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テン年代の映画と建築
#01
新しい批評のカタチ

text:satoshi miyashita photo:akemi kurosaka
illustration:awako hori

異業種クリエイターが繰り広げる予定不調和なトークが好評のケンチクウンチク。今回は、映画プロデューサーとして活躍する汐田海平さんとオンデザインの建築家・大沢雄城さんです。同世代のふたりは大学時代に同じ映画研究部に所属していた間柄。久々の再会となったふたりは横浜のディープな界隈を彷徨きながら、映画と建築、それぞれのフィールドから「クリエイティブ」の現在を語り合います。

 

@横浜・日ノ出町
Talking Points

・映画プロデューサーとは、建築業界のプロジェクトマネージャーか?

・現場はトップダウンではなく、チームスタッフが応答しながらつくりあげるもの。

・ジャンルを問わず生まれている「評論」と「ものづくり」の一体化。

・映画も建築も「遅さ」がキーポイント?

 

写真右)汐田海平さん、左)大沢雄城さん

 
🎬  「プロデューサー」とは何か?

大沢 今日のインタビュー場所は横浜の日ノ出町、黄金町周辺だけど、じつは、このあたりは僕らにとって思い出深い場所なんです。2012年に建築家の藤原徹平さんらによるドリフターズ・インターナショナルが企画した「漂流する映画館“Cinema de Nomad”」という、街をまるごと映画館に見立てるアートプロジェクトの中で、映画監督の瀬田なつきさんと音楽家の蓮沼執太さんによる黄金町を舞台にした映画『5windows』の製作を、大学生だった僕らが担当したんです。当時、活動していた映像制作チーム「studio402」という名で。

汐田 そうだね。

大沢 「studio402」は学生としては、当時かなり本格的に映画製作をしていて、映画『5windows』も瀬田さんや蓮沼さんをはじめ、出演者も俳優の染谷将太さんを起用したり、商業映画と遜色ないクオリティだったと思う。多かれ少なかれ「studio402」にいたメンバーのその後のキャリアにも影響を与えた気がする。海平的には、この時の経験がプロデューサー業の原点という感じでもあるのなか?

5window』予告編

汐田 もちろん、そのひとつだね。はじめてプロの人たちと映画をつくらせてもらった機会だったし。

大沢 やっていることは今も変わんない?

汐田 一応、今も便宜上の肩書きは“映画プロデューサー”ってことにしてるんだけど、実際には会社を経営したり、広告をつくったり、昔に比べて、映画製作以外のことをやらせてもらう機会が増えてきたのも事実だね。

大沢 会社経営?

汐田 うん。いわゆる企画も広報やサービスもやるからね。当時は映像やストーリーをつくったりすることだけをやっていたけど。もちろん、その“楽しさ”は根本というか中心にはあって、今も変わってないけどね。

大沢 企画や会社経営もやっているプロデューサーって珍しいの? 

汐田 どうだろう、いろんなタイプがいるからね、映画プロデューサーって。

大沢 映画プロデューサーと聞いて思い浮かぶのは、角川春樹とか……(笑)。ザ・経営者、ザ・プロデューサーって感じで。

汐田 そうだよね(笑)。今、映画はいわゆる1社の単独出資でつくることがなかなかできなくて、だいたい5、6社が共同で出資するんだけど、それが日本だと「製作委員会」っていう仕組みになっている。

大沢 俗に言う「製作委員会問題」ってやつね(笑)。

汐田 (笑)。製作委員会には、だいたい1社につき代表者というか担当者が1、2名いて、彼らがプロデューサーとなってそれぞれ仕事をするんだよね。いわゆる僕らみたいにプロデューサーがひとりとかふたりで製作するスタイルって珍しいと思う。

大沢 確かに最近の映画を見ていると、エンドロールにプロデューサーの名前が結構出てくるイメージ、あるね。

汐田 昨年つくった映画『佐々木、イン、マイマイン』は、プロデューサーは僕ひとりしか出てこない。

『佐々木、イン、マイマイン』予告編

大沢 そう言われればそうだったね。

汐田 例えば製作、配給、宣伝という映画ができるまでのフローの中で、製作委員会には、それぞれ役割分担した会社が入るパターンがほとんどだから。つまり配給会社の担当者が、そのまま配給の担当プロデューサーになるという。

大沢 エンドロールに出てくるプロデューサーって、それぞれ役割が違うんだ?

