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これからのアパート、
これからの地域 ・前編

text:satoshi miyashita photo:kouichi torimura 
illustration:awako hori 

住人が考えるアパートの未来

川口 ヨコハマアパートメントの周辺は、お年寄りと、新しく住みはじめた家族とが、ごった煮状態になっているエリアです。若い世代の家族はみな共稼ぎで日中はここにいません。いるのは、せいぜいひとり暮らしのご老人。周辺の住宅に明かりがつくのは、夕方以降に共稼ぎの夫婦が帰宅してからです。だから日中はとっても静かな場所なんです。

西田 でも、そういう地域って、最近多い気がしますよ。

川口 ここがなぜそうなったのかというと、古くから住んでいた老人が亡くなると、その土地を相続した子供たちが売ってしまって、そこにはいわゆる建売りの住宅が出来て、それを購入するのが若い夫婦なんです。

西田 これまで僕もいろんな街づくりに参加してきましたが、地域の住民に理解されて、そのイベントに参加するようになるまでって、だいたい2年くらいの月日が掛かります。なかには半年とか3ヶ月くらいで馴染める人もいますが、だいたいそのくらいは掛かるものです。
ヨコハマアパートメントは、竣工時に「新しい住まい方」みたいなテーマで雑誌でもよく紹介されましたが、3.11の震災以降は、「繋がり」とか「シェア」といったワードがよりリアルに使われるようになって、それが要因で注目を集めるようになったんだと思います。

川口 竣工当時、地域の方々は外観もそうですが、やっているイベントにびっくりされてましたからね。

西田 でも最近は、だいぶ違和感がなくなったように思います。地域の住民も、ふつうに「今回はこんなのやるんだぁ」みたいな反応になってきていますから。

川口 それはやっぱり場数を踏んできたということだと思います。

西田 それは正しい回答ですね。

川口 でも、こうした活動は、当然オンデザインのスタッフや入居者の方々に手伝ってもらわないと、私ひとりではできません。みなさんは地域の住民との接し方がとてもうまいですから。結局、いま地域に足りないものって「若い世代」だと私は思うんです。たぶん親切なおばあちゃんではなくて(笑)。

西田 若い住人は新しいプロジェクトをいろいろやろうとしてますね。

川口 住んでいる人が一緒にアパートの未来を考えてくれています。

西田 そんなアパートもなかなかないですよ(笑)。

川口 大家があまりにもバカだから、住人も心配でそうなるじゃないかっていう説もありますけど。

西田 いやいや。たぶん建物自体が持っている特性だと思います。そう言えば、震災のとき、住人同士で安否確認をしてたんでしたよね。ふつう集合住宅って安否確認って隣人同士ではしないですよ。そうした住人同士の距離感も独特だなあと思いました。

川口 でも、だからって隣人が何日も留守でも、べつにそれ以上は干渉しませんよね。

西田 それはしないですね。2ヶ月に1回しか会わない住人もいますから。生活時間がちょっとずれるだけで、そうなりますよね。これからは孤独死していても気付かれないこともあるかもしれないですね。

川口 今の時代に孤独死を恐れていたら、日本のどこにも暮らせませんよ(笑)。

西田 言い換えると、それくらいヨコハマアパートメントにはプライベート感が確保されているって証しでもあるんですけどね。

 

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DATA
ヨコハマアパートメント
所在地:神奈川県横浜市
竣工年月:2009年6月
担当:西田司+中川エリカ

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PROFILE

西田 司(にしだ・おさむ)
建築家。オンデザインパートナーズ代表。

川口ひろ子(かわぐち・ひろこ)
ヨコハマアパートメントオーナー。2016年に「藤棚のアパートメント」を竣工したばかり.

@オンデザイン