アフタートーク
編集チームが振り返る
「言語化と感覚の狭間」
アトリエ系から組織系まで、世代を問わずさまざまな建築集団をピックアップし、特集する建築専門誌『KJ』(KJ刊)。
その『KJ』にオンデザインが最初に登場したのは2014年のヘルムとの合併時。当時、誌面の編集・監修を手掛けたのは入社3年目の萬玉直子さん※1(現在、オンデザイン代表建築家)でした。それから10年が経過した2024年7月、オンデザイン創立20周年のタイミングで、ふたたび『KJ』で特集が組まれることに。
今回、編集・監修を担当したのは入社8~9年目のチーフの面々(佐野敦彦さん、吉村 梓さん、西田幸平さん、鶴田 爽さん、櫻井 彩さん)。ちなみに前回担当した萬玉さんは統括的な立場で参画しています。
ふだんの設計業務とは異なるスキルを発揮した5人は、『KJ』刊行後に打ち上げと称した座談会を開催。掲載された誌面を見ながら、あらためて編集作業を通して考えたこと、オンデザインへの提言などを語り合います。
※1 詳細は「わたしのオンデザイン考察」の記事をご参照ください。
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@THE BAYS(神奈川・関内)
ダイアグラムに込められた概念
佐野 編集する時間がたくさんあると思っていたら、いつの間にか残り2週間くらいなっていて、びっくりしたっていうのが正直な僕の感想です……(苦笑)。
櫻井 あんなに時間あると思っていたのに。
吉村 誌面の構成が決まるのはすごく早かったのに(笑)。
佐野 早かったですよね。
櫻井 結局、掲載する作品がなかなかしっくりこなくて、決めるのにめちゃ時間がかかったよ。
佐野 ずっと悩んでましたよね、みんなで。
吉村 途中で何回か作品入れ替えてたし。
櫻井 でも結果的に作品の数はかなり載せられたと思う。ぜひ佐野くんにはトップページのダイアグラムについて解説してもらいたいな。
佐野 『KJ』の特集はオンデザインにとって今回が2回目です。10年前の1回目の時は、オンデザインがどういう組織体で、どういう建築をつくり、どんなことを大事にしているか、オンデザインの端から端までを丁寧に解説していました。なので2回目の今回は、より設計の思考性の部分にフォーカスしてまとめました。ただ(オンデザインが)これだけの人数とプロジェクト数になった時に、すべてをひと括りに扱うことは難しいので、各自がどのような分野にベクトルを伸ばし、ジャンルを横断し、つながっているのか。それをエディターという立場になって編集しながら模索したことが、最終的にトップページのダイアグラムに表われていると思います。
たとえば今年行われたヴィネチア・ビエンナーレ日本館は、生成AIをテーマにしています。僕はキュレーターの青木淳さんが、単純に生成AIを使って設計したら面白そうだなと思ったんですよね。同じようにオンデザインがこういうツールやジャンルに手を伸ばしたら面白いよね、というところからどんどん広がっていく感覚が、冒頭のダイアグラムだと思っています。だからじつはダイアグラムは完成せずに、もっと先へ、先へ、矢印が外に波及していくイメージなんです。
櫻井 なるほど。
佐野 もちろんスタッフそれぞれに大事なワードがいっぱいある中で、「今のオンデザインがつくる建築は何と何とがグルーピングされてできているのか」っていうところにフォーカスしています。
櫻井 編集中に、ダイアグラムのそういう解説を佐野くんから詳しく聞くことってなかったよね。
佐野 そこまで議論をさかのぼっていたら、納期までに合わなかったという説もあったので(笑)。
ラフなトークではじまった座談会は徐々に本題の編集後記へ。
まず口火を切ったのは鶴田さんです。
個人とチームが緩くつながりながら
構成された誌面づくり
鶴田 私は編集しながら、オンデザインのスタッフが60人(※2024年11月現在)になった今、これからのオンデザインをどう誌面で見せていったらいいのかをつねに考えていました。つまり、オンデザインの組織について話す時って、ひとりだけが飛び抜けたかたちで動くより、それぞれがいい感じでつながって動くことこそ60人の価値だっていうことを誌面を通してどう伝えていたらいいのか。
結果として個人でいいなと思っていることと、プロジェクトのチームとしていいなと思っていることが、緩くつながりながら全体が構成されている誌面になったかなと思います。
私たちが入社した2016年当時は、担当するプロジェクトって住宅がメインで、まちづくりはたまに関わる感じだったけど、今は公共施設のプロジェクトも増えたよね。でも、そういうプロジェクトの規模や用途とは関係なく、全部をフラットに構成する今回の『KJ』の誌面は、20年間というオンデザインの歴史をうまく表現できたと思っています。
あと、まちづくりのコラムとか、本当に自分たちが楽しんでやってるのを見せつつプロジェクト紹介もできているのが個人的にはいいなって。
佐野 今の話にすごい共感すると同時に僕は最近「私たちの世代」っていう言い方をあまりしないように心がけをしてました。
櫻井 えっなんで?
