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Work Log
#06
三田 修平
(移動式本屋 BOOK TRUCK店主)

text:koichi yoshikawa & akiko nishioeda (ondesign) photo:yuji tanno


過去 |origin

 そもそも、なぜ三田さんは本屋で働こうと思ったのだろう。きっと学生の頃から読書家で、本が大好きな青年だったからだろう、なんて勝手に想像していたが少し違った。
 
 「大学生の頃は、数学が好きだったので公認会計士を目指して会計学科に進みました。でも、当時は公認会計士がどのように世の中で求められているのかがわからず……。結局、その後は、具体的に誰かが喜んでくれて、社会の役に立っていると実感ができる仕事をしたいと思うようになったんです。

 おりしもアメリカで同時多発テロが起きて、時代背景的に終身雇用から多様な働き方が話題になりはじめた頃でした。個人的にも、やりたいことをやって生きてゆきたいという思いが芽生えはじめまて。そんな中、勉強のために読んだ『金融腐蝕列島』(高杉 良)という小説が、とにかく面白くて衝撃を受けました。そこからですね、いろいろな本を読むようになったのは。
 本を読みながら「あ、この世界も楽しいな」って思える瞬間が好きで、僕の周りの人にも、同じように本の「面白さ」を知ってもらいたいと思うようになりました。自分のように本を読んでこなかった人でも、気軽に入れる間口の広い本屋があったらいい。だから、本屋をやりたいというよりも、『こんな本の売り場があったらいいな」という場所をつくりたかったのが動機でした」
 その動機は頻繁に読書をするタイプではなかった三田さんだからこそ生まれたものなのかもしれない。そして、本を読んで気づかされた感動を、周りの人に伝えたくなったというエピソードも、三田さんの誠実な人柄を表しているように感じた。
 BOOK TRUCKは、三田さんの思い描いていた本屋の世界が、そのまま実現されている。そして、訪れるお客さんが楽しんでもらえるように様々な工夫が施されていた。
 「小さい頃、家の近くに来ていた移動図書館の思い出もあって、当初からクルマの中に入れる形態にはしようと思っていました。だから実現への最初の関門は人が立ったまま車中に入れるクルマを探すことでした」

 「遠くからでもわかるように、車外にも本を置こうと考え、ひとりで本の出し入れができるよう、場所に合わせてフレキシブルに変えられる小ユニットの小箱をたくさんつくりました」という三田さん。まさに建築家顔負けの想像力と発想力だ。


未来|beyond work

 聞いていると、他の人にはなかなか真似できない働き方だなと思えてきた。はたして三田さんは、移動式本屋の先に、どんな未来を実現したいと考えているのだろう。

「例えば、スノーボードの醍醐味を知らないサーファーに、『サーファーなら、きっとスノボも好きですよ』って教えてあげたらよりその人の人生が楽しくなるかもしれない。だから、スノボの魅力に出合えていない状態だとしたらすごくもったいないですよね。そういうふうに、ヒトとコトをつなげていきたいと思っています。
 通常の本屋だと、お客さんに来てもらわなければ、ヒトとコトってつながらないですよね。でも、例えば『移動式本屋』は属性のあるお客さんに、こちらから向かっていくスタイルです。つまり突き詰めていくと、べつに本屋じゃなくてもよくて、結びつける仕事が、一番やりたいんだと思います」
 三田さん曰く、イベント会場では、来場者に瞬間風速的な気持ちの高揚が起こるので、ふだん本を手にしない人でも、その魅力が心に刺さりやすい場になっているという。
 とくに直接リコメンドするのではなく、あくまで自然の流れで、お客さんのモチベーションが高いうちに、(心に刺さる)本と出合える環境を提供したい。三田さんはそんな理想的な環境をずっと探し続けている。その本が、その人の人生に意味のある「きっかけ」となるかどうか、それが三田さんにとっては最も大切なことなのだろう。
 インタビューの終盤、そんな想いが伝わるようなエピドードを語ってくれた。ご自身の将来を決めた大学時代に端を発するエピソードだ。

 「近い将来、実現したいことひとつは、大学キャンパスでの出店なんです。BOOK TRUCKは僕が学生の頃に『こういう本屋があったらいいな』とイメージしていたお店に近いんですね。
 モヤモヤしていた大学生時代、この先、どんな世界が待ち受けているのかがあまりわかっていませんでした。だから『こんな世界があるんだ』というヒントや、世界に踏み出すきっかけの場に、BOOK TRUCKがなれたらうれしいですね」(了)📚


近況 | information

【ブックセレクト】 
 ●「A-Bulk」  福島県田村郡三春町斎藤仁井道 348-4「BRITOMART」内

【出店】 
 ●4/20 横須賀ブックミュージアム2019(横須賀)  
 ●4/28・29 赤坂蚤の市 in ARK HILLS~5th Anniversary~(赤坂)  
 ●4/30・5/1 コクーンシティ アウトドアパーク2019(さいたま新都心)  
 ●5/2~6 太陽と星空のサーカス(二子玉川ライズ)

profile
三田修平 syuhei mita

「TSUTAYA TOKYO ROPPONGI」「CIBONE 青山店」「SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS」を経て2012年に独立。移動式本屋「BOOK TRUCK」をスタート 。その他、飲食店や小売店のブックセレクト、各種媒体での本紹介の連載など、様々な形で本の販売に携わる。

三田さんの仕事着
三田さんの仕事は本屋さんだが、日々の活動ほとんど野外で行われる。仕事着はその時期の気候に合わせたものだから、機能性重視。このままキャンプができそうな格好で今日も本を売っています。