オンデザイン考察
#02
自分とプロジェクトの接点
オンデザインの組織論や働き方について語り合うスタッフミーティングの第2弾。過去の作品を振り返りながらオンデザインを考察した前回につづき、今回は50人を超える組織となった今、それぞれがプロジェクトとどう向き合うべきかを議論していきます!
>>前回の記事はこちらより。
@THE BAYS(神奈川・関内)
自分の興味に引き寄せる?
西田 ここまで萬玉さんの話を聞いてきて僕が感じたのは、オンデザインのことを話しているようで、萬玉さんのことを話しているということ。その辺りについては、どう思いますか?
櫻井 それって萬玉さんにも聞くんですか?
西田 あっ確かに、分析するのは僕らのほうだよね(笑)。じゃあ、「神奈川大学国際寮」(以下、神大)を一緒にやってくれた西田Kくんから、その辺りどう?
西田K 難しいですね……。でも、僕が萬玉さんのことをすごいなって思うのは、やっぱりどこまでいっても、自分の興味に引き寄せられるというか。それって萬玉さん的にどうなんですか?
櫻井 結局、萬玉さんに聞いてるじゃん!?(笑)。
西田K あっ(笑)。
萬玉 いや、私だって最初は離島(萬玉さんが担当した「隠岐國学習センター」がある隠岐諸島)とか、田舎とかに興味なかったんだよ(笑)。「築100年の民家を改修しよう!」ってなったときも、リノベーションって今ほど話題になってなかったし、もちろん歴史的に価値のある建築を残す事例はありましたけど、名もなき公共建築を残して使うってどういうことなんだろう?って。そういうことを一個一個考えないと私自身、気が済まない性格だから。そう考えると自分の興味に引き寄せたっていうよりは、自分のアプローチとプロジェクトと、どこに接点があるのかを考えていったんだと思う。
西田 ちなみに「隠岐國学習センター」のプロジェクトって、海士町側からは最初、新築の要望できたんです。
西田K えっ、そうなんだ。
西田 島の住人たちの要望は、受験生向けの塾がないから本土にあるような3階建ての新築の学習塾がほしいと。ただ、(隠岐國学習センターの)センター長はもともと島外の人だったので、島のアイデンティティーを考えれば建物自体は残したほうがいいと……、そういう意見が割れている状況に僕たちオンデザインが入っていったという(笑)。
萬玉 視察したときは、本当に「えっ?」って引くぐらいボロボロの建物で(苦笑)。
西田 まぁ、ボロボロだったね。
萬玉 でもセンター長は、「この建物を残して使いたい」って説得しているし、西田さんも「いいっすね、いいっすね」だし。私は「マジかよ!」と思いながら、当時はどっちかっていうと新築のRC3階とかやってみたいなとか内心、入社3年目くらいだし思うじゃん(笑)。
櫻井 確かに(笑)。
萬玉 「藤本壮介みたいなの、私もやりたい!」って(笑)。そういう邪念みたいなのもあるんだけど、でもそれよりも「何でこの40歳のおっさんふたりは『残そう、残そう』って躍起になってんだろう?」みたいな。
そうやって腑に落ちないまま事務所に戻ってきて、「でも、古民家カフェとかは確かにありかもな」とかいろいろ考えながら、下手したら設計中もずっと頭の中を「何でだろう、何でだろう?」が巡っていて、「こうかな、あーかな? 取りあえずこうかな?」みたいな感じでした。
鶴田 さっき西田Kくんが「萬玉さんは自分の興味に引き寄せる」と言いましたけど、私はそれ以外にもうひとつ、言葉で建築に愛着というか魅力みたいなものを与えるのがとてもうまいなって感じています。例えば、隠岐國学習センターの「通り土間」というのもそうですよね。
櫻井 「大きなすきまのある生活」も。
鶴田 そうですね。ワンワードで、ちょっとしたパワーを建築に与えるみたいな。萬玉さんと一緒にやらせてもらったときにそれをいつも感じていました。
櫻井 使う言葉によっては、建築業界じゃない人たちにも広がりますよね。
萬玉 それは西田さんの影響が大きいのかも。でも、その「通り土間」に関しては、裏表がない場所だから、ここに道が通っているといいんじゃないかって、それこそプレゼンの2、3日前、図面に「通り抜け土間」と書いたら、後藤(典子)さん(2015年まで在籍していたオンデザインのOB。現在、ハクアーキテクツスタジオ所属)と西田さんに、「“抜け”は要らない。『通り土間』がいい!」って言われてそうしたんですけどね(笑)。
西田K 図面でも、例えば「共用部」って呼んじゃえば「共用部」だけど、人によって微妙にニュアンスの違いってありますよね。神大の「ポット※1」とかもそうじゃないですか?
