MINOYA STORY
#01
prologue
暮らしの舞台は美容室?
“what’s MINOYA??”
品川区南大井にある築60年のリノベーション、
それは美容室を舞台にした「暮らしの物語」です。
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完成時にプロジェクトメンバー女子8人で撮った写真 photo:tsubasa kuroiwa
このプロジェクトがはじまったのは2020年1月。
その時はまだ、こんなコロナ渦になろうとは知りもせず……。
そして、それから一年後の今年、2021年1月、「MINOYA」完成。
コロナ禍の真っ只中ということもあって、予定していた内覧会は中止に……。私が、MINOYAに引っ越したのはその月末のことでした。
暮らしはじめて、すでに半年が経とうとしています。完成から少し時間が経ちましたが、ここでの暮らしにも少しずつ慣れ、振り返りも兼ねて、このプロジェクトについてレポートすることにしました。
まず第一弾は、“prologue”として簡単にこのプロジェクトがはじまった経緯をご紹介します!
date : 24.january.2020
オーナーとの出会い
私は現在、オンデザインに所属し、建築の仕事に携わる日々を送っています。
そして、その傍らで週1回程度、2年前に私が設計を担当したシェアオフィス・コワーキングスペース「G Innovation Hub Yokohama」(以下、G)で、コミュニティマネージャーとしても活動中です。
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横浜・関内の駅近にある「G Innovation Hub Yokohama」は、様々な業種の人々が交流しあうシェアオフィス&コワーキングスペース photo:kouichi torimura
このGの入居者でもあるのが、今回の物件をご紹介いただいた安永麻実子さんです。
安永さんは、主に横浜の中小企業を対象とした経営コンサルティング業のお仕事をされていて、以前からGでお会いすると、お互い仕事の話以外にも雑談をよくする仲でした。
その日も業務の合間をぬって、いろいろ話に花を咲かせていました。その際、話題にのぼったのが安永さんのご両親が所有されている古い建物についてでした。
物件は、12坪ほどの敷地に建つ、築約60年の木造2階建て。1階は美容室、2階が住居として、これまで女性の美容師さんにまるっと1棟貸ししていたそうです。けれど、その美容師さんがご高齢となり、お店の運用も難しくなってきたため閉業を決断、2020年2月に退去することに。今後は建物を解体し、駐車場にする方向で検討中という内容でした。
私はその場で、すぐにGoogleマップを立ち上げ、現地の住所を詮索。
ストリートビューで建物の外観を拝見すると、直感的に「壊すのはもったいない!」と感じ、安永さんに「ぜひ一度、実際の建物を見せてほしい!」とお願いしました。今、振り返ればその“直感”こそが、このプロジェクトをはじめるきっかけだったのだと思います。
date : 5.march.2020
初! 現地訪問
数日後、さっそく現地へ。最寄り駅は、JR京浜東北線「大森駅」。目的の建物までは、駅からは徒歩10分ほど。
私は大森の駅を降りたのが、この時がはじめてでした。
そこで、全国通訳案内士という資格を持つ安永さんに、地元周辺を案内してもらうことにしました。
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まち歩きの様子: photo:azusa yoshimura
散策していると、周辺には「水神」という古い地名が点々と残っており、品川区立大森貝塚遺跡庭園や大井の水神社など、歴史情緒漂うスポットも多くありました。
大通りには「桜新道」という名の沿道があり、春になれば道沿いに美しい桜が咲き誇るそうです。
またこのエリアはその昔、町工場が多くあったそうで、今もちらほらと材木屋や石造屋が点在しているのが印象的でした。
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歩道橋の下に展示されている昔使われていた貝殻でできた道具の紹介 photo:azusa yoshimura
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貝塚庭園で展示されていた貝塚 photo:azusa yoshimura
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水神社の鳥居 photo:azusa yoshimura
そして、小一時間ほどのまち歩きを終えると、二棟の大きな建物の間にこじんまりと佇む、美容院「タカラ ビューティサロン」(後の「MINOYA」)が見えてきました。
隣りには、水神地域にちなんで名付けられた銭湯「水神湯」があります。ちなみに銭湯が隣接していることは、今回のプロジェクトにとって、大きなポイントでした。
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リノベーション前の外観 photo:tsubasa kuroiwa
実際の建物の外観を見て、少しワクワクしながら、いざ中へ!
