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オンデザインのHPにみる
設計事務所の
メディア戦略とは?

text & photo: satoshi miyashita 

創立20年を迎えたオンデザインは昨年来「組織のリブランディグ」に取り組んでいます。今年1月にはホームページを8年ぶりにリニューアル。そこで建築家の門脇耕三さん、山道拓人さんのおふたりをゲストに迎え、「建築設計事務所とメディア戦略」と題したトークセッションを開催しました。新ホームページの感想、設計事務所の発信力、そして組織と個人のSNS活用など、オンデザインにおけるケーススタディをベースにしながら「建築とメディア」について語らいます。

登壇者:門脇耕三(明治大学理工学部建築学科教授)、山道拓人(ツバメアーキテクツ代表)、
司会進行:西田 司・萬玉直子(オンデザイン)

@オンデザイン・イッカイ


※リニューアルされたオンデザインのホームページはこちら

リニューアルしたオンデザインホームページのトップ画面

 
異種格闘技から総合格闘技へ?

西田 本日のゲストは門脇さんと山道さんです。おふたりはとくにメディアの専門家ではないのですが、今後、オンデザインを「こういうふうに発信できたらいいのでは」とか、「こういう紹介の仕方があるよね」といったことを一緒に議論できたらと考えています。よろしくお願いします。

門脇・山道 よろしくお願いします。

山道 ぼくはずっとオンデザインをウオッチし続けてきた身として、新しくなったオンデザインのホームページを見て少しびっくりしました。

門脇 えっ、山道さんってオンデザインウォッチャーだったの?

山道 はい、西田さんを追い続けてきました(笑)

西田 いえいえ(苦笑)

(写真右から)門脇耕三さん、山道拓人さん、西田 司さん、萬玉直子さん

山道 なのでイントロはぼくから話させていただきます(笑)。じつは去年の暮れ、あるコンペテションの祝賀会に参加したんですね。審査員の方が、「最近の建築のありようがまるで異種格闘技戦のようだ」っていう話をされてたんです。ようは作品主義的な人もいれば、まちづくり的な人、運営に関わる人など……いろいろで審査がものすごく大変だと。
 ぼくはそれを聞いたときに、でも実際に異種格闘技戦になっているのかなって思ったんですね。というのは日本における異種格闘技の風景って西田さんが生まれた1976年、アントニオ猪木対モハメド・アリという伝説の一戦からとしてみましょうか。

西田 あ……、はい(苦笑)

山道 ふたりはレスラーとボクサーでカテゴリーが異なるわけですが、猪木はずっと寝っ転がって、かたやアリは立っていたので試合は噛み合わずに終わりました。その試合から8年ぐらいして、初代タイガーマスクの佐山聡さんが「シューティング(修斗)」という総合格闘技の団体を立ち上げるんですね。

門脇 あの……、ついていけないです(苦笑)

山道 ようは審査員の方が言われていたように「設計が得意な人」「企画が得意な人」「運営が得意な人」「メンテナンスが得意な人」など、いろいろなカテゴリーの方々によって建築も立ち上がっているわけで……。みんなが同じ土俵で戦うときにルールとして成立していなかった猪木・アリ戦から月日が経ち、その後さまざまな団体の実践からフィードバックされながら、「総合格闘技」というスポーツができあがったように見えます。現在アメリカではUFCという総合格闘技のメジャー団体があります。

西田 金網の中で戦うやつですね?

