update

連載エッセイ
「暮らしのあとがき」
#04
コロナ禍の家づくり

text: naoko arai  photo: ondesign

数多くの住宅案件を取材してきたライターの荒井さん。自ら体験した家づくりについてつづる連載エッセイの4回目は、設計プラン決定後の顛末記。デザインと機能、ふたつの側面から試行錯誤を繰り返し、空間構成の具体的な検討がはじまります。オンデザインとの打ち合わせを重ねながら、新たな住まいへの夢はふくらむばかりです。

プレゼンテーションブック『生活を彩る段差が生む居場所』より抜粋 by ondesign

 無事、初回の提案でコンセプトや大まかなゾーニングが決定したわが家のリノベーション計画。順調なスタートのように感じるものの、細かな使い勝手や造作家具などの詳細な設計、内装の素材や色味の検討など、施主側から見れば本格的なスタートはある意味、ここからともいえる。

 はじめの提案はとても気に入っていた。ただ、暮らす視点でみるといくつかの心配ごとがあった。なかでも、もっとも懸念したのは機能性。とにかく面倒くさがり屋の私は、生活動線を可能な限りコンパクトにしたい。一歩でも無駄な動きをしたくないのだ。私が気になったのは、洗面台が4階にしかなかったこと。小さな子どもがいるわが家は帰宅したらすぐの手洗いは重要だったし、来客時も洗面台は真っ先に使うもの。その都度4階に上がるのは現実的ではないだろう。やはり玄関に近い2階に必要だろうと考えた。

 さらに、外に出る機会が多いことを考えると、上着やバッグなど外出時に使う衣類や小物の一時置き場がないとすぐに部屋が散らかるだろうというのも容易に想像がつく。何かしら玄関付近に一時置き場になるような収納スペースが必要だと考えた。

 といっても、何しろワンフロア40㎡にも満たないコンパクトな家。すべての機能を2階に集約することは難しい。そこでまず妥協したのは、2階と3階それぞれにあったトイレを3階の1か所に減らすこと。一般的に多層構成の一戸建てはトイレをリビング階と寝室階それぞれに設けることが多いものだが、家族3人なら物理的には1か所で十分だろう。上下階の移動は確かに面倒かもしれないけれども、ある程度、計画的に動けばさほど負担にならないのではないか。もちろん老後まで考えると不安がないわけではなかったが、20年、30年経ったらそのときはもはやトイレ問題だけじゃ済まないかもしれない。だったら、まずは当面の生活を優先しよう。

『打ち合わせ資料』より抜粋 by ondesign

 さらに、2階の玄関近くに置く予定だった洗濯機置き場の位置も再検討することにした。通常、洗濯機はキッチンかバスルームのどちらかの近くに置くことが多いが、今の洗濯機はスイッチを入れたらあとは放置したままでOKだし、わが家の生活習慣から考えるとバスルームに近いほうが合っている。洗濯物を干すのは4階のルーフバルコニーであることを考えるとなおさらのこと。これで、2階のトイレと洗濯機置き場のスペースが空白になった。

4階部分(模型)

ルーフバルコニー部分(模型)

 もうひとつ気になっていた点が、元の住まいで使っていた食器棚を配置する場所がキッチンの背面だったこと。食器棚なのでキッチン内に配置したこと自体は当然のこと。ただ、この食器棚は決して機能的なものではなく、約100年前に作られた古道具。調理家電を置くようなカウンター的な機能もなく、ガラス扉のガタツキもあって開閉がしづらいどころか、ガラス扉が落ちないように毎回、気を付けながら開閉するほど。家の中でもっとも機能性が求められるキッチンのなかに置く家具としてふさわしいかというと大いなる疑問があった。

約100年前につくられたというヴィンテージの食器棚は荒井さんのお気に入り(以前の自宅にて)

 もちろん、私としてはその古道具らしい味のある佇まいが気に入って使っていた。だからこそ逆に、それがキッチンの中に隠れてしまってダイニングから見えない点も、もったいないという思いがあったのだ。だったら思い切って、玄関を開けたらすぐに目に飛び込んでくる位置に入れ替えてディスプレイ棚として使うのはどうだろう。ただそこには当初の計画では下足入れを配置する予定だった場所。洗面台や収納スペースとの兼ね合いもあり、上記の希望を踏まえたうえで佐野さんたちに再考してもらうことになった。

 

はじめてのオンライン会議をオンデザインと

 話は少しそれるが、計画を詰めていくこの大切な時期(2020年4月)、新型コロナウイルスの本格的な広がりを見せていた頃と重なった。そうでなくてもオンデザインの事務所がある横浜と計画地の清澄白河ではまあまあの距離がある。そのうえ当時は第一回目の緊急事態宣言下ということもあり、移動の制限がかけられるという悩ましい状況。誰もが経験したことのない事態を前に困惑気味のなか、佐野さんから次回の打ち合わせをオンラインで行なわないかという提案をもらった。

