ボクがウェブメディアを
はじめた理由、
続ける理由。
初の単著となる『建築家のためのウェブ発信講義』(学芸出版社)を、この4月に上梓予定の後藤連平さん。10年前に立ち上げた建築系ウェブサイト「アーキテクチャーフォト」は、今では建築業界の枠を超え、唯一無二のWEBメディアとして広く認知されています。今回のケンチクウンチクは、後藤さんが活動の拠点としている静岡県浜松を訪れ、西田さんとメディアへの思いを存分に語りあってもらいました。
@ニューショップ浜松
西田 後藤さんが運営されている「architecturephoto.net」については、ずっとお話を聞きいてみたいと思っていました。オンデザインも昨年から「BEYOND ARCHITECTURE」というオウンドメディアをスタートさせたんですが、ぜひ“建築とメディア”について、勉強させてもらおうと思い、今回は編集部一同(デザイナーも入れて総勢5名)でおしかけた次第です(笑)。
後藤 たくさん来られたので、すこしびっくりしましたけど、よろしくお願いします(笑)。 今日はアーキテクチャーフォトをはじめたきっかけなどもお話すると思って、じつは14年前の、学生時代に作ったポートフォリオを持ってきたんです。
就職活動用にみなさんも作った経験があると思いますが、よくあるのは印刷したものをファイリングする形。僕はビニール越しに作品を見せるのが嫌で、本をまるまる作りました。
気分はもう巨匠建築家で、作品やその意図を伝えるためのレイアウトや写真の映し方・置き方もすごく考えました。「作ったものをどう見せるか?」という作業は、じつはここが原点だったりします。
「同じ作品でも、見せ方を変えるとその価値が変わる」といった編集の醍醐味も、このときに気づきました。
西田 なるほど。
後藤 同じ作品でも、建築家のコーポレートサイトに載るのと、アーキテクチャーフォトに載るのでは、意味や捉えられ方が違ってきます。なので、サイト立ち上げの時から、建築家に資料を提供してもらい、表現やレイアウトの切り口を変えてパブリッシュするだけで見られ方が変わるということは意識しています。
西田 後藤さんが、アーキテクチャーフォトをはじめたのはいつですか? 以前から「建築メディア」を立ち上げようという意識をもってはじめたんでしょうか。
後藤 アーキテクチャーフォトの最初の記事は、2007年のものですから、もう10年くらいやっていますね。大学院時代、建築家の菊地 宏さんがご自身のホームページを作っているのを見て、自分も建築家として世に出た時は「これは絶対に必要になるはず!」という可能性を感じて、自分でもはじめてみました。
そこには学生時代の作品写真やポートフォリオを載せていました。建築の展覧会などの情報を紹介するコーナーも作ったり。その後、もっと建築に特化したホームページをはじめてみたくなって、自分で撮影した建築写真だけを掲載するサイトもはじめました。いずれビジネスになればいいなという期待感も持ちながら。
“アーキテクチャーフォト”のはじまり
後藤 そんなある日、僕のサイトを見たイタリアの建築雑誌『Domus』から「藤森照信さんと内田祥ニさん設計の『ねむの木こども美術館』の建築写真を撮ってきてほしい」というオファーがありました。実際に、その写真を撮って送ったら、ちゃんと掲載され、報酬ももらえたんですね。
その時に「これはいけるのでは?」と思い、良いカメラも買って、次の仕事を待ったんですがなかなかそう上手くは行かなくて……、結局、そのカメラは最近ヤフオクで売りました(笑)。
西田 (笑)
後藤 はじめてみてわかったことですが、自分で撮った写真を掲載するサイトって、毎日の更新が難しいんです。頻繁に更新しないとサイトには見に来てくれなくなるので、建築関連のニュースを載せる情報コーナーを作り、ニュースを見た人がついでに写真も見られるといったように構成を考えました。
で、だんだん続けていくうちに情報コーナーの比重が大きくなり、現在のアーキテクチャーフォトに至っている感じです。
西田 たしかに、“アーキテクチャーフォト”ですから、そこには“photo(写真)”が根底にあるんですよね。
後藤 そうですね。ファッションの世界だと、Fashionsnap.comというサイトもスナップ写真だけを見せるメディアだったのが、だんだんとファッションニュースを取り扱うようになり、メディアとして大きくなっていったという経緯があって、アーキテクチャーフォトと似ているなと感じます。
