MINOYA STORY
#04
ご近所付き合いの予感から
“what’s MINOYA??”
品川区南大井にある築60年のリノベーション、
それは美容室を舞台にした「暮らしの物語」です。
少し時間が空いてしまいましたが、
前回までは、実際に設計していたメンバー3人が何を考えていたかについて記事にしました。
今回は2本立て。
昨年のマルシェのイベントを通して、わたしたちの中でご近所さんとの関わりやまちへの視点が芽生えはじめたことについて、
今回と次回の2回に分けて、ご紹介できたらと思っています!
date : January.2023
ほんの少しまちへ
ちょうど1年くらい前のこと。
MINOYAでマルシェを開催しました。
コロナ禍を経て、少しずつ世の中が落ち着いてきたこともあり、
昨年はMINOYAとしてもさまざまなイベントを経験したなぁと振り返り……、
そのひとつでもあった4月30日のマルシェ開催について書いていこうと思います。
ご縁があり近所の方とも少しずつつながりができてきました。
自分たちの暮らしから、まちへと徐々に意識が向くようになってきた時期でもありました。
ありがいことにTV出演などを経験し、
「1階の共有部で何かやってみたいことはあるか?」
という質問をされる機会も増えたので、
「何かやってみようかな」と意識的に考えるようになりました。
そのほかにもロケ地登録をしたことや、MEANWHiLEというwebサイトに掲載いただいたことで、
暮らしの場所として自分たちで使うこと以外に、
どんな可能性があるのか探りたいという思いが強くなったのを覚えています。
わたしたち以外の人がこの場所を使った時に、どんな使い方になるのかは、とても興味がありました。
使う人が変わればきっとまた、1階の見え方も変わるだろうと……
わたしも含めて3人全員とオーナーさんの中で、
「そろそろ何かしてもいいかも!」
という気持ちが大きくなったので、思いったたら吉日!
企画を立ち上げ、4月30日にマルシェを開催することに決めました。
ご近所付き合いから
出店者さんを考える際に大事にしたことのひとつは、
ご近所でお知り合いになった方にぜひ参加してほしいという思いでした。
その思いが届いたのか、参加する出店者の4組中2組は近所にお住まいの奥様でした!
そのほかに、オーナーさんのお知り合いの方が2組(この方は次回、マルシェ当日の様子の記事でご紹介します)。
そして私たち自身も、新潟十日町市松代の棚田応援プロジェクトにチャレンジしていて、
新米が届いたタイミングだったので、マルシェでそのお米をお裾分けをすることになり、一応、1出店者としての参加が決まりました。
結果、私たちも含めると出店者は総勢5組となりました。
今回ご出店いただいた中で、ご近所にお住まいのふたりの奥様については、
ここでぜひご紹介したいと思います!(名前は伏せますが.…..)
ひとり目。
我が家の並びに住んでいる、ハンドメイドで編みぐるみをつくっている奥様。
YouTubeを観ながら、趣味程度にはじめたと言っていた編みぐるみは、
趣味とは思えないほどのクオリティの高さ。
コロナの時期に外に出れなくなってしまったことをきっかけに、
メルカリなどでちょこちょこ売っていたけれど、
最近はやらなくなってしまって、家にたくさん残っているというお話を聞きました。
(その日にご自宅に伺い、実際に見せてもらったのが懐かしい……)
結構な数が残っていたので、「ぜひお店を出してください!」
とお願いしたところ快くお引き受けくださって出店が決定。
開催までに新作も制作してくれるそうで、マルシェをモチベーションにして、また制作の意欲が出てきたとのことでした。
今回のマルシェが、ご近所の方々の創作意欲復活のきっかけになったのはとてもうれしい!
