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テン年代の映画と建築
#02
旋回する余談のゆくえ

text:satoshi miyashita photo:akemi kurosaka
illustration:awako hori

前回に引き続き、映画プロデューサーの汐田海平さんとオンデザインの建築家・大沢雄城さんの対談を。建築と映画に共通する「遅さ」など、トークはいよいよ核心へ。映画を愛してやまないテン年代のふたりが導き出した答えとは……?

 

@横浜・日ノ出町
Talking Points

・建築と映画のふたつの業界にある「時間軸」。

・ネット配信にかわる映画鑑賞の新たなアプローチ。

・今、プロデューサーの仕事に求められる作法とは?

・なぜ「余談」は相手の心に響くのか?

・SNS世代がつくってきた力学と贖罪。

 

Tinys yokohamaにて

 
🎬 建築と映画の「遅さ」(前回のつづき

大沢 ちょっと余談になっちゃうんだけど、建築は完成してから育ててくというのが最近の潮流で、リノベーションもそうなんだけど、「今あるものをどうやって使っていこうか?」とか「場合によっては変化させていこう」みたいことを時間軸で考えていく“冗長性”みたいなものを大事にしている。
 一方で映画は、すごい速さで消費されるイメージがあって、封切られた瞬間が一番よくて、そこからは週ごとに興行成績が判断されるみたいな。つまり映画をつくるという時間軸に対してかなり短期間で消費されるのかなと。それについては映画界の人たちも違和感を感じてんじゃないかって思うんだけど。

汐田 結局、(映画は)遅いメディアなのに、いろいろはやくしようとしてるんだよね。僕は遅いほうにとどまるのがいいと思ってる。例えば、現状は年間何十本の映画をラインアップして、「興行収入平均何億円にならないとトントンになりません」みたいな映画会社ばかりですよね。でも、振り返ると100年生き残ってきた映画もあるじゃない? 僕は何十本の新作より、そっちに目を向けたほうがいいと思っている。半年前、松竹さんと一緒に〈SHAKE〉という事業をはじめたんだけど、伝統のある会社とお付き合いしていると、あらためていろいろ考えさせられます。例えば、小津っていうコンテンツ。

大沢 あー、小津安二郎ね。

汐田 そうそう。今、「小津安二郎」をどう楽しむかを本気で考えている人たちがいる。すでにある名作を活用するほうが経済効率性的にもいいはずなんだよね。もちろん、映画業界を回すためにも新作のサイクルをはやめることは必要なことだけど、ある種の遅さにちゃんと向き合うっていうのも映画会社はやらなきゃ駄目だと思う。

大沢 まさに宇野常寛さんの『遅いインターネット』みたいな。遅さというか、時間軸をちゃんともつことがむしろいいと。

汐田 よくある「レトロだからいい」「古き良きものとして楽しもう」っていう文脈じゃない楽しみ方が今後5年、10年でより掘り下げられていくはず。今、小津の『東京物語』をこの東京で観ることにどういう批評的価値があって、どういう面白さがあってワクワク感があるのか、みたいなことをもう一度、言語化したり、映画化するのもいいと思う。例えば、濱口竜介監督が小津に向き合ったら、どういう作品になるんだろうか。レガシーというか、長年積み重ねてきたものがあるわけだから、そこに頼ることって大事なことだよ。

大沢 なるほどね。今、聞きながら自分ごとで思ったのは、例えば、まちづくりとかでも「コミュニティをつくってほしい」と言われることが多くて、それを求められた時に、例えば1年後の結果を当然問われるわけ。コミュニティに10名入ってますとか、50名入ってますみたいな。やっている僕らからすると、1年後にコミュニティのメンバーがいっぱいだから成功ですとか、5名しかいないから失敗ですねってことじゃなくて、コミュニティを育てて、持続させて、べつに5名でも参加している人たちが面白ければいいし、100名でも一瞬だけ盛り上がって、翌年は何も残らなかったらどうなのって。そこは、時間軸をもちながら見ていくべきだと思う。そういう新しい指標というか多様な価値のあり方が今の時代のものづくりやクリエイティブには大事だと思う。

