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MINOYA STORY
#03
バラバラな状態を
いかにつくるか

text :aya sakurai
photo:tsubasa kuroiwa / akemi kurosaka

“what’s  MINOYA??”

品川区南大井にある築60年のリノベーション、
それは美容室を舞台にした「暮らしの物語」です。

 

扉の先にはどんな空間が広がっているのか? photo:akemi kurosaka

 

前回までは日記形式で、プロジェクトのはじまりを綴りました。

3回目の今回は、設計者であり住人でもある私たちメンバー3人と編集長とのQ&A形式で、設計時のことについて振り返ってみようと思います。質問に回答する3人の空気感がこの空間の世界観にも通じていて、ぜひ楽しみながら読んでいただければと思います!

 
世代と女性ということだけが共通項

編集長 あらためて櫻井さんが設計メンバーとして、鶴田さんと吉村さんに声をかけた理由を教えて。

櫻井 純粋に設計を一緒にしてみたかったから、ですかね。

吉村 キレイな理由(笑)

櫻井 いちばん最初にこの物件を拝見した時、直感的に女子っぽいなと感じていて。今回、ご相談をいただいた安永さんも女性、工事の概算をお願いした工務店の担当者も女性だったので、だったらこのまま全員女性メンバーでいくのもありかなと。設計に関して言えば自分ひとりでやる考えはなかったので、それなら対等に議論ができる同世代のメンバーとやれたらと思ったんです。

 

編集長 同世代と女性という共通項が今回のリノベのポイントだったんですね?

吉村・鶴田 そうですね。

鶴田 竣工後は、ここに住むことが決まっていてたので、設計に対するモチベーションもこれまでと違ったんだと思う。住みはじめてからのことをリアルに考えたりしましたから。

櫻井・吉村 それ、あったね!

吉村 「自分が今持っているものを実際に共有部に置くとしたら何があるか?」っていうリアルな会話もしたよね。

櫻井 つまり、自分たちが実際にもっているコトやモノに落としながら設計していたと思う。

左から設計メンバーの吉村さん、鶴田さん、筆者(櫻井) photo:akemi kurosaka

 

編集長 3人とも、以前の住まいがシェアハウスだったそうですが、今回とどこか違いはありましたか?

全員 全然違う(笑)

吉村 シェアハウスにもいろいろあって、実生活はすべて自分の部屋の中で完結して、共有部分には一般の人たちが入ってきてもいい“寄合所”的な使われ方だったり。

鶴田 一方で個室は最低限のベッドやモノだけで、3人の私物が少し外に滲み出た、大きな共有部があったり。シェアハウス生活を経験していたからこそ設計中は、リアルなシーンをいろいろ想像できたというのはありましたね。

 
洗面台が共有部のメイン!?

櫻井 空間の中心にある界壁は壊せないので、現在のキッチン側に水回りをまとめる案もスタディしたり、プランニングはいろいろ模索しました。

吉村 そのプランを見た時に「いわゆるシェアハウスと何ら変わらないのでは?」という疑問が浮かんで……。だとしたら、「もう少し美容室を活かしたプランにしたいね。」と。

鶴田 確かに。その議論はとても印象に残ってます。

櫻井 設計する私たちも含めてプロジェクトメンバー全員とで議論したのは、美容室を活かしたつくり方をすることで、どんな価値として生まれ変わるかについてでした。

吉村 美容室ってまさに鏡やシャンプー台をメインにして空間ができているので、だったら洗面台を空間のメインに据えようということになりました。外出時の身支度の時間と朝食をとる時間を等価に扱うような意図ですね。

櫻井 それは今回の案件にとって大きなポイントだと思う。

洗面台を中央に配置する photo:tsubasa kuroiwa

 

編集長 そうした議論にはプロジェクトメンバー全員がいつも参加していたの?

全員 結構、参加してましたね。

櫻井 新たな提案の方向性や空気感をプロジェクトメンバー全員で共有しながら進めたかったので、みんなで議論する時間は意識的につくっていました。

鶴田 銭湯が隣にあったので、思い切ってシャワールームのみという選択をしたのも、工務店さんからの提案だったと記憶してます(笑)

 

既存の世界観を丁寧に扱う

編集長 ちなみに築60年の物件となれば、正直、建物の古さに悩まされたこともあった?

