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空間再編の新前提
#02
業務だけでなく
職場をオンライン化

 

「オンライン化」で働き方や暮らし方をアップデートする際に、大切なことは何だろう? コロナ禍でテレワーク化を進めたオンデザインの実験と経験から、未来をつくる際に持つべき視点をさぐります。

「業務」だけでなく、「職場」そのもののオンライン化を試みました

 

コロナ禍で外出自粛とオンライン化が求められ、社会、たとえば会社の事業活動は、どのように反応しただろう? 

    1. オンライン化が難しく、以前の通り出社する
    2. 休業してコロナが収まるのを待つ
    3. 業務の一時的なオンライン化でしのぐ
    4. オンライン化を進める契機ととらえ、働き方を変えていく

数字が大きくなるほど変化は大きく、コストや試行錯誤が要るが、将来への投資と捉えることもできる。

コロナ禍は前回記事で書いたとおり、「非常事態」とも、「未来の課題の先取り」とも言えるからだ。

3と4を両輪で進めたオンデザインの、取り組みと考え方を整理してみたい。

 

そもそも、職場の機能って?→どうやってオンライン化する?

設計事務所のオンデザインは、テレワークを本格導入した初期段階から、「テレワークだからこそ、スタッフ同士の日常的なコミュニケーションを図る」ことに気を遣った。

具体的には、Web会議ツールの「Zoom」に社内コミュニケーション専用のアカウントを設け、朝礼やランチ会、ラジオ体操などを、実験的に実施した。

 

根底にあったのは、「業務」のみならず「職場」そのものをオンライン化するという考え方と、2段階の問い。

    1. 組織の活動において、職場という空間は、どのような機能を持っていたのだろう?
    2. 置かれている環境下で、その機能は、どうすれば実装することができるだろう?

ひとつ目の問いで「分析」や「理解」を深め、ふたつ目の問いで「実装」していったのだ。

 

「作業スペース」「会議室」のオンライン化

まずは、オンデザインの「職場」という空間が、「組織の活動においてどう機能していたのか」を考えてみる。

職場の一番の存在目的は執務空間。「個人作業」スペースや、複数人で協議する「会議室」として機能している。

また、資料や模型をストックする「倉庫」の機能も、業務に直接的に紐づく機能だ。

職場での以前の打ち合わせの様子。模型を囲んでアイデアを膨らませる

 

それを踏まえ、ふたつ目の「テレワークでその機能を実装する方法」を考えると、パソコンとインターネットである程度は補えていた。会議はチャットの併用で、情報交換の質と量が高くなることもあった。

逆に、建築模型の制作や、模型を囲んでの検討、物品のストックなど、物理的なモノが伴う場面は、オンライン上ですぐには実装できなかった。

「Zoom使ってみて、感想や困ってることは?」を5分間、全員で書き込んだ実例。共用ドキュメントで、同時多発的な情報交換が可能に

 

むしろ重要な、雑談の場としての「給湯室」の機能

ただ、オンデザインはもう少し別の面で、職場が使えないことに不便を感じていた。

少し考えてみると、職場には直接の業務以外の、それでいて業務にも重要な場面があったことに気がつく。たとえば、一般の会社の給湯室のような場での「雑談」や、テーブルを囲む「食事」の時間だ。

オンデザインは元々、40人規模の風通しが良い組織。雑談はストレスの発散のみならず、仲間意識や連帯感を高め、設計やまちづくり等のアイデアの種にもなっていた。職場に会することで推進される「社内コミュニケーション」は、業務のアウトプットにも、精神の健康にも、重要な要素なのだ。

以前は職場でみんなでご飯を食べる時間が日常的にありました。写真は、月に一度の「出張社員食堂」の様子

 

「社内コミュニケーション専用のZoomアカウント設置」「ゆるめの朝礼」「ランチ会」は、「社内コミュニケーションの促進」という機能を、「テレワークでも補う方法」を考えた末の具体的なアイデアだった。

専用アカウントは、社内の誰でもいつでも入れるようにしておき、雑談したい人が誰かを誘って入ったり、オープンな社内の打ち合わせに使ったりする。”通りがかり”の人との話が弾み、思わぬ気づきが出てくることもある。

「ゆるめの朝礼」は、毎朝の始業時間に15分ほど実施した。事務連絡はごく僅かで、4~5人のグループに割り振っての雑談がメイン。「家にあるわたしの好きなもの」「リモートワークで悩んでいること」などの日替わりのテーマで社内コミュニケーションを図りつつ、新しい環境に慣れる機会にもなった。

「ゆるめの朝礼」の様子。社内コミュニケーションを図りつつ、プライベートから仕事へ気持ちを切り替える時間にもなった

 

