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ボクがウェブメディアを
はじめた理由、
続ける理由。

text:moe fujisue photo:yoichiro suzuki 
illustration:awako hori

 
情報と感想の関係から学ぶ

編集部 いわゆるメディアの役割って、建築家の作品と読者の間で、第三者的な立場から「知るべきこと」「知ってほしいこと」のパスを出すことだと思うんです。BEYOND ARCHTECTUREも「オンデザインのオウンドメディア」という大前提があるので、自分たちはこんなことをやっているよ、と伝えることが必要だと思っています。とはいえ、オウンドメディアとしての育て方というところでは、つねに編集部内で議論しています。

後藤 そのはじまり方は僕とは全然違いますよね。僕は自分自身のことを発信する、というつもりがまったくない状態ではじめたのが正直なところで、ただ今後は少し状況も変わってきて、僕の新刊の周知のための記事はつくると思います。立ち上げの頃から気にかけてきたのは、自分が読んでほしい情報、個人的に好きな情報だけを発信しても読者はついてこないだろうということです。
 つまり「相手が欲しい情報」がそこにないと読んでもらえないわけです。アーキテクチャーフォトの場合、読者は建築家です。だから建築家が知りたいと思うようなトピックをつねに探しています。
 これはいつも思ってることですけど、建築の世界って竣工写真はすごく多く表に出るけれど、その建築を建てるためのノウハウって見えにくいですよね。有名な建築であればあるほど、建材の製品名とか、建築家・実務家は知りたいんじゃないかとか。西田さんが「オンデザインの建材の選び方」とか公開したらすごい面白そうだし、絶対メソッドありますよね?

西田 ありますあります。普段からそんな風に物事を見て考えているんですか?

後藤 わりといつもです。はてなブックマークをよく見てるんですが、ネット上で話題になっている情報が一覧できて、コメント欄でみんなの感想も見られるんです。Twitterもそうなんですが、どういう情報だとどんな反応があるのか興味があって、その感覚がずれると発信者としてもずれてしまうんだろうなって。情報とみんなの感想の関係性を意識することが大事だと思います。

 

PRポイント、把握していますか?

編集部 私たちは後藤さんのビジネスマンの部分にも注目しています。「アーキテクチャーフォトジョブボード」はいまや建築設計の求人の一大プラットフォームになっていますよね。アーキテクチャーフォトを見に来た人たちを自然と誘導しているのが流石だなと。

後藤 以前、オープンデスク情報のリンク集を作っていた時期があって、とても好評でした。求人というニーズがあることに、そこで気づきました。ジョブボードはひと月に1万人くらいの方に見てもらっています。いまは掲載数もそこまで多くないので、効果は結構あると思うんです。求人募集は時期によってばらつきがあって、春の卒業シーズン前後がいちばん多いですね。掲載料金は、掲載期間とPR効果のグレード(画面上で目につきやすいかどうか)によって変わります。

西田 同じ条件であっても、求人が決まったり決まらなかったりは発生しますよね。決まる場合は、なにが決め手なんでしょう?

後藤 それはもう、「自分の事務所のPRポイントを正確に把握して文章や写真で表現できているか?」につきます。ここ数年は相談があればコンサルタントもしています。事務所の特徴をホームページやブログから把握して、写真の選び方やテキストやタイトルの書き方をアドバイスしたり。
 ジョブボードを始めてみてわかったのですが、自分のイメージと客観的に見た良さには乖離があったりすることも多いようです。例えばこの間、掲載させてもらった設計事務所は就職したらとてもいい経験がつめそうな会社があったのですが、自分たちは、それが普通だからアピールポイントとも思っていないとか。
 掲載する設計事務所のウェブサイトに関してはみんな、「About」「Works」「Contact」の基本形が多いのが現状だと思います。ちょっともったいないなと。個性をきちんと把握できていたら、そのデザインや見せ方はもっと変わるはずですよね。
 建築家・設計事務所とひとことで言っても、やっている事はものすごく多様です。それぞれの事務所の個性がきちんと伝わるように言葉選び、写真選びをして、他の事務所と相対化・差別化して推すポイントを決めるのが大事だと思っています。

 

10年間のトライ・アンド・エラーから

後藤 以前から、古書・雑貨を売るオンラインショップもやっています。実際に売り手と買い手がいるという経験からは本当にいろいろ学びました。
 建築の世界って、社会的意義という視点は、大学などのアカデミックな場で学びますが、ビジネスの側面を学ぶ場があまりないような気がします。また、他分野のスピード感の違う世界や儲かる・儲からないがシビアな業界を経験すると、価値観も相対化できると思います。

西田 この10年間には、チャレンジングな取り組みがたくさん詰まっているんですね。

後藤 実際、やってみないと分からないですよね。建築って建てたものを壊してやり直す事はできないですが、ウェブなら比較的簡単に直せます。
 よく紙のメディアと比較されて、ウェブメディアは改変できるからよくないとは言われていますが、僕はもっとポジティブに捉えていて、「コンテンツが同じでデザインを一新させる」みたいな事ができるのも強みだと思うんです。

西田 寛容さだったり、「ダメだったら変えちゃおう」というライトさは僕もとてもいいと思います。誰もミスしたくはないけど、間違ったときには寛容な社会って大事だなと思うんです。
 建築・建設業界ではなかなかそうもいきませんが、ウェブではよいチャレンジができそうだなと後藤さんの話を聞いていて思いました。

後藤 アーキテクチャーフォトは自主プロジェクトという側面も大きいかもしれません。クライアントワークではないというところも建築家の仕事とは大きく違います。
 たぶんオウンドメディアである、BEYOND ARCHITECTUREにも同じように自由な側面があると思っていますよ。  

後藤さんによる初の単著『建築家のためのウェブ発信講義』2018年 4月4日発売!Amazonにて予約受付中。

profile 
後藤 連平 rempei goto

architecturephoto.net編集長。1979年静岡県磐田市生まれ。2002年京都工芸繊維大学卒業、2004年同大学大学院修了。組織系設計事務所勤務の後、2007年小規模設計事務所勤務の傍ら、architecturephoto.netを立ち上げる。現在architecturephoto.net主宰。
たった独り地方・浜松ではじめた小さなメディアを、建築意匠という特化した世界で、月平均24万ページビュー以上(最高27万ページビュー)にまで育て、現在では、ひとつき1万人以上が訪れる建築系求人サイト「アーキテクチャーフォトジョブボード」、古書・雑貨のオンラインストア「アーキテクチャーフォトブックス」の運営までを手掛ける。


インタビュー会場となった「ニューショップ浜松」

ニューショップ浜松
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