櫻井 もちろん床の傾きや、隙間風といった問題はありましたけど……。

吉村 それ以上に、解体後の2階の小屋組みを見た時の感動がとても大きかったですね。丸太のような立派な梁を見て、今回、天井を塞いでしまう案はないなと。現場からすぐにふたりに連絡したのを覚えています。「かっこいいい! 残そう!」って。

見せることを即決した小屋組 photo:tsubasa kuroiwa

 

鶴田 かっこいい小屋組みを活かすために、各個室の天井にポリカ(ポリカーボネート)を採用しました。天井にペンダントライトが灯ると個室内でもポリカ越しに小屋組みの雰囲気が感じられます。

小屋組がうっすら見えるポリカ天井 photo:tsubasa kuroiwa

 

櫻井 個室内に関しては面積もあまり取れないので、窓辺を少しだけつくり込みました。籠もって読書をしたり、クッションを置いてゆっくり過ごしたり、パソコン作業ができるようなデスクだったり、収納にしたり、3つの部屋それぞれが少しずつ違った工夫をしています。

窓辺にこもって読書 photo:akemi kurosaka

 

編集長 オーナーさんの要望って、どの程度あったのかな?

櫻井 オーナーさん自身は、ここまで残すと思ってなかったので驚きの方が大きかったと後から聞きました。内装は美容室を借りていた方(美容師さん)が勝手にやってしまったということだったので、オーナーさんの好みではなかったそうです。

鶴田 でも、現場を見学に行った際に私たちはこの空間にビビッときて……。

吉村 (オーナーさんも)既存の世界観を残すことを尊重してくれて、1階に関しては大きな変更箇所は意外とないんです。

before photo:tsubasa kuroiwa

櫻井 大きな変化は小上がりができたことくらいかな。あと2階の個室の間仕切りだった建具をリメイク(障子を剥がしてクリーム色に)して設置したり。既存の鏡の位置を少し変えたり、既存の棚を残したり。

鶴田 シャンプー台をきれいに自分たちで磨いて、洗面台として再利用したり。

after photo:tsubasa kuroiwa

 

櫻井 なかでも慎重だったのが内装の素材の色味ですかね。

吉村 そうだね。とくに緑色のボーダー部分と一緒に見えてくるクリーム色かな。

鶴田 緑色は既存そのままで、その他のベースカラーの白を「クリーム色」にしたんです。

 

編集長 完全な「白」じゃないのがまたレトロ感を強調していますね。

吉村 仕上げに関して言えば、小上がりの床とピンク色の壁面もこだわりポイントですね。あと床仕上げ部分はたまにゴロンとできる場所にしたいなあと思いました。一般的なフローリングにしてしまうと住宅っぽくなりすぎるので、いわゆるリビングで使う素材とは違うもので試したかった。

櫻井 スケール感的にもフローリングだとアンバランスなんじゃないかと感じていました。

ピンク壁と木ブロック風仕上げ photo:akemi kurosaka

 

吉村 この床は職人さんが、木材を金太郎アメ方式でひたすらにカットしてつくってくれたものなんです。3cmくらいの厚みでひたすら……(汗)

鶴田 職人さんの努力を尊重し、2ヶ所に転用してます。ひとつは部屋のサインに。

櫻井 それと玄関ドアの下半分。

木ブロック風仕上げを使った部屋名サイン photo:akemi kurosaka

 

ゴールはひとつではないという感覚

吉村 プランが固まってから議論の中心にあったのは、「自分にとって、美容室とは?」ということ。例えば、(美容室とは)ひとりの時間を満喫している状態とか……。

櫻井 それぞれが違うことをしているけど、場所を共有しているというか。

「美容室とは?」の回答を出し合った記録 当時のプレゼン本より

 

編集長 建築の場合、何人のメンバーで、ひとつのイメージを共有してながら仕事をしていると、最終的にそのイメージにズレが生じてきたり、最初に考えていたことと合わなくなるってこともあったりするの?

