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ワークスタイル再考
#04
理想の仕事場って
何ですか?

text:satoshi miyashita photo:akemi kurosaka illustration:awako hori

 

 
緑のあるライフスタイル

伊藤 最近の趣味が「植物」なので、自宅の庭には100種類ぐらいの樹木を植えて、オーストラリアの植物とか、越冬できるのかどうかを実験しています。観葉植物など屋内で置くような木をあえて庭に植えたりして。

西田 それは、伊藤さんご自身の独学でやっているのですか。

伊藤 自分で研究したり教えてもらったりしながらです。以前は軽井沢の庭師に見てもらってました。自宅のある葉山にも(庭師が)たくさんいらっしゃるので教わりながら、だんだんエスカレートしている感じです。

西田 植物はどうやって仕入れているのですか。

伊藤 市場に買いに行ったりしています。

西田 もう完全に専門家じゃないですか(笑)。

伊藤 でもあまりこういう話しをすると、植物業界の方には嫌がられるんです。そういう場所に行くのって、基本、卸業者だけだから、いろんなことがばれちゃうみたいで。

西田 仕入れ値とか。

伊藤 そうです。

西田 僕は「バイオフィリックデザイン」という「仕事場にグリーンがあると生産性が6パーセント上がる」という論文を読んで以降、こういう仕事場が日本でも増えていくんじゃないかと思っていて、最近、自分のオフィスでも、グリーンを70鉢くらいハンギングして設置しました。ちなみに、その論文には、生産性だけじゃなくて、「クリエイティビティ」と「幸福度」っていう定性的なものも、15パーセントぐらい上がるという研究結果が出ています。とりあえず、僕らは、仕事場の中で、どのくらい枯れるか、水やりがどれくらい大変か、いろいろ実験しているところです。

多彩なグリーンとキッチンスペースを併設したオンデザイン事務所

伊藤 それは面白いですね。

西田 ハーブとかはどうしても夏場に弱かったりして、季節の変わり目には1割ぐらいは枯れてしまいましたけど、それでも経験が価値になりますから。実際に管理していると、水はこのくらいの量で大丈夫だとか、頻度はこれくらいが良いとか、いろいろ詳しくなります。
 今回は、SOLSO(ソルソ)FARMという植物の専門チームに協力してもらったのですが、灌水の仕組みもアナログで、いろいろ考えた結果、床を防水にして、ホースで撒いています。

伊藤 まじですか(笑)。僕の場合は自宅なので、ふつうにジョウロを使っていますけど、やっぱりエアプランツ系がいちばん厄介というか。たまに、水をあげなくてもいいふりをするでしょ?

西田 たしかに。

伊藤 でも、その「はっきりしないな」っていうところも含めて植物は面白いんです。

西田 ランドスケープ系の仕事の協力者で、歩きながら目に入る植物は、ほぼすべて分かるという先生がいて、僕の植物の知識はほとんどその方の受け売りですが、やっぱりそういう次元までいくと、街の緑を愛でることができて、雑草も雑草じゃなくなるらしいんです。
 すべての植物に名前があるし、花が咲く時期も違うし、みたいな。そういう目線で風景を眺めていると解像度が半端ないらしいです。

伊藤 半端ないですね(笑)。だって、みんなざっくりと「森」って言ってまいすが、じつは解像度が本当はすごい細かい。雑草だってそれぞれ色が違いますし、それがまとまって全体のグリーンのグラデーションを生成しているわけです。

西田 その先生から聞いたんですが、イギリスには、エデンプロジェクトという巨大なドームに植物を集めて、「EUに生息している植物はそこに行けばすべて見られます」というグリーンツーリズム的なイベントをやっています。面白かったのは植物好きに限らず、緑で癒されたい人たちが結構集まるそうなんです。
 また驚くことに、そこに集められた植物の品種数は、日本の高尾山一山分にある品種とほぼ同じ。EUの植物は針葉樹林がメインなので、種類はそれほど多くないんですね。むしろ日本はEUと熱帯地方との中間点にいるから植物の種類は圧倒的に多いわけです。
 でも、ヨーロッパだとエデンプロジェクトに行くのが価値になるけど、日本はべつに高尾山に行くのって、そこまで価値になってないですよね。

伊藤 そういう視点では考えられてないですからね。

西田 はい。でも、ヨーロッパの人々がそこに行って感じていることと同じことが、高尾山に行けば感じられるはず。ツーリズム的にも日本の植生環境を丁寧に伝えていければ、それ自体をセールスポイントにできるような土壌があるっていう話をされていて。

伊藤 イギリスとかオランダの人って、ふだんから、そういう意識がありますからね。

西田 それこそ仕事から帰る途中に自分の菜園に寄って、ちょっと収穫して、夕食時にディップ付けて食べるみたいな。都心の植物に触れることが日常化していますよね。

伊藤 僕が葉山で暮らしているのは、じつはそういう意識を保とうと思ったからです。オーシャンスイムもたまにしますけど、どっちかっていうと山のほうが好きです。さっきの緑の解像度っていう話、すごく好きですね、僕は。

西田 ぜひ今度、伊藤家に招待してください(笑)。植物鑑賞に行きたいです。

伊藤 僕の周りのスタッフは建物や家具だと「これ何ですか?」ってすぐに興味を示すけど、植物に目を向けてくれる人がほとんどいないんですよね。

西田 じゃあ、伊藤さんの最近のテーマは「緑」ですね。

伊藤 はい、緑の解像度です(笑)。   【了】

 

これまでの記事
#01「ルールとルールの隙間を攻める!?︎」
#02「︎働く拠点はなぜ分散化するのか?」
#03「会社を溶かし空気のような存在に」

profile
伊藤直樹 naoki ito

71年静岡県生まれ。早稲田大学卒業。NIKEのブランディングなどを手がけるワイデンアンドケネディ東京を経て、2011年、未来の体験を社会にインストールするクリエイター集団「PARTY」を設立。サービス&プロダクト、エンターテイメント、ブランディングを軸に活動をおこなう。PARTYのクリエイティブディレクター兼CEOを務める。京都造形芸術大学情報デザイン学科教授、事業構想大学院大学客員教授。成田空港第3ターミナルの空間デザインでは、グッドデザイン賞の金賞を受賞。東京ミッドタウンDesign Touch 2017インスタレーション「でじべじ –Digital Vegetables– by PARTY」の総合演出なども手がける。メディア芸術祭優秀賞、NYワンショー、イギリスD&AD、カンヌ国際クリエイティブ祭、東京コピーライターズクラブなど、受賞歴は250を越える。「クリエイティビティの拡張、領域横断」をテーマに、表現のみならず、新規事業などのビジネスクリエイティブもおこなう。 PARTYでは、クリエイターのコレクティブオフィス「石(イシー)」グループとして、東京にTOKO、鎌倉にSANCIなどを展開中。また、スマイルズ遠山正道氏とアートの民主化を目指すThe Chain Museumを共同事業化している。展覧会に「OMOTE 3D SHASHIN KAN」(2012)、「PARTY そこにいない。展」(2013)など。著作に「伝わるのルール」などがある。作品集に「PARTY」(ggg Books)。(PARTYホームページより引用)