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自分ごと化のススメ
#01
はじまりは世の中への
疑問や苛立ち

text:satoshi miyashita photo:akemi kurosaka
illustration:awako hori

今回のケンチクウンチクのゲストは、「Soup Stock Tokyo」、「PASS THE BATON」などを展開するスマイルズ代表の遠山正道さん。起業家であり、アーティストという顔をもつ遠山さんは、昨年末、PARTYの伊藤直樹さんと「The Chain Museum」を設立。アートを軸に新たな事業にも邁進中です。若手建築家への提言、新規プロジェクトの提案など、全6回にわたる対談ではクリエイティブ界隈にいる人間なら目から鱗の発言が次々と飛び出します。ぜひ、読み逃しなく!

 

これまでのラインナップ
第1回 はじまりは世の中への疑問や苛立ち(07.23)
第2回 コミュニケーションと教育の交差(07.29)
第3回 発意のバトン、どう届けるか?(08.02)
第4回 心の中にエンジン、ありますか?(08.06)
第5回 プロジェクトを仕掛ける側になれ(08.10)
第6回 夢はヴェネツィア・ビエンナーレ!(08.15)
 
@smiles(東京・中目黒)

 

 

 遠山流「言葉の磨き方」

 

遠山 建築家って、

「言葉の人たち」だなって思うんですよね。

だって、クライアントに対して、

まだ具体的に何もつくり上げていない中で

いろいろと言語化し説得しなきゃいけない仕事って

なかなか難しいことだなと。

 

西田  はい、ただ僕も、よく遠山さんの

インタビュー記事を読んでいて、

言葉の引き出し方や、つむぎ方が建築的というか、

スタディ模型をつくっているような感覚に

近いと感じることがありますよ。

 

遠山  そうですか? すこし似てるのかしら。

 

西田  この間も、久しぶりにお会いした時、

「今度、新しいプロジェクトをはじめるんだけど、

この企画、どう思う?」って聞かれてましたよね(笑)。

あの「どう思う?」は、

きっといろんな方に試しているなと感じて、

遠山さんは、言葉を絶対的な価値として捉えているのではなく、

考えた言葉をいろいろな場面で

発しながら磨いていっているのかなって。

 

遠山  ああ、それはあるのかもしれないなぁ。

The Chain Museum」なんて、

まさに最初、「チェーンミュージアム」っていう

言葉が起点となっていましたから。

 

西田  「事業性も、まだ分かりません」って

言われていましたね(笑)。

 

遠山  The Chain Museum」の成り立ちを

簡単に説明すると、スマイルズがアーティストとして

越後妻有の大地の芸術祭に出展したあと、

瀬戸内国際芸術祭で豊島に「檸檬ホテル」を出展して……。

そのあとに「来年は何にしようか」と考えて、

じゃあ自分たちのコンテクストはビジネスだから、

ふだんの事業でしている“チェーン展開”を

アートとつなげてみようと思って。

異分子と異分子を掛け算してみたら、

どうだろうかと考えてみたんですね。

こういう発想って、アート側からはなかなか出てきづらいというか

ビジネス側にいるからこその言葉だったのかなと。

 

西田  そうですね(笑)。

 
「いけてない」のが、いやなんだ 

 

西田  遠山さんご自身が、アート的な感覚を呼び起こさせる

きっかけになったのは、いつ頃だったんですか。

 

遠山  ひとつの起点になったのは、

サラリーマン時代に開催した絵画展。

1996年だから33歳の頃、もう25年前だな。

でも、じゃあそれ以前は違う手法、

違う感覚の中で生きてきたかっていうと、

そういうわけでもないんです。

もしかしたら、子供の頃から変わっていないかもしれませんね。

 

西田  なるほど。

 

遠山  ちなみに小学4年生の頃の私は手品が大好きで、

いつも手品師のつもりでいました(笑)。

 

西田  (笑)。

 

遠山  たとえば、当時、クラスメートだった

スズキケンタロウ君が親にステレオを買ってもらって以来、

音楽に関してはスズキケンタロウ君のもの、と思っていました。

なんというか、私の中からは手放しちゃった。

 

西田  自分は手品師やっているから?

 

 

遠山  ようは“あまのじゃく”ということなんですかね(笑)。

あと面白いのは(クラスメートだった)イシカワコウジ君が、

家族でカナダにスキーに行ったときに

買ってきたダウンジャケットを学校に着てきて。

以来、ダウンジャケットはイシカワ君のもの、と思ったり。

私はつい10年ぐらい前まで、約40年は

ダウンジャケットを頑なに着なかったくらいです。

 

西田 えっ!?(笑)。

 

遠山  つまり人の真似になっちゃうのがいやなんでしょう。

言葉にするとしょぼいけど、

ずっと「いけてない」ことだと思ってたんです。

 

西田  ああ、わかる気がします。

 

遠山  だからってべつに私自身は、

何かを発明したいわけじゃないんですね。

例えば、今やっているネクタイ(giraffe)にしても、

スープ(Soup Stock Tokyo)にしても、

昔からあるものだけど、

そこに「スマイルズらしさ」という

新たな価値観や面白さを見出していきたいと思っていて。

 

西田  その「新しさ」って、

これまでの文脈なり、枠組なりとは

少し違う視点に立って見るみたいな、

「相対的なもの」のような気もしますね。

 

遠山  私の書いた『成功することを決めた』(新潮社)

という本の1行目には「なんでこうなっちゃうのっていう

世の中に対する疑問や苛立ちから、

Soup Stock Tokyoは生まれました」って書いたんです。

社会派ぶるつもりもないけれど、そういった疑問から

思いつくことってけっこうあると思っています。

 

西田  それは日常的に目にしているものから?

 

遠山  そうですね。例えば、ファストフードって

「速い」という意味なのに、

スマイルズの創業当時は

安かろう悪かろうの代名詞だった。

でも、例えば、値段を200円高くした代わりに

スープとナイフが付いて、ファストフードなのに、

ちゃんとしたものをおいしく食べられたら……

そういうものがなぜないのか? 

みたいな疑問から(Soup Stock Tokyoは)生まれたんです。

 

西田  なるほど!      -つづく-

 

(ま だ ま だ 話 は 尽 き ま せ ん)

 
profile
遠山正道 masamichi toyama

株式会社スマイルズ 代表取締役社長。1962年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、85年三菱商事株式会社入社。2000年株式会社スマイルズを設立、代表取締役社長に就任。現在、「Soup Stock Tokyo」のほか、ネクタイ専門店「giraffe」、セレクトリサイクルショップ「PASS THE BATON」、ファミリーレストラン「100本のスプーン」、コンテンポラリーフード&リカー「PAVILION」、海苔弁専門店「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」を展開。「生活価値の拡充」を企業理念に掲げ、既成概念や業界の枠にとらわれず、現代の新しい生活の在り方を提案している。近著に『成功することを決めた』(新潮文庫)、『やりたいことをやるというビジネスモデル-PASS THE BATONの軌跡』(弘文堂)がある。

profile
西田 司 osamu nishida

オンデザインパートナーズ代表。1976年、神奈川県生まれ。横浜国立大学卒後、スピードスタジオ設立。2002年東京都立大大学院助手(-07年)。2004年オンデザインパートナーズ設立。2006年横浜国立大学大学院(Y-GSA)助手(-09年)。現在、東京理科大学准教授、明治大学特別招聘教授、大阪工業大学客員教授。近著に『オンデザインの実験 -人が集まる場の観察を続けて-』(TOTO出版)がある。