汐田 そう、違う。

大沢 学生時代、海平と映画をつくったりしてたけど、そういう映画業界のシステムは全然分かってなかったかも。

汐田 例えば、製作委員会で「これを決めましょう!」っていう議題がひとつあがった時に、委員会全体で決定するんだけど、基本的には配給のことなら、配給会社がそれぞれが自社のメリットになるように決めている。たまに噛み合わないことがあると多数決だったり、幹事をしている会社が決めたりするんだけどね。
 映画『佐々木、イン、マイマイン』の場合は、配給会社にパルコさんが入っていたんだけど出資はしてもらってないから、製作委員会とはまた違うんだよね。

大沢 そうか。パルコが作品を預かって全国の映画館に売り込むという仕組みなんだ。

汐田 そう。パルコさんが受託して配給するという代理店的な動き。基本的には、僕がプロデュースする作品は、製作委員会を組まずにやりたいと思っているから、多少変則的になることもあるんだけど。

大沢 いわゆる「製作委員会」方式で映画をつくると、悪い意味での合議制になって、映画が面白くなくなるっていう問題を聞くけど実際はどうなの?

汐田 まあ僕自身、そうは思わないけど……(笑)。

大沢 そうなんだ。

汐田 思ってないけど、もし製作委員会方式でやるなら幹事役をやりたい。映画製作のフローにおいて、それぞれ専門分野をもつ会社のプロデューサーが特化してやる仕事には、そんなに興味がもてなくて。

大沢 そもそも「この映画のプロデューサーです」って言われても、「ふーん、あれやってる人ね」ってならないもんね。

汐田 ならない。

大沢 偉い人っていうイメージはあるけど(笑)。

汐田 説明として一番シンプルなのは、映画というプロジェクトとして捉えた時の責任者だね。

大沢 そっか、僕らで言うなら「プロジェクトマネージャー」みたいな。

汐田 そうかも。映画には、「プロジェクト」としての側面と「作品」としての側面があるから、「作品」で捉えた時の責任者は“監督”で、「プロジェクト」として捉えた時の責任者は“プロデューサー”。だから、赤字になったらプロデューサーのせいで、ヒットしたらプロデューサーの力ってことになる。映画祭で賞を取ったら監督の力だし。

大沢 なるほど。

旭橋(大岡川)にて。

 

🎬   今夜、バズらせたい!

大沢 今もそうだと思うけど、大学の映画研究部には、「監督、やりたい」とか「カメラ、やりたい」「俳優、やりたい」と言って入ってくる学生がたくさんいたよね。

汐田 「脚本、書きたい」とかね。

大沢 でも「プロデューサー、やりたい」って、入ってくる学生っていないよね(笑)。

汐田 僕も入部した当初は、プロデューサーになりたいとは思ってなかったんだよ。もともと映画が好きだったけど、専門知識がないから好きな映画について語ることができないのが嫌で、それで梅本洋一教授の映画評論の講義を受けるために、マルチメディア文化課程を専攻して。そこから評論だけじゃなく製作もやってみたくて、映画研究部に入ったわけ。結果的には最初に監督をしたんだけど。

大沢 梅本先生の文脈で言うと、「映画を批評したい」みたいなのが海平のバックボーンにあるイメージだけど、例えば、映画の批評とプロデュースみたいなことって海平の中で全然違うもの? それとも地続きなもの?

汐田 最近、地続きになってきた感じはする。学生の時は、全く別のものだと思ってたんだけど、数ヶ月前に東 浩紀の『ゲンロン戦記』を読んで、思ってたことがどんぴしゃに書かれてあった。それは「批評性をアクションで表現することはできる」っていうようなことなんだけど、結局、評論っていうジャンルは、全盛期ほどの力がなくて、今はプレーヤーのほうが強い時代。批評とか評論ってもともとはクリエイターを育てる役割もあったはずで、だから例えば昔は映画監督に対しての強い言葉もあったけど、今はそういうふうには機能してない。クリエイティブが先行している時代だから、評論家っていう職業も書く力とか脳の出来が相当よくないと難しい。だから、僕には評論家は無理だと思った。
 だったら映画や事業をつくることで評論をすることはできないか。例えば、『佐々木、イン、マイマイン』なら『佐々木、イン、マイマイン』だし、コミュニティならコミュニティ、やるサービスごとに評論的機能を果たすことはできると思う。つまり「サービスをつくる」ということは、「世の中にこういうサービスが必要だ、ということを示すこと」でもあるわけで。クリエイティブとかビジネスが先行していても結局、それが映画批評とか社会批評になっている、みたいな。

Tinys yokohamaにて。

大沢 批評とか評論は、クリエイターやつくり手に対して投げ掛けるものであって、一方で、社会に対しても当然だけど投げ掛けている。その両方に向いているっていうのが大事だって思う。確かに海平の話を聞いていると、プロデューサーの仕事は、「批評すること」と近いんじゃないかって感じるね。

