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Special Report
『オンデザインの実験』
出版記念トークイベント

text & photo:aya sakurai 

 

「ギャラリー間」を舞台に開催された、新刊『オンデザインの実験』の出版を記念したトークイベント。当日は、建築家の藤村龍至さんと青木弘司さんのおふたりを登壇者としてお迎えし、西田 司さんとの同世代トークが展開されました。今回はその対談の模様をレポート!
ちなみに藤村さんは9月30日まで、同じく「ギャラリー間」にて、個展「ちのかたち−−建築的思考のプロトタイプとその応用」を開催中です。終了間近ですので、ぜひお見逃しなく!

 

@セラトレーディング東京ショールーム

 


パネリスト:右から、青木弘司さん、藤村龍至さん、西田 司さん(オンデザイン)、萬玉直子さん(オンデザイン)、小泉瑛一さん(オンデザイン)

 
『オンデザインの実験』を読んで

藤村 最新刊の『オンデザインの実験』は、興味深く読ませていただきました。一人称でかなり赤裸々に思いを語っていて、結構びっくりしました。読んでいてとても面白かったです。
 思い起こしてみると西田さんと初めてご一緒したのは、2008年の山本理顕さんが企画した展覧会で、2回目が2011年の震災後に建築は今いったいどのように立ち向かえばいいのかをテーマにした、『JA』のトークイベントでした。そこでは私がお声掛けして、西田さんと中川さんと私とで対談をさせていただきました。あの時、西田さんからパートナー制の話を聞いたんですよね。
 西田さん個人ではなく「+誰々」というスタイルをはじめられて、スタッフではあるけどパートナーとして協働する人を立てながらチームでやっていくことを打ち出されてました。今回、この本を読んでその背景となる部分がわかりました。

西田 この本を書いたことで、「棚卸し」されたなと思っています。ふだんから自分が設計で話している言葉も、大学で学生と話している言葉も、すべて同じにできないかなと考えていて、最終的にそこで話している言葉がそのままプレゼンテーションとして外に出て行くと。
 自分自身、いろんなビルディングタイプごとの計画学や作法、歴史に紐づけて考える時に、自分の中のおもしろさだけではなく、「そのおもしろさを伝えるにはどうしたらいいか」っていうことをつねにリンクさせている感覚があります。

藤村 オンデザインは、プレゼンテーションに多くコストをかけている印象があります。例えば、模型は1/30や1/20を基本としていますよね。ヴェネチアでも、もはやあの巨大模型の空間は、日本の卒業設計展などで花開いた文化を、西田さんが輸出しているようにも見えました。
 パワーポイントも手書きにしたり、違う表現があったり、そこにも労力をかけているようにみえるし、なぜプレゼンテーションにそこまで力を入れるのでしょうか。

西田 「外部化する」ということにかなり意識をおいていて、外部化するというのは言語化以外にも、スケッチにしたり、模型にしたり、いろいろな世の中の制度や仕組みにつなげていくことだと思っています。

 外部化することによって、はじめて客観視できる状況が生まれるんじゃないかと。でも客観視だけが目的ではなく、客観視するとじつは気付いていなかったことに気付けたり、設計の渦中で気付いたり、いろんな表現を試している中で気付いたり、できあがったものをもう一回再描写して気付いたり……、図面という僕らが日常的に目にしているツールもひとつのコミュニケーションツールで、図面を含めたリプレゼンテーション全般に興味があります。

藤村 大きい模型はつくるけど、そこに人間は置かないっていうポリシーがありましたよね(p.31)。人間を置かず、人間が居たかのような情景をつくることに取り組んでいる。ひとつひとつの表現に一貫したスタイルがあるとわかって、そのへんもすごく興味が湧きました。

青木 西田さんは、あらためて僕とは対照的だなと思いました。西田さんは大学卒業後すぐに独立されていますが、僕はアトリエに長居したのでデビューも遅く、同い年ですが、そのキャリアは異なります。この本を読んでいると、西田さんは、一般の方々にも伝わるように平易な言葉を多用され、現場の即興性を大事にされているような、等身大のスタンスを垣間見ることができます。ただ、やはり僕は自分の作家性を前面に押し出したいので、そのためには難しい言葉も使うし、現場とも距離を取り、格好つけているなと思います。

西田 いえいえ、それをさらけ出している青木さんがすごく格好いいと思います。格好つけたいって感覚について具体的にお聞きしてもよろしいですか?

青木 ある種の欲望ですかね。自分の作家としての欲望と言ったらいいのでしょうか。

藤村 すでにもうそれ自体が格好つけている。

一同 (笑)

 

本を出版する価値

西田 僕は本を書くことは、その社会を自分の言葉で記述することだと思っています。藤村さんは本を出すことについてどのように考えていますか?

藤村 本当はちゃんと研究をして博士論文を書いてその博士論文をもとに単著を出してデビューっていう人生が良かったのですが、気がついたら博士論文も仕上げないまま大学に入ってしまい、今ようやく単著を3冊出しましたけど、まだまだ本として書きたいことがあってなかなか原稿を書くのが追いつかないです。 

西田 藤村さんは、ただ社会の状況を記述するだけではなく、そこにおいての建築家の役割を同時に言語化されていて、「ソーシャルアーキテクト」という新しい定義の仕方もそういうことだと思うんですけど、それをやることによって自分の中で設計行為も変化していく感覚がありますか?

藤村 変わっているような、でも変わらないような気もします。社会に出て、いろいろ感じることがあって、そこで感じた衝動で本を書いています。コルビュジエやベンチューリをはじめ、建築家は決定的な本を30代に書いていますよね。それがコルビュジエでいう『建築を目指して』、ベンチューリでいう『建築の多様性の対立』、磯崎さんの『建築の解体』だったと思うんです。あとは実践しながらときどき本を書いていましたけど、結局30代に書いた本がいちばんおもしろいんですよね。

西田 僕ら30代すぎちゃいましたよ(笑)。

藤村 西田さんは『建築を、ひらく』っていう本を2014年に出しているのでマニフェストは30代で書いていますが、青木さんそういえばまだですね(笑)。青木さんのマニフェスト計画ってどうですか?

青木 言い訳させてもらうと、事務所を辞めた時には35歳を過ぎていて、巷では35歳以下の建築家の特集が組まれていました。僕も慌てて合流しようと思ったらバスが行ってしまったという状況ですね(笑)。なので、45歳ぐらいまでは待っていただきたい。

西田 今回この本の原稿を書きながら、冒頭でも言ったように「棚卸し感」があるなと感じていました。頭の中のいろんなところについている澱が取れて、今ここまでやったから次はどう進もうかと考えています。そういう意味で本を出すことは、非常に有益なことだなと改めて思いました。

 

『オンデザインの実験 人が集まる場の観察を続けて』 西田 司+オンデザイン(TOTO出版)