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団地にオープン!
“街の本屋”が目指す
新たな地域コミュニティ

photo:akemi kurosaka text:satoshi miyashita
illustration:awako hori

8月下旬、横浜市旭区の若葉台団地の中に「BOOK STAND若葉台」がオープンした。店主は移動式本屋「BOOK TRUCK」でも知られる三田修平さんだ。
若葉台団地は、約90万㎡の広大な敷地に神奈川県住宅供給公社が1979年より分譲をスタートした。現在の居住者数は約1万4,000人にのぼり、生活圏内にはショッピングモールや公園などが豊富に点在。まるでこの地域一帯が
ひとつの街のような機能を果たしている。その巨大な団地内に、三田さんはなぜ新しく本屋さんを構えようと考えたのか。今回のケンチクウンチクは、昨今の本屋さんの抱える問題から未来の本屋さんのあり方まで、建築家の西田さんとともに考えます。

 

@横浜・BOOK STAND若葉台

Talking Points

・スタイルが変われば、「売り方」も変わる。

・“サーキュラーエコノミー”の可能性。

・なぜ、美容師は本を売るのが上手いのか?

・話さなくても伝わるコミュニケーションとは?

・「新しい本との出合い方」について。

・本屋を通して、団地の魅力を発信したい。

 
新しい本屋でやりたいこと

西田 BOOK STAND若葉台には、本の在庫数が常時どのくらいあるんですか? 

三田 最終的には1万冊ぐらいまで増やしたいと思っています。単純にBOOK TRUCK の15倍です。

西田 それって三田さんにとって、泳ぐ場所がプールから海に変わるくらい違う?

三田 もう全然違いますね。BOOK TRUCKは常時700冊くらいをクルマに載せていて冊数が少ない分、一冊一冊、丁寧に見てもらえるのが良さでもあるんです。
 一方、今回のBOOK STAND若葉台は、置かれている本の数が多いので、お客さんにはお薦め本をいろんなバリエーションから選んでもらえます。つまり本をお客さんの手元に届けるまでのアプローチが違います。今後はふたつの良さをうまく使い分けていければと思います。

「BOOKSTAND若葉台」オープン直後の店内の様子

店内には小さな小屋スペースがあり、ドリンクスタンドを設置している

西田 その「届け方」っていう視点で言えば、BOOK TRUCKは三田さん自らが(売りに)行くわけですよね。

三田 はい、そうです。

西田 でも、BOOK STAND若葉台は、どちらかというと待ちの感じじゃないですか。売り方について戦略的な違いってありましたか?

三田 戦略と呼べるかどうかは分からないけれど、BOOK STAND若葉台は団地の住人が日常的に利用する場所です。なので、たくさんの人に参加してもらえるようなイベントを計画して、コミュニティを広く、深くつくっていけたらと思います。

西田 具体的にはどんなイベントを企画されていますか?

三田 僕の家族もこの団地に暮らしているので、やっぱり子育て世代に向けた企画をやりたいですね。ここにはママさんたちのコミュニティがあって、LINEグループにはめちゃめちゃ多くの人が登録しているみたいです。じつは僕の妻も参加していて、よく「いらなくなったベビーカー、使う人いませんか?」みたいな情報が行き交っていますよ。そういったコミュニティに対して本屋としてうまく情報を訴求できればと思っています。

居住者の高齢化が進む若葉台団地。ここ数年は若い世代に向けた発信にも積極的という

西田 ママさんたちのコミュニティといわゆる本好きを、どうブリッジさせるのか気になります。

三田 以前BOOK TRUCKで、赤レンガ倉庫広場のカレーイベントに出店したことがあって、その時にも思ったことなのですが、いわゆるカレーに関する書籍って、本好きの人が買うわけではなくて、イベントに来ているカレー好きの人たちが買ってくれるわけです。つまり本を買うのは本好きとは限らないということですね。そういうことはBOOK TRUCKの活動を通じて強く感じていて、本好きだけを対象にしていたら本屋自体立ち行かなくなるので、「本好き以外にいかに本を買ってもらうか」、それもすごく重要なんだと思っています。あと実際、団地の中で暮らしていると、他の住人のことを知らなかったりします。そういう意味でも本屋って間口が広い分、コミュニケーションが生まれやすいので、住人同士のコミュニティ形成の場としても機能しつつ、それぞれのコミュニティに対して本を届けることができると面白いなと思っています。