「オンとオフのメリハリがつかない」という悩みも多く、職場に「プライベートからの距離を離す」「気持ちの切り替えを促す」機能があったことがうかがえた。オンライン上で物理的な距離は確保できないので、「朝礼」で「切り替え」を図ることも意識した。

ぎっくり腰や腰痛の発症が続き、職場は「通勤という運動を促す」機能もあったと解釈できた。ならばと、オンライン朝礼で「ラジオ体操」や「ヨガ」などのアクティビティを試した。

朝礼で実験的にラジオ体操を実施。せっかくなので、各地の方言バージョンを楽しみました

 

紹介してきたオンデザインの取り組みには、定着したものもそうではないものもあった。

ただ、「業務」だけでなく「職場」そのものをオンライン化していく意識は、さまざまな工夫を呼び、結果としてテレワークへの順応を早めていた。

 

 

たとえば「大学」のオンライン化でも

ここまでの考え方は、職種や会社の文化によって実装すべき「機能」が変わっても、あるいは「職場」以外の事例でも、一般性や普遍性がある。

たとえば、「大学のオンライン化」を考えるなら、「キャンパス」そのものを考える必要がある。

冒頭の問いも、

    1. 大学での人の成長において、キャンパスという空間には、どのような機能があったのだろう?
    2. その機能は、オンラインで、どのように実装できるだろう?

のように、書き換えることができる。

既存の「講義」のオンライン化も必要だが、それだけでは当然、事足りない。

学生同士が互いをよく知り、協力し、仲間になっていく機会や、学園祭、部活動、サークル活動をどう実装していくのか(あるいはそれに代わる別のもので補うのか)、を考える必要が出てくるのだ。

 

 

コロナ禍への「対応」から、「創造」的な課題解決へ

冒頭でも述べたとおり、コロナ禍での外出自粛期間中のオンライン化をめぐっては、社会の中でもいくつかのスタンスがあった。「会社の業務」を例に考えれば、次のとおりだ。

    1. 強行継続。オンライン化できない(したくない)が、業務は止められない(進めたい)。ソーシャルディスタンスなどの対策を取る。以前に近い振る舞いを継続するため、変化にかかるコストは小さいが、感染リスクが残る。
    2. 休業。オンライン化できず、業務にならない。休業しながら、以前の状況に戻るのを待つ。変化にかかるコストが不要になるが、状況が長期化すると苦しい。
    3. 業務のオンライン化。外出自粛に従いながら、業務を進めるためにオンライン化する。業務内容にもよるが、小さめの変化コストで状況に対応でき、短期的には効率的。状況が長期化すると、環境が合わなかったり、業務に必要な機能が不足したりする可能性も。
    4. 職場のオンライン化。テレワークでもパフォーマンスを最大化させたい。業務以外の場面で必要だった職場機能も含め、創造的に実装する。試行錯誤は多く、短期的で状況が戻れば徒労に終わる可能性もあるが、アフターコロナ(あるいは、ウィズコロナの長期化)を睨んだアップデートにつながる。

コロナ禍を働き方改革に通ずる「未来の課題の先取り」と捉え、環境構築にまで視野を広げているのが4のスタンスは、建築的でもあるのではないだろうか。

 

そしてもう少し長期的に「アフターコロナ」を考えても、状況に合わせてオンラインとオフラインを組み合わせた新しい「働き方」と、その働き方にあった「環境」を両輪で整えていくことが、生産性や幸福度を高めることにつながっていくはずだ。

職場の面積が大幅に縮小し、会議室、共同の机、キッチンやダイニングといった「人が集まる場所」に置き換わっていくことだって想像できる。

不必要になった個人机のスペース分だけ固定費を抑え、社員が家庭での仕事環境を整えるための手当に回す、という考え方だって出てくるだろう。

 

2020年のコロナ禍は、多くの人がオンライン化を体験している。

それは将来に向けて、オンラインのメリットとデメリットを体感しながら、新たな選択肢として獲得する機会に、そして、いまある「空間」(職場など)の意味や価値を再定義する機会になっているのではないだろうか。

コロナがある程度終息した時に、「オンライン化」や「働き方」をより能動的・創造的・効果的に選択するための第一歩として、いまある機能の「何を」「どう」オンライン化することができるのか、考えてみてはいかがだろうか。

(つづく)

※次回は、この整理を踏まえ、新しい空間づくりにつながるオンラインの特性を整理します。

 

 

谷 明洋(Akihiro Tani)
アーバン・サイエンス・ラボ主任研究員/科学コミュニケーター/さとのば大学講師
天文少年→農学部→新聞記者→科学コミュニケーター(日本科学未来館)を経て、2018年からオンデザイン内の「アーバン・サイエンス・ラボ」主任研究員。新たな「問い」や「視点」との出合いを楽しみに、「都市」を「科学」しています。