山道 そうです。今回、新しくなったオンデザインのホームページを拝見して、オンデザインの過去の住宅、まちづくり、オウンドメディア(BEYOND ARCHITECTURE)も含めて、全部の歴史がひとつの道筋として見えるようになっていますよね。それって、これまでの竣工写真だけを載せてきたホームページの“試合”の仕方とは異なる別の見え方を示唆しているように思えたんです。異種格闘技ではなく、総合格闘技性を感じたというわけです。

西田 なるほどー。

山道 なので設計事務所っていうよりかは建築業界で企画からメンテナンスまでをやるひとつの「生態系」というか「リーグ」とか「大会」のような見え方というか……。
 つまり、これまでの建築業界はゼネコンがそういった「総合請負業者」のような役割を果たしていたけど、ゼネコンってどうしてもつくることに重心を置いています。でもオンデザインのホームページには、ゼネコンとか組織事務所とは違う「新しい総合的な建築のありよう」を感じるんです。

西田 めちゃ、面白い視点ですね。

門脇 西田さんって格闘技に興味があったんだ。ぼくはむしろ、そっちにびっくりしたんだけど(笑)

萬玉 隣りで(西田さんが)すごくうなずいているので、わたしも完全に置いてかれちゃいまいした。

西田 あ、べつに格闘技が好きとかじゃないです。プロレスは好きですけど、プロレスと格闘技は違うので。いや、そういう話をしたいわけでもない(苦笑)。山道さんの話が面白いと思ったのは、「何でもあり」と言われていた異種格闘技戦から総合格闘技に至るまでにも“時間軸”があったってことですよね?

山道 そうです。猪木・アリ戦から30年くらい経つと、「ルール」と「技」と「間合い」にも洗練のプロセスがあります。審査員の方が言われていたように、確かに今はいろんな分野に特化した人が可視化されてバラバラな印象があるかもしれませんが、あと10年くらい研究を続けると、優れた筋が見えてくるようになると思います。オンデザインはそこに早くから取り組んでいる印象があります。

門脇 ぼくもその流れで続けてみます。時間軸で修練していけば「技」が美しくなっていくのはもちろんだけど、やっぱりエンターテインメントだから、そこには観客が面白いと思うかどうかっていう基準もあるわけでしょ?

山道 そうですね。

門脇 観客がいないと総合格闘技化していかなかったと思うんですね。メディアも同じで、観客が誰なのかって大事なことで、建築の場合、大きく分けるとクライアントがいて建築業界の同業者、建築学生、あと建築が好きな一般の人などが観客として想定できそうですよね。

山道 なるほど。

門脇 いわゆるプロの同業者は日々の業務に集中していて、雑誌とかウエブマガジンを見なくなる傾向があると感じています。一方で学生は貴重な観客層だと思う。でも、学生って3年くらいのサイクルで入れ替わるので、新陳代謝がめちゃくちゃ早いんです。そうすると、例えば建築家が、5年に1本特大のホームランを打っても忘れられちゃうわけ。それよりは3カ月に1本、小さなヒットでいいのでコンスタントに塁に出てたほうが結果的に覚えられやすい。つまり「メディア戦略」って非常に難しくて、かつ作品の質を向上させる戦略と必ずしも一致しないんですね。

 
二項対立でない「多中心的な構造」

萬玉 今の門脇さんの「ターゲット層はどこなのか?」についてですが、オンデザインの旧バージョンのホームページはたしか8年くらい前につくったんですね。
 当時は住宅案件を増やすために、トップ画面を「house」と「city」という分け方にして、なるべくクライアントにわかりやすく、共感しやすい構成にしました。結果的に住宅の依頼は増えましたけど、一方でオウンドメディアのBEYOND ARCHITECTUREがはじまってからはとくに「まだプロジェクトの方向性を迷っている段階だけど、できれば一緒に考えてほしい」といった案件が増えてきて。

オンデザインの旧ホームページのトップページ

オンデザイン旧ホームページのトップ画面

門脇 そういう案件ってそのころから増えたんですね。外から見ていても、なんとなくB to Bを狙っているのかなっていうのは感じてました。

西田 でも、それはツバメアーキテクツ(以下、ツバメ)もそうじゃない?

