Project Interview
建築の告白 ・後編
前回に引き続き、プロジェクトインタビューの後編をお届けします。大沢氏の仕事に対する熱くディープな告白は、いよいよ佳境に……。
インタビュー
大沢雄城(28歳)
オンデザイン歴5年
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それは何のために、どういう状態を目指してやっているのか
──THE BAYSは、どういうスタートだったんですか?
もともとZAIMという歴史的な建造物が横浜スタジアムの近くにあって、クリエイターなどが入るシェアオフィスに使っていたので、横浜界隈のクリエイター的には関心値が高い物件だったんです。そこが事業者公募を始めるのを知って、オンデザインからベイスターズに話を持ちかけました。
一方でベイスターズは、コミュニティボールパーク化構想(※2)というビジョンづくりをやっていて、スタジアムの改修プロジェクトもそうだけど、「もっと街に飛び出す術を持っていた方がいいよね」という話をしていたんです。それで、「目の前にあるこの建物をゲットしよう!」という発想になりました。
その後、不動産会社や企業の事業企画部が出すような事業コンペで選ばれて、現在は空間の提案から拠点運営までを行なっています。
(※2)横浜DeNAベイスターズと横浜スタジアムが協働して取り組んでいるプロジェクト。「プロ野球ファン」ではない人たちにも横浜スタジアムを開き、新しいパブリックスペースのあり方を考えている。
──事業の企画と空間の設計は、今後分けた方がいいと思いますか。
僕のような仕事をしていると、ときに「事業企画をやっている人」と捉えられがちですが、さきほども言ったように僕はそこを分けて考えるものではないと思っているし、西田さんもそこに対してはフラットなんです。ただ現実的には、ひとりで全部をやるのは不可能で、業務的には分かれることもあるけど、両者が通じ合えないのはまずいと思うんですよね。
たとえば、設計するチームが事業としての採算が取れるかどうかを全く考えずにやるのは違うと思っていて……。なので、いつも建築の設計をするチームに最初に聞くのは、「それは何のために、どういう状態を目指してやっているのか」ということです。ゴールが明確になっていれば、イベントを企画するのも目標とする状態へのステップとして位置付けられるし、建築を設計する際も、「いまこういう空間が足りていないからこの分野の面白い人と協働しよう」という話になります。そうやって全体の流れを見据えないと、いまやっている複合的なプロジェクトはいろんなフェーズがあるから思想に沿った設計も運営もできなくなると思うんです。
思い描いた通りにならないことが面白い
──地域拠点をいくつか運営して大沢さん自身の経験値が増えたことで、できることの幅も広がっていると思うのですが、今後やってみたいことはありますか。
やりたいことや興味があって考えることもあるんだけど、だいたいそうならないから……。僕がこれまでいちばん学んだと思うのは、絶対に最初の思い描いた通りにならないということ。そして、それがむしろ面白いということです。
こういうふうになるんじゃないかっていう推測をして未来を描くのは大事だけど、その通りになることなんてありえないし、実際にその通りになったとしたらプロジェクトとして失敗だと思います。だってそれは自分たちが想像した以上の価値を生んでないということだから。
自分が「こういう風になるだろうな」と予想して積み上げていったものが、いろんな人が関わることによって広がったり、価値が変わったり、ポジティブな変化が起きたりしてこそ面白いと思うんです。
──たとえば今までやってきた仕事の中で、描いた通りにはならなかったけど、やっていく中で面白い変化が起きたな、と感じたプロジェクトを教えてください。
もう全部そうですね。〈SEADAYS〉も、最初のスタートとは全然違うアウトプットになったからこそ面白い取り組みになったと思うし、〈THE BAYS〉も、最初にコミュニティボールパーク化構想を考えた頃は、テクノロジーとクリエイターを掛け合わせるようなことは全く想像していなかったけれど、今はそのようなことにも取り組んでいたり、そういう視点で見ると、今後、〈ISHINOMAKI2.0〉も含めて石巻がどうなるかも興味がありますね。
面白いと思うのは、震災後6年以上もやっていると、やってきたチームにしかできないことがあるということ。6年前、「きっと6年間もやれば、こういうことができるようになっているはず」と思っていたことが実現されたかと言えばそうでもないけど、そこにいつづけた価値は確実にあると思っています。