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Project Interview
建築の告白

text & photo:sho shiowaki, azusa yoshimura

 

──その〈横浜DeNAベイスターズ選手寮〉についても、お話をお聞かせください。

 〈横浜DeNAベイスターズ選手寮〉は、横須賀市の追浜公園の一部に、横浜 DeNA ベイスターズの拠点をつくるプロジェクトで、「屋内練習場」と「選手寮」を新築で建てるのですが、私は選手寮の設計を担当しています。
 今回は今までオンデザインが横浜 DeNA ベイスターズから受けていた仕事の規模とは少し違います。それまでは店舗の内装、サ イン計画、まちへのひらき方のアイディアなどが主な依頼内容でしたが、今回は、「敷地の中に各プログラムの配置計画を練る」 というスケールの大きなテーマから設計がはじまりました。 もともとオンデザインの仕事は住宅設計が多くて、公共建築や何千平米という大きさのプロジェクトを経験してきたスタッフが少な かったので、私がメイン担当者として入ることになったんです。「 三角形の敷地をどのように屋内練習場と選手寮に分けるのか」については、屋内練習場と選手寮は同じプロジェクトでありながらも発注者が別なので、外装に同じ素材を使うことや細部を合わせることで、分棟だけれど一体に見えることを目指しました。

 

 

──オンデザイン史上、いちばん大きいプロジェクトですよね。

 私自身もこれまでは設計の主体になっていたわけではなくて部分を任されてきました。このスケールでゼロから図面 を引いて建ったものを見たことがなくて、ちょっとドキドキしています。

──〈横浜DeNAベイスターズ選手寮〉の設計にはどのようなイメージが生かされているのでしょうか。

 選手の寮って要するに、高校や大学を卒業 したばかりの 20 歳前後の若者たちが暮らす大きな家なんです。そういう意味では普通の集合住宅と変わらないのだけど、ただ、決定的に違うのは、球団が強くなるために住んでいるということです。「プロだから、自分 が上手くならなければ生き残っていけない」というハードルがあるので、仲良くシェア生活を楽しみながら住むのではなく、 選手寮だから最低限で大丈夫というストイックな面も持っているんです。 ただストイックな寮ではあるけれども、「横浜DeNAベイスターズがつくるとやっぱりこうなるよね」と評価しても らえるような、新しい寮の在り方を目指したいと思っています。

──例えば、それはどうすれば実現可能だと考えていますか。

 わかりやすく言えば、「きちんとオシャレなものをつくってあげたい」ということでしょうか。「寮だからここまで」という線引きするのではなく、同じ予算なら、できるだけ居心地が良くて空間の質も高い方がいいと考えながらデザインし ています。
 横浜DeNAベイスターズのトレーナーのみなさんともよくそんな話をするのですが、カッコいい場所や素敵な空間にいるだけで、自分自身もカッコよくなったように思えたりしますよね。そういう気持ちの豊かさをプロ選手である彼らにもきちんと提供すれば、やる気にも繋がるんじゃないかな、と考えています。とく最近は若い世代の間で SNS が普及しています。自分が今いる場所が写真にどう映るか、どれだけ素敵か、ということに対するアンテナがものすごく高いですよね。そういう意味からも予算の中で最大限のデザインを提案することが設計者としての頑張りどころだと思っています。 でも、その先には必ず球団も自分も強くなるという共通の目的がある。そのため に彼らはここで暮らしているということを間違えないようにはしたいと思います。そこが、これまでの施設とスタン スが違うところだと思います。

 

〈横浜DeNAベイスターズ選手寮(屋内練習場と選手寮)〉完成予想図

 

選手が強くなるために住むストイックな寮で、やる気に繋がる素敵な空間を創りたい

──オンデザインには、現在進行中のもうひとつの寮プロジェクト〈神奈川大学国際学生寮〉がありますね。

 そうですね。〈神奈川大学国際学生寮〉が交流を主体とした学生寮で、それに対して、〈横浜 DeNA ベイスターズ選手寮〉はプロ選手として自分自身が強くなることを目的としている寮なので、対照的だと思います。

──〈神奈川大学国際学生寮〉の担当者である神永さんも、Project Interview#01、「国際寮だからいろんな価値観 や慣習があって、それをヒアリングしていく手法を取った」と語ってくれました。

 自分たちと使い手の感覚が違う際に、ヒアリングに頼るのは一緒だと思います。自分の中に正解があるとはまったく思っていないので、向こうが求めているものを聞いた上でそれを最適化する方法を探すという設計手法は、す ごくオンデザインらしいですよね。 私は他者に合わせることが自分の特性として向いているので、その手法を受け入れて、そこに自分を近 づけていくというスタンスで仕事をしています。

──最後に澤井さんが今、〈横浜DeNAベイスターズ選手寮〉で描いている、「こうなったらいいなあ」 という将来像はありますか?

 ベイスターズを志望して入ってくる選手たちに、「この寮っていいよね」と言われている状態ですね。「あそこに行けば強くなれそうだから、俺は横浜DeNAベイスターズに入る」という選手が出てきてくれたら、そこがゴールかなと思います。 もうひとつは横須賀周辺の地域の人たちがめちゃめちゃ横浜DeNAベイスターズを愛してくれたらいいなあと思っています。選手が活躍する姿を自分のことのように喜んでくれる人が増えるきっかけになれればうれしいですね。

──素敵な未来ですね。

 オンデザインは、その両方考えられる力を持っているというところがすごいですよね。つまり、前者を達成するにはデザイン力が必要だ し、後者はデザインの力だけでは成し遂げられないノウハウじゃないですか。つまり建築からサイン計画、運営の仕組みに至るまで全部ですよね。 そのすべに関わることができる設計事務所だから、こうやって構想から一緒に描くような仕事の依頼がもらえるんだろうなと思います。

 

profile
澤井鉏紗耶加 sayaka sawai 

1976年、東京生まれ。東京電機大学卒業。芝浦工業大学大学院修了。2004年、株式会社ヘルム入社。2013年、オンデザインに合流。