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自分ごと化のススメ
#03
発意のバトン、
どう届けるか?

text:satoshi miyashita photo:akemi kurosaka illustration:awako hori

スマイルズ代表・遠山正道さんをゲストに迎えたケンチクウンチク第3回目。なぜ、魅力的なコンテンツは生まれるのか、遠山さんの仕事に対する意識から浮き彫りにしていきます。

 

これまでのラインナップ
第1回 はじまりは世の中への疑問や苛立ち(07.23)
第2回 コミュニケーションと教育の交差(07.29)
第3回 発意のバトン、どう届けるか?(08.02)
第4回 心の中にエンジン、ありますか?(08.06)
第5回 プロジェクトを仕掛ける側になれ(08.10)
第6回 夢はヴェネツィア・ビエンナーレ!(08.15)

 

 

@smiles(東京・中目黒)

 

 

 理想のコミュニケーションは、給湯室?  

 

西田 この夏、完成する

「神奈川大学国際寮(インターナショナルシェアハウス)」

オンデザインが設計したんですが、

日本にいる留学生に事前にリサーチをしたところ、

印象的だったのが、

日本には生活の中でコミュニケーションできる場が

少ないということでした。

 

遠山 それは大学寮に限らず?

 

西田 ええ。でも、とくに大学寮って、例えば、部屋以外に、

大きなダイニングルームとリビング、

それにロビーしかないんですね。

本当は空間の一角に人がいれば、

もうひとり友人が横にやってきて

「あそこの和食屋、おいしかったよ」とか、

「帰国したときのお土産3人分あるから、分けよう」とか。

そんなやりとりをしながら、

生活の中での発見や学びにしていきます。

そういう場がいたる所にあるといいんですけど。

 

遠山 会社でいう給湯室というか。

3、4人でいられる、ああいう規模感だといいよね。

 

西田 まさに、あの規模感です。

神奈川大学国際寮には、

それを30箇所つくりました。

 

遠山 給湯室の機能って、

一応コミュニケーションしながら

仕事もしている体でいられる感じしますよね(笑)。

そこにいる理由をちゃんと与えてくれる場があるのはいいな。

 

西田 いいですね。

 

遠山 現実的じゃないかもしれないけど、

例えば、ある空間に自転車が3台あって、

ペダルを漕ぎながら自家発電していたら、

その空間で話している分にはみんなに喜んでもらえる

みたいなのどうでしょう(笑)。

 

 

 バトンを渡し、そこからまた走り出す  

 

西田 今のお話のように、

ふと思いついた貴重なタネみたいな話が、

遠山さんの場合は、

よく現実化されるじゃないですか?

これまでやられてきた、

いくつかの事業も「こういうの、いいかも!」

みたいな発想からはじまっているんでしょうか。

 

遠山 Soup Stock Tokyo」とか

giraffe」、「PASS THE BATON」は、

今みたいに私が言い出しっぺでやった事業だけど、

例えば、「100本のスプーン」は、

副社長のアイデア。

あと、海苔弁専門店の「海苔弁山登り」は、

8年ぐらい前に海苔弁いいよねと、

私がちらっと言ってから、

3年前にある社員が、

「海苔弁のお店、やりませんか?」って

言い出して急に事業化したんですよ。

 

西田 へえ、面白い!

 

遠山 僕がSoup Stock Tokyoを考えたとき、

「スープのある1日」っていう企画書に、

一言で「共感」と「作品性」って書いたんです。

スープに共感して集まってくれた仲間たち。

彼らとまるで作品をつくるように

スープづくりを体験し、

お客さんや世の中と「共感の関係性」が構築できればいいと。

そうすればスープの次はネクタイだったり、

リサイクルだったり、他の物販やサービスにも、

その関係性を広げていけるだろうと。

 

西田 なるほど。

 

遠山 私は会社もブランドも、

よく人物に置き換えて考えるようにしていて、

例えば、最近「Soup Stock Tokyoさん」や、

「スマイルズさん」が

気になっていることは、外食にことだけじゃなくて、

旅も、映画も、恋愛も。

で、そこから、さっきの疑問や苛立ち

「自分だったら、こうするのになあ」みたいなのが

生まれてくるんだと思うんです。

 

西田 ああ、たしかに。

 

遠山 結局、大事なのは“発意”みたいなものかなって。

 

西田 その発意から生まれたものを、

ユーザーにどう届ければ、いちばん美しいのか、

いちばん腑に落ちるのか。

僕はそこに遠山さん流の、

ある種の美意識というか、丁寧さを感じるんですよね。

 

遠山 たしかにスタートからゴールまでを、

どう設計するかはつねに考えていますね。

入り口がスープやネクタイであっても、

バトンを手渡して、最後のゴールまでは

しっかりイメージしていないと。

 

西田 たぶん疑問や発想だけなら

少なからず誰もが持っていると思うんです。

でも、それがちゃんと事業なり

作品なりになったときに、

届けるべき人に届けられのるかっていう。

ここの設計っていうか……。

 

遠山 そこは大事。

さらにそれが儲かる事業になっていればいいけど、

これもなかなか難しいものです。

 

西田 はい。それってようは物としての価値、

いわゆる美しさの軸だけではない、

時間軸というか……。

 

遠山 まさに。つまり今、言ってくれたのは、

最後の人に、直にバトンが渡り、

その人がまた走って行く感覚を、

どう私たちサイドがつくれるかっていうこと。

届けるだけじゃなくて。

 

西田 そうです、そうです。

 

遠山 あっ、ちょっと今、

私、いいこと言ってたな(笑)。

 

西田 いや、さっきから、

めちゃめちゃ、いいこと言ってますから(笑)。

 

遠山 バトンを受け取った人が、

思いっきり走って行く。

それがないと、世の中、回っていかないかもと思うんです。

 

西田 はい。

 

遠山 あと、全速力で走っても、

そのバトンを受け取ってくれる人がいないと

ダメですよね(笑)。  -つづく

( じ か い も お た の し み に )

 

profile
遠山正道 masamichi toyama

株式会社スマイルズ 代表取締役社長。1962年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、85年三菱商事株式会社入社。2000年株式会社スマイルズを設立、代表取締役社長に就任。現在、「Soup Stock Tokyo」のほか、ネクタイ専門店「giraffe」、セレクトリサイクルショップ「PASS THE BATON」、ファミリーレストラン「100本のスプーン」、コンテンポラリーフード&リカー「PAVILION」、海苔弁専門店「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」を展開。「生活価値の拡充」を企業理念に掲げ、既成概念や業界の枠にとらわれず、現代の新しい生活の在り方を提案している。近著に『成功することを決めた』(新潮文庫)、『やりたいことをやるというビジネスモデル-PASS THE BATONの軌跡』(弘文堂)がある。

profile
西田 司 osamu nishida

オンデザインパートナーズ代表。1976年、神奈川県生まれ。横浜国立大学卒後、スピードスタジオ設立。2002年東京都立大大学院助手(-07年)。2004年オンデザインパートナーズ設立。2006年横浜国立大学大学院(Y-GSA)助手(-09年)。現在、東京理科大学准教授、明治大学特別招聘教授、大阪工業大学客員教授。近著に『オンデザインの実験 -人が集まる場の観察を続けて-』(TOTO出版)がある。