吉村 わたしたちの設計って、女子の会話と同じようにいろんな話題が好き勝手に起こっているような感覚なんです。だから、3人の考える設計が同時並行でバラバラに進んでいっていました。それが心地よかった。

櫻井・鶴田 確かに。

吉村 「その話もあるけど、別でこの話もあるよね」というように、複数、同時にあっていいという感覚。

櫻井 一般的に建築ではコンセプトを明確にして、一本化する意識が強い気がしていて。今回、元美容室であることをきっかけに、考えていたのは、「ひとりの時間だけどみんなの場所」であったり、「日常でもあるけど非日常でもある」という、どちらかに決めようということではなく共存させること。

吉村 設計の議論の中で、今回は結論をひとつに決めて進めない、3人がバラバラなまま設計することを無意識のうちにしていましたね。

 

バラバラに設計してきたことの記録 sketch riku takenaka/ondesign

 

櫻井 だから、ズレというのが生じない。

吉村 そもそもイメージを正確に合わせたりコントロールしたりしないからズレがあると感じない。

鶴田 同時並行で考えて、勝手に進んでたね。

吉村 ここに来てくれた人から、よく「女子的」だと言われるのはそういう部分にあるのかもしれない。

 

編集長 オンデザインのプロジェクトやチームでの議論とは違うのかな。それが言語化できるといいかもしれないですね。

吉村 全然違いますね。

櫻井 普段のオンデザインの仕事とは違う感覚でやっていましたね。違って当たり前で、他者もしくは他者とものとの関係を自分がコントロールできないと思っている感じですかね。

鶴田 思い返せばプレゼンの際の説明や表現も、いわゆる最終ゴールを提示して、それを説明していくプレゼンではなかった。

吉村 確かに。めちゃくちゃ「部分」の積み重ねで説明していました。「最終ゴールを描いてそれに向かっていく」って、とても建築的な思考ですよね。今回のように部分を積み重ねていくつくり方は改修だったからよかったのかもしれないですね。

櫻井 改修にはコンテクストがたくさんあって、いろいろな営みがあったわけで、それに対しての感じ方、ものに対して思うこともさまざま。その感覚をそのまま設計で積み重ねている感じでしたね。

吉村 3人の中で純粋に共通してもっていたこととして、最初の見学でこの空間に入った時の「かわいい」を感じる世界感をいかに残しながら変えるかってところ。それからどう居心地よくするかをそれぞれがバラバラに設計していった感じですかね。

 

日常風景 photo:akemi kurosaka

 
次回もお楽しみに!

 


 DATA 
設計・監理:櫻井 彩+吉村 梓+鶴田 爽+高橋 沙織
施工:重久 萌+佐藤 真生子/ルーヴィス
サイン:伊藤彩良
事業企画・運営:合同会社実ノ屋
運営構築サポート:櫻井怜歩
建築主:安永妙子
Instagram:minoya.pj
建築概要
規模:地上2階
構造:木造
建築面積:34.7 m²
延床面積:66.09 m²
 
  CONCEPT  
60年の元美容室を暮らしの場所としてリノベーションするプロジェクト。
これまでの「シェアハウス」は、いかにして集まって暮らすかを中心に語られてきた。このプロジェクトでは、いかにして1人の時間を充実させつつ他人と暮らす豊かさを感じられるか、を中心に考えた。
美容室の特徴的要素である鏡、洗面、水回りを玄関入ってすぐの共有部に主役として配置することで、食事や談話の時間と「身支度を整える時間」が等価に扱われるような暮らしの場を構成している。
集まって同じ時間を共有するだけではなく、11人が思い思いの時間を過ごしながらも互いの気配を感じられる。そんな居心地のよい暮らしを実現している。

 

左から吉村さん、櫻井、鶴田さん

profile

櫻井彩(さくらい・あや)/千葉県生まれ。千葉工業大学大学院修了。2016年よりオンデザイン。
主な作品: シェアオフィス・コワーキングスペース「G Innovation Hub Yokohama」、vivistop 柏の葉リニューアルPJ 「子どもたちが更新し続けるものづくり空間」、DeNAべイスターズ選手寮。「BEYOND ARCHITECTURE」編集スタッフとしても活動中。

吉村 梓(よしむら・あずさ)/東京都生まれ。明治大学大学院修了。CAtを経て、2017年よりオンデザイン。
主な作品:FUTAMATA RIVER LIBRARY。進行中の作品として鎌倉カントリークラブ改修(2022年末オープン予定)、芹ヶ谷公園″芸術の杜″および町田市立国際工芸美術館(2025年オープン予定)。

鶴田 爽(つるだ・さやか)/兵庫県生まれ。京都大学大学院修了。2016年よりオンデザイン。
主な作品: 深大寺の一軒家改修「観察と試み」、クライアントと建築家による超DIY 「ヘイトアシュベリー」、バオバブ保育園。模型づくりワークショップ担当としても活動中。