萬玉 あれは、100分の1の模型ができたときに、私が「ポットっぽいね」って言ったら、今はOBの神永(侑子)※2さんが、その次の打ち合わせで「お茶の間ポット」っていう資料をつくってきてくれたのがきっかけだったよね。
(※1)ポットについての詳細記事はこちらより
(※2)神永侑子さんに関する記事はこちらより
西田K ただ、それだって最初は名前がなかったわけだから。
西田 いまだに「ポッド」なのか、「ポット」なのか分からないし(笑)。
西田K そこ、めちゃ間違えられる。
櫻井 どっちなんですか、実際は?
萬玉 「ポット」です。そして、いまだに「ポットってなんですか?」って聞かれるのがすごく困る。「えっ、踊り場?」とか。
西田K 神大の設計をやっていたときは、「ここの場所、何て呼べばいいんだろう?」っていうことをつねに考えていた気がしますね。しっくりくる名称が付けば、その場所の立ち位置が明確になるから、設計自体も「やっぱりこういうふうにやったほうがいいよね」ってなる。
鶴田 勢いが付く感じがしますよね。
櫻井 確かに名称を付けることで、建築の機能以上の広がりを感じられるのかも。
西田 萬玉さんの「自分の興味に引き寄せる」という視点がそういう言語化にも影響しているのだとすると、そこはもうすこし深掘りしたくなるね。
櫻井 さっきの「何でだろう、何でだろう?」から萬玉さんが「キュンッ!」となる接点がポットだったってことなんですかね?
西田 こっちから萬玉さんが来たら、こっちから神大が来て……。
櫻井 萬玉さんの中で「キュンッ!」てなったタイミングなのかなと……。そういうわけじゃない?
西田K それ、ピコ太郎じゃん(笑)。
西田 「パイナップルアッポーペン!」みたいな。
櫻井 ちょっとやめて~(汗)。真面目に言っているんですよ、私。何の話をしてるか分からなくなるから。
なぜ、「言語化」なのか?
西田 でも、“これ”と“これ”の応答性が興味を引き寄せているように感じるのは面白いね。きっと「引き寄せる方法」については、そのプロジェクトの価値によって違うんじゃないかなって思う。神大だったら神大の価値があるし、団地なら団地の価値があるんだけど、萬玉さんが発する言葉で、それぞれのプロジェクトに価値を与えているわけだよね。
例えば、これ次の展開になっちゃっていいのか分かんないけど、それって「オンデザインらしさとって何か?」みたいな話に近いのかもしれない。「オンデザインらしさ」って、あるようで本当はないみたいなことだとすると、その人が語る言葉によって“らしさ”が生まれるわけで。
西田K そうですね。
西田 その辺はどうなのかな? 萬玉さん。
萬玉 答えになっているかわからないけど、私の興味だけでプロジェクトを語れば、べつにオンデザインじゃなくてもいいって思っていて、結局、オンデザインって、もともと共同設計のスタイルだからプロジェクトを進めていくうえで、「私はこう思う!」が100%だと成り立たないんですよね。でも、共同設計者としては、そこに対してもアプローチはするべきだよなっていうときに、例えば、さっきの「アッポーペン」じゃないけど、たぶんプロジェクトと自分との興味が重なったところに共同設計の可能性があると思うし、だからやっているわけで……。
萬玉 さっき出てきた「大きなすきまのある生活」は、西田さんと一対一の共同設計だったから、私が現地を視察して、「ここ、こうでしたよ。西田さん、こういうふうに考えたほうがいいんじゃないですか?」って言えば、西田さんも「こういう可能性はどうだろう?」と返してきて、そうやって、互いにどこかで交わっていかない限りは、ひとつの建築として立ち上がっていかないと思う。
西田 つまり、はじめから“大きなすきま”というワードを狙っていたわけじゃなくて、(東京の)根津という建物が密集しているエリアに、建物と建物の間が隙間のわりには植物とか生えていて、猫の通り道ができている。その感覚って言語化できて、はじめて空間が生まれるんじゃないかみたいなところから自然に出てきたワードなんだよね。