汐田 今後、もっとそうなっていく気がする。今は配信全盛時代だからなのか、世の中の流れがはやい方向にどんどん向かって、Netflix、Amazonのプライムビデオ、あとディズニープラスっていう配信プラットフォームも、全く違う角度からも出てきている。Netflixっていうのはプラットフォーム先行で、後からオリジナルコンテンツをつくってきた。ディズニープラスはオリジナルコンテンツのみ、いわゆる過去のレガシーがいっぱいあって、100年以上の蓄積を今回、プラットフォーム上に集結させた。この真逆のやり方のどちらが生き残るのかは非常に興味深くて、僕の予想だと、NetflixとかAmazonのようなプラットフォーム先行型は数年以内に形を変えていくと思っていて……。

大沢 その話、興味深い。

汐田 遅さ、はやさの文脈もそうだし、プラットフォーム先行なのか、ソフト先行なのかっていうのも、今の映画界を考える軸としては面白い見方だと思う。

大岡川沿いで

大沢 俺も映画好きだけど、最近はNetflix一択だった。そもそもこの数年、新作しか観てないし。マイリストとかには「観たい名作映画」とかもあるんだけど、いざ観ようかなと思った時はオススメの最新作ばかり。気付いたら昨年は観たうちの9割ぐらいは最新映画だったかも。

汐田 じつは、そこがポイントなんだよね。Netflixだと相当強い意志をもってないと、旧作を観ないよね。

大沢 そうなんだよ。

汐田 Netflixのオリジナルコンテンツと、ディズニープラスのオリジナルコンテンツを比べて、いちばん大きな違いはディズニープラスの新しい作品を観ると分かるけど、過去の作品をたどりたくなる内容。例えば、『マンダロリアン』や『ワンダヴィジョン』や『キャプテン・アメリカ』など、過去のコンテンツに絡めて楽しめる仕組みになっている。

大沢 まさにシェアード・ユニバースだ。

汐田 そう。どっちが正しいとかはないよ。ただ、個人的には「これからはNetflixだよね」はもうすでに古いと感じる部分もじつはある。これ以上言うと、あいつは分かってないって言われそうだからやめとくけど(笑)。

大沢 べつにNetflixが悪いわけじゃなくて、昔の映画も今だからこそ観たいと思えるようになるんじゃないかってことだよね。

映画館「ジャック&ベティ」にて

 
🎬 <SHAKE> が目指す新たなコミュニティ

汐田 本来、ミニシアターがもっていた役割ってコミュニケーションで、かつては、「この映画を観る人はこういう映画も好き」っていう精度の高いレコメンドがあったと思う。例えば〈ジャック&ベティ〉の支配人・梶原(俊幸)さんが選ぶ作品ならもう間違いないだろうみたいな。

大沢 あるよね。

汐田 そこで出会った人たちの、「おまえ、これ好きなの?」「これおすすめだから観てよ」みたいな。そのコミュニケーションから強制的に旧作を見なきゃいけない状況が生まれていたけど、配信になると、それがない。だから〈SHAKE〉はそれにかわるものをやろうとしている。

大沢 なるほど。そういう課題意識にどうやってアプローチできるかみたいなことから〈SHAKE〉はスタートしたんだね。中身のシステムをもうすこし教えて。

汐田 オンラインの映画コミュニティです。月額550円で、ゆくゆくは状況が許せばリアルイベントもやりたい。映画監督やクリエイターのインタビューとか、動画やテキストなどのコンテンツ配信、あとはチャットで会員同士のコミュニケーションなど、いろいろ試しているところです。

大沢 前は映画って監督で選んでいたけど、Netflix以降、そういう見方をしなくなったなぁと思う。最近はテーマで選んじゃう。だって俺、Netflixだとテーマが「麻薬マフィア」ものばっかり観ちゃうしね(笑)。

