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空間再編の新前提
番外編
東京理科大学
演習レポート

建築分野の大学講義や演習のオンライン化は、どのような工夫の余地があり、どのような可能性を秘めているのだろうか。オンデザインの西田司さんが准教授として担当する、東京理科大学の理工学部建築学科の「空間デザイン及び演習1」の様子をレポートする。

 

「空間デザイン及び演習1」は、建築学科の1年生向けの選択科目。入学したばかりの学生が、建築設計と空間デザインの基礎を身につけるための講義と演習だ。

2020年は新型コロナウィルスの感染拡大の影響で急遽、オンラインでの開講となった。西田准教授ら6人の教員が担当し、約100人の1年生が自宅などからウェブ会議ツールのzoomにつないで受講する。講座は2コマ連続で、休憩も含めて計180分。通常は前半を講義、後半を演習に充てている。

メリハリのある進行に加え、チャットによる双方向コミュニケーションを活用し、学びを深める工夫をしている。

 

講義は「建築を評価する視点を養う」レクチャー

前半の講義は「さまざまな建築空間を、評価する視点を養う」狙いで、毎回ごとにひとりの建築家にフォーカスして進めていく。たとえば6月のある週は、同大学大学院などで教授を務めた小嶋一浩氏の建築作品を教材にした。

ウォーミングアップ代わりの「スライドスケッチ」では、ティーチングアシスタントを務める上級生が、小嶋氏の作品をごく簡単に紹介して画面で写真を共有。学生たちはその写真を見ながら、10分程度でスケッチを書き上げる。

スライドスケッチは、ティーチングアシスタントの学生が共有した写真を、学生が各自スケッチする

 
オンラインを生かした「毎回オムニバス」

続いて6人の担当教員がそれぞれの視点で、小嶋氏の作品をひとつ選び、魅力や表現を解説する。

ある教員は、学生たちが訪ねやすい「渋谷ストリーム」を取り上げ、「広場で佇む人も、急いで歩く人もいる。21世紀の建築は、いろいろな人が小さな矢印の群れをつくっているように感じられる。単純化が進んだ20世紀の建築と対照的」と解説した。

 

別の教員からは、「人口が減っても、まちのコミュニティスペースになるように」と設計された釜石市の小中学校や、「アクティビティを設計する」という考えが込められた流山市の小学校が小嶋氏の作品として紹介されたほか、「使い手の自由を許す包容力があるものを◯、そうでないものを☓としていた」など小嶋氏が建築を評価する視点についての解説もあった。

教員ひとりの持ち時間は、5分程度。語り手が変わっていくので、学生は飽きにくい。加えて、同じ建築家にフォーカスしているため、建築を評価する視点が人によって異なることや、それでも浮かび上がってくる小嶋氏の建築の本質のようなものを感じやすい時間となった。

現実の大学の講堂で考えると、5分程度のレクチャーのために6人の教員全員を毎週集めるのは非効率的で、現実的ではないだろう。教員の移動が必要ないオンラインのメリットを、うまく生かしている。

 

チャットで学生が学びを言語化・共有

また、レクチャー中の双方向性もオンラインのメリットだ。進行を務める西田准教授が「気づいたこと、感じたことをチャットに書き込んで」と呼びかけると、チャット欄は学生たちの言葉で賑やかになる。

「建築だけでなく、都市もデザインしているのがすごい」
「建築と都市が繋がっているんだ」
「思うことを言葉にする訓練も大事だな」

学生の気付きは、言語化して共有するプロセスを通して深くなり、ほかの学生の気づきが刺激になることもあるだろう。教員のレクチャーを妨げずに学生が声を出すことは、オフラインの講堂では難しいが、オンラインなら音声とチャットの併用が容易だ。

 

キャンパスライフを補う時間も

このほか、5月のある回では、新入生の質問に上級生が答える時間をつくったこともあった。新入生が3人程度のブレイクアウトルームをつくり、先輩に聞きたい質問を整理。それをチャットで全体に共有し、上級生3人がローテーションして答えていった。

内容は専門に関することだけでなく、キャンパスライフやイベント、バイト、試験対策まで多岐に及んだ。入学して1ヶ月あまりが過ぎながら、新型コロナウィルスの影響でなかなか通学できない中での、先輩後輩のコミュニケーション機会となった。

 

演習はツールを併用し、議論やフィードバックを中心に

後半の演習は、6人の教員が20人程度の学生グループを受け持つ形式で進めている。模型製作を中心とした、いわゆる「エキエス」だ。学生たちはこの時間から画面をオンにして顔を見せながら、作業の成果をひとりずつカメラに映し、教員や上級生からのフィードバックを受けたり、議論したりする。

製作作業を個々で進め、学生と教員が集まる講義の時間を議論やフィードバックに充てるのは、オンラインでも有効な時間の使い方だろう。オンラインホワイトボードツールのmiroなどをzoomと併用することにより、よりアクティブで体系的な情報交換も可能だ。教員が模型に直接触れることができないなどのデメリットもあるが、オンラインならではの演習の形も構築されつつある。

 

まとめ

オンラインでの講義と演習は制約もあるが、「空間デザイン及び演習1」の様子から、工夫次第ではオフラインにはないメリットを得られることも感じられた。

近い将来には、そのメリットを活かしつつ、オンラインとオフラインの良さを組み合わせて活用することもできるはず。そのプロセスとして、多くの人がオンラインを体験しながら可能性を追求した2020年が生きてくるのではないだろうか。