出社の時に、庭先でお掃除をしている奥様と遭遇するのですが、
コミュ力がめちゃ高い方なので、いつも話し込んでしまって通勤の電車を逃してしまったことも……(笑)
ふたり目。
もうひとりは衣類から小物までリメイク品を作成している奥様。
ファッションに関するリメイク雑貨がたくさんあるそうで、
じつは今回のマルシェとはべつに、
着物をリメイクして服をつくっているという話を伺いました。
わたしは、その話を直接は聞けなかったのですが、
ほかのメンバー2人が聞いていて、リメイクした服を見に行ってくれたことがありました。
すると
じつは、MINOYAの前の通りを使って、
ファッションショー(主催:八潮ハーモニー)をやりたいと思っているので、
「モデルで出てほしい!」
とまったく予想していなかった展開に!(笑)
突然のオファーに、「私たちがモデル!?」
と戸惑いながら、こんな機会もないと思い、3人全員で参加することを条件に快諾の返事をしました。
少しマルシェの話とはそれてしまいますが、
今までファッションショーに使うなど想像もしていなかった我が家の前の道路。
1日限定でファッションショーのランウェイになる!?
お話をもらった時は信じられなかったのですが、とてもワクワクしました。
そして同時に、そんなふうに考えて活動している方が、
こんな近くにいらしたことにとても驚いたのを覚えています。
私たちの中で無意識のうちに「暮らし視点」だったMINOYAが、
まちへと向かう後押しになっていたのだとこの時の話から思いました。
余談ですが、じつは奥様にマルシェへの出店を依頼したのはファッションショーの話が決まった後です。
とても快く引き受けてくださり、マルシェを通してファッションショーも広められたらうれしいなと考えていました。
懐かしい感覚
この2名の奥様は、それこそシェアハウス「MINOYA」になる以前、
「タカラ美容室」で美容師さんがひとり住み込みで働いてた頃をリアルにご存知で、
お知り合いにはお店に通うもいたそうです。
私たちがこの場所に出合ったのは美容室が閉店してから……。
当時の様子をリアルに知る方がこうして、シェアハウスとして生まれ変わってからも関わってくれているとのいうのはとても貴重だなと感じています。
おふたりと知り合いになってからは、よく近所で立ち話をお話をするようになりました。
ひとりでマンションやアパートに暮らしていると隣人のことを知らなかったり、
むしろそのほうが私の中で普通になっていて、「ご近所付き合い」とは、こういうことかと……。
なんとなく実感が湧いてくる出来事でした。
実家で暮らしていた、幼少期のことをふと思い出しました。
当時、近所には知り合いがばかりで、
近所のおばあちゃんとは「いってらっしゃい」「いってきます」と交わすのが普通でした。
その時は、
「これが近所付き合いか〜」
と思うこともなく、それがごくごく自然な日常の風景でした。
でも、今回の出来事を通して、幼少期と重なる感覚をもちました。
少しだけかもしれませんが、まちの中に接点がもてたような、なんとも不思議で懐かしい感じ。
そんなつながりができたことを考えながら、マルシェの準備に奮闘していきます。
date : 23.April.2023
楽しみ感を高める
マルシェの醍醐味とは、当日の楽しさだとはもちろん思いますが、
じつはそれまでの準備段階にもあるような気がしています。
日頃、オンデザインで拠点運営の仕事に関わっていることもあり、
準備期間の積み重ねの中に重要な価値があると感じる場面をたくさん経験してきました。
そんなことを漠然と考えながら….…、
開催に向けて、
告知のために出店者さんの情報が掲載されたフライヤーを作成しました。
まずはそのフライヤーを持ってご近所へ、マルシェ開催にあたり挨拶まわりから。
マルシェの開催当日は日曜日。
隣りの銭湯(水神湯)は、その日は営業日で15時には開店します。
少しツンデレの番台の奥様ですが、なんだかんだいつも気にしてくださっているので、マルシェのことを説明がてらご挨拶に。
(これは完全に余談ですが.…..)