汐田 ある意味、建築もそうじゃない? 僕も専門家じゃないので、間違っていたらすみませんだけど、例えば、すでにある建物をリノベーションするっていう文脈においては、「これって文脈の書き換えなんだよ」ていうメッセージングは、リノベーション自体がやることになる。つまり、その建物をつくること、リノベーションすること、その文脈でシーンをつくることはできるじゃんって。僕はそれが評論的だと思うし、評論とものづくりがこの2年ぐらいで結構、一体化してきた感覚があるんですね。

大沢 その視点は、すごく共感できる。確かに建築業界も昔みたいにいわゆる評論家の人ってあまり見かけなくなっていて、建築家自身が実践しながら言語化したり理論化し、そのなかで価値を伝えていくみたいなことがスタンダードになってきている印象があるね。

汐田 これはジャンルを問わず、起こっている現象の気がするね。

大沢 ものをつくるということ全体でね。結局、映画監督も建築家も、ここはこうしたいという強い意図がある一方で、どういうふうにしたら社会にその価値や面白さが届けられるのか、みたいなことも考えなきゃいけない。当然、コストも考えなきゃいけない。建築なら職人さんとか、映画なら照明さんとかメイクさんとか、そういう人たちのアイデアやクリエイティビティみたいなものはちゃんと引き受けていくみたいな。昔から映画と建築は似ているってよく言われるけど、多分、そういうところが似てる部分なのかなと思うんだけど。

Tinys yokohamaにて。

汐田 確かに。

大沢 建築は建築家の作品だし、映画は映画監督の作品。だから、現場は言われたことだけやる、みたいなことじゃなくて、ちゃんとチームでそれぞれに応答しながらつくっていくという作業が本質的に似てると思う。かつてのプロデューサーのステレオタイプなイメージと、海平が今、語ってるような新時代のプロデューサーやクリエイターのイメージ。その違いみたいなのはそうしたものづくりに対する視点にあんのかもなって、話を聞きながら思ってたんだけどね。

汐田 あと、「遅さ」もあるんだよね。プロジェクトがはじまってからの。

大沢 完成までに時間がかかる。

汐田 それもあると思う。人間って時間に応じて考えるじゃん。例えば、「明日、何食う?」と、「3年後、何食う?」って、脳みその働きが違う。映画とか建築は完成までが長いから、今夜、何バズらせるかより、3年後必要なものを見ているんだよね。

大沢 俺は今夜、バズれるんだったらバズりたいけどね。

汐田 まあ、今夜バズれないから(笑)。

大沢 なるほど遅さね、面白い視点だね。

汐田 映画は遅いから。そこが“良さ”でもあると思う。(つづく)

ちょうど映画館「ジャック&ベティ」では、『佐々木、イン、マイイン』が上映期間中だった。

(取材撮影:2021年3月)

 

映画の「遅さ」って何だ? 次回後編をお楽しみに!

profile
汐田海平 kaihei shiota

プロデューサー。映画を軸にしたコンテンツスタジオShake,Tokyo代表。横浜国立大学卒業後、映画、CM、PRの企画・制作・プロデュースを行う。映画と人を繋ぐ「uni(ユニ)」や、映画ファンコミュニティ「SHAKE」を運営するなど、オーディエンスデザインのプロジェクトも行う。2020年、経産省の事業に選出され、日本映画の国際化を推進する若手プロデューサーとしてロッテルダム国際映画祭の「Rotterdam Lab」、ベルリン国際映画祭「EUROPEAN FILM MARKET」に派遣される。プロデュース作は『蜃気楼の舟』『西北西』等。釜山国際映画祭、カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭、ミュンヘン国際映画祭に正式出品。 2020年『佐々木、イン、マイマイン』が東京国際映画祭正式出品後、劇場公開。『佐々木、イン、マイマイン』は、現在、Amazonプライムビデオで有料配信中

profile
大沢雄城 yuki osawa

1989年新潟生まれ。2012年横浜国立大学卒業、同年オンデザイン。横浜の建築設計事務所オンデザインにて、まちづくりやエリアマネジメントなどの都市戦略の立案から実践まで取り組む。空きビル等のリノベーションによるシェアオフィスの企画・設計からコミュニティマネジメントなども手掛ける。主な担当プロジェクトとして横浜DeNAベイスターズが仕掛けるまちづくり「THE BAYSとコミュニティボールパーク化構想」ヴィンテージビルを活用したクリエイターシェアオフィス「泰生ポーチ」等。