往復書簡2
#06
“隣り合わせ感”は
現代的か?
オンデザイン所属の建築家が自邸づくりについて伝えあう連載シリーズ「建築家の往復書簡」。昨年末から再開したseason2も今回がついに最終回です。竣工から2年、日々の暮らしの中でさまざまな気づきを感じながら、梁井さんと萬玉さん、それぞれの住まいは次のフェーズへと向かいます。連載の最後は、萬玉さんから梁井さんへの手紙です。
これまでの往復書簡はこちらよりご覧いただけます。
mangyoku>> yanai 📨
やないさん
お手紙ありがとうございました。
往復書簡が季節のお便りとなってしまうくらい時間が空いてしまいました…。
自邸で生活がはじまって丸2年が経ちましたね。やないさんちは、設計時の想定を尽く裏切られているような使い方がすっかり馴染んできているようですね。とくに子どもたちは先入観なく場当たり的に良い場所であそんでくれるので、家の中が固定化せずにずっと動き続いているような感覚もあります(たまにオイオイとツッコミしかないことも多いですが(笑)。
我が家は、ようやくB面の追加家具+カーテンが完成しました!
この報告がしたくてお返事が随分遅くなってしまったのですが……(苦笑)。
我が家のB面は南北に長い平面形状をしており、南はバルコニーへの出入口があるのですが、北側は少しニッチのようなスペースとなっており、ここが荷物置き場になっていました。コロナ禍の影響でなのか、アウトドアグッズが引越し後に急激に増えて、それらをドバッと置いていただけ……。
見た目も良くないし、なによりせっかくのスペースがもったいないな~と気になり、収納付きの小上がりスペースを造作しました。
収納量がアップしただけでなく、B面に、より奥行きが生まれたり、だらっとできる居場所も増えました。寸法はニッチの平面形状に合わせたら、ちょうどシングルベッドほどのサイズだったので、将来はここが子どもの寝室にもなるかも!? と思いつき、篭れるようにカーテンも増設しました(ちょっと奮発です)。
そして今回お気に入りなのが、クロメート加工で製作したねじ式のサイドテーブルです。このテーブルと、金属をスパッタリングしているカーテンが、光の具合によっていろんな表情をみせてくれます。陽が入る朝は鮮やかに、夜は静かにメラっと……、たのしんでいます。
以前、社宅に住んでいた頃は家具は手ごろな物を購入していましたが、自邸をきっかけに自分たちで設計して製作してもらうことが当たり前になったことも大きな変化です。家具などのディテールはパートナーの鎌谷が毎回攻めてくれるので自分だけの設計では気づかないことも多くて面白いです。
さて、A面/B面の生活を2年してきて最近思うことは、「何かと何かの“隣り合わせ感”は結構現代的なのではないか?」ということです。
設計時にコンセプトとして言っていた「A面/B面」というのは、“生活”と“仕事”とか、“生活”と“遊び”とか、対照的なものを際立たせるように扱っていたように思います。しかし、暮らしてみて思うことはこの対比が大事というよりも、隣り合わせにあること、スイッチングできることが大事だったんだということです。
まだあまり言語化できていませんが、今まで二項対立的に扱われていたもの(例えば「パブリック」と「プライベート」など)も、「隣り合わせにある心地よさが本当はあるのではないか?」という興味があります。
そんなことを頭の片隅で考えながら、慌ただしい日常をこれからもA面/B面で送っていきたいです。
では、また機会があればお手紙、書きます。
2022年3月 萬玉直子
萬玉さんの自邸<北沢のリノベーション>の竣工写真はこちらよりご覧いただけます。
profile |
萬玉直子 naoko mangyoku1985年大阪府生まれ。2007年武庫川女子大学生活環境学科卒業。2010年神奈川大学大学院修了。2010年〜オンデザイン。2016年〜オンデザインにてチーフ就任。2019年〜個人活動としてB-side studioを共同設立。主な作品は、「大きなすきまのある生活」「隠岐國学習センター」「神奈川大学新国際学生寮」など。共著書に「子育てしながら建築を仕事にする」(学芸出版社)。趣味は朝ドラ。最近はアレクサに話しかけるのが密かな楽しみ。 |
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全6回にわたって連載してきた「建築家の往復書簡 season2」は今回が最終回。梁井さんと萬玉さんそれぞれの自邸の設計から竣工、そして実生活までを、毎回、建築家という視点をもちつつ、ひとりの生活者としてつぶさに伝えてくれました。自邸は今後どのように変化し、暮らしを豊かに彩っていくのか。ふたりのその後のエピソードは、また次の機会に!