏の家」などを担当。 |
---|
>過去の記事もご覧ください。