建築文化の中でウェブサイトが育っていった
後藤 僕がホームページをはじめた頃って、ネットのニュース記事のまとめサイトって、たくさんあったような気がします。サッカー日本代表戦などのトピックが絞られて、リンク集になっているような。
けれど、今はあまり見かけませんよね。リンクをまとめただけのサイトから読者が離れていく中で、アーキテクチャーフォトが存続できているのは、第三者(メディア)がある作品を評価する、認める、という概念が、建築の世界にはすごくハッキリあるからだと思うんです。「新建築に載っている」=「この作品は新建築に認められている」というような。
いま「アーキテクチャーフォトに載っているから見よう」と思ってもらえるのも、「アーキテクチャーフォトが掲載する価値ありと判断した事」への読者の信頼感や経験則が培われてきたからこそだと思います。
僕は以前からウェブの世界は反応がとてもわかり易いところも、面白いと思っていました。アクセス解析で反響の有る無しもすぐ分かりますし、数字を通して読者と対話して、メディアをブラッシュアップさせていく。そういうことがウェブではやりやすいんです。
西田 ちなみに、現在、アーキテクチャーフォトのビュー数はどのくらいですか? 徐々に伸びる、何かきっかけがあって伸びる、など過去10年の中で特徴的な動きって何かありました?
後藤 ビュー数は徐々に伸びていきました。現在、重複なしで数えると月6万人に見てもらっています。ザハ・ハディドの新国立競技場の設計プランについて、磯崎新さんが声明を出した当時、たくさんのメディアが取り上げるけれど、一部分だけを切り取ったセンセーショナルな報道をしていました。
そこで僕は全文を掲載したいと事務所にご連絡して、磯崎さんの声明文をそのまま全文載せました。そうするといろんなニュースサイトなどで、「全文はアーキテクチャーフォトにある」とリンクを張れるので、1ヶ月で8万ユニークユーザー数になったことがありました。まさに建築という枠を超えてサイトを見てもらった出来事でした。
とはいえ、数字はそこまで気にしていないところもあります。気にしすぎると下がってしまったときにモチベーションを保てなくなるというか、続けるのがつらくなっちゃいますよね。「楽しい」とか自分の中のポジティブな感情にモチベーションを置いたほうがメディアって続くと思います。
西田 新国立競技場が騒がれていた当時、SNSのタイムライン上では何度もアーキテクチャーフォトの記事が流れていたのは、よく覚えています。
後藤 アーキテクチャーフォトのSNSは、Twitterを最初に初めて、次にFacebook、いまはLINE@もはじめました。後はInstagramですね。
Twitterは10年目くらいになります。アーキテクチャーフォトと個人のアカウントを同時にはじめて、当時はTwitterも炎上とか言葉狩りみたいな事もあまりなくて、自由な感じでした。みんなで和気あいあいとUstream見ながらイベントの感想を書きあったり、楽しかったなあ。
作者・写真家へのリスペクト
西田 アーキテクチャーフォトは、いわゆるウェブメディアですけど、10年の積み重ねの中で他のメディアとの距離感や差別化ってどのように考えています?
後藤 アーキテクチャーフォトのポリシーとして、「写真家さんが撮った写真や建築家が作った画像はコピペをしない」という事は決めています。とくにウェブ上のメディアだと、作品画像をスクリーンショット一枚とってきてライトな紹介記事に仕上げるという事をすごくよくやられていますが、僕はそれはあまり正しいとは思っていなくて。ただ、それでもメディアとしては成り立ってしまうのも現実にはありますが、作者や事務所に許可を貰うというプロセスをスキップしてしまうのは……。
アーキテクチャーフォトでは、建築家の方々とコミュニケーションをとる事を重視しています。特集記事として作品紹介をするためにやりとりした方には、いつも自分なりに感想を伝えているんです。ウェブ上ではあっても、メディアとして続けていくにはきちんと連絡を取り合って信頼関係を作っていく事が大事なんじゃないかと。
それから、写真家の著作権や著作人格権といった権利も大事にしたくて、「無断使用はしない」「勝手に改変しない」と強く意識しています。表立っては意見しませんが、ネット上ではその感覚は希薄だと思います。