吉村 昔はこうだったみたいな言い方をしたくないってこと?
佐野 そうですね、できる限り現在進行形のスタンスで見られたらうれしいですね。
鶴田 やばい、気をつけるね。
吉村 いや、いいんだよ。べつに「私たちの世代」っていう意識が悪いわけではないよね。
佐野 悪いとは全く思ってないですよ! あくまでスタンスとしては世代を意識せず行きたいと思って。
櫻井 “今”感を出すと?
佐野 そうですね。ちなみに僕らがオンデザインに入った2018年頃には、「吉日楽校」とかがすでにあって、結構まちづくりをやっていたイメージでしたね。
櫻井 それ、私がオンデザインではじめて関わったまちづくり系の仕事。私たちが入ったのは2016年だから。
鶴田 「みなまきラボ」が、私たちが1年目でやった仕事だもんね。
佐野 まちづくり系は、櫻井さんとか(西田)幸平さんたちが入った年から2、3年で、ぐぐっと増えた感じですね。
吉村 そういう意味では、そのころが過渡期だったのかもね。
櫻井 大分(「大分県立芸術文化短期大学再整備」)とかベイスターズ(「DOCK OF BAYSTARS YOKOSUKA」ほか)とか、あと神大(「まちのような国際学生寮」)とかも進んでいたからね。
鶴田 一気に「大きなプロジェクト、はじめます!」みたいな(笑)。
佐野 高度経済成長期を経験した若者たちのようなものなんですかね。
櫻井 そんな感じかもね。
オンデザインらしいまとめ方とは?
西田 『KJ』の編集作業では、メンバーと議論する中でつかんだ構成の軸があって、それに沿って作品を並べてみた時に、ふだん自分が考えていること、実践していることがオンデザインの中の「部分」なんだってことに今回あらめて気付かされたかな。自分が携わってきたプロジェクトがオンデザインという集合体のどの部分にストックされていて、どのあたりの領域に属しているのか、事務所の中での自分の現在地みたいなことって今まで腰据えて考える機会があまりなかったから。
それと自分が考えていることが、ほかのプロジェクトでは違う言葉で語られているということも分かった。意外とみんな似たようなことを考えているけど、どこか少しずつニュアンスが異なっていて、それが個人的には面白かったかな。まちづくりというか、拠点やワークショップの運営だったりイベントの計画などの場づくりをするプロジェクトって、僕はあまり関わる機会がないから、どういう言語で語られているのかとかも正直そこまでアンテナを張れてなかったし……。
櫻井 張っとけよ(笑)。
西田 だから、そこに気付けたことは、個人的によかったと思う。今回は、このメンバーでこういう軸を設定してみたらこんなまとまりになりましたみたいなことだと思っていて、ほかのメンバーで編集をすれば軸も変わって掲載する作品も変わるんだろうなと。今のオンデザインが、そういう状況になっているのもすごく面白いと思う。
ちょっと堅気な建築設計事務所だと、1本筋の通った作品性があって空間を語る言語も、何なら設計手法までも統一されているけど、オンデザインには、それがないというか。空気感は統一されているのに作品にはそれがないのはオンデザインの魅力だって言われることもあるし、そう考えれば、またべつのメンバーでやったパターンも見てみたいなと。
鶴田 見てみたいですよね。
吉村 西田くんの話を聞いていて、人数もプロジェクトも増えて、もはや社内にオンデザインのすべてを把握しているスタッフがいない今、自分がやっていることを誰かと相対化することでしか自分以外のオンデザインを捉えていけないのかもと思った。つまり相対化することで、みんなが全体像を緩く把握している状態こそ、今のオンデザインなんだと思う。
佐野 そして、その状態をスタッフみんながポジティブに受け留めているところも、ある意味すごいことなんですよね。
鶴田 確かに、この緩い状況が成立しているってすごいよね。
佐野 もちろん全体像をどう見せていくのかをもうすこし考えたほうがいいという意見もあるだろうし、建築家としてはそっちの(全体像を見せていく)ほうが作品に統一感がでるという意見もあるとは思うんですけど。
西田 でも、それは各個人の中にあるっていう状態が面白いんだよね。今回、編集しながら思ったことだけど、例えば自分にとっては「まちのような国際学生寮」をやっている時に考えていたことと、「ホンゴウハイツ」や「薬王寺の路地長屋」だったり現在進行中のプロジェクトで考えていることって同じ軸の上にあると思っている。もちろん今までの積み重ねによるブラッシュアップやベクトルの調整はあるけど、大事な部分は自分でつかんで試行錯誤している感じが、ほかのみんなにもそれぞれにあるんだなと思う。まずは自分個人の興味からはじまって、作品を通してまた次のものをつくる。それをオンデザインはチーム制でやるから、いろいろな軸が重なり合って、何となくオンデザイン軸みたいなのができていくのかもね。
鶴田 ふだん「アーカイブ」というカタチで、プロジェクトに関わってない人でもその価値を自分なりに表現するみたいなことはやっているけど、いろんなプロジェクトをみんなで緩くリレー形式で評価する今回のやり方とはうまくつながった気はする。
西田 そう考えると、今回の誌面構成ってすごくオンデザインらしいまとめ方だったんだと思う。
ひとつのワードで建築を解けなくなった?
