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ワークスタイル再考
#03
会社を溶かし
空気のような存在に。

text:satoshi miyashita photo:akemi kurosaka illustration:awako hori

 
 
フリーランスのインディペンデント性

西田 今のお話って、タマゴが先かニワトリが先かで言うと、タマゴをつくっている先にいい仕事、いいクリエイティビティが発生するんじゃないか、その「土壌の地ならし」的な部分もすごくあるように思いました。つまり一般的にデザインって、最後の花が咲いたときの、その花のどこがいいのかというアウトプットの部分じゃないですか。
 でも、そのアウトプットのクリエイティビティに「タッチしたいと思う欲求」と「土壌を地ならししたいっていう欲求」、伊藤さんの中では、どうバランスをとっているんですか?

伊藤 我々の業界では、よく「フロントエンド」「バックエンド」という言い方をします。フロントエンドは、ビジュアル表現の部分をプログラミングなどで生成する人。アプリでボタンを押したらどうなるかっていう部分をつかさどるプログラマーのことは「フロントエンドエンジニア」と呼んでいます。
 バックエンドは逆にサーバーを操る人。これはある種、まったく目に見えないものを、滞りなく何とかしてくれる人たちです。ブロックチェーンとかは、こういう人たちがいないとできません。僕らがやっている「VALU」でも重要なのはやっぱりそういうバックエンドの人たちで、サーバーにアプローチして、それを計算できるような職能の仕事です。
 このフロントエンド、バックエンドという用語は、プログラミング業界での言い方ですが、別にプロダクトでもイベントでも映像でも、このふたつに相当する仕事ってあって、とても大事な職能だと思うんです。だから、フロントエンドのデザインからバックエンドのデザインまで、僕は全部が平等に存在しているように感じています
 もちろんその前提にはPARTYという会社が、「元エンジニアで、今、社長をやってます」という集団ではなく、アイデアベースから生まれた集団であることは意識しています。

西田 現在、動いているプロジェクトは、基本的に伊藤さんが監修というか、ダイレクターをやられてるんでしょうか?

伊藤 いえいえ。今、全部で40ぐらいのプロジェクトをやっていますが、僕が担当しているのは、そのうちの10数件です。

西田 伊藤さんご自身がフィニッシュまでやられているのが10数件?

伊藤 そうです。残りの30は、経過報告は受けますけど僕が直接、何かをするわけでもないです。

西田 でも、会社が小さかった頃は全部を監修できていたわけじゃないですか。そのあたりの割り切り方ってどうされてます?

伊藤 本当は全部を見たい気持ちもあります。とくにフロントエンドに関しては、書体ひとつから、映像のグレーディングまですべてを……。ただそこは諦めていかないと会社として難しいです。

西田 任せないと。

伊藤 ええ、その分、やっぱりリクルーティングで頑張りますよと。ようは誰にやってもらうかっていうことですから。

西田 チームをどうつくるのかということですね。

伊藤 そうです。「あとはよろしく!」っていうことでやらないと。

西田 今、デザイン業界では、PARTYのような組織形態って主流になりつつあるんでしょうか。

伊藤 いや、僕らのような組織はレアだと思いますね。映像をつくる際も、ひと昔前はひとりで全部やっていましたが、今は、言葉を考える人、映像のコンテを描く人、ロゴをデザインする人、それぞれアートディレクター、コピーライター、クリエーティブディレクター、映像ディレクターという職種に分かれいます。
 でも、今の学生は何でもひとりでやりたがります。なぜかというと、僕らが学生のころは、Appleコンピューターって80万ぐらいしたわけで、映像製作にしても、せいぜい2分間ぐらいしかつくれなかった。それが今では10万くらいのノートパソコンで、映像は無限につくれるわけです。つまり、ムーアの法則のように、どんどん機材が安くなって、ひとりでつくりやすい環境ができてきているので、なんでもやりたいっていう学生が増えています。だからグループワークをやると、けんかになるんですね。「こんなんだったらひとりでやる!」みたいな。
 そういう学生が社会人になっていくので、僕らもそのメンタリティーを、受容しながら組織をつくっていかないと、たぶんデザイナーの世界は今後、崩壊していくと思います

