植物×都市
#01
植物の価値を
体験的に考える
都市に植物が必要なのはなぜだろうか? アーバンサイエンスラボの連載第6弾は「植物」。農学部出身のサイエンスコミュニケーターが、客員研究員として連載を担当します。
実際に体験しながら、考えてみます。
都市にはなぜ、植物が必要?
都市に植物が必要な理由は何だろう?
もちろん、あるに越したことはない。
木の葉が風に揺られる音はきれいだし、殺風景なビル街の見た目も植物によって鮮やかに生き生きとしたものとなる。
だが、それはいったい植物の何によるものなのだろう?
具体的な理由は実に捉えどころのないものだ。
場合によっては、人工物で代用することができるかもしれない。
なぜ、私たちは都市においても本物の植物を求めるのだろうか。
自然の効用と、科学的に解明する難しさ
先日、科学好きな友人から「NATURE FIX 自然が最高の脳をつくる」という本を紹介してもらった。
植物そのものや、森などの植物群(ここからはざっくりと「自然」と書く)が人にもたらす効果について、様々な研究を紹介したり、実際に著者が体験したりして考察したエッセイだ。
その中で、自然に触れ合うことと創造性の関係を検証した研究が特に私の目を引いた。4日間、電子機器を使用せず自然の中で過ごすことで、創造性を試すテストの成績が最大50%も向上したそうだ。自然にたくさん触れることで脳の働きに影響が出たのではないか、とある。
やはり、自然は人間に対する何かしらの効用をもっている可能性は高いように思える。
確かに私も、自然の中でボーっとしていて、様々なアイデアが次々に浮かんできた経験がある。
ただその本においても、自然の何がそうした効果を生み出したのか、その「要因」については十分に語られていなかった。自然の中で過ごすことの効果と言っても、結果に影響しそうな要因はたくさんある。
たとえば…
自然ではなく、普段の生活と離れて気晴らしになったからではないか?
むしろ、自然に触れることよりも電子機器を持たないことのほうが重要だったのではないか?
広々とした空間が脳に刺激を与えていたのではないか?
普段とは違った人間関係を持てたからではないか?
…
このように、自然が人間にもたらす効果の要因にはたくさんの可能性があって、それらが複雑に絡み合っている。科学的に解明することは並大抵のことではない。
とはいえ、おそらく何かしらの効果はあるだろう。想像するだけでは本当にもったいない。ときに科学的に、ときに私の五感を駆使し直観的に、ドン・キホーテのごとく挑戦したい。
自分の身体で確かめる
なぜ都市に植物が必要なのか。
この問いに迫ることは、単に私の好奇心を満たすだけのものではないと思う。植物を求める人の在り方から、生物としての“人”というものが普遍的にどんな価値を求める生き物なのか、見えてくるかもしれない。
そうすると、例えば都市における植物の効果的な配置がわかるなど都市設計に役立つだけでなく、現代における人間のライフスタイルをまた少し良い方向へと導けるかもしれない。
この連載では、筆者が自身の体験をふんだんに踏まえて検証を行っていく。先の本に述べられていた研究事例を出発点に検証し、そこから生まれた新しい仮説をもとにまた検証活動を紡いでいきたい。それでも足りないときは、この問いに身を置く様々な人にインタビューを行って考察を深めていく予定である。
どうか、私が納得するまでお付き合いください。
(了)
<文、写真:綾塚 達郎>
綾塚 達郎(Tatsuro Ayatsuka) アーバン・サイエンス・ラボ客員研究員/サイエンスコミュニケーター。1989年大分生まれ。大学では牛を飼ったり稲を育てたりする農学フィールドで研究をしていた。途中、「なんだ、草一本にだっていくらでもわからないことが眠っているじゃないか。」と、様々なものを科学する楽しさに目覚める。どちらかというと、何でも体感しないと納得できないタイプ。五感で世界を楽しみたい。 |
「都市を科学する」は、横浜市の建築設計事務所「オンデザイン」内にある「アーバン・サイエンス・ラボ」によるWeb連載記事です。テーマごとに、事例を集め、意味付け、体系化、見える化していきます。「科学」は「さぐる・分かる」こと。それが都市の未来を「つくる」こと、つまり「工学」につながり、また新たな「さぐる」対象となる。 そんな「科学」と「工学」のような関係を、思い描いています。
アーバン・サイエンス・ラボ記事一覧
「植物編」では、「都市に植物が必要な理由は何だろうか?」という問いを立て、著者自身が実際に見て、聴いて、体験しながら、都市における植物が人にとってどんな価値を持っているのか考察していきます。
「都市を科学する〜植物編〜」記事一覧