吉村 10年前の『KJ』の特集の時は、建築に求められる用途や使う人がある程度決まっていたから、分かりやすい言葉をチームの共通言語にできたのかなと。でも、今は社会状況や人の生き方がより複雑になってきて、佐野くんのダイアグラムの解説のように、ひとつの言語とか手法で建築を解けなくなってきていると思うんだよね。社内のスタディでも、「ひとつの言語にまとめきれないけど、こういう状況をつくりたい」みたいなイメージを複数並べて共有する状況が多くなってきた気がする。
この特集の編集中に、みんなでふたつ以上の写真を見比べながら「これとこれってじつはやりたいこと似てるよね」「私はこういう切り口で考えてたけど、そういう言葉でも語れるんだね」とか議論しながらお互いのイメージを共有していたけど、それってチームで建築をつくる時の共有の仕方と似てるんじゃないかなって思った。
だから、「ほかの人のヴァージョンを見てみたい」っていう意見は、私も同じで、プロジェクトを通して建築をつくる時に、どうやって個人のイメージを共有するかでそれぞれの個性があらわれるから、いろんなヴァージョンが見れたら面白そうだなって。
西田 千代田さんと中村さんのチームなら、どうまとめてくるのか。めっちゃ気になる(笑)。
鶴田 カラー強そうだけど面白そう。
佐野 きっと胃もたれしますよ。
鶴田 例えば、まちづくりをめっちゃやっているチームから「まちづくりと空間的なところの共通点の見つけ方」とかの軸で作品を選んだら面白そう。
櫻井 あー、確かにね。
鶴田 その場合、人のアクティビティーと空間的な視点で選ぶのかもしれないし……。そういう意味で、「こことここは似てそうだよね」とかの作業をもうちょっと丁寧にやればよかったけど、そんな時間はなくて、最後はバタバタしちゃったよね。(笑)
言葉より先に実態を積み重ねる
櫻井 私が関わっている『BEYOND ARCHITECTURE』(オンデザインのオウンドメディア)でも最近ちょっと感じていた「言葉に遊ばれている感じ」が、今回『KJ』の編集をやったことで、すこしすっきりしたんだよね。
さっき鶴田さんが言っていたように、それぞれのプロジェクトを並べた時の深掘りをもっと丁寧にやってもよかったって私も思う反面、ぱっと見た直感で5人全員が「これ似てるかも!」ってなった瞬間が意外に面白くて、「これはしっくりこないな」とか、「『風景を探す家』と『TOKYO MIDORI LABO.』だと違うな」とか、「この写真だと共通点がありそうだね」とか、言葉より先に実態があって、それに対して緩やかにつなぐ軸を発見するみたいな。それってすごく感覚的だけど、そこで発見したことを積み重ねていって結果的に16ページになったと思う。
これまで私はオンデザインのプロジェクトを誌面化するような仕事に関わったことなかったから、いい経験になったし、自分でテキストを書くページをもてたのは本当によかったと思う。ただ、編集作業をしている時は本当にしんどかったけど(笑)。
鶴田 うん、うん。
櫻井 さっき西田くんも言ってたけど、自分がやってるプロジェクトが、全体の中で結果的にどこの部分に位置付けられていたのかっていう話で、何となく自分で「ここなんだろうな」って考えていたところと、みんなが見ていたところが同じだったり、違かったりみたいなのを発見できたのも大きくて、もちろん一致していたら良いとか、そういう問題ではないんだけど、何となくプロジェクトを通してそれを話せたのは良かったなと。例えば私的には「QUINTBRIDGE」と「みなまきラボ」はフィットしていていいと思う。なんでなのか分かんないんだけど……。構図が似ているのを選んできたからっていうのもあるけど、感覚的にはそう感じた。
佐野 確かに、ほかのページの中でも写真の感覚がいちばん近いですよね。
櫻井 「まちのような国際学生寮」と「かんないテラス」も、状況として、絶対にこの構成じゃなかったら並ぶことのないプロジェクトだとは思う。「みなまきラボ」と「QUINTBRIDGE」も同じで、個人的には見開きページの片方が自分がやったプロジェクトだったりするので、そういう発見がめっちゃ面白かった。でも何度も言うけど、本当に大変だったー(苦笑)。
吉村 私は最初に選んだ「TOKYO MIDORI LABO.」と「風景を探す家」が、まさかボツにならずに最後までいったのが意外だった。この感覚、きっと誰も言語化できてないけれど分かるよね?