西田 なるほど。

おもに週末を中心に活動中の移動式本屋「BOOKTRUCK」

三田 あとこれは少しそれますが、住人が処分したい本を引き取って、循環型社会をつくれないかと。例えば、回収した古本や古紙でショップカードやブックカバーをつくるとか、サーキュラーエコノミー的なものが実現できると面白いなって。ちょっとスケールが大きな話になっちゃいますけど、団地という巨大なハードをうまく活用する方法が、まだまだ、あるんじゃないか。僕も含めて住人がそのポテンシャルを生かし切れてないんじゃないかって思います。

西田 でも、循環型のしくみが形成された途端に、団地内の距離感の近さもメリットになりますよね。

三田 そうなんです。団地って近い距離にみんながぎゅっと集まって暮らしているので、配達とかするにしても便利だし、オフラインの情報伝達も頻繁です。団地の自治体、まちづくりセンターなどがそれぞれ発行しているフリーペーパーは、毎月全戸に配布されています。そこに新刊の情報などを掲載すれば、高齢者の方々も本屋に足を運んでもらうきっかけにもなります。

西田 今の話を聞きながら、その距離感でサーキュラーすると、いちばんに考えられるのがフードロス問題だと思いました。団地の住人の間で余った食材を使い、フードロスレストランとかができたらいいですよね。

三田 確かここのまちづくりセンターでもフードロスに関する取り組みをはじめていた気がします。団地って運営の責任者がはっきりしているので、一帯で何かに取り組もうとすると、とてもやりやすいんです。今後はまちづくりセンターと公社、そしてBOOK STAND若葉台とがひとつになって進めていければと思います。

西田 団地があって、まちづくりセンターがあって、公社がある。そのどれにも三田さんが関わっているというパッケージになれば、次の展開にもつながっていきそうですね。

三田 はい、そうなるといいなって思います。

飲食店やスーパーなどが軒を連ねる若葉台団地の商店街

 
本屋さんに向いている人、向いてない人

西田 一般的に建築が好きなら、まず大学の建築学科で学ぶという選択肢があります。でも、本屋さんになりたい人は、そもそも入り口となる専門性ってどうやって学べばよいのでしょう?

三田 以前、本屋B&Bの内沼(晋太郎)さんが本屋講座を開いてましたが、そういう講座がもうすこしあればいいのかもしれませんね。ただ、本屋って建築と違って、専門的な知識がなくてもはじめられますよね。デザイナーや建築家でブックカフェとかアトリエ兼本屋みたいなのをやられている方って多いですよ。

西田 三田さんの中では本屋さんに向いている人ってどういうタイプですか?

三田 どうなんでしょうね。いろんな人がいると思うけど、いちばんはやっぱり本好きで人が好きな人じゃないでしょうか。ただ、本の知識がたくさんあれば本屋さんに向いているかというとそうとは言い切れないです。

西田 そうなんですか。

オープン前の店内で語り合う、三田さん(左)と西田さん(右)

三田 本に詳しいのと、本を売るのがうまいのって、まったく別なので……。

西田 なるほど。

三田 以前、表参道の美容院で(本を)売ったことあるんですよ……。

西田 えっ美容院で、ですか!?

三田 委託で置いてもらったり、ポップアップみたいに店先のスペースに出店したこともありますが、どちらもかなり良く売れたんですね。美容師さんってお客さんといろんな会話をするので、コミュニケーションをとりながら、めちゃくちゃ売ってくれるんです。逆に、本屋さんって本には詳しいけれど、お客さんにはそれほど詳しくないんですよね。

西田 そうか、カットしてもらいながら、「今度どこどこの温泉に行くんですよ」って話したら、「それなら、このガイド本、いいですよ」って、お客さんの好みにあわせて薦めてくれるみたいな。

三田 そうです。つまり接客ですよね。本屋って基本、接客をしないので、人付き合いがあまり得意じゃない人が多いんです。あと単純に接客する時間的余裕もない。街の本屋さんの閉鎖的なイメージってそういうところからきているのではないでしょうか。

西田 確かに、本屋さんから話し掛けられることってあまり記憶にないですね。

三田 でも接客されたいお客さんって、じつは結構いるような気もします。

 
陰キャ的コミュニケーション論

西田 話が変わりますが、今、オンデザインの事務所を拡張してるところなんです。

三田 おー、それは楽しみ!

