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Project Interview
建築の告白 ・後編

text & photo:sho shiowaki(ondesign) , azusa yoshimura(ondesign)

──もしかすると、さきほどの回答がすべてなのかもしれませんが大沢さんから見て、地域拠点の活動とは最終的にどうなることが正解だと考えていますか。

それはクライアントとかいろんな人につねに問われていることだから、僕らは答え続けるしかないということです。つまり、5年後はこうなっています、10年後はこうなっています、と……。でも、さっきも言ったように、本当にその通りになっていたら面白くないと思うんですね。たとえば地域の高齢化の問題が解決しているとか、そういう街の状況自体については普遍的な価値観で答えているから、そこは実現していて欲しいんだけど。でも、5年後にこういう人がこういうことをやっている、という想定は、絶対に変わるものです。
たとえば〈みなまきラボ〉も、2年目だからこそできることがあるように、6年後には6年間活動してきた〈みなまきラボ〉だからこそ、できること、やるべきことが見つかるはずです。

〈みなまきラボ〉でのまちづくりイベントの様子。相鉄線の南万騎が原駅前に、地域に密接した開かれたまちづくり拠点としてオープンした。運営パートナーである様々なクリエイターや学生とともに町を楽しむための試みを行っている。

──大沢さんも(1回目のプロジェクトインタビューに登場した)神永さんも言語化することに意識を割いている気がしました。それがなぜなのか気になるのですが、やはりJゼミでトレーニングを重ねた経験があるからでしょうか。

それは「お前は何者だ」と問われたときに答える必要があるからです。西田さんに自分の思想を話すとき、「あの感じがなんとなくいい感じなんです!」と言っても当然伝わらなくて、どこがどう良いと思うのかを言語化しないと、そもそもスタートラインに立てないという感覚があります。
でも、最近そういう機会がないから、僕も言語化するスキルが弱まっている気がします。一方でいま想定できることを魅力的に語る能力は高まっていると思うんだけど、将来そうなったら本当のところは面白くないということを表現する言語能力が衰えている感じがしますね。

インタビュー会場は<泰生ポーチ>。横浜・関内の古いビルをシェアオフィスにリノベーションしたプロジェクトで、1階がタイムシェアリングで運営されるシェアキッチン、2階以上が小さな部屋面積で借りられるスモールオフィスとなっており、1階では日々さまざまなイベントが行われる。

──オンデザインでは、事務所内で設計ミーティングをする際に、事例写真を見ながら話すことが多いですよね。

それも言語化するトレーニングなんですよ。持ってきたからには、その事例のどこがどう良いのかを説明しないといけない。事例は自分の言葉で説明しないと他人のものでしかないから、そこから読み取ったことをきちんと人に伝えるために考えて言語化しなくちゃいけないんです。

 

想定していなかったことが実現する喜びを、
いかに生み出すかの実験をし続けている

 

──では、最後まとめとして大沢さんの仕事に対する考え方やスタイルを言語化するとしたら、どんな表現になりますか。

想定していなかったことが実現するということが、建築にしろ、まちづくりにしろ喜びであり、それをいかに生み出すかということの実験なのかなと思います。
たとえばコミュニティをつくる際に、好きなことが同じ人だけをグルーピングすれば平穏なコミュニティをつくれるけれど、そこから新しいものは生まれないですよね。全員がサーフィン好きのコミュニティならおそらくサーフィンしかしないでしょう。
でも社会とか街はそういう風にできていないじゃないですか。あの人は全然違うことを考えているけど、ここは共感できるな、みたいな多様性があって、ちょっとクレームを言う人とかが、コミュニティのキーになると思うんです。そういう人を大事にしたいと思っています。
つまり自分が想像していなかった良さとか可能性にどうやったら気づけるかということを、僕らはつねに実験し続けているんだと思います。
お施主さんとの対話もたぶんそういうことだと思うんですよ。「自分だったら絶対に白を選ぶけど、お施主さんがいいと言っている色を入れてみたら、どういう作用があるだろう」と。そこにはネガティブな作用もあると思うけど、もしかしたらとんでもなくポジティブな作用が生まれるかもしれない。
それともうひとつ言いたいのは、実験をしているからには観察をしないと意味がないということ。建築家ってできた作品がパッケージングされるから、そこから不変の状態であることを願うじゃないですか。完成した瞬間のものがすべてで、たとえば中身のプログラムが変わって想定以外の使われ方をされると残念だと思う風潮がやっぱり少なからずあると思うんです。
でも、オンデザインがやろうとしている実験は、できた瞬間は実験の結果ではないということ。それは単に「器ができただけ」だから、そこからどういう作用が起きたのか観察し続けなきゃいけない。だからこそ僕らはまちづくりのプロジェクトをやっているんだと思います。たぶん、その実験のいちばん最初が〈ヨコハマアパートメント〉だったのかな。
実験するからには観察をして分析まですることが必然で、それが“実験”というものだし、普通のことなんだけどね(笑)。ただ、じつは建築業界ではあまり行われてないんですよね。

──なるほど、そこがオンデザインらしさでもあるんですね。

profile
大沢雄城 Yuki Osawa

1989年、新潟県生まれ。2012年、横浜国立大学卒業、同年オンデザイン入社。