山道 ぼくらの場合、ホームページができて10年くらいですが、画面を左右に割って、左が「DESIGN」、右が「LAB」というつくりです。「LAB」は研究開発のような形のない案件を扱っています。ただ最近は区別しづらいプロジェクトも増えてきて、そういのは混ぜて表示をするようにしていますね。

西田 一応、サムネの下部にも「DESIGN」と「LAB」の表記がされていますよね。

ツバメアーキテクツホームページのトップ画面

山道 はい、めちゃくちゃシンプルですけど。今回、オンデザインの新しいホームページでタグの数を見て驚きました(笑)

西田 例えばリサーチのようにデザインに直結するかどうかも分からない、なんだったら運営とかもそうだけど、そうしたラボ的な案件と建築のように終わりのある案件とをどう扱うのかは、今回ホームページをリニューアルする過程でもすごく迷いましたね。

山道 たしかにプロジェクトが途中のもの、今後向かう先がわからないもの、図面に書かれないもの……たくさんあるけど、そういう案件のほうがむしろ面白い表現につながるとぼくらは考えています。じつはさっきもスタッフと「ツバメのホームページには「DESIGN」と「LAB」のタグがあるのに、画像はほぼ竣工写真しか出せてないね。伝わりにくいよね」っていう話していていたところです(苦笑)。

西田 でも、ツバメのホームページにはネットワーク図やグラフなどが使われていたり、表現方法にはかなり意識的だなと感じていました。

山道 ありがとうございます。ぼくらとしても1階でお店やギャラリーをやったりして、社会との関わり方をいろいろ試してきました。と言いつつも、やはり建築家は社会と関わるためには「建てる」以外のものも含めて、何かを描くところからはじまる気がしていて。
 そう考えると図面はある種のゴールを表現した指示書で、ラボ的な図面のないものはリバースエンジニアリングというか、まちがどうなったかっていうのをあとから描く経過報告、あるいは類推的なドローイングという言い方もありです。だから、さっき門脇さんが言われたように、今後ウエブは3カ月に1回、というサイクルを意識して断続的に発信していきたいですね。

萬玉 わたしは山道さんと同世代で、10年前、ツバメの新しいホームページが「DESIGN」と「LAB」のふたつに分類されているのを見たときは正直「わっ、やられた!」って思ったんです。当時はオンデザインもまちづくりのプロジェクトが少しずつ増えてきたころで、ツバメの分類の仕方がとても新鮮に感じられました。
 今回オンデザインのホームページをリニューアルするにあたって、担当チームともいろいろ話し合ったんですが、オンデザインの旧ホームページにあった「house」と「city」もそうですけど、二項対立型って見る側にとっては明快でわかりやすいけど、その反面、伝える側はプロジェクトの分類がすごくたいへんじゃないかと。

山道 そうですよね。

萬玉 つまりオンデザインが抱えているプロジェクトの種類は、今や1か100かの二項対立じゃ区別できなくて、その間には99もの種類があり、そうした「多中心的な構造」のほうが発信するほうも伝えやすいのではないか。それがトップのローディングに出てくるアメーバ状に浮かぶ言葉の表現につながっているんですけど……。

門脇 ぼくはトップのローディングに今回のようなタグクラウド、タグネットワークを使うのは、B to Bにはすごく有効だと思っています。その一方で、建築学生の場合は、パッと作品写真が見えてこないとアプローチしてくれない側面もあると思う。ツバメのホームページは、むしろ後者にとってはすごく参照にしやすいだろうなと。そう考えるとオンデザインは今後、潜在的な建築ファンをどう増やしていくかが大きなテーマになるんじゃないでしょうか。

山道 ぼくらが「DESIGN」と「LAB」に分けたのは、篠原一男の時代から複雑なものの最小単位が“2”で、そこからすべてがはじめるみたいなことを言われていたから、“3”より“2”のほうがまぁいいかなと(笑)。あと入り口としてのあり方を優先させたというのはあります。だからと言ってこの分類の仕方がツバメの思想と完全に合致しているのかというと、ズレがあって設計以外すべてを「LAB」としています。
 じつはぼくたちが活動をはじめたころよく見ていたのはOMAのサイトです。その中でレム・コールハースはAMOの定義を絶妙に避けていて、もちろん設計事務所とシンクタンクという表現ではあるけど、あまり明確には分かれていないんですね。

