往復書簡2
#05
新築だけど
仮設のような感覚
自邸の竣工から一年が経過し、実生活の中で得た、さまざまな発見を往復書簡形式で伝えあう萬玉さんと梁井さん。本連載も残すところあと2回。今回は、梁井さんから萬玉さんへのお手紙です。
これまでの往復書簡はこちらよりご覧いただけます。
yanai>> mangyoku 📨
まんちゃんへ
こんにちは。こちらもお返事が遅れてしまいました。
年末年始からまんちゃんと協働している集合住宅の計画が佳境で、すっごく会って話しているはずなのに、このお手紙になると別の世界で会って話しているようで不思議です。
手紙ってリアルタイムのコミュニケーションじゃないはずなのになぜか新鮮ですよね。
考えていたことが、時差で新しくなって戻ってくるというのがすごく面白い。
改めて「往復書簡」という形でそれぞれの住まい方をやりとりできたのは、いまさらですが価値だなぁと思います。
なんか「往復書簡」の歴史にしみじみ浸ってしまいました。
さて、まんちゃんがおっしゃるように我が家は設計時に、いわゆるLDKは意識はしていたかもしれません。
集まる場所、食べる場所、寝る場所……。設計している時に見えていた未来はそれらのゾーニングを行き来した画一的な生活でした。
でも今は、
集まる場所はひとりになる場所となり、
食べる場所はものを書く場所になり、
寝る場所は集まる場所と……
もう想定外というか、めちゃくちゃです(笑)。
設計した私ひとりではなく、家族というたくさんの意志が介在しているので、よく考えれば当たり前ですよね。
場所が潜在的に秘めている可能性を引き出すのは、住む場をつくる上ではとても大切な感覚だなと思います。それを自宅から学べたことは本当によかったです。(お仕事では設計の段階からそれをやらねば……)
それはそうと、激落ちくん、かなり落ちましたね(笑)。
意外とそういうことが思い出になって、何年かしたら笑い話になっているんでしょうが、やってしまった今はショックですよね、すごくわかります。
我が家のステンレスのキッチン天板にも竣工3日後に錆びたものをおいてしまい、茶色い輪っかができていて、いまだに見ると凹みます……。
経年劣化って不思議で、自分じゃない他人が残したものってむしろ味とか、デザインにみえるんですよね(古材風フローリングとかそのひとつかも。自分が付けた傷は見るたびに後悔するのに・笑)。
普段の設計の時もリノベ前のコンクリート壁とか、ありもしない過去の家主のストーリーとか勝手に妄想しちゃって何だか楽しいです。
まんちゃんが言うように「暮らしの痕跡」とした瞬間に、その傷や汚れすらもストーリーに格上げされるんでしょうね。
住まい方や家族構成っていろいろあるけれど、何人かで住むことは、予期できないことや、ストーリーを積極的に楽しむことができるので、行き当たりばったりも生活や空間に取り入れていくと面白いですよね!
私は神経質と言われることが多いのですが、汚れないようにビクビク暮らしていたのは案外最初の一週間くらいなもので、汚れやつくり替えは比較的受け入れていたかもしれません(不精だからかな……)
一階の床は合板なのですが、施工中に大工さんから「えー、合板でいいの? いつでも剥がしやすいようにしとくからさ、気が向いたらフローリング貼ろうよ」といわれました。
大工も引くくらいでしたが、壁なんかも下地のような気分で計画していて、そのうち黒板塗料塗ろうかなとか、そのまま大きい面に絵を書いてやろうとか思ったりしています。
新築ですが、どこか仮設のような感覚で計画していたんだなぁと、今になって思います。
そんな我が家、ちなみにまだ建蔽率、容積率に余裕があります(笑)。
今後の夢は、それぞれの庭に面してそれぞれのサンルーム的な場所をつくること。
でも今考えるよりは庭がもっと育ってきてから、家族がもっと育ってきてから考えるのがよいのかなと思っています。
きっとそのタイミングが考えどきで、一番よい答えが出るのではないかと思っています。
またその時は遊びに来てくださいね!
2022年冬
ではではー。
梁井理恵
「往復書簡シーズン2」も次の萬玉さんの返信で最終回。2月上旬の投函予定です。 📪
梁井さん自邸<小さな家>の竣工写真はこちらよりご覧いただけます。
profile |
梁井理恵 rie yanai1983年生まれ。神奈川県出身。2002年、恵泉女学園高等学校卒業。2009年、首都大学東京修了。同年、オンデザイン所属。これまで、「FIKA」「軒下と小屋裏の家」などを担当。 |
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