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これからのアパート、
これからの地域 ・後編

text:satoshi miyashita photo:kouichi torimura 

竣工8年目をむかえた今も、住まいの新たな可能性を提案し続けているヨコハマアパートメント。
前回に引き続き、設計者である西田さんとオーナー川口ひろ子さんとの対談をお届けします。
@ヨコハマアパートメント

 

さまざまなスタディを繰り返しながら生まれた「世界一難しい流しそうめん」(photo:オンデザイン)

 
世界一難しい流しそうめん、誕生秘話

川口 ヨコハマアパートメントは、長く住む場所ではないと、私は思っているんです。ある期間まで住んで、すこし足腰が強くなったらどこかへ出て行って、しばらくしてから、また私のところに顔を出して、「大家さん、それじゃだめだよ!」って駄目出しされたり、「今度、ここで、こんなことをしようと思っているんだよ」って提案されたり……、それがすごくうれしいんですよね。

西田 それは、きっと川口さんご自身がつねに変化することを望んでいるからですよね。入居期間を最初は2年、そのあとは1年おきの更新って区切っているのも、川口さんの意向ですからね。一度、住んでみたいという人もウエルカムだし、住みながら、いろいろ挑戦したいという人もウエルカム。いつも変わり続けているという印象が僕にはあって、オンデザインは、そうした入居者のやりたいことや、川口さんのやりたいことをあくまでサポートする立場です。先日の「世界一難しい流しそうめん」という企画も気付いたら実現してましたからね。

川口 あの「流しそうめん」のイベントにはちょっと歴史があって、いちばん最初に流しそうめん用の竹を買ってきたのは、じつは西田夫人だったんです。それ以来、竹を買い替えたりしながら、夏になると「流しそうめん」をがんばってやってきましたけど、だんだん規模が竹2本くらいに小さくなってしまって。それで、「今年もまたやりたい」とオンデザインの森さんに言われた時に、「もっとすごいことをやってよ」って私がお願いしたんです。

西田 竣工した当時は竹だけの「流しそうめん」だったんですよね(笑)。

川口 そう、たびたび、竹は買い替えながらやってましたね。

西田 それが昨年には、表面が銅、内側がステンレスという日本でいちばん高い雨樋になって。

川口 でも、使用後の雨樋は知り合いに譲りました。私は物っていうのは世の中に回っているほうがいいと思っています。所有しても仕方がない。

タニタハウジングウエアとオンデザインのコラボで開催された。(photo:オンデザイン)

西田 なるほど、それはヨコハマアパートメントの思想にも通じるものがありますね。

川口 オンデザインの森さんに「建築家なんだからもっと整斉したのものを作って」とか、「図面をひいてよ」っていろいろお願いしたら、本当に模型を作ってきて。その時はすごくうれしかったです。だって能力があるんだから、やるんだったらそれを生かせばいいと思うんです。

西田 そういう意味では、例えば雨樋の長さって規定のものがあって、その長さの中で割り切れるように角度の計算もしていましたね。

川口 だから全然ミスがなかったですよ。

西田 あのイベントは、みんながまじめに遊んでいた感じがしましたね。

川口 私は、イベントのタイトルを「建築家がつくる流しそうめん」にしようとしたら、却下されましたけど(笑)。

西田 すみません(笑)。流しそうめんって日本の文化なので、日本で一番難しかったら世界でも難しいだろうと。だから、「世界一難しい流しそうめん」にさせていただきました。

川口 「流しそうめん」もギネスの記録に挑戦する人がいるって、この間テレビ番組でやっていました。山伝いに「流しそうめん」をするんですが、その場合、何mの長さで、何グラムを流したら、最終目的地までに何グラム残ればOKという計算から、ギネスの記録を決めるらしいんですね。だけど高低差とか水流の速度とか、そういうことを厳密に計算しないとなかなかうまくいかなくて、みんさん失敗してました。

西田 確かにそれは建築家のスキルが生かされる領域ですね。

川口 そうです。流しそうめんって、そんな甘いもんじゃないんですよ。

西田 来年は流しそうめん専門に設計する建築家を募集しなければいけませんね。

川口 次回は塩ビの素材とかで、もっと空間を上へ下へとぐるっとめぐらせたりして。

西田 いやいや下に流れたそうめんは上には行かないですよ(笑)。やるとしたらいっそのことヨコハマアパートメントを越えて、向いの川口さんの自宅から流すしかないのでは。

川口 それは楽しそうですね(笑)。

流しそうめんで使われた雨樋は、表面が銅、内側がステンレス製(photo:オンデザイン)