じつは密かに気になっていたのが、銭湯へ来る人たちの自転車。
銭湯の前のスペースだけでは足りず、MINOYA の玄関横まで停まっています(笑)
玄関を開けて、知らない人がすぐ横にいたりしてびっくりすることもありますが、そんな小さな越境が、近所の日常を感じる面白いひとコマです。
そのあとは近所の「かっちゃん」というご夫婦で経営されている居酒屋さんへ。
わたしたちもたまーーにお邪魔するまちの居酒屋さんなのですが、フライヤーを持って行くと、
「店内に貼っておいてやるよ!」
と、その場で貼ってくれたり。
最近できたハンバーガー屋さんの「RAMONE BURGER」さんに チラシを置いてもらうように頼んだら、
「そんなに集客力はないかもしれないけど、数枚置いていってくれていいですよ!」
と言ってくれたので、置かせてもらえることになったりと、
ご近所の方々がすごく協力してくださるので開催への意欲が増しました。
それから……あまりポストしていない我が家のInstagramからも告知をしたり、
「いろんな人が来てくれますように……」
と日々コツコツと発信しながら、準備をしていくのでした。
次回は当日の様子をお伝えしますので、お楽しみに!
MINOYA THINKING
「まちにひらく」
その感覚を最初から持つことへの違和感。
MINOYAを設計する際に、なんとなくあった感覚。シェアハウス=暮らしをまちにひらく
設計をはじめた当初、なんとなくあった固定概念。
共用部になる1階の在り方を考える中で、前提が「まちにひらく」になりすぎていないか?とふっと思う瞬間があった。そのまちに暮らす以上、まちへの意識が全くなかったわけではないが、設計してそのまま住むことが決まっている特殊な環境で、純粋に「美容室に暮らす」というテーマで設計しようと割り切ったことが、大きなポイントだったと思う。私たちは暮らしの場として使っているので、物の置く場所はある程度決めている。マルシェの時に使いやすいようにつくったところはほぼなく、まちへ何かアクションが起こせるかもしれないという予感を持たせているのは、緑の折戸くらいだろうか。
だが結果的に、暮らしを考えることを突き詰めたMINOYAを舞台として、マルシェを行う企画が立ち上がった。近所に住む人との関わり合いの中で、少しずつまちへと意識が向いてきた時に、暮らしの場としてのMINOYAがまちへの参加の仕方を想像しはじめる。この流れが自然な感じがした。
マルシェのようなイベントで出店者たには、はじめて見たこの空間をわたしたちが思っているよりも使いこなす力がある。その発見もまた楽しいポイントである。
DATA
設計・監理:櫻井 彩+吉村 梓+鶴田 爽+高橋 沙織
施工:重久 萌+佐藤 真生子/ルーヴィス
サイン:伊藤彩良
事業企画・運営:合同会社実ノ屋
運営構築サポート:櫻井怜歩
建築主:安永妙子
Instagram:minoya.pj
建築概要
規模:地上2階
構造:木造
建築面積:34.7 m²
延床面積:66.09 m²
CONCEPT
築60年の元美容室を暮らしの場所としてリノベーションするプロジェクト。
これまでの「シェアハウス」は、いかにして集まって暮らすかを中心に語られてきた。このプロジェクトでは、いかにしてひとりの時間を充実させつつ他人と暮らす豊かさを感じられるか、を中心に考えた。
美容室の特徴的要素である鏡、洗面、水回りを玄関入ってすぐの共有部に主役として配置することで、食事や談話の時間と「身支度を整える時間」が等価に扱われるような暮らしの場を構成している。
集まって同じ時間を共有するだけではなく、1人ひとりが思い思いの時間を過ごしながらも互いの気配を感じられる。そんな居心地のよい暮らしを実現している。
profile
櫻井彩(さくらい・あや)/千葉県生まれ。千葉工業大学大学院修了。2016年よりオンデザイン。
主な作品: シェアオフィス・コワーキングスペース「G Innovation Hub Yokohama」、vivistop 柏の葉リニューアルPJ 「子どもたちが更新し続けるものづくり空間」、横浜DeNAべイスターズがプロ野球選手のためにつくった総合練習場「DOCK OF BAYSTARS YOKOSUKA」の選手寮。「BEYOND ARCHITECTURE」編集スタッフとしても活動中。