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自分ごと化のススメ
#05
プロジェクトを
仕掛ける側になれ

text:satoshi miyashita photo:akemi kurosaka illustration:awako hori

スマイルズ代表・遠山さんとの対談もいよいよ佳境へ。ご自身の仕事論からはじまり、若手の建築家たちを励まし元気づける金言トークは必読です!

 

これまでのラインナップ
第1回 はじまりは世の中への疑問や苛立ち(07.23)
第2回 コミュニケーションと教育の交差(07.29)
第3回 発意のバトン、どう届けるか?(08.02)
第4回 心の中にエンジン、ありますか?(08.06)
第5回 プロジェクトを仕掛ける側になれ(08.10)
第6回 夢はヴェネツィア・ビエンナーレ!(08.15)
 

 

@smiles(東京・中目黒)

 

 
 ときに監督であり、プロデューサー  

 

西田 お話を伺っていると、

遠山さんってプレーヤーとはすこし違って

アーティストやクリエイター的な

部分を持ち合わせながら、

プロデューサーっぽいというか。

 

遠山 確かにプロデューサー気質なのかもしれないですね。

あと、かっこよく言えば、映画監督とか。

演技もできない、カメラも回せない、

お金を持ってくる能力はそれほどかもしれない。

でも、映画監督のように、

「そこで、あの人、起用したら面白くなりそう」

「次はドキュメンタリー撮りたい」とか、

いろいろ考えるのが好きなんです。

 

西田 最近は「文喫」や「森岡書店」のように、

遠山さんが直接タッチしていないけど、

でも、遠山さんがいないと成り立たない事業って、

けっこう増えてきていませんか? 

これまでとはすこし違う文脈のものも、

同時進行している印象があります。

 

遠山 「森岡書店」は、

『やりたいことをやるというビジネスモデル』(弘文堂)

っていう本の出版記念講演で

ワークショップをやったのですが、

「みなさん、やりたいことを書いて」

って言ったら、参加していた森岡君が

「1冊の本を売る本屋」って提案したんです。

 

西田 それがスタートですか?

 

遠山 そう。

森岡君いわく「そのアイデアは、

ほかの場でも口にしたことがあったけど、

遠山さんがはじめて食い付いてくれた」って

後で話していました。

だから、これは彼の世界そのものなんだけど、

お金のことや資金力とか

彼の苦手な分野を僕らスマイルズが一緒にやって、

足りないピースを埋めていくみたいな感じです。

 
 自分で自分のクライアントになる  

 

遠山 今年のスマイルズの

年賀状にも書いたんですが、

今後、いろんな案件が

プロジェクト化してく中で、

人には3タイプある。

ひとつは自分で仕掛ける人、

ふたつはお声が掛かる人、

あとは、そのどっちでもない人。

 

西田 ああ、なるほど。

 

遠山 たぶん多くのサラリーマンは、

会社や上司がクライアント化して、

毎日、上から降ってきたことを

打ち返している状況で、

給料は毎月自動的に振り込まれる。

簡単に言えばリスクがないし、

何をやりたいかみたいなことも考える必要がない。

でも、そうだとしても、一度くらい

小ちゃくてもいいから、

自分が仕掛ける側になって

プロジェクトをやってみたらいいと思うんです。

 

西田 はい、それはたぶん

僕らのような仕事にも言えることです。

 

遠山 建築家だったらどうなんですかね。

たとえば全体の2割ぐらいの

時間と能力を割いて、

誰に頼まれてもいない仕事をするとか(笑)。

自分でお金を工面し、

人のためになるものを頼まれてもいないのに

つくっちゃうみたいな。

そういうことを1回体験してみると、

同じ建築の仕事でも、

ビジネスの仕方とか、

発想の順序とかが全然違ってくるはずだなって。

 

西田 なるほど。

 

遠山 要するに自分で

「自分のクライアント」になるということです。

いつもなら「まあ、いっか」と選んでいた素材も、

よりコストを下げたり、

「じゃあ一回切り捨てよう」とかね。

 

西田 すごく、わかりますね。

建築って、大学で4年間、大学院まで行くと6年間やって、

ようやく社会に出るんで、入社3年目の若手などは、

計9年ぐらいは専門職をやっている意識があるんです。

だからなのか仮に設計事務所を辞めたら、

不動産やハウスメーカーに就職することはあっても、

金融業にいきますとか、

営業職やりますとかってなかなかならないです。

 

遠山 だから一回、自分で

小さなプロジェクトをやってみて、

「今まで、そこの領域をうっかり見落としてきた!」

「それって、自分でやっていいんだ!」ってなれば、

急に地平が広がると思う。

そして将来、売れっ子建築家になったら、

デベロッパーとか金融関係の会社と組んで、

お金さえ工面つければ、

あとは事業として、

たとえば「現代の団子屋さんをやってみよう」

「坂の上の団子屋、つくるぞ!」とか、

べつに自分で団子をつくらなくても、

事業チームでオペレーターと組んでやればいい。

でも、いきなり大学出てからやると大変だから、

基本、建築家を8割やりながら、

2割で直営店をやるみたいな。

そのバランスならすごく面白いと思うけど。

 

西田 しゃにむにプロジェクトに

邁進していた20代もあれば、

30歳ぐらいをピークに、

ほかの物事と掛け合わせてみるとか。

僕自身も、今43歳で、

自分の限られた時間とか能力を有効利用するために、

どうしたらいいかって意識しています。 - つづく –

(  じ か い は つ い に 最 終 回 😭  )

 

profile
遠山正道 masamichi toyama

株式会社スマイルズ 代表取締役社長。1962年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、85年三菱商事株式会社入社。2000年株式会社スマイルズを設立、代表取締役社長に就任。現在、「Soup Stock Tokyo」のほか、ネクタイ専門店「giraffe」、セレクトリサイクルショップ「PASS THE BATON」、ファミリーレストラン「100本のスプーン」、コンテンポラリーフード&リカー「PAVILION」、海苔弁専門店「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」を展開。「生活価値の拡充」を企業理念に掲げ、既成概念や業界の枠にとらわれず、現代の新しい生活の在り方を提案している。近著に『成功することを決めた』(新潮文庫)、『やりたいことをやるというビジネスモデル-PASS THE BATONの軌跡』(弘文堂)がある。

profile
西田 司 osamu nishida

オンデザインパートナーズ代表。1976年、神奈川県生まれ。横浜国立大学卒後、スピードスタジオ設立。2002年東京都立大大学院助手(-07年)。2004年オンデザインパートナーズ設立。2006年横浜国立大学大学院(Y-GSA)助手(-09年)。現在、東京理科大学准教授、明治大学特別招聘教授、大阪工業大学客員教授。近著に『オンデザインの実験 -人が集まる場の観察を続けて-』(TOTO出版)がある。