小屋×都市
#16(完)
小屋に見る
「希望」や「願い」
どんな「願い」や「希望」が
そこにはあるのだろう?
そんな問いで「小屋」を見ることが
どんな「都市」をつくるのかに、
つながっていくのかもしれない。
見てきた小屋の裏に、どんな欲求があったのか
「都市を科学する〜小屋編」はこれまで、「機能」が似たような事例を集め、分析してきた。
では、それらの小屋は、「なぜ」欲しかったのだろう?
今回は、「機能」をさらに深堀りし、「願い」や「希望」という視点で、これまでに見てきた小屋を、もう一度整理することにした。
結果として浮かび上がってきたのが、次の5つだ。
1.純粋に楽しいことをしたい!
楽しい「遊び道具」としての小屋が、求められている。
モチベーションは、「遊びたい」「楽しみたい」というシンプルな思い。
一般的なレジャーなどの趣味と同じような役割を、小屋も果たしている。
関連が特に強い記事:#02好きな世界をつくる小屋、#03出会いと「ありがとう」がある小屋、#04仲間をつくる小屋、#05「ぼんやり」楽しむ小屋、#07安曇野レポート全編=自由、#14可能性を追求する小屋、#15妄想する小屋
2.人と適度につながりたい!
適度な「つながり」や「関係性」のために、小屋を活用する人がいる。
#10「空間を細分化する小屋」のように、つながりを強化する方向だけでなく、関係や距離感を最適化するケースもある。
モチベーションは、「心地よい人間関係・居場所」への欲求だろうか。 「人に頼らずとも衣食住が満たせる」「SNSでいろいろな人とつながれる」といった、高度化・複雑化した現代社会が背景にありそうだ。
関連が特に強い記事:#03出会いと「ありがとう」がある小屋、#04仲間をつくる小屋、#10空間を細分化する小屋、#13小さな暮らしをする小屋
3.等身大で生きられる実感がほしい!
生きる力を確認したり、取り戻したりするための、「舞台」となる小屋がある。
背景にあるのは、高度化・複雑化した現代社会だろうか。無力感を覚えたり、社会への依存を感じたりする中で、「シンプルに生きたい」「 自分の生活を、自分の手でつくりたい」「つくるまでは行かなくとも、つくれる実感を持っていたい」という気持ちが芽生えるのも不思議ではない。
自らつくったり、あるものを活用したり、自然の中で過ごしたりできる小屋は、「等身大」に戻るためにうってつけのツールだ。
関連が特に強い記事:#05「ぼんやり」楽しむ小屋、#11オフグリッド、自給自足の小屋、#12廃材を蘇らせる小屋、#13小さな暮らしをする小屋
4.農耕型より自由な遊牧型になりたい!
束縛から逃れ、自由になるために、小屋を選ぶ人がいる。
「縛られたくない」「自分に合う環境を探したい」という思いが、ライフスタイルから感じられる。
アドレスフリーの進む現代社会では、「遊牧的」に生きることができる。
農耕型の「土地を資本に、所有を増やしていく」というシステムや価値観に、とらわれ過ぎなくても良いことが、小屋に現れている。
関連が特に強い記事:#03出会いと「ありがとう」がある小屋、#06移動する小屋、#07安曇野レポート全編=自由、#09空間や時間の隙間にはまる小屋、#13小さな暮らしをする小屋
5.いろいろ探求・挑戦・表現したい!
