哲学と建築のリアル
#03
人生とは、
絶えざる問答
哲学者・鞍田 崇さんと、建築家・西田 司さんとの対談もいよいよ後半戦に突入。今回は、前回までとは視点を変え、大学で教鞭を執るおふたりが感じている学生への思いや秘めたる葛藤について語り合います!
@東京・御茶ノ水界隈
学生たちに伝えたいこと
西田 最近、「都心に住みたい」という人が一定数いる一方で、「都心もいいけど、ちょっと安い土地があるなら海の近くがいい」という人も、そこそこ増えてきているなあっと感じてます。
鞍田 確かに、増えていますよね。
西田 「住むこと」への価値が建物ではなく、地域だったり、属しているコミュニティに少しずつ寄ってきているというか。
鞍田 それは、僕も感じていますね。ただ、今の大学生たちを見ていると、意外にそうでもないなぁと思うことも多々あります。だって結局、彼らは大学3年生になったらスーツを着て就活してますから(笑)。
西田 あぁ、そうですよね。
鞍田 だから最近、僕の授業を専攻している学生には「就活しちゃダメ!」って言っているくらい。
西田 ははは、いいっすね(笑)。
鞍田 この時期、一回くらいは人生に迷う心意気じゃないと困るっていう話をよくしています。
西田 うん、うん。
鞍田 やっぱり「大学全入時代」と言われながらも、親に(大学まで)来させてもらっているわけじゃないですか。ならば社会の中で、何がしかの役割を担うべき存在なんだという自覚は最低限持って欲しい。うまい汁を吸うほうに行くんじゃなくて、ちょっとでも汗水流すほうへ行くべきだよ、と。
西田 はい。
鞍田 大きな企業に入ったり、勝ち組になることだけが親への恩返しにはならないだろうし、自分だけおいしい方向に行こうみたいな、そういう考えこそが「私有」じゃないかって。「若者はもっとボランタリーな精神をもたなきゃっ!」と伝えてます。
西田 先生のおしゃっていることは、結局、大学の価値とは何かっていう問題ですよね。教育的な価値ばっかり見い出しちゃうと高等教育の延長線というか、ミスりたくないとか、正解はここにあるんじゃないか、といった思考になっていきます。
鞍田 ええ。だから、あえて別の視点を提供しているんです。
西田 それって、トライ・アンド・エラーの世界ですね。
鞍田 そうそう。
西田 つまり、やっているうちに自分なりの物差しができていくわけで、「物差し」って与えられるものじゃなくて自分でつくるもの。そういう感覚をもてば、社会でサバイブできます。
鞍田 結局、ひとつの問いにひとつの答えを見つけて、「はい、OK!」というQ&Aじゃなくてね、「問答」なんですよ。絶えざる問答。
西田 はい。
鞍田 つねに微調整を加えながら答えを見つけていくわけで、人との関係性もまさに同じだと思います。と言いつつ、僕も50歳が近くになってきて、学生に対して、だんだん親心のような気持ちになってきているのかな(笑)。
西田 親心(笑)?
鞍田 だって、彼らは息子や娘であってもおかしくない年齢だから。これまではちょっと年上くらいの友だち感覚でいたけど、最近は気づくと友だち扱いしてくれません(笑)。
西田 あー、わかります(笑)! まさに僕もスタッフとの間に、日々それを感じています。
都市が助長していること
西田 僕の知り合いに「アーバンキャンプ」という街中でキャンプイベントを主催している友人がいます。2014年にスタートしたんですが、初年度は街中でキャンプをしながら、一緒に街巡りのツアーをやったり、あと神輿をかつぐコーナーをやったり、いろいろ企画したらしいんです。
鞍田 おもしろそう。
西田 でも開催してみたら、ほとんど参加者がいなくて。神輿やツアーに協力してくれた地域の青年団や町内会の方々も落胆し、主催者側もかなり傷心したそうです。終わってしばらくは「何でだろう」と反芻しながら、あらためてキャンプ自体を観察し直したら、いろいろと見えてきて……。
鞍田 失敗した理由が?
西田 ええ。結局のところ、山に行ってテントを張る時に、木々が「この木は心地いいからハンモックかけてね」なんて言わないじゃないですか。川の水だって「冷えているから飲んでね」なんて言いません。
鞍田 確かに(笑)。
西田 人間が主体的に探して、それに対して自然が反応する。これがキャンプの醍醐味なんですよね。結局、自分たちはサービス過剰だった、と。
鞍田 なるほど。
西田 ふだんは都市で暮らしているから当たり前だと思っているけど、キャンプに来る人っていうのはそれ(サービスされること)が嫌だから、わざわざ山に行くわけです。そこで、2年目からは一切サービスをせずに、テントは自分で張ってくれ、そのままだとぺグが打てないから重しの土嚢は自分でつくってくれと。つまり、「すべて自由にやっていいし、主体性に任せる」というスタンスで開催してみたんです。
鞍田 ええ。
西田 そしたら、みんな楽しそうに参加してくれて、新たなコミュニティも生まれたそうです。以来、イベントは無関心・無サービスでやっていると言っていました。これって、さっきの就活の話と同じで、サービスするのが当たり前だっていうふうに、下手したら大学側が思ってるんじゃないですか。
鞍田 そうなんだよなぁ。
西田 学生たちもサービスされて当たり前みたいな。その関係性でいる限り“主体性”や“人間力”ってのびていかないなと思うんです。僕は、じつは都市がそれを助長している面もあるじゃないかって思っています。
鞍田 あー、それはそうかも、ほんまに。(次回へ続く)
なぜ、都市が“主体性”や“人間力”の低下を助長させるのか。対談もいよいよクライマックスへ!
前回までの対談はこちらより
哲学と建築のリアル#01 「聞くこと」から生まれるもの
哲学と建築のリアル#02 言葉や物の先に、暮らしがある
profile |
鞍田 崇 takashi kurata哲学者。1970年兵庫県生まれ。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。博士学位取得(人間・環境学)。総合地球環境学研究所(地球研)を経て、2014年より明治大学理工学部専任准教授。著書に『民藝のインティマシー−「いとおしさ」をデザインする』(明治大学出版会)、『「生活工芸」の時代』(共著、新潮社)、『道具の足跡』(共著、アノニマ・スタジオ)、『〈民藝〉のレッスン つたなさの技法』(編著、フィルムアート社)がある。 |
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profile |
西田 司 osamu nishidaオンデザインパートナーズ代表。1976年、神奈川県生まれ。横浜国立大学卒後、スピードスタジオ設立。2002年、東京都立大大学院助手(-07年)。2004年、オンデザインパートナーズ設立。2005年、首都大学東京研究員(-07年)、神奈川大学非常勤講師(-08年)、横浜国立大学大学院(Y-GSA)助手(-09年)。現在、東京大学、東京工業大学、東京理科大学、日本大学非常勤講師。近著に『オンデザインの実験 -人が集まる場の観察を続けて-』(TOTO出版)がある。 |
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