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建築と模型とメディア #01
“触発する媒体”と
物質性の論考

text:satoshi miyashita photo:akemi kurosaka illustration:awako hori

西田 松井先生が、以前、書かれた博士論文を読ませていただいたんですが、模型の起源について、「模型」の文字自体が、「模範」とか、「規範」という、モノをカタチつくることから解読されています。それって僕はとてもプロトタイプ的だなあと思ったんです。
 建築模型の状況も、じつはそこにすごく近くて、自分の中で理想のライフスタイルを表象化して、そこに自分が近づいていくっていう、そこにはちょっと規範的な部分があるなって思います。実物はないけれど、そこに向かって模型を通して進んでいくみたいな。模型の字面の解釈とすごくぴったりでなるほどって思ったんですね。

松井 ああ、なるほど。でも、その一方で、建物ができあがった後の模型って、どう扱われているんでしょうか。 

西田 一般的には竣工後、処分してしまうケースがほとんどですね。海外では完成後に建築模型をミュージアムに展示しているところも見かけますが、日本の建築業界は模型に対してわりと興味が薄いのが現実です。

松井 そうなんですね。

西田 建築模型って、紙や布や小さな木の破片が基本的な素材なので、耐久年数もそれほど長くありません。プロジェクトが進んでいる最中は、打ち合わせごとに僕らが模型を修復しているので、剝がれてきたなと思ったら、こまめにのりを貼り替えたり、何かが抜けていると思ったら補修して、つねにきれいな状態に保てますけど、そうでないとやはり劣化していきます。「理想の家」の象徴だったはずなのにだんだんと古びてしまうので、私たちは基本的に完成して1年ぐらいの間で破棄してしまいますね。

松井 なるほど。それは残念ですが仕方ないですね。

西田 もちろん長い時間、手を加えなくてもいいつくり方というのもありますけど、今は打ち合わせしながら変更できるように加工のしやすさを優先しています。 

松井 加工しやすい分、可変性が高いっていうか、いろいろカスタムしやすいっていうことですね。

西田 そうですね。打ち合わせごとに理想の家にバージョンアップできますから。

松井 模型を通して、常に変化しながら未来を提示している感じですね。

西田 そうです。

松井 そして、できあがったら模型は役目を終えて……。

西田 ただ、できあがった後もきっと何だかんだで手を加えると思うんですね。家具を増やしたり、照明を変えたり、場合によってはペンキを自分で塗り替えたり。結局、できあがるまでの模型はお施主さんとの対話のツールで、打ち合わせした内容がアップデートされますが、完成後は実物のアップデートに移行するわけです。それはそれでいいことなんじゃないかなと思っています。

松井 模型から実物までが、シームレスにつながっている感覚ですね。

 

ハードとソフトの側面

西田 あともう少し家に特化した話をすると、一般的に、家づくりというタイミング以外で、家のことを真剣に考えるって人生の中でそうはないと思うんですよ。例えば小学生のときに、「俺は、やっぱリビングはこうかな」とか思わないですよね。

松井 ハハハ、そうですね。立派な建築家になりそうですけど。

西田 逆に、お爺さんになって、「やっぱり次の家はこうだな」って思うことも、なかなかない。つまり人生のある時期に、家について考えるっていうことは、リビングを考えたり、キッチンを考えたりするだけじゃなくて、じつはその人の人生や家族のことを考える側面もあるわけです。僕は結構、この時間っていいなあと思っています。そうやって家のことを考える経験をすると、今度はそれをアップデートしたくなるものです。

松井 そうなんですね。

西田 例えば、新築の家に住みはじめてから、友人を呼ぶためにリビングのテーブルを替えようと思ったら、「今度は6人掛けにしようかな」ってなりますよね。つまり家の在り方=その人の生き方でもあって、その人の時間の使い方なわけです。そう考えると建築って単にハードの側面だけではなく、ソフトというか時間軸というか、そういう部分で語られるべきところもかなりたくさんあるんです。

松井 なるほど。建築模型が未来を媒介しているメディアだというのはもちろんのこと、さらに、先ほどからも少し出ていますが、生活自体を媒介して、先取りしているメディアだってことですね。しかも先取りするだけじゃなくて、ある種、触発する媒体にもなっている。
 伺っていて、ふだん学生に「卒論は1年前から計画的にやるべき!」って言っている僕自身が、仕事に追われて、ほぼ日々のことしか考えていないことがうしろめたくなりました(笑)。
 確かに家を建てるとなれば、子どもが大きくなったらとか、親の介護とか、この先10年、20年のスパンで人生を考えますよね。建築模型が、その未来像を見せてくれるメディアっていうか、単に未来というだけじゃなくて、長期の、あるいは中長期の未来も考えさせる刺激となるメディアっていうことなんですね。

西田 ええ、そうです。

松井 建築のことを、そういう視点でみたことがなかったので、とても興味深いですね。

建築模型について解説する西田さん(右)、「こんなに細かくつくっているんですね」と興味津々の松井さん(左)。

 

引き続き、この対談の続き「建築と模型とメディア #02」をお楽しみください!

 

profile
松井広志 hiroshi matsui

1983年大阪府生まれ。大阪市立大学大学院文学研究科後期博士課程単位取得退学、博士(文学)、愛知淑徳大学講師。専攻はメディア論、文化社会学。編著に『いろいろあるコミュニケーションの社会学』(北樹出版、近刊)、共著に『動員のメディアミックス』(思文閣出版)、『広告の夜明け』(思文閣出版)、『ポピュラー文化ミュージアム』(ミネルヴァ書房)。論文に「メディアの物質性と媒介性」(「マス・コミュニケーション研究」第87号)、「ポピュラーカルチャーにおけるモノ」(「社会学評論」第63巻第4号)など。