空間再編の新前提
#01
“緊急事態”は
アップデート契機
これからの時代、時間と空間はどんな使われ方をするようになるのだろう? とくに場や空間は、どんなことを考えながらつくっていけば良いのだろう? この時期を「非常事態」ではなく、「未来からの課題の先取り」ととらえて考える新しい連載(全5回)がスタートします。
「これからの空間」をつくるための、問いや視点を整理します。
コロナ対応は課題の先取り
コロナ禍で2020年に様変わりした私たちの暮らしは、以前のように戻るのだろうか、それとも、むしろ今後のスタンダードになっていくのだろうか。
テレワーク化が進み、通勤ストレスが減った反面、仕事場の確保やプライベートとの切り替えに苦心した。
様々なコンテンツがオンラインで配信され、家にいながらイベントや飲み会に参加したり、子どもたちがオンライン授業を受けるようになった。
書類の電子化や印鑑の廃止が進み、オンラインで決済や手続きが済ませられるようになっていく。
これらの変化は、よく考えてみると、以前から「働き方改革」「暮らし方改革」で想定されていたことだ。
「オンラインをどう活かし、暮らしをどう変えていくのか」
それは、仮にコロナが存在しなかったとしても、あるいは今後コロナの感染拡大が収束したとしても、どのみち、考える必要があった問い。
コロナ禍は確かに「緊急事態」だったけれど、長期的に見れば「未来の課題の先取り」とも言える。
ならば、「コロナだから仕方なく」ではなく、「これを機に、暮らしをアップデートしよう」の方が、未来志向で建設的だと思うのだ。
「空間」のとらえ方が変わる時代
オンライン化で暮らしがアップデートされるということは、そのために最適な環境も、その環境をつくるときに持つべき視点も、大きく変わってくる。
たとえば、ひとつの「空間」でも、過ごす「時間」ごとに、異なる「意味」を持たせられるようになる。
テクノロジーやコンテンツが加速的に発展し、持たせられる「意味」も無尽蔵に増えていく。
「職場=仕事の場、自宅=生活の場」などといった、これまでの前提が覆るのだ。
住宅や職場、公共の場といった身近な空間の使われ方が根本から変わっていく時代だからこそ。
新しい前提の下での現実空間のあり方を、(ソーシャルディスタンスとか感染防止とかではなく、)あらためて考えてみたい。
また、社会が大きく変わるということは、全体で得られる利益の可能性は大きいが、難しさもある。
在宅勤務に馴染めず戸惑った人もいれば、充実したオンラインコンテンツに費やす時間が増えて運動不足になった人もいる。
みんながみんな変化に順応するのは容易ではないし、方向性を間違えてマイナスの結果にだってつながり得るからこそ。
息づく人が順応しやすくて、楽しくて、暮らしをプラスの方向にアップデートできるような空間づくりを、考えてみたい。
「空間」と「時間」と「意味」の関係性を、再編集する
コロナ禍ではほかにも、「少子高齢化が進む中での医療のあり方」や「命と経済のバランスと選択」などといった社会の課題が、いくつも顕在化した。
それでも、まずは「オンラインを活かす、これからの場や空間」について考えていきたい。
なぜならこのテーマは、とても“建築的”であると思うからだ。
ひとつは、「空間」と「時間」と「意味」の関係性を、根本から再編集するという点において。
もうひとつは、「自分の暮らしをアップデートする」だけではなく、環境をつくることによって「他者や社会の暮らしのアップデートを助ける」という点においてだ。
私たちは、「テレワークと、会社に行くのと、どちらが良いだろう?」という問いからの選択ではなく、「どんな環境をつくれば、テレワークのメリットを活かしながら快適に仕事できるだろう?」という問いからの創造ができるのだ。
少し先の未来を、自由に、創造的に考える。
これからの時代、時間と空間はどんな使われ方ができるようになるのだろう?
そのための場や空間は、どんなことを考えながらつくっていけば良いのだろう?
(つづく)
谷 明洋(Akihiro Tani) アーバン・サイエンス・ラボ主任研究員/科学コミュニケーター/さとのば大学講師 天文少年→農学部→新聞記者→科学コミュニケーター(日本科学未来館)を経て、2018年からオンデザイン内の「アーバン・サイエンス・ラボ」主任研究員。新たな「問い」や「視点」との出合いを楽しみに、「都市」を「科学」しています。 |