萬玉 たぶん自分の「興味の輪」がプロジェクトのどこかに重なり、共同設計者とも重なり、そういう“重なり”にこそオンデザインの可能性を感じるし、それこそが新しいことだと信じてやっている。
西田K そこの重なりを探すのが設計のプロセスだったり、ワークショップだったりするんでしょうね。
鶴田 あと所内で会議をしていると、萬玉さんは「最近こういうの見てきてさ」とか「こういうことがあってさ」って、いつも考えるきっかけになるような話題を投げかけてくれますよね。
西田 萬玉さんがさっき「言葉は西田さんの影響です」ってめっちゃいいこと言ってくれて、「絶対に違うだろう」と思いながら、でも「それって何だろう?」と振り返ると、僕、昔は自分で基本設計してたのね、2005年ぐらいから4年間くらいかな。自分で考えた基本図やスケッチを、その当時一緒にやっていた、佐治(由美)さん(現・オンデザイン統括マネージャー)に「こういうのどう?」って渡すとカタチにしてくれて。つまり、そこに言葉のコミュニケーションはいらなくて、図面と模型、スケッチだけでよかった。でも、そのやり方の限界を僕は30歳ぐらいで早々に感じてしまって……。結局やっていてもつらかったんだと思う。
鶴田 どうつらかったんですか。
西田 設計の仕事を、20案件ぐらいも手掛けると、21個目が自己模倣になるのがわかるのね。「これ、前も考えたな」、「あっこれ、俺、好きなんだな」って、いろいろ気付かされちゃう。それでも一生懸命21個目を探すんだけど、当時、妻に「作家がホテルに籠もって、原稿を書いているみたいでつらそー」って言われて(苦笑)。
だから、OBの中川(エリカ)さん(2014年までオンデザインに在籍)とヨコハマアパートメント(以下、アパ)を手掛けた辺りから、「自分ひとりだけでやるのはもう限界だな」みたいな感じになっていて、それで基本設計から共同するパートナー制でやるようになった。以来、お互いアイディアをぶつけ合いながら模索していたんだけど、それもよくないと思ったんだよね。なぜなら僕のほうが社長だし、キャリアもあるし、無駄に忖度されてもイヤだし……。そこから自分は(設計図を)描かないって決めて対話を軸にしました。だからアパも僕、一切描いてない。
ただ、描かないって決めてからがまた難しくて……。なぜなら、単純に線を描けば伝わるコミュニケーションではなく、提案の強度を言葉にしなきゃいけないから。イメージの状態で言葉にしちゃうと、(ここをこう修正した方が良いみたいな)具象の言葉になって、結局、それはアイディアのぶつかり合い、イメージを言葉に変えてぶつけているだけになっちゃう。それでは意味ないなと思って。そうやって思考錯誤しながら迷っているときに、線を描かないという立ち位置から建築の価値を引き上げていくにはどうすればいいのかを意識するようになって。
西田 ちなみに、それ(言葉で伝えること)がめちゃめちゃうまかったのが中川さん。彼女は、僕が描いているスケッチに対して、「謎だ!」って言ってくるわけ。萬玉さんもだけど「西田さん、〇〇を考えていく中で、これで良いですか?」「これ、〇〇の方向に掘り下げること出来ますよね?」って。それは建築を言葉によって引き上げていくプロセスそのもので、まさに言葉によって批評する力を体現しているんだなと思う。
あっ、今なんでこの話をしたかというと、僕、もともと言語化苦手で、全くできなかったから(笑)。でも今はできるようになったから、ちょっと意識すれば誰でもできるようになるってことです。
西田K 確かにメインで動いている担当者ならどうしても自分で図面を描きたくなりますね。櫻井さんが図面を持ってきてくれたりすると、「僕もこうやりたい!」ってやっぱり思いますから。でも、それってなんとなく良くないなっていうのは感じていたんですけど、今日、西田さんの話を聞いてはっきりしました。
