オンデザイン師弟対談!
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白熱建築論
シェアの新しいカタチ
西田 いま萬玉さんと取り組んでいる〈神奈川大学国際学生寮〉のプロジェクトは、コンセプトが“シェア”です。コンペの課題が「新しいシェアのカタチを考えてください」というものだったんですが、ヨコハマアパートメントで得たパブリックの使い方や経験から、いろいろ紐付けるっていうことが大事だと思っています。寮の学生にも「ふだん、どんなことをやってるの?」、「どんな時間に友達と一緒にいるの?」など、いろいろヒアリングしました。
萬玉 計画している学生寮には日本人の学生と海外の留学生が半々くらい、学生全体では200人くらいです。200人ひとりひとりが主体的に共同生活への実感を持てるかが、あたらしいシェアにつながると考え、小さな居場所の連続で建物全体を提案しています。
学生たちへのヒアリングで気づいたことは、たとえばヨーロッパ系の留学生たちからは日本の寮には、屋外でランチできるスペースがないという不満があがったり、そこには文化の違いもあるのかなと思います。
学生寮の学生は、短いと半年、基本的には1年、2年で入れ替わります。彼らは「自分がここにいたという痕跡を残せる場所が欲しい」と思っていて、そういう観点から、いわゆる時間は共有していないけど、「空間を共有したというアーカイブ」としてのシェアもあるのかなと考えました。ふつうにライブラリーをつくって本をシェアしたり、一緒に料理をしたりっていう生活の中でのシェアもありますけど、いわゆる「アーカイブ」というカタチでのシェアは発見的でした。学生たちのアイデアは小さな居場所(ここではポットと名付けている)の特長に反映していて、このアーカイブポットが、私的にはいちばんグッときていて、学生寮じゃないとあんまり実現しない場所や考えなのかなと思っています。
西田 たとえば「もったいない」「かわいい」とか、日本にしかない言葉ってあるじゃないですか。留学生は、そういうのを発見するとまわりに教えたくなるらしくて、そんな言葉を取り置いて、彼らがまた他国から来た留学生たちにシェアしていくという。
いろいろ分析すると学生寮って「みんなの食堂」とか、「みんなのリビング」っていう考えでつくられているものが非常に多いことがわかりました。でも、みんなって単位は何人でしょう。極端に言うと心地いい自分の居場所って、結局、木陰にあるベンチだったり、コーナーにあるカウンターだったり、いわゆるヒューマンスケールだと思います。でも、それが学生寮というビルディングタイプの空間になると、とたんに巨大化されてしまう。先日見学した学生寮は、200人が住むところに大きな食堂があるんですけど、ちょっと違和感を覚えました。どうしても人間を数で扱っているように見えてしまう。その理由はきっと寮自体が軍隊の士官学校がモデルで成り立っているからではないかと思うんです。
やっぱりスケールが小さくても、そこに自分の居場所をつくることが大切だと思うんですね。たとえばインドの留学生が居心地がいい場所でご飯を食べていたりすると、周辺にはカレーの香りが広がるります。居心地がよさそうだから、それを見に周りの人が寄って来る。そういう小さな中心をいくつもつくるといいんじゃないか。つまり考えたのは「多中心型」のプランです。「まちのような学生寮」というフレーズを使って、萬玉さんがコンペの際にプレゼンテーションしたら、大学の理事長からグッときたって言われていましたね。
萬玉 “シェア”とか“まち”について考えるとき、オンデザインは、“みんな”じゃなくて、“私たち”として考えるというのはどのプロジェクトでも共通していることだと思います。たぶん、みんなと私たちって無意識に使っているけど、圧倒的に違うものなんだなあと感じています。
設計系と計画系の連携
萬玉 いまオンデザインのプロジェクトは、インスタレーションから住宅、あと国際寮という施設系から地方の小さな単位の街づくりや都市スケールの案件まで……。いわゆる建てるだけではないプロジェクトも含めると、客観的に見ても「多様」と言われるだけあるなあと思います。
最近、オンデザインの本を刊行するにあたって、私はひとつひとつのプロジェクトをあらためて読み込んでみたんですが、仕事内容としては、大きく設計系と計画系に分けられます。今後は、このふたつをフュージョンさせていけたらいいなっていうのは感じました。