櫻井 分かる!
西田 それで言うと「まちのような国際学生寮」と「かんないテラス」を並べた時に、もしも空間構成を伝えることが主題だったら、このように掲載されなかったと思うけど、「これいいかも!」っていう感覚で選んだからというのはあるね。
鶴田 ホームページに載せる場合と違って、隣りに並んだ時のつながりを考えるからこそ「ここの写真はこれだ!」っていう選び方になった気がする。
5人それぞれの振り返りが一巡すると、トークは新たなテーマに……。
設計段階で生まれる言葉の可能性
佐野 今回の特集企画は、オンデザイン20周年記念ということもあって、過去と現在とをつなげるような構成だったけど、ONGOINGという未来的なものと、現在と過去を比較した時に、設計段階から「じつはこういう側面もあるのでは?」みたいなことをいろいろ言語化することができたんじゃないか。つまり設計段階でそういう言葉をもつことで、今後担当するプロジェクトにも反映されるだろうし、より仕事が面白くなるんじゃないかって思ったんですけど、それってどう思います?
櫻井 あっ、投げかけだったんだ(笑)
佐野 今回の『KJ』特集をきっかけに、そういう視点をもつことも面白いんじゃないかと思いまして。
西田 佐野くんが言うように、ほかのプロジェクトとの比較から視野を広げることは設計段階から日常的にやったほうがいいと思う。でも、設計段階での言語化と竣工後に実際に体験してからの言語化にはまた違う価値がありそうだよね。竣工アーカイブをつくる時とか、内覧会の後にチームメンバーであらためて言語化をして今後の設計にフィードバックしていくような姿勢は大事だよね。
佐野 たしかに設計時と竣工後での捉え方はそうですよね。
西田 あとは比較とかじゃなくてプロジェクトメンバー以外の人と設計の解像度を上げる作業もやったほうがいいと思う。
佐野 すごくやりたいですね。
西田 でもそういう会を前提にするとなかなか継続されないことが多いよね。
鶴田 毎回1、2回やって終わるしね。
佐野 だから僕の場合、知らぬ存ぜぬな感じで話しかけにいってます。
櫻井 「最近、どう?」みたいな。
西田 そっちのほうがいいよ。
佐野 そのほうが話も早いですしね。ただ話しかけるのはプレゼン前が多いので、嫌われてなければいいですが……。
西田 プロジェクトメンバーが少なければ少ないほど、そういう動きになるよね。「ちょっとほかの人に相談してみよう」「視野を広げてみよう」って。例えばふたりでやっているプロジェクトだと積極的にほかの人に話し掛けにいったりして。そんなことをしてるとプロジェクトメンバーにキレられた、なんてこともあったけど(笑)。
櫻井 えっ、私のこと?
全員 (笑)
佐野 でも正直、だんだん声かけづらくなっていると思いませんか?
櫻井 私も自分からはかけづらいかも。
鶴田 昔は佐野くんも夜になると、よく話しかけていたよね。
佐野 してましたね、プレゼン前の人にあえて聞くようにしてたんですけど。
櫻井 それは怖い(笑)。
佐野 「社内の人に話せなければ、お施主さんにも話せない」っていう気持ちが半分と、純粋な好奇心が半分で聞いてました。でも先輩たちもコロナ以降テレワークが増えて、話しかける機会も減りました。みんなが夜遅くまで残っていた頃は、よくやってましたけどね。
西田 ほかのプロジェクトとの比較も?
佐野 比較というよりか、今やっているプロジェクトの主軸は「〇〇」だけれども、ほかのプロジェクトから見たら、こういう視点が考えられるじゃないかといったようなやりとりです。違う軸にも矢印を伸ばせたらいいなと思って。
吉村 完成後にそういう機会を設けるのはいいことじゃない?
西田 設計段階というよりは完成後にね。
吉村 そう。完成後にそれを所内で発表して、ホームページに載せる。そのために言語化して、いわゆる建築業界のトレンドにも差し込んだりしてみるのもいいし。そして、その続きを自分の次のプロジェクトでも、また試してみるみたいなのをやっていくというのもありだよね。
佐野 それ、いいですねー。
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