西田 「この組織のここの部分をやって!」みたいなことを言っても無理だと。

伊藤 無理ですね、たぶん。それを言うとほとんどが辞めちゃいます。

西田 つまり、これからはフリーランスのインディペンデント性を保ちつつ、一緒に協業できる環境をつくっていくべきということですか。

伊藤 そうです。以前、ポートランドに行ったときに学んだことですけど、あそこは市民参加で成り立っている街なので、結構ルールとかも自分たちで決めたり、街の景観の条例とかもすべて自分たちで決めています。つまり個が立ってくると自分たちで自治会のルールをつくって、「じゃあ水曜日のお昼は一緒にご飯を食べよう」とか、「仮想通貨でやろう」とか、自立した個人が運営できるような体制っていうのをみんなでつくっていくわけです。それこそが、新しい組織デザイナーの在り方なのかなって思います
 でも今はまだ過渡期なので、われわれがルールをつくったりアプリを実験的に試行しながら、将来は次世代の彼らが自分たちでやってもらうという、そんな感じですかね。

西田 なるほど。

伊藤 PARTYという組織も将来は、地方自治区じゃないですけど、勝手に国と称して、あとは自分たちでやっているようなものにしていければいいなあと思います。例えばバスク地方のように。

西田 ふつうのデザイン事務所では、なかなか聞かない発想ですね(笑)。

伊藤 デザインの事務所って、基本的に、徒弟制度じゃないですか、まだまだ。

西田 そうですね。設計事務所の業界も基本は徒弟です。でも、オンデザインは共同設計っていうスタイルで、もう10年ぐらいやっています。スタッフ全員がパートナーで、僕ひとりで設計することはほぼなくて、28人ぐらいいるスタッフと、全部ダブルクレジット、もしくはトリプルクレジットにして

伊藤 それは面白いですね。

西田 その中で起こることを一緒に楽しむっていう。とくにオンデザインのスタッフは20代が多いんですけど、やっぱり彼らが考えていることのほうが“未来”だと僕は思っているので、いろいろ思い付いても、この人たちに反応が悪いアイディアは基本カットっていうルールを自分の中では課しています。僕だけだと好きな方向がどうしても固まっていってしまうというか、固まらないようにするためにもパートナー制にしています。
 でも今、伊藤さんが、話されていたように自治のルールというか、日常から「じゃあここでご飯食べて生活して」っていうことになると、まるでひとつの街みたいですよね。

伊藤 そうですね。それから、前職(ワイデン+ケネディ)で仕事をしていた時に感じたのは、外資の会社って人材の流動性がすごくあるということです。良くも悪くもですけど。

西田 確かにそうですね。

伊藤 日本の企業や組織ってその流動性が失われていて、その結果、つくられるものが保守的になったりするので、クリエイティビティにとってはすごく弊害だと思うんです。

西田 海外は、独立するときも、大きい組織から異動してくるときも、あと逆に前の職場に戻るときも、いろいろなケースが流動的にありますよね。

伊藤 そうです。それをしやすくするっていうのが、PARTYの究極の姿だと思っています。「フリーランスをやっている」っていうのも、それはそれで前時代的だなと思うので、やっぱり一緒にいて、みんなが自由に仕事を選べるような環境っていうのをつくっていきたい。
 なので、コレクティブオフィスには、フリーランスの人にたくさん来てほしいと思っていて、今は、いろいろな方たちに声を掛けているところです。(>>#04に続く)

これまでの記事
#01「ルールとルールの隙間を攻める!?︎」
#02「︎働く拠点はなぜ分散化するのか?」
#03「会社を溶かし空気のような存在に」

profile
伊藤直樹 naoki ito

71年静岡県生まれ。早稲田大学卒業。NIKEのブランディングなどを手がけるワイデンアンドケネディ東京を経て、2011年、未来の体験を社会にインストールするクリエイター集団「PARTY」を設立。サービス&プロダクト、エンターテイメント、ブランディングを軸に活動をおこなう。PARTYのクリエイティブディレクター兼CEOを務める。京都造形芸術大学情報デザイン学科教授、事業構想大学院大学客員教授。成田空港第3ターミナルの空間デザインでは、グッドデザイン賞の金賞を受賞。東京ミッドタウンDesign Touch 2017インスタレーション「でじべじ –Digital Vegetables– by PARTY」の総合演出なども手がける。メディア芸術祭優秀賞、NYワンショー、イギリスD&AD、カンヌ国際クリエイティブ祭、東京コピーライターズクラブなど、受賞歴は250を越える。「クリエイティビティの拡張、領域横断」をテーマに、表現のみならず、新規事業などのビジネスクリエイティブもおこなう。 PARTYでは、クリエイターのコレクティブオフィス「石(イシー)」グループとして、東京にTOKO、鎌倉にSANCIなどを展開中。また、スマイルズ遠山正道氏とアートの民主化を目指すThe Chain Museumを共同事業化している。展覧会に「OMOTE 3D SHASHIN KAN」(2012)、「PARTY そこにいない。展」(2013)など。著作に「伝わるのルール」などがある。作品集に「PARTY」(ggg Books)。(PARTYホームページより引用)