西田 たぶん、言いやすいじゃん。模型とか図面とか慣れてるから、「これでよくね?」って言いたくなるよ。
西田K そうです。
西田 僕も最初はそれがうまくできなかったから。もっと言うと、2003年ぐらいだったかな首都大学東京(現・東京都立大学)の助手になり、卒業設計のエスキス(報告会)をする立場で、当時は、めちゃめちゃ優秀な学生が揃っていて、彼らが持ってくる作品に対してアドバイスを求められるんだけど、僕はただ「いいですね」っていう感想しか言えなくて。そのときに、小泉(雅生)先生に「西田Kくんって普通のことしか言わないんだね」って言われて……、もう背中に冷水みたいな(苦笑)。
これってインプットが足りないから何も言えないのね。結局、言葉っていうのは、インプットの量だから。それに気付いてからは、なるべく学生が課題とかで参照にしてる本とかを読むようにして、そこから年に30冊ずつぐらい、10年で300冊。読書のインプットを筋トレみたいにやり続けたのが有効だったのかもしれない。
萬玉 そう言えば、オンデザインに入社した当時は「言語化、言語化」ってよく言われました。
西田 萬玉さんが入社したころの僕は、模索していた時期だったよね。
萬玉 (頷きながら)社内打ち合わせがつらかったぁー(苦笑)。
西田K 萬玉さんから「つらかった」っていう発言、あんまり聞かないです。
西田 簡単に言うと理不尽。
萬玉 そう。当時の私はそういう場に遭遇すると「今は西田さんが“咀嚼する時間”なんだ」って割り切ってた。
西田 いやいや(笑)、この話はちょっと、カットにしません?
櫻井 えーっ!?
一同 (笑)
次回、座談会のつづきは、これからのオンデザインについて考察します。
profile
西田 司(にしだ・おさむ)/1976年、神奈川生まれ。使い手の創造力を対話型手法で引き上げ、様々なビルディングタイプにおいてオープンでフラットな設計を実践する設計事務所オンデザイン代表。東京理科大学准教授、ソトノバパートナー、グッドデザイン賞審査員。主な仕事として、「ヨコハマアパートメント」「THE BAYSとコミュニティボールパーク化構想」「まちのような国際学生寮」など。編著書に「建築を、ひらく」「オンデザインの実験」「楽しい公共空間をつくるレシピ」「タクティカル・アーバニズム」「小商い建築、まちを動かす」。
萬玉直子(まんぎょく・なおこ)/1985年大阪府生まれ。2007年武庫川女子大学生活環境学科卒業。2010年神奈川大学大学院修了。2010年〜オンデザイン。2016年〜オンデザインにてチーフ就任。2019年〜個人活動としてB-side studioを共同設立。主な作品は、「大きなすきまのある生活」「隠岐國学習センター」「神奈川大学新国際学生寮」など。共著書に「子育てしながら建築を仕事にする」(学芸出版社)。
櫻井 彩(さくらい・あや)/千葉県生まれ。千葉工業大学大学院修了。2016年よりオンデザイン。主な作品は、 シェアオフィス・コワーキングスペース「G Innovation Hub Yokohama」、vivistop 柏の葉リニューアルPJ 「子どもたちが更新し続けるものづくり空間」、DeNAべイスターズ選手寮。「BEYOND ARCHITECTURE」編集スタッフとしても活動中。
鶴田 爽(つるだ・さやか)/兵庫県生まれ。京都大学大学院修了。2016年よりオンデザイン。主な作品は、 深大寺の一軒家改修「観察と試み」、クライアントと建築家による超DIY 「ヘイトアシュベリー」、バオバブ保育園。模型づくりワークショップ担当としても活動中。
西田幸平(にしだ・こうへい)/奈良県生まれ。2016年東京理科大学大学院修了。2016年よりオンデザイン。主な作品は、「神奈川大学新国際学生寮」などのほか、今年竣工したオーナー住戸付賃貸共同住宅「Hongo Heights(ホンゴウハイツ)」を担当。