西田  もともと居酒屋が入っていた事務所1階部分を改修して、9月中には終了予定です。せっかく路面側に事務所を構えるので、平日の朝や夕方以降、土日の一部とかを、(事務所を)開くことに使えないかと思っています。で、今、僕がやりたいのがノンアルコールバー。バーテンになりたいというより、普段関内で目立たないコミュニティ(たとえば大学生とか)にもイベントなどで自由に使ってもらいたくて、そのフックがノンアルバーです。「ノンアルバーやるタイミングで、イベントやらない?」みたいな誘い方ができるのも良いなと思ってます。
 また、先日、事務所のスタッフにも「ノンアルバー、一緒にやろうよ!」って声を掛けたら、ある新人が手をあげてくれました。ただ「私、人と話すのが苦手なんですけど、いいですか?」って言うので、「めっちゃいいトレーニングの場になるよ」と答えたんです。

三田 トレーニングには最適でしょうね。

西田 ですよね。「ドリンク、何がいいですか?」っていう接客をするだけでも、相手を見て人となりを理解する時間になるじゃないですか。たぶん初対面の人と話す際のクライアントワークがすごく上達しそうだなと。

三田 バースペースがコミュニケーションを自然に広げてくれそうですよね。

西田 さっきの本屋さんの接客しない話しと一緒で、建築も人付き合いが苦手な人が多いんです。仕事の内容自体もエンジニアリングというか、もともと細かなディテールを集中して考えるのが好きな人たちだから。あと建築の場合は、相手に伝える時に、スケッチとか模型とかビジュアルコミュニケーションを多用することで、しゃべりが苦手でも足りない部分が補えます。何を隠そう僕自身、人見知りで上がり症ですからね。なるべくならしゃべりたくないタイプです。

三田 えーっ、そうなんですか!

西田 仕事柄、クライアントに対してしゃべらないわけにいかないのでしゃべりますけど、面の皮一枚めくれば超陰キャ。最近は自分のことを「ビジネス楽天家」って言っています。

三田 僕も同じで、しゃべらずとも考えが伝わるコミュニケーションの仕組みを開発したいくらい。

西田 その気持ちすごく分かりますよ。そもそもオンデザインって外から見ると、すごく明るい事務所に見えてません?

三田 はい、明るく開かれた事務所のイメージです。

西田 こういうことを僕が言っちゃいけないのかもしれないけど、事務所には確かにネアカの人もいますが、たぶん8、9割が陰キャだと思うんですよね。

三田 えっー、陽キャの方ばかりだと思っていました!

西田 先ほども言ったように、僕もそうですが、みんな仕事として、そうせざるを得ないから陽キャをやっているんですよ。これは完全に余談ですけど、先日、『9タイプ診断テスト』という自己診断を事務所のみんなとやったんです。僕もやってみたところ、なんと楽天家率がゼロでした。やっぱり僕ってビジネス楽天家だったんだと。

三田 そこでも現実を突きつけられたんですね。

西田 まぁ陰キャとか陽キャとかはどちらでもよくて、僕が言いたいのは、人付き合いが不得手な人ほど、最小限のコミュニケーションで最大限の価値を生もうとするんじゃないか、ということです。つまりうまくしゃべれない人ほど相手のことを観察するし、観察するから相手のことを理解できると思うんです。

三田 なるほど。僕も観察って大事だと思います。例えば、BOOK TRUCKって、「クルマの本屋」っていうビジュアル的にも分かりやすさがあるので、しゃべらなくても店先に机を置いて本を並べておけば、お客さんがのぞいてくれるんです。ただそこで、お客さんがわざわざ本を手にとって見ていたら、やっぱりこちらもいろいろ説明したくなりますよね。まあ結果的にしゃべらざるを得ないんですけど……。

模型を見ながら什器の配置などを語り合うふたり

西田 ここ(BOOKSTAND若葉台)に置かれている什器も、机の置き方次第で、「ここの本、見てね」みたいな感覚になりますよね。

三田 はい。それが、お客さんに直観的に伝わればいいなって思います。

西田 デザインしたみなさんにもにもちょっと説明してもらいましょうか。

鷹野 じゃあ代表して僕から。まず、三田さんからは什器を可動式にしたいと提案されて、「“動かせる”という面白さをどうデザインするか」を試行錯誤しました。例えば、若葉台団地の商店街は、周辺の八百屋さんやカレー屋さんが店先に平台什器を思いっきり出して売っているんです。その風景がとても印象的で、可動式にすれば、ある程度の本を店先で売れると考えました。それから店内のギャラリースペースをワークショップで使う際、什器をスペースにまとめたり、イベントやフェアの際は什器同士をつなぎ合わせて、いろいろなカタチに変えられます。可動式っていう利点を生かして応用できるのも特徴だと思います。

外観のパース

店内のパース

什器の設計や配置などを解説する、設計チームのリーダー・鷹野さんと学生

西田 本屋の空間に什器の存在が生かされていますよね。可変性もあって面白いです。

三田 ありがとうございます。先ほども言いましたが、今後は店内でイベントをしていきたいので、平台什器を可動式にしようと思いました。それと店内は24坪しかないので、平台の収納力をある程度確保したかったんです。可動ができて収納力もあって、お店の外にも出ていけるものを考えてもらったら、このデザインに落ち着いた感じですね。什器は単体でも使いやすいし、組み合わせればいろんな形に変わるのも面白い。ただ、店内中央にある柱がちょっと邪魔なんですけどね。

