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“参加型”って何だ?
#01
まず一緒に
手を動かす

text: akihiro tani , photo & video: kota sugawara

 

プロローグ

「ユーザーと一緒につくる」とは、どういうことなのでしょう?

そんな問いに、オンデザインの建築家たちが向き合ったプロジェクトがありました。結果としてできあがったのは、テーブルと壁に過ぎないかもしれません。でもそこに至るプロセスは、チャレンジや葛藤、探求、気付きに満ち溢れていました。関係者や子どもたちと一緒に試行錯誤した、本当の意味での「参加型デザイン」への挑戦を、物語として紡ぎました。

※本連載は、オンデザインが2018-19年に携わった「VIVISTOP柏の葉」の改修プロジェクトを紹介します。このプロジェクトでオンデザインは、VIVITAからの依頼を受け、設計と並行して、プロジェクトの試行錯誤を記録する「ドキュメンテーション作成」にも取り組みました。完成した記録冊子「VIVISTOP NOTE」の内容を、抜粋・再編集して掲載します。冊子の全編は、こちらよりご購入いただけます。「Scrap & Rebuild Project Bookができました」(VIVISTOPコラム)

 

第1章
まず一緒に 手を動かす

 

何もない空っぽの空間で、まずはみんな一緒に手を動かすことにしました。実寸大のダンボール模型や、白い布をつかった空間のゾーニング。着地点が定まっていないからこそ、子どもたちも含めてみんなが対等に、考えていくことができました。

 

「一緒につくる」とは?

「本当の意味での『参加型デザイン』は、どうすれば実現するだろうか?」

オンデザインの小泉瑛一が思考を巡らせた。

任されたのは、子ども向けの“ものづくり拠点”である「VIVISTOP柏の葉※1」をリニューアルする、「スクラップ&リビルド」プロジェクトだ。

 

現実的な設計の対象は、内装や家具程度になるだろう。

ただ、依頼主であるVIVITAは、次のようなこだわりを持っていた。

「最後まで、子どもたちと一緒につくりたい」

「完成したあとも、常に新しい創造が生まれ続けるような場にしていきたい」

そのために、VIVISTOPをいちど空っぽの状態にして、長期的な参加型のワークショップを行いたいのだという。

オンデザインに求められていたのは、設計に加え、子どもたちの「オーナーシップ」や「メンバーシップ」を醸成するファシリテーションだった。

 

これまでに見て、聞いて、実際に経験してきた「参加型デザイン」を思い浮かべてみる。

建築やまちづくりでは、ユーザーとなる市民にワークショップなどに参加してもらい、コンセプトや基本設計に意見を盛り込んでいくケースが一般的だ。具体の部分は建築家などの専門家側が設計することになる。そのやり方で本当に、子どもたちに「一緒につくった」という実感を持ってもらえるだろうか。

「ヒアリングをしたあとに設計側でモックアップをつくって、アリバイ的に『これでいいかな?』って確認するパターンはやりたくない。子どもたちをもっと信頼して、最初から最後まで“一緒につくる”挑戦をしよう」

空間をつくるというよりも、「新しい空間のつくり方」をつくる–。

小泉はそんな決意を固めた。

 

ダンボールでつくって、壊して・・・・・・

スクラップ&リビルドプロジェクトの第一回ワークショップは、VIVISTOPにほしいと思うものを、ダンボールをつかって実寸大でつくって考えることにした。

オープンからまもなく2年を迎えるVIVISTOPを、「子どもたちと一緒につくる」ことでバージョンアップさせようというプロジェクト。VIVITA代表の孫泰蔵さん※2の「みんなに、“変えていい”、“変えちゃいけないことなんてない”って、伝えたい」という思いを受け、VIVISTOPの担当クルーの佐藤桃子さん※3のアイデアで、VIVISTOPからすべてを運び出して空っぽにした状態で始めることになっていた。

ファシリテーションを任された小泉は、本当の意味での「一緒につくる」を実現するために、その空っぽの空間で、最初からみんなで手を動かすことにしたのだ。

 

「スクラップ&リビルド」プロジェクトを始める前のVIVISTOP

空っぽになったVIVISTOP

 

小さな作業部屋、遊ぶためのブランコ、みんなの作品を見るための鑑賞台、くつろぐソファー…。大人も子どもも、一人ひとりが空っぽの空間で自由に手を動かして、いろいろなものをつくった。

VIVISOTPの小学生会員の隼介は、ものづくりの作業に没頭するためのクリーンルームをつくった。「集中したいし、ひとりになりたいときもある。ものをつくるときは、すごく頭をつかうから」。中が思いのほか暑くなってしまったけれど、「大きなものをつくるのは面白い。小さくて精密なものと違って大胆につくれるし、“過ごす”場所ができるから」。

ダンボールでほしいものをつくって考える

 

ダンボールをカッターやガムテープで加工していくのはアナログで、とっつきやすい「ものづくり」。完成度やうまいへたは重要ではない。3Dプリンターやレーザーカッター※4と違って「設計」を考えなくても、できあがった作品にあとから付け足したりすることができる。つくった作品は、写真に撮って、壊してまた次をつくるルール。常に、少しずつ、新しいものを生み出していくのだ。

みーちゃんは、そんな「自由さ」を楽しみながら6個も作品をつくった。友達と集まる「女子部屋」や、暇なときに過ごすベンチ、そしてブランコ。「体を動かすのが好き」で、遊ぶためのものをずっとつくりたいと思っていたのだ。もちろん、つくる楽しさも感じている。「つくると、遊ぶ。VIVISTOPでどっちもできれば最高だな」と思いが膨らんだ。