OMAホームページの中で、AMOについて解説しているページ

 
グループ化と切断

門脇 アメーバ状に広がる有象無象のプロジェクトを、どうまとめ、どう見せていくか。これって基本的には「切断」の問題です。少しぼくの話をすると、最近、研究室内で建材リユースの「ReLink」という組織を立ち上げて活動している学生が何人かいて、いずれは法人化を見据えているようです。ふだん研究室では学生たちが「ReLinkさんは……」みたいな言い方で会話しているのがすごく面白くて、自分の研究室の中で別人格が生まれた感じがしています。つまり何を言いたいかというと、オンデザインも社内起業みたいなことがあってもいいじゃないか。たんにグルーピングをするだけじゃなくて、オリジナルな視点で事業体として成立するぐらいの、例えば「オンデザイン・プラント」とか「オンデザイン・パーク」とか、法人的な人格のつくり方もありえると思います。

ReLinkホームページのトップ画面

西田 なるほど。

門脇 結局、「この活動ってほかとは違うよね」って他者から見られるには、括り方、切断の仕方にも個性がいる。その個性について考えることも重要なのかなと思います。

西田 グループ化していくときにもいろんな切り口を与えるっていうような?

門脇 そうです。オンデザインの悩みって、さまざまなプロジェクトをやっているけど個人の建築家の名を冠してないから、周りからも「オンデザインって何なのかが、わかりづらくなっている」と、そういうことですよね? 

西田 まぁ……(苦笑)。

萬玉 でも、確かにわかんなくなっているのは悩みでもあるけど、わたし自身は面白さでもあると思っていて。なんならもっとわかんなくなってもいいかなと思うくらい(笑)。 
 以前、オンデザインの公式SNSでイベントや内覧会の告知をするときに、ふつうに「このイベントやります」と投稿するよりも、個人のSNSのように「こういうことを最近考えていて、こういうことについて今日は話したいんだよね」みたいな、ナラティブな語り口で投稿したほうが意外と反響が返ってくることに気付いたんです。だったらオンデザインのことをAさん、Bさん、Cさんそれぞれの語り口で投稿すればいいんじゃないか。主観的な語り口ならみんなが同じ言葉で同じ情報を発信するよりも、ひとつのプロジェクトだけど実態がひとつじゃないように感じられる、そういう伝え方もできるのかなって。

オンデザインのInstagram画面

西田 つまり萬玉さんとぼくとでは物事の捉え方、切り方は違うけど、そうした違う状態、ありようみたいなことがオンデザインの価値なんだという話ですよね。自分が「このプロジェクトのここが面白い」って発信するのも、事務所からオフィシャルに発信するのも、そもそもずれていること自体いいんじゃないかと。

山道 よくオンデザインは「何でもあり」っていうけど、実際はスタッフみんなが空気を読んで、エラーが起きない範囲で仕事をやっていて、それってどこの事務所もですけど建築学科の卒業生たちの倫理観に頼っている部分が大きいと思うんです。そこをもっとシステム化して明確にするのがいいのか悪いのか……、難しいところですよね。

西田 少し違う視点になるけど、先日、オンデザインのインスタで工事現場の写真の中で現場の職人さんがたまたまヘルメットを被らずに写っていた画像を投稿しそうになって。ヘルメットを被らずに現場で働くことは安全基準法上違反だから、それを投稿すれば、結果的に職人さんがディスられかねない。でも、これって単純に投稿するスタッフがその法律を知っているか知らないかの問題なんですよね。ぼくみたいに知っていれば「工事現場でヘルメットを被らずにいるのはNG。たまたまでも誤解されるからこの写真は投稿不可」っていうセンサーが働きます。でも、このセンサーって人から貰うものじゃないんですね。ぼくもこれまでに何度か痛い目にも合ってきたから、(センサーを)自分の中に獲得できたわけで。だからインスタの投稿を担当しているスタッフに言ったのは、「5回までなら炎上していいよ」と。プチ炎上かもしれないけど(笑)。