西田 いや逆にこれがあるから、その周辺の什器が生かされているという考え方もできますよ。

三田 置き方も工夫しながら、本とお客さんとの良き接点になれたらいいなと思っています。

鷹野 横浜国立大学の学生と僕と7名がチームになって、この空間をどう使っていくか、今後どうつなげていったらいいのかを考えていきたいと思っています。

「BOOK STAND若葉台」オープン直後の店内の様子

 
本屋から新たな出合いが生まれる

西田 三田さんは書店員として勤務していた経験や、クルマで移動しながら本を売る経験などを蓄積しながら今に至っていますが、そもそもの原点というか本屋を目指すきっかけみたいなものって何だったんですか?

三田 学生時代、本屋といえばチェーン系の大手書店か昔ながらの街の本屋ばかりで、「もっとカジュアルに本と出合えるお店があればいいのになあ」と思っていました。大学卒業後、TSUTAYA TOKYO ROPPONGIでアルバイトをはじめて、その後、SPBS(SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS)の立ち上げに参加して店長として4年間働きました。ただそのころには徐々に自分が望んでいた本屋も街に増えてきて……。今度はもっと社会に足りないピース、欠けている部分を補うことで生まれる「新しい本との出合い方」に興味を抱くようになったんです。
 独立して立ち上げたBOOK TRUCKでは、本屋にあんまり行かない人が本との接点をつくるにはどうしたらいいかがテーマでした。そのベースにあったのは、本屋という既存の枠組みの中で「本と人とをうまく結びつけたい」という思いです。結局、BOOK TRUCK を10年ぐらいやり、ちょうどコロナ禍になって、団地にもそういうテーマの本屋があってもいいんじゃないかと思って。

西田 BOOK TRUCKも今回のBOOKSTAND若葉台も、三田さんの根底には自分が思い描く本屋がないから、自分でやろうみたいなところがあるんですね。

三田 そうですね。もともとBOOK TRUCKも移動式本屋という移動性にこだわりがあったわけではなくて、本と人との出合い方の中で足りない部分があるなら自分がやろうと。そういえばBOOK TRUCKをやりながら、妹島さん設計の「大倉山集合住宅」で本を売っていた時期もありました。短期間でしたが、あのころは生活空間の中で本を売るのをやってみたかったんです。あれはあれで本の出合い方としては面白い試みでした。

西田 「出合い方」っていう言葉は、どのくらい前から使っていますか。

三田 うーん、どうでしょうね。六本木のTSUTAYAで働きはじめたのが2005年なので、そのころには使っていたから20年くらい前ですかね。本と人とが出合うための媒介になるのが本屋であるし、そこをうまくアレンジ、デザインすることで本屋の存在価値はもっと変わると信じていますね。

西田 出合い方っていう言葉はシンプルだけど、多義性というか広がりがありますよね。最近のオンライン書店というのもそのひとつなのかなって。

三田 僕はオンラインの利便性も好きですね。じつはソニーの電子書籍ストアのサポートを、BOOK TRUCKをはじめたころからやっていて、今もちょっとだけ関わっています。

西田 三田さんの中ではそこは同列というか、リアルとデジタルとが共存共栄しながら、本を買う人の分母を増やしていきたいという感じですか?

三田 まさにそうですね。でも、昔ながらの本屋さんにしてみれば複雑な部分もあると思いますね。「ブックカフェは、本を飾りのように扱っている」とか「本を客寄せに使うのはどうか」みたいな意見もよく聞きます。僕としては、単純に出合い方のバリエーションが増えればいいとは思っていて、もちろんそれだけになっちゃうのは問題だけど。

西田 よくメディアでも「amazonや電子書籍に駆逐される」みたいな言い方をされるじゃないですか。ついつい敵対的関係になってリアル本屋 VS amazonみたいな構図になりがちです。でも、三田さんが言う「出合い方」の視点で切り取ると、みんなが比較的同じ土俵で話しあえるというか。

三田 そうなんです。チェーンの大型書店なら稼がなきゃいけない金額が大きい分、どうしても売り上げをひたすら追求して、効率的に本をさばくことを第一に考えざるを得ません。一方で、街の小さな本屋だったら、amazonが手を出さないような本の売り方、つまり効率を優先順位の第一位に置かない本の売り方もまだまだ成り立つのではないかと思っています。