「とにかく、やってみたい」という探究心や体験の欲求を、小屋に向けることもできる。
挑戦的な構造や見た目にしてみたり、最新テクノロジーを使ってみたり、何かを表現したり。
無目的でとりあえずやってみて、何が起こり何を感じるのかを確かめる、というのも探究的だ。
ある程度の豊かさが担保された社会だからこそ、単なる快楽のためではない、ちょっと高尚な遊び方をしたいのかもしれない。
関連が特に強い記事:#05「ぼんやり」楽しむ小屋、#08安曇野レポート後編=自己表現、#14可能性を追求する小屋、#15妄想する小屋
番外.社会のニーズに応えるため
都市化が進み、変化のスピードが早く、選択肢が増えて人が飽きっぽくなった社会において、小屋のような小さな居場所は社会的ニーズに応える手段にもなる。
たとえばキッチンカーなら、「毎日では供給過剰だけど、週1日✕7ヶ所なら、需要とマッチする」とか「時間や空間にちょっとした隙間があるから活用してほしい」などの状況に対応しやすい。
小屋の使い手の「欲求」というよりも、社会の側のニーズなので、番外に位置づけた。
関連が強い記事:#06移動する小屋、#09空間や時間の隙間にはまる小屋、#10空間を細分化する小屋
小さくて気軽だけれど“贅沢品”?
「小屋」という形は、こうした「願い」や「希望」を追い求めた結果のひとつなのだと思う。
社会の状況や変化に反応して、込められる願いや希望が変わってくる。
現代社会に登場する小屋たちは、経済力を発揮していたり、生産的だったりするとは言いにくい。
むしろ経済とは違った価値観の、「より良く生きたい」という思いが滲んでいるように見える。
小屋は小さくて気軽であると同時に、欲求を叶えるための 「贅沢品」であるのかもしれない。
「小屋」は人の願いをさぐる「視点」
人はどんな小屋が、なぜ欲しいのか。
そんな問いは、現代を生きる人の「願い」や「希望」、さらにはその「背景」にある社会をさぐる、「視点」のひとつになる。
そんな探求を、どう活かすことができるのか。
現代社会を生きる個人として、自分の「願い」をさぐったり、小屋という形で具現化したりすることができる。
そして、現代社会をつくる一員として、いろいろな人の「希望」が満たされるような世界を、つくることもできるのではないだろうか。
現代を生きる人たちの願いや希望が、「都市」のあちらこちらで、叶えられるようになったら素敵だ。
小屋を眺めることには、その取っ掛かりとしての意味があると思う。
(了)
<文:谷明洋、イラスト:千代田彩華>
都市科学メモ=これまでの連載と、5つの欲求の関連
連載 |
テーマ |
1.純粋に楽しい |
2.つながり |
3.等身大 |
4.遊牧的 |
5.探求・表現 |
番外.社会のニーズ |
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2 |
好きな世界をつくる |
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3 |
出会いとありがとう |
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4 |
仲間をつくる |
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5 |
ぼんやりつくる |
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6 |
移動する |
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7 |
安曇野前編=自由 |
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8 |
安曇野後編=自己表現 |
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9 |
隙間にはまる |
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10 |
空間を細分化 |
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11 |
オフグリッド、自給自足 |
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12 |
廃材利活用 |
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13 |
小さな暮らし |
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14 |
可能性を追求 |
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15 |
妄想する |
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「都市を科学する」の「小屋編」は、横浜市の建築設計事務所「オンデザイン」内で都市を科学する「アーバン・サイエンス・ラボ」と、「住」の視点から新たな豊かさを考え、実践し、発信するメディア「YADOKARI」の共同企画。人や社会が「どんな」小屋を「なぜ」求めているのか、調査・分析・考察しながら連載します。
谷 明洋(Akihiro Tani) アーバン・サイエンス・ラボ主任研究員/科学コミュニケーター/宇宙と星空の案内人 1980年静岡市生まれ。天文少年→農学部→新聞記者→科学コミュニケーター(日本科学未来館)を経て、2018年からオンデザイン内の「アーバン・サイエンス・ラボ」主任研究員。「科学」して「伝える」活動を、「都市」をテーマに実践してます。新たな「問い」や「視点」との出合いが楽しみ。個人活動で「宇宙と星空の案内人」「私たちと地球のお話(出前授業)」などもやっています。 |