山道 なるほど。

西田 炎上すれば、ちょっと痛い目にあうけど、でもそれによって獲得したセンサーの感度は確実に上がりますからね。「ここも意外に危ないかも」とか「ここってぎりぎりセーフかな、アウトかな」みたいな。その感覚は実際にやってみないと読めるようにならないと思うんです。
 ぼくも正直「これインスタに投稿して大丈夫ですか?」と毎回確認されるのもちょっと(苦笑)。それで投稿頻度が落ちるくらいなら、どんどん投稿して5回までなら炎上していいよみたいな。

山道 失敗をある程度許容できるシステムにしておくというわけですね。

萬玉 わたしも組織としてそういう環境づくりは大事なんだと思います。

 
「個人」が無名化しない、「個性」の集合体

門脇 話を少し戻すと、さっきの組織内組織のつくり方には、いくつかのやり方があって、ひとつは設計室制。担当するプロジェクトが明確で担当者ごとに個性があって、そこに仕事を依頼するやり方です。これは日建設計が20年ぐらい前にやったやり方だけど、オンデザインの場合はちょっと違っている。個人がそれぞれいろんなプロジェクトをやっていて、外から見るとわからりづらいけど、それはそれでよいとして、個人とオンデザイン、その両方を見えている状態にしたいってことですよね。ぼくもそれでいいと思う。
 例えば大学の建築学科のホームページにもいくつかつくり方があるのですが、組織が前に出てくるサイトと、個人の先生たちが出てくるサイトで印象がガラッと変わります。ぼくは個人の「顔」や「氏名」が出てくる大学のほうが信頼できるんです。なぜなら我々はしょせん組織ではなく個人の集まりにすぎないから。オンデザインも大学と同じで、個人が輝ける会社です。なので、ひとりひとりのキャリアパスも見えるといいなと思う。スタッフはここで何を獲得して、どんなプロジェクトを積み、最終的にどんな「幸福」を獲得したのか。これまでのアトリエ系建築設計事務所って、ひと握りのスター建築家になることだけが「成功」と思われていたけど、オンデザインはスタッフそれぞれに幸福追求権があるところがいいところだと思うんですね。

山道 そういう意味でも、今回のホームページで、めちゃいいなと思ったのが「Partners」の部分。

新ホームページの「Partners」欄

門脇 それぞれのスタッフをクリックすると担当したプロジェクトが閲覧できるのは、ぼくも面白いと思った。スタッフ同士で学び合い、成長している様子が垣間見えるのがいいですよね。スタッフとプロジェクトがタグでひも付いているから、「自分の実績はこれです」と言えるし、個人が無名化しちゃうんじゃなくて、いろいろな個性の集合体なんだっていうふうにも見える。
 できればオンデザインの退職後とか、あと入社前のレポートとかもあったら面白いかも。BEYOND ARCHITECTUREで、所員が「卒業したらひとつ記事を書きます!」みたいなのがあって、タグで追っていくと、この人は「こういうふうに学び、成長していったんだ」というのがわかる。そうなればオンデザインでしかできないような建築の広がりがさらに見えてきそうですね。

西田 たしかに! BEYOND ARCHITECTUREで、すぐに記事化できそうですね。

門脇 アトリエ系の建築設計事務所には作品にならない仕事もたくさんありますが、通常の事務所の所員さんだと「この仕事って作品にならないしコスパ悪くね?」って考える人がたくさんいると思います。でも、オンデザインは場所を盛り上げたり、イベントを運営したり、メディアをつくったり、一見まわり道なプロジェクトもあるけれど、「これこそが建築の可能性を広げているんだ」って主張している。だとすれば、それは担当者の成長やキャリア形成ともイコールであるべきなんだと思います。
 イベントをオーガナイズしながら子どもたちと遊び、まちづくりをしながらそのまちの人たちと共に成長し、それが自分の幸福にもつながっていく……、そういうキャリア形成ができることこそオンデザインの価値なわけで。きっと建築を目指す学生がオンデザインのホームページを見たら、これまでの建築設計事務所にはないチームのありようを感じるだろうし、それが結果的に建築の可能性を広げ、建築人の裾野も広げていくのだと思います。