汐田 そこもここ数年で顕著だけど、今は映画の宣伝作業の大部分を作品が担っているからね。昔は劇場だったり、コミュニティだったり、ブランドだったり、宣伝において重要なツールがいっぱいあったんだけど、今はもう宣伝は作品がやるもの。だからインディペンデント系の映画レーベル〈A24〉が、イケてるのはそういうことなんだと思う。逆をいって、マーケティング先行でブランドをつくったからね。今後は彼らも旧作をレガシーとして並べて活用するだろうし、それらが文脈を変えながら再生産されるようなシステムになっていくと思う。

大沢 確かに〈A24〉とか〈plan B〉とか、最近勢いがある映画制作会社があるけど、そういうレーベルから選んでみたくなるよね。

汐田 そうだね。作品に寄り過ぎた宣伝を変えなきゃいけないなっていう課題意識はすごいあると思う。

大沢 新しいメディアみたいなものなのかもね。メディアっていうか、メディウム、媒介手段、伝わっていく手法みたいなことの新しさみたいな。

汐田 作品単体での宣伝をやっていく先にどんな問題が起こるかというと、お客さんが映画を観る理由や選ぶ基準が“俳優”か“原作”しかなくなってくる。

大沢 なるほど。

汐田 つまり企画を構築していく時に、かなり早い段階で俳優と原作が決まってなきゃいけないっていうことになる。

大沢 それも抱き合わせでつくっていくみたいなね。

汐田 そう。監督はクリエイティブの幅が狭まった状態でバトンを受け取るから、今の映画は監督の自由度も低いことになる。でも、例えば監督にファンが付いていたり、レーベルや劇場にファンがちゃんと付いていて、原作や俳優にファンがいなくても、「これくらいの数字、いくでしょ!」っていう算段がつくわけ。僕はそっちのつくり方に挑戦したい。べつに天の邪鬼でやっているわけではないから。ちゃんとロジックがあってやっている(笑)。

 
🎬  旋回する、僕らの思考

大沢 また若干それるけど、地方のまちづくりのプロジェクトで、以前からやったら良いんじゃないかと思ってたのが、例えば、1000万円かけて観光プロモーションの動画をつくるくらいなら、100人にひとり10万円ずつ配って、その10万円を受け取った人がそれぞれ友達100人を連れて来て「おもてなし」をしたほうが価値あるんじゃないか、という仮説。観光プロモーションの動画を10万ビュー達成しても、実際に来る人がどれくらいるのかわからないけど、100人がそれぞれ100人におすすめして連れてくれば、1万人は確実だしね。

汐田 そうだね。確かに。

大沢 そっちのほうが関係値というかエンゲージメントが高いんじゃないか。そして何より楽しいじゃん。知り合いに「ここ来てね」ってすすめられたら、広く薄くアプローチするよりも軸でつないで、深いコミットができるし、結果として想像もしてなかった体験ができるかもしれない。〈SHAKE〉とは、すこし違うかもしれないけど、通ずるものがあるのかなと思ったんだよね。

汐田 世界観は近いかも!

大沢 俺もおすすめされたいし!

汐田 結構、同じようなものが好きな人っているもんね。

大沢 みんなでつくったり、新しい価値を生んでいく作法みたいなものを考えながらマネジメントするのがまさにプロデューサーの仕事だと思う。そういう目線でみると、建築も一緒かもね。

汐田 うん、一緒だと思う。

大沢 みんなで映画の価値を共有したり、互いに高めあえるわけで、この映画はこんな面白さがあった、なるほどねみたいな。海平が、前回言っていた「プロデューサーとしての職能を水平展開している」っていうのがよく分かった。

汐田 ある意味、「旋回する」っていうか。

大沢 なるほど、旋回ね。あるテーマについて考えたり話たりする時に、いきなりその話をするんじゃなくてそれにまつわるアレコレについて話をし、結果的にそのテーマについて理解した気持ちになっているという(笑)。