久々にやってきた双子の和(かず)と匠(たくみ)は、作品をゆっくり見るための「鑑賞台」をつくった。「自分が何か新しいことをするために、他の人の作品をよく見たい」。自分のアイデアのヒントに触れる機会が増えれば、何かをつくるのはもっと楽しくなるだろう。

切ったり、貼ったり、壊したり

 

からっぽのVIVISTOPで行なった、第一回ワークショップ。大人も含めてみんなで合わせて計68個の作品をつくった。

空間を考える材料がぽつりぽつりと現れてきた。

 

「パブリック」という発見

一ヶ月後の第二回のワークショップは、「空間のつかい方」を考える狙いで、VIVISTOPに3つのゾーンを導入した。3つの空間とは、必要な道具などを格納しておく「プライベート」、共有備品をつかいながら作業に没頭するための「コモン」、そして自由度が高くいろいろなつかい方ができる「パブリック」だ。

第一階のワークショップを終え、つくったモノとモノの間や、配置を考える必要性を感じたことが背景にあった。VIVISTOPには「パブリック」の概念がなかった。子どもたちがせっかくつくったものをみんなに見てもらうための場所がなかったり、逆に、全体が賑やかになると集中の必要な作業が難しくなったりする問題もあった。 

白い布で空間を区切って、使い分ける

 

白い布で空間のいろいろな区切り方を試し、通常の「ものづくり活動」にも取り組みながら、最適な配置を探るワークショップ。「パブリック」がさまざまな変化を起こした。

たとえば、和樹たちがつくったダンボールホッケーを、みんなで「試しに遊ぶ」ことができるようになった。「終了間際に、5点入るパックを入れよう」。子どもたちがプレーして、新しいルールや改良ポイントを見つける。コモンとパブリックで「つくる」と「つかう」の循環が加速した。

外からVIVISTOPを覗き見ていく人の数も増えた。「きょうは、何かのイベントですか?」。以前は「つくる」作業に集中するシーンが目立ち、声をかけにくかったのだろう。パブリックは、交流する余白としての意味も持っていた。

パブリックで試しに遊びながら、ダンボールホッケーの改良点を考える

 

白い布を挟んだ反対側では、タブレット端末や工具で「つくる」作業に没頭する人の姿もある。対照的な「動」と「静」が、繰り広げられるようになった。子どもたちが、3つの空間の概念を明確に理解してくれているのだろう。

「『難しいことは子どもには無理だ』と大人たちが決めつけてしまってはいけないな」

どんなVIVISTOPにしていきたいのか、イメージを膨らませる子どもたちを見ながら、小泉が手応えを感じた。

 
環境をつくるって、面白い! 

スクラップ&リビルドプロジェクトは、折返しの「中間ミーティング※5」。約20人の子どもたちが、「ワークショップをやってみて感じたこと」「建築家に頼みたいこと」を話し合った。 

改修中のVIVISTOPでの子どもたちとのミーティング

 

子どもたちから、第二回ワークショップで得た「パブリック」の使い方への提案が相次いだ。

「はじめて来た人に、VIVISTOPがどんなところか伝えられるスペースをつくりたい」

「みんながつくった作品を飾れるところがあれば、雰囲気を伝えられると思う」

 

ダンボールでつくった個室をつかってみての実感も出てきた。

「ちゃんとした仕切りのある個室がほしいね」

ミーティングで生き生きとアイデアを話す子どもたち

 

子どもたちが感じていたのは、「与えられた場で何かをつくる」のではなく、「つくるための環境を一緒につくっていく」楽しさだ。

「今まで、『環境をどうするか』を、あまり言える雰囲気じゃなかった」

「VIVISTOPをつくっていく、って面白いな」

 

小泉をはじめとするオンデザインの建築家は、ここで出てきた発想をどう生かすことで、「最後まで一緒につくった」を実感してもらえるのだろうか。子どもたちの興味と期待がこもったボールを預かった。

(文中敬称略:つづく)

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“参加型”って何だ?#02 設計ではなく編集する建築家
“参加型”って何だ?#03 つくったのは 環境をつくる文化

 

※1VIVISTOP柏の葉。子どもたちが「未来を創る力」を育むためのクリエイティブなコミュニティスペース。株式会社VIVITAの活動拠点第一弾として、千葉県柏市に2017年にオープン。※2佐藤桃子さん/VIVISTOPクルー、サービスプランナー。スクラップ&リビルドプロジェクトを企画立案から手がけるチーフリーダー。※3孫泰蔵さん/実業家、投資家、シリアルアントレプレナー。VIVITA株式会社取締役社長。※4レーザーカッター、3Dプリンター/VIVISTOPで愛用されるデジタル工作機械。※5中間ミーティング/今後の展開へとつなげるためにもワークショップが終了して数日後、ダンボールでつくった家具の模型、空間の使い方などについて、子どもたちを交えて感想などを振り返って議論。

 

【お知らせ】
VIVISTOP柏の葉「Scrap & Rebuild Project」のアーカイブ集『VIVISTOP NOTE』の出版を記念して、2020年2月29日(土)にクロストークイベント開催します。→新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止の観点から、開催を延期することとなりました(2/27追記)。詳しくは、こちらを御覧ください。
Vivinote出版記念「つくる環境のつくりかた」(Facebook イベントページ)

 

【関連サイト】
VIVISTOP柏の葉