中に入ると、レトロ感のある緑色のボーダーがとても印象的で、「これは絶対に壊してはいけない!」と、今回は心の中の直感ではなく、思わず声に出してしまいました。
この日は、オーナーである安永さんのご両親もお越しになっていて、まさか建物を見て、私がそんな感想を述べるなんて思ってもいなかったようで、すこし驚かれたご様子。
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緑のボーダーが印象的な内観 photo:tsubasa kuroiwa
「まだ、ここで何かできるのかしら?」
「この建物、まだ使えるの?」
安永さんとご両親は、半信半疑の表情を浮かべながら、私にそう聞いてきました。私自身も、その時に何か具体的な案があったわけではありませんが、ただ、「ぜひ、考えさせてほしい!」という気持ちを即答したのを覚えています。
1階の奥に入ると、木の床が全体的にベコベコの状態で歩く際は忍び足になるほど、また内装の壁は剥がれたままですぐに暮らせる状況ではありませんでした。
とくに2階は、床の傾きが酷く、押入れが雨漏りしていたりで、さすが築約60年。今後、使い続けていくには課題も多くあると感じました。
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築60年を感じさせる2階の内観 photo:tsubasa kuroiwa
安永さんのご両親にとっては、まさかこの建物を存続できるなんて思いもよらず、「これから、どう使うべきか」を考えたことすらなかったと話されていました。
今後、どうしていくかを考える上で、「もう少しこの建物について知りたい!」、そう考えた私は、ヒアリングを兼ねて、安永さんとご両親にお話をうかがう機会を何度か設けることにしました。
そして、ヒアリングを重ねるうちに、この建物には想像以上に60年間の積み重なった物語が詰まっているのだと感じました。
その積み重ねられてきた物語とは……?
次回もお楽しみに!
MINOYA GALLERY
日常の風景_美容室時代は着付け室。みんなのお気に入りをシェアする場所に photo:akemi kurosaka
DATA
設計・監理:櫻井 彩+吉村 梓+鶴田 爽+高橋 沙織
施工:重久 萌+佐藤 真生子/ルーヴィス
サイン:伊藤彩良
事業企画・運営:合同会社実ノ屋
運営構築サポート:櫻井怜歩
建築主:安永妙子
Instagram:minoya.pj
建築概要
規模:地上2階
構造:木造
建築面積:34.7 m²
延床面積:66.09 m²
CONCEPT
築60年の元美容室を暮らしの場所としてリノベーションするプロジェクト。
これまでの「シェアハウス」は、いかにして集まって暮らすかを中心に語られてきた。このプロジェクトでは、いかにして1人の時間を充実させつつ他人と暮らす豊かさを感じられるか、を中心に考えた。
美容室の特徴的要素である鏡、洗面、水回りを玄関入ってすぐの共有部に主役として配置することで、食事や談話の時間と「身支度を整える時間」が等価に扱われるような暮らしの場を構成している。
集まって同じ時間を共有するだけではなく、1人1人が思い思いの時間を過ごしながらも互いの気配を感じられる。そんな居心地のよい暮らしを実現している。
profile
櫻井彩(さくらい・あや)/千葉県生まれ。千葉工業大学大学院修了。2016年よりオンデザイン。主な作品: シェアオフィス・コワーキングスペース「G Innovation Hub Yokohama」、vivistop 柏の葉リニューアルPJ 「子どもたちが更新し続けるものづくり空間」、DeNAべイスターズ選手寮。「BEYOND ARCHITECTURE」編集スタッフとしても活動中。