汐田 そう。真ん中にあるのは映画だけど、それを中心に旋回しているイメージ、旋回的会話だ。

大沢 ちょっと遠い余談を永遠し続けるっていう。ぐるぐる旋回しながら。

汐田 『佐々木、イン、マイマイン』の話をせずとも、『佐々木、イン、マイマイン』を観たい、と思わせるみたいな(笑)。

ジャック&ベティで上映していた『佐々木、イン、マイマイン』のポスター前で

大沢 俺も最近、仕事ですぐ余談になるんだけど、変な話、「これ、こうしたほうがいいですよ」って言っても相手にはそんな響かないことが多いけど、余談は一見、関係ない話だから、「それ面白いな」「それ取り入れると今回はこうかもね」みたいなことを相手が主体的にどんどん考えはじめたりするんだよね。そういうのもあって、余談を意図的に使うこともあるからね。

汐田 そう言えば、余談のことを「旋回的議論」って名付けて大学にいた頃よく話していたけど、それが今も生かされているね。

大沢 当時のDNAがね。

汐田 これって(前回の)評論の話と一緒で、直接そこに言葉を打ち込もうとすると相当な強度がないと打ち込めない。でも、その周りに点を打っていくことはできるんだよね。ビジネスとか、プロジェクトっていう単位で点を打っていくと、立体的にそれが何となく評論と同じ効果になるみたいな。そっちのほうが今の時代にもあっている気がするんだよね。

大沢 まさに。めっちゃ分かるな。

汐田 じつはクリティカルなものって存在しづらいっていうか。だから、旋回するわけで。

大沢 なるほどね。いわゆるトップダウンで上から落とすんじゃなくて、弱いものを散りばめていくことによって、みんなが拾いやすくなる。そして拾ったものをみんなで持ち寄るっていうワンアクションだよね。

旭橋(大岡川)にて

汐田 そうだよね。さっきの地域観光のプロモーション動画の話と一緒。よく〈SHAKE〉も、「オンラインサロンみたいやつでしょ?」って言われるんだけど、オンラインサロンって基本的には1本の強い軸だから大きく違う。

大沢 そこには教祖がいるからね。

汐田 そう。僕らのやりたいことは、どっちかって言えばコミュニティとかサークルのほうに近くて、もうちょっとぼやっとしている。僕らが青春を過ごしてきたテン(2010)年代は、よりはやく、よりクリティカルに、より正確にっていう、SNSがつくってきた力学に逆らわずにやってきた。でも、それをもうちょっと遅くしたり、ぼやっとさせたり、不正確にしたり……、そのほうがいいと思ってやっている。

大沢 それ。名言だな。

汐田 のうのうとテン年代を生きてきたことを僕らは贖罪しなきゃいけない(笑)。

大沢 本当、そうだよね。

汐田 もう20年代、はじまっているからね。 (了)

(取材撮影:2021年3月)

 

profile
汐田海平 kaihei shiota

プロデューサー。映画を軸にしたコンテンツスタジオShake,Tokyo代表。横浜国立大学卒業後、映画、CM、PRの企画・制作・プロデュースを行う。映画と人を繋ぐ「uni(ユニ)」や、映画ファンコミュニティ「SHAKE」を運営するなど、オーディエンスデザインのプロジェクトも行う。2020年、経産省の事業に選出され、日本映画の国際化を推進する若手プロデューサーとしてロッテルダム国際映画祭の「Rotterdam Lab」、ベルリン国際映画祭「EUROPEAN FILM MARKET」に派遣される。プロデュース作は『蜃気楼の舟』『西北西』等。釜山国際映画祭、カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭、ミュンヘン国際映画祭に正式出品。 2020年『佐々木、イン、マイマイン』が東京国際映画祭正式出品後、劇場公開。『佐々木、イン、マイマイン』は、現在、Amazonプライムビデオで有料配信中

profile
大沢雄城 yuki osawa

1989年新潟生まれ。2012年横浜国立大学卒業、同年オンデザイン。横浜の建築設計事務所オンデザインにて、まちづくりやエリアマネジメントなどの都市戦略の立案から実践まで取り組む。空きビル等のリノベーションによるシェアオフィスの企画・設計からコミュニティマネジメントなども手掛ける。主な担当プロジェクトとして横浜DeNAベイスターズが仕掛けるまちづくり「THE BAYSとコミュニティボールパーク化構想」ヴィンテージビルを活用したクリエイターシェアオフィス「泰生ポーチ」等。