 
建築の新しい可能性を求めて

西田 今日のテーマは「建築事務所のメディア戦略」でしたけど、ぼくはふたりの話を聞いていて、メディアっていうのは発信であると同時にやっぱり共有と共感なんじゃないかと思いました。
 そして共有と共感にもターゲットは誰で、図面を通したほうが共有の可能性が広がるんじゃないかとか、そこにもいろんな切り口があるんじゃないかということを実感しました。最後に萬玉さんから締めの言葉、もらえますか……。

萬玉 えっわたし?(笑)、そうですね……、自分の考え方が古いのかもしれないけど、今日聞いていてやっぱり「幸福」だけで、建築とか都市に立ち向かっていけるのかという気も少ししたんですね。もちろん個人レベルで幸福を追求し、実現していくことは大切だけれど、一方で建築や都市に対するアクションって社会とどうつながるかっていうことでもあるし、だからこそ批評性を置き去りにするのは違うだろうと思って。ちゃんとみんなが議論できる環境の中でバランスを保ちながら個人の部分も際立たせていけるといいのかなあと。

門脇 そう考えるとやっぱり観客なんですよね。冒頭の議論にあったけど、つまり観客がいる限りにおいては、みんなが知っているような幸福よりも「新しい幸福」を追求しなきゃいけないし、それが建築の可能性にも結びついていくんだと思う。だって「建築の新しい可能性」って「幸福追求」とほぼ同一だから。観客がいるからこそ「それって人に見せる価値あるの?」「本当にそれ新しいの?」っていう第3者目線が必要で、それこそがメディアの役割でもあるのだから。

萬玉 そうですよね。他者をどう設定するのかはメディアにとって大きな指針になるんだなってあらためて感じました。これでまとまってるかな? 

西田 まとまってます!

萬玉 ゲストの門脇さんと山道さん、おふたりとも本日は長い時間ありがとうございました!

門脇・山道 ありがとうございました(笑)

 

リニューアルしたオンデザインのホームページを公開してから半年が過ぎました。運営やデザイン面などで細かな修繕を重ねながら、今なおブラッシュアップが続いています。

 

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門脇耕三 kozo kadowaki

1977年神奈川県生まれ。2000年東京都立大学工学部建築学科卒業。2001年同大学院修士課程修了。博士(工学)。現在、明治大学理工学部建築学科教授、アソシエイツ パートナー。著書に『ふるまいの連鎖:エレメントの軌跡』(TOTO出版、2020)、建築作品に『門脇邸』(2018)、受賞に日本建築学会作品選奨(2020)など。

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山道拓人 takuto sando

1986年東京都⽣まれ。2009年東京⼯業⼤学⼯学部建築学科卒業。2011年同⼤学⼤学院 理⼯学研究科建築学専攻 修⼠課程修了。2011-2018年同⼤学博⼠課程単位取得満期退学。2012年ELEMENTAL(南⽶チリ)。2012-2013年Tsukuruba Inc. チーフアーキテクト。2013年ツバメアーキテクツ設⽴。2021年〜江戸東京研究センター プロジェクトリーダー。2023年〜法政大学 准教授。
ツバメアーキテクツの主なプロジェクト:下北線路街 BONUS TRACK/虫村/ICI STUDIO W-ANNEX/奈良井宿 古民家群活用プロジェクト 上原屋/森の端オフィスなど。
主な受賞歴:第34回JIA新人賞/SDレビュー2022朝倉賞/Under 35 Architects exhibition 2020 Toyo Ito Prize/グッドデザイン賞ベスト100(2021)/第48回東京建築賞 一般一類部門最優秀賞及び新人賞など


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西田 司 osamu nishida プロフィールはこちら
萬玉 直子 naoko mangyoku プロフィールはこちら