 仕事柄、さまざまな情報端末や通信機器を使っていたし、オンラインのやりとりにも抵抗はなかったものの、2020年4月の段階ではZOOMのようなアプリを使ったオフィシャルなオンライン会議は未経験。佐野さんたちも社内は別にして、施主との打ち合わせをオンラインで行なうのは初の試みとのこと。設計の打ち合わせという言葉だけで済まない内容をうまく伝えあうことができるかどうかわからなかったが、状況が状況なだけに、まずはトライしてみることになった。

 当日は佐野さん、澤井さん、西田さんはみなそれぞれ自宅や外出先。モニター上で図面やパースを共有しながら、わが家を含め4地点をつないでオンライン会議を開始した。この日の主な議題は、2階の機能性のブラッシュアップ。オンデザインからの提案は、玄関のすぐ横に下駄箱を移動させ、その裏側に洗面台を配置。もとの下駄箱部分にはぐるっと180度回転させて食器棚。その裏側、つまりキッチン背面は収納棚やゴミ箱置き場、調理家電置き場を兼ねた造作家具。しかも造作家具は食器棚を拡張させた収納スペースという位置付けで、色味やデザインは食器棚が基調になっている。壁面には食器棚と同じ色の格子も設けられ、そこも吊るしたり飾ったりと見せる収納エリアになっている。この提案によって、食器棚がディスプレイの場として表に出て、キッチン内の機能性と収納力が格段にアップ。機能的にもデザイン的にも2階のコアとなり、見た目も機能性もこれまでの課題を見事に解決してくれた。

『打ち合わせ資料』より抜粋 by ondesign

 さらに、玄関を入って下足入れの裏にまわると洗面台、その奥の元トイレスペースは小さな納戸空間にチェンジ。出入りの際に使う機能をコンパクトにまとめられ、まさにイメージどおり。玄関まわり、キッチンまわりともに、理想をはるかに超えた提案だった。

 
縦空間を強調する吹き抜けのディスプレイ棚

 もうひとつ、初回にはなかった新しい提案があった。それが、階段に添って設けた吹き抜け側面のディスプレイ棚だ。もともと吹き抜けを設けたのは、直射日光が当たらない2階に光を落とすため。その吹き抜けの一面を棚にすることで、縦空間がより強調されて広がりが感じられるという。この棚は階段側からもアクセスすることができ、飾り棚として、書類などの収納場所として、書棚として、場所によってさまざまな使い方ができそうだ。当初、反対側の壁面にテレビボードを主とした飾り棚を造作する予定だったが、2階から4階に渡る吹き抜け空間の造作家具のほうが使い道の幅も広がりそうだし、縦に細長く伸びる見た目もインパクトもある。花器や食器など、いつの間にかたくさん集まってしまった器類を飾る場所にもちょうどいい。吹き抜け造作家具案でいくことに決めた。

吹き抜けの縦空間(模型)

 こうしてキッチンの背面収納、吹き抜けの飾り棚を造作することに決定。もともとつくる予定だったキッチン横のカウンター兼収納棚、下足入れ、そして3階の子ども用ベッドとデスク、階段の壁面収納と、気付くと造作家具がかなり多くなった。もともと可能な限り造作家具で対応し、収納家具はなるべく買わずに済むようにしたかったという意味では希望どおりではあった。ただ、この後に出してもらった見積もりを見ると、なんと予算のほぼ2倍。それは、新築の一戸建てが建てられるのではないかという費用だ。思わず夫婦で黙り込む。聞けば、オンデザインとしてはいったんコストに縛られずに要望を盛り込んで、あとは引き算で調整する方法をとっているとのこと。なるほど、そういうことか。でもさすがに2倍はびっくりした。というわけで、ここからは、大きく大きく膨らんだ夢を自らの手で萎ませていくという胸の痛む作業が待っていたのだった……。

 

次回こそ、「コストダウンの険しい道」に続くつもりです(苦笑)!

 本編には書きませんでしたが、初のオンライン設計会議、まったく問題なくできました。画面共有で図面やパースも共有できますし、その場で図面などに書き込んだ文字や絵も共有できるので、不自由は一切感じませんでした。結局この後もたびたびオンラインで打ち合わせ。すべての打ち合わせをオンラインというわけにはいきませんが、とくに遠方のお施主さんの場合、うまくオンラインを使って進めるとスムーズに進められると思いました。

 そして、前回の予告で「次回はコストダウン」と書いておきながら、今回はブラッシュアップの過程止まりとなってしまいました。次回こそ、リノベーション計画の引き算について書く予定です。

profile
荒井直子 naoko arai

東京生まれ。大学卒業後、住宅情報雑誌の制作に携わった後、フリーランスのライター・編集者に。住宅・建築・インテリア・街づくり・不動産といった住まい・ライフスタイル関連を中心に、旅・お酒・カルチャー・スポーツ・人物インタビューなど、興味のあること・興味のある人を取材・執筆しています。