西田 なるほど。

三田 でも、そうは言っても20年間で本屋の数、半分になっているんです。

西田 めちゃめちゃ、減っていますね。

三田 現在の店舗数は20,000あったのが9,000を切ったくらいです。そんな中で、BOOK STAND若葉台は、通常なら大手の取次と口座取引できる規模感ではないけどすごく興味を持ってくれて、契約してくれたのが大きかったですね。新刊本って小さな取次先からでも入荷できますが、そうすると返品が自由にできなかったり、そもそも取り扱えない本も出てきちゃったりして、そうなると一般的にイメージしている「街の本屋」としての機能が保ちづらくなってしまうんですね。

西田 なんか業界的にいろんな課題がありそうですね。

三田 どうするのっていうくらい課題だらけです。そういう意味では、BOOK STAND若葉台でやろうとしている新しい取り組みを、取次のみなさんも興味持って受けとめてもらえたのは良かったです。

西田 三田さんがやられていることって、はたから見ていても楽しそうなんですよね。それがいいなと思って。

三田 ありがとうございます。

西田 今回のBOOK STAND若葉台を構想していた時に、参考にされた本屋ってありましたか。

三田 とくになかったです。六本木のTSUTAYAや青山ブックセンター、それにSPBSもそうですが、都心の最先端の新刊書店って家賃などの固定費を考えると、めちゃくちゃ運用が厳しいんです。基本的に新刊本の利益は2割なので、それでやっていこうとすると結局ひたすらたくさんの本をたくさんの人に見せて、たくさん売るというスタイルに行きついちゃうわけです。
 新しい本屋が飲食と組み合わせたり、雑貨を置いたり、イベントをやったり、なんとか現状を打ち破るように利益率の高いものと組み合わせて新刊本を売るのは、10年くらい前から続く本屋のトレンドですが、それでもやっぱり都内は家賃が高すぎる気がします。そういった反動もあって、長野の栞日やバリューブックスなど、固定費による制約が少ない地方だからこそできる面白い本屋が生まれているんだと思います。

西田 地方のほうが家賃も安いから攻められる?

三田 そうです。そういう本屋には地元を誇りに思う感覚があって、それもうらやましいなあと思いますね。

西田 ただ面白いことやっているだけじゃなく、本屋を介してその街に貢献していると。

三田 はい。ここ若葉台団地も中途半端な郊外にあるけど、そういう面白い本屋が生まれる余地がまだ残されていると僕は思うんです。

「BOOK STAND若葉台」オープン直後の店内の様子

西田 「この団地、住み心地がいいよね」みたいな会話が、BOOK STAND 若葉台をはじめ、ほかのお店でも交わされるようになれば、団地のことを誇り思う人も増えそうですね。

三田 BOOK STAND 若葉台を介して団地に来る人が増えれば、将来、ここへの引っ越しを検討してくれるかもしれない。そうすれば若葉台団地全体の活性化にもつながると思っています。

西田 イベントも含めて、今後の展開、めちゃ楽しみにしてます。

三田 はい。いろいろ攻めます!(笑)

まだまだ話題が尽きない様子の西田さん(左)と三田さん(右)

DATA
・什器の設計・施工
 建築設計事務所勤務:鷹野 魁斗
 横浜国立大学学生:伊波 航、奥野 慎、照井 遥仁、日比野 莉良、三嶌 大介、結城 理子

profile
三田 修平 syuhei mita

1982年、神奈川県生まれ。大学卒業後、TSUTAYA TOKYO ROPPONGI、CIBONE青山店での勤務を経て、SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERSの店長を開店から4年務め独立。2012年3月に移動式本屋・BOOK TRUCKをスタートし、現在までに700日以上の出店実績がある。他にも飲食店や小売店のブックセレクトや、電子書籍ストア「Reader store」のサポートなど、さまざまな形で本の販売に携わっている。2022年8月、団地の本屋〈BOOK STAND 若葉台〉をオープン。

profile
西田 司 osamu nishida

1976年、神奈川生まれ。使い手の創造力を対話型手法で引き上げ、様々なビルディングタイプにおいてオープンでフラットな設計を実践する設計事務所オンデザイン代表。東京理科大学准教授、ソトノバパートナー、グッドデザイン賞審査員。主な仕事として、「ヨコハマアパートメント」「THE BAYSとコミュニティボールパーク化構想」「まちのような国際学生寮」など。編著書に「建築を、ひらく」「オンデザインの実験」「楽しい公共空間をつくるレシピ」「タクティカル・アーバニズム」「小商い建築、まちを動かす」。
http://www.ondesign.co.jp/