たとえば〈みなまきラボ〉のプロジェクトはいわゆる拠点運営だと思うんですけど、その拠点とは、すごく小さな30、40平米くらいの空間です。ただ、これは建築的な計画でいうと何なんだろうと。学校を設計するときのコンペに、たとえば地域開放室というコミュニティスペースを設けたりするのと同じように、たとえば拠点運営系の活動も、設計計画にフィードバックさせることってあるのかなっていうのは思っています。
この前参加した京都のコンペも「キャンパスづくりは街づくり」というテーマを掲げていますが、「キャンパスづくり」と「街づくり」をセットで考えたときに、その両方が並行にあるのか、それとも一体なのかで、だいぶ違うと思うんです。街づくりがあって、キャンパスの建築計画をハード面で整備するのか、もっとふたつが連動するのかみたいな、そこってけっこう難しいけど、乗り越えたいなあと。
西田 それ、面白いポイントですね。建物をつくるっていうことと、人を集めて、どう使っていくのかっていうこと。オンデザインでは、その両方を仕事として受けることがけっこうあって、みなまきラボは「建物をつくること」にはノータッチ。できあがった複合商業施設を一室もらって、その使い方を探しているところです。ヨコハマアパートメントは自分たちでつくって、使い方も考えているから分かりやすいけど、そうじゃなくて、駅前広場をどう使うかというテーマで一年間くらい電鉄会社の相鉄と一緒にやっています。そこでは自然体験学習をやっている地域の人たちが、そのエリアの木々を採集して勉強会をやったり、ものづくり好きのお母さんたちが集まってワークショップをやったり……。基本、オンデザインから企画を出すことはないんですが、最近は、地域の仲間を集めて駅前広場でマルシェをやるようになって、その経験値が少しずつあがってきていると感じています。
公園とか駅前広場の空間に、家でもなく学校でも職場でもない“サードプレイス”があって、意外に自分たちが使える場所だったみたいな。その経験値を活かして次、もしも別の場所で「駅前広場に何かをつくろうよ」っていう企画に僕らオンデザインが参画した場合、一緒にやっていく人が、みなまきラボにいるのであれば、「こういう広場もあるんじゃないか」と、そこではじめて設計として反映されるんです。つまり、まあ種蒔きのようなものですかね。
萬玉 なるほど。私も成長したので、疑問というよりはひとまず期待したほうがいいかな(笑)。
西田 でも、さっき萬玉さんの発言で思ったのは、僕はふだん設計側にも計画側にもいるから、勝手に知識が横断されるんですよね。こっちで覚えたお母さんたちのワークショップの運営を、まさにいまコンペでやっているところに使えるわけです。たぶんオンデザインの所員の誰もがそれができるようになると、本当はベストですよね。
萬玉 欲を言えば、計画系にしても設計系にしても、もっと新しい方向性が見えるといいなあと。オンデザインってパートナー制で基本的に、西田+誰々といった集合知的な集団じゃないですか。そういったときに名前が出ることよりも大事なことがあるんじゃないかと。
プロジェクトの経験値を、西田さん自身が自由に横断できているっていうのはわかるんですけど、今後は、オンデザインの可能性として、もうすこしプラスの手法を考えられるといいと思っています。「ここまで多様な設計事務所って珍しい」ってよく言われるんだとすれば、絶対にそこは考えたほうがいいし、考えないわけいかないでしょみたいな。そうやって私はいつも西田さんに無邪気なふりして投げかけています(笑)
西田 ハハハ(笑)。まさにこの「BEYOND ARCHITECTURE」がやろうとしているひとつの理由は、そうした考えを“見える化”するところにあるんです。プロジェクトの途中段階でもいいから、メディアとして伝えていければと思うし、さっき言っていた、建物が敷地の中で周囲と切り離されて建つという時代ではなく、いまはいろんなものとつながりをもちながら考えられる時代です。
みなまきラボの話でも、打ち合わせで出てくる話題って人の生き方そのものなんです。「こういうふうに暮らしています」「こういうふうに生きています」「こういうふうに働いています」っていう。それがベースになって設計を考えるようになると、建物自体の在り方とかももっと変わってくると思うんですね。
profile |
萬玉直子 naoko mangyoku1985年、大阪府生まれ。2007年、武庫川女子大学卒業。2010年、神奈川大学大学院修了。同年オンデザイン入社。 |
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