これからのアパート、
これからの地域 ・後編
変化をおそれない、西田イズム
西田 今回、なぜこの対談を企画したのかというと、僕らって竣工したばかりの住宅を紹介されることはあるけれど、時間が建ってから紹介される機会ってほとんどなくて、竣工時と時間が経った今とでは、話す内容も違ってくるだろうと思ったんです。
川口 なるほど。西田さんのこういう考え方を、私が本当の意味で理解するまでには時間が掛かりました。竣工前などは全然分からなくてね(笑)。
西田 最初に打ち合せに来られた時、オンデザインは北仲という古いビル内にオフィスを構えていましたよね。そこには建築家やアーティストがたくさん入居していて、シェアオフィス的な感覚で使われていました。川口さんは、それを見て、「こういう雰囲気のアパートをつくりたい」と希望されていたのを覚えています。
川口 あっそうそう。その気持ちは最初から明確にありましたね。
西田 でも僕らの仕事場は現在もそうですが、ビルの中にあって、暮らすためのアパートではないので、それを「いろんな住まい方ができる場所」として、どう変換させるかが大きなテーマでした。
川口 私は「西田イズム」ってあると思うんです。それは「建物とは住みながら、変わっていくものだ」という。でも、施主側としては、ある意味それって恐怖なわけです。だって、やっぱり造ったものは、なるべく美しく、長く維持させたいと思うじゃないですか。でも、西田さんは変わることをまったく恐れないわけです。だから、私も段々と恐れなくなってきました(笑)。月日が経てば、自然にそうなっていくわけですからね。つまり、西田さんが言いたいことって、「じつは建物じゃなくて、そこに住んでいる人たちが建物を生かしていくんだ」とか「建物には、住人の記憶が残っていくから、じつはボロくになっても豊かになっていくんだ」っていうことなのかなって。このごろは、私なりにそう理解するようになったんです。
西田 最初の段階から川口さんと僕とで、「つねに日常が変わっていくほうがいい」っていう話しはしてましたよね。入居年数を決めたのもそのためですから。
川口 ふつうは収支のことを考えたら、同じ入居者に安定的に住んでもらったほうがいいじゃないですか。出たり入ったりされるよりも。でも、私にとっては、つねに新しい人が入ってくるほうが楽しいんですよね。
西田 入れ替わるってことは、つまり新しい風が吹くことでもあるわけです。ただ、いい人が来る可能性もあるけど、もしかしたら川口さんと合わない人が入居する可能性もあります。人間的にも性格的にも。だから、ベストな状態をつねに維持するというよりは、それがつねに変わっていくからこそ、いまはズレていても構わないという感覚になるんです。川口さんにとって、それはヨコハマアパートメントの入居者も周辺の住民も同じで、先日の「世界一難しい流しそうめん」では、イベントをやることで、全然知らない人や、これまで関わったことにない人もここに来るわけです。ふつうの集合住宅だったら、敷地内に知らない人が来ること自体、めったにないことです。でもここは違います。そういうイベントになると、川口さんも生き生きしてくるんですよね。
川口 じつは、けっこう疲れるんですけどね。
西田 いや〜、ふつうに考えたら疲れますよ。知らない人があれだけ来るんですから。
川口 ただ実際に私ができることってなんにもなくて、「とりあえずご飯でも作りますか」みたいなね。
西田 この間なんて、そうめん流しをしている横で天ぷらを揚げてましたからね。
川口 以前は、鮎を箱ごと買って、住人に串刺しを教えてあげたりもしました。嫌がられながらね(笑)。でも、そうやっているうちに住み方をみなさんが学ぶんですよ。これまで自分の親としか暮らしたことがない彼らや彼女たちは、昔みたいに寮に入ったりすることもないし、集団生活をしたこともない。だからきっと暮らし方の基本が分からないんだと思います。それを学ぶのも、ヨコハマアパートメントのひとつのメリットだと思っています。いわゆるシェアハウスではないけど、シェア的な暮らし方の塩梅も味わえるし学習できるのは、今後のメリットになるはずです。若い人たちが、ここでそういう暮らしを体験して、社会のことを学ぶきっかけになればいいなと思います。
西田 そういう効果は確実にありますよね。
川口 ありますよ。だって、アイボリィアーキテクチュアの永田さんを見てごらんなさい(笑)。
西田 いやいや、なぜそこに彼の名を(笑)。でも、先日、川口さんは永田さんたちと、藤棚に第二のヨコハマアパートメントを完成させましたよね。
川口 正式名称は「藤棚のアパートメント」。でも私たちの間では「アパツー」って呼んでいます。ヨコハマアパートメントは新築でしたけど、ここは古い建物をリノベーションしています。
DATA
藤棚のアパートメント
所在地:神奈川県横浜市
設計:アイボリィアーキテクチュア/永田賢一郎+原﨑寛明+北林さなえ 施工:LIU KOBO
竣工:2016年10月
敷地面積:156.29m²
建築面積:69.56m²
構造:木造平屋
概要:築50年の木造アパートの改修計画。既存建物が規模の小さい3部屋のアパートであったため、部屋数を一部屋減らし、代わりに外部の庭に面して大きく共有部を設けた「2部屋+共有部」で構成されるアパートとした。共有部はアパートの入居者だけではなく、地域の人びとや興味を持ってくれた人々が、ワークショップや勉強会などでも利用出来る場所として開放しており、「2世帯+流動的な1組」という形の暮らし方を提案した。(by アイボリィアーキテクチュア)