Project Interview
建築の告白 ・前編
使う人の振る舞いを描く「器」の設計の延長に、
今の仕事がある
──プロジェクトインタビューの第1回目で神永(侑子)さんにインタビューした際に、「自分と大沢さんは業務内容は違うけれど、オンデザインとして目指している空間や居場所のあり方は同じはず」と話されていました。大沢さんはどう思われますか?
そりゃそうでしょ(笑)。僕も同じ事務所の中で目指す場所の認識にズレがあるわけないと思っていますよ。
たとえばオンデザインでは、お施主さんと対話しながら建築をつくっていく「設計思想」がありますよね。要望に対して柔軟に応えつつ、空間を使う人がここでどういう振る舞いをしてくれるのか、そんな「器」としての設計を大切にしています。おそらくその延長線上に、今、僕がやっているような運営とかイベントの仕事もあるんじゃないかなと思います。
──その器としての設計思想とは、極端に言えば異なる価値観同士でも共存しあえるということですか?
そういう二項対立な話ではなくて、歴史的な文脈の中に位置付けて言うと、いわゆるモダニズム的な価値観と違い、現代における価値観の捉え方はもっと多様なはずだということ。あの人とこの人は似てるんだけど、こういう点では全然違うとか、いろんな属性があって当然だし、すごく複雑ですよね。
さらに言えば、今こういう振る舞いをしている人が10年後には全く違う振る舞いをする可能性だってある。でも、そうなっても受け入れられるような時代と共に変化していく空間こそが、良い「器」としての空間だと思うんですよね。
向かい合うのではなく、横に並んでディスカッションする
──仕事においてターニングポイントとなったプロジェクトをあげてください。
振り返ると、2014年に竣工した〈SEA DAYS〉がターニングポイントだったような気がします。
もともとお施主さんがサーフィン好きで、千葉の館山を気に入って、そこにまず住宅を建てたんです。でも地元に仲間が増えていくうちに、もっと多くの人たちに館山の素晴らしさを伝えたいという依頼をオンデザインに相談していただいたのが発端でした。
当初は、機能としてはサーフィンショップのようなものをイメージされていて倉庫のリノベーションを計画していましたが、テーマは私的な事業というよりはもっとパブリックな価値を作っていくものだったので、住宅設計のようにお施主さんと1対1の対話形式で進めるのではなく、社会のトレンドやマーケティング的なことも含めてオンデザインだけでは思いつかないアイディアを横に並んで一緒にディスカッションしながらつくりあげてくれる人たちをどんどん巻き込んでいくことで、結果的にどんどん企画が想定していなかった方向に展開していき、僕にとってはとてもエキサイティングで新鮮な感覚でした。
結局、企画としては「サーファー以外の人にも館山の魅力を伝えられるのではないか」という話になっていき、カフェの機能が付加したり事業計画を再構築していました。そんな時にお施主さんが、アウトドアフィットネスというヨガやラン、サーフィンなどライフスタイルと融合した新しいフィットネスプログラムを展開するBEACHTOWNというチームを巻き込んで、結果的にこのコンテンツが核となり、全体の企画がまとまっていきました。そして、最終的にはヨガスタジオやボルダリングウォール、松林の公園のような場所やカフェなどによる複合拠点として計画を進行していくことになったわけです。
今ではこのようなパブリックなマインドを持った仕事の依頼は増えてきていますが、やはり日本では特に”パブリック”というキーワードは行政の役割というイメージが強いのではないかと思います。そんななかで、SEA DAYSのお施主さんはオープンマインドで、なによりも純粋に館山が大好きだったことがプロジェクトの鍵になりました。そういう感覚は、ISHINOMAKI2.0の「自分たちはまちの外からやってきた人間だし誰から頼まれたわけでもないけど、大好きなこの街で面白いことをやってみようぜ!」みたいなスタンスともどこかで共鳴しているような気がします。
──「一緒につくること」に対しての考え方も変わりましたか?
そうですね。オンデザインだけで完結させないSEA DAYSの取り組みは新鮮な経験でした。「対話でつくりあげていくパートナー制の手法は、(プロジェクトによっては)外部との恊働でも可能なんだ」という発見が、僕の視野を大きく広げてくれたと思っています。
◉プロジェクトインタビュー第2回目に後編は11月17日に更新予定です。
profile |
大沢雄城 Yuki Osawa1989年、新潟県生まれ。2012年、横浜国